2023年の注目候補
柳沢正史さん 睡眠制御に関わる物質発見

ノーベル賞の受賞が有力視される研究者の1人、柳沢正史さんは東京都生まれの63歳。

筑波大学大学院で博士課程を修了後、アメリカ テキサス大学の教授などを経て、現在は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長を務めていて、睡眠の仕組みを解き明かす神経科学の基礎研究に携わっています。

柳沢さんの功績の一つが、睡眠の制御に関わる「オレキシン」という物質の発見です。

オレキシンは、脳の「視床下部」という場所で作られる、神経からの刺激を伝える物質で、睡眠や覚醒、食欲などに関わっていることがわかってきました。

中でも、突然、強い眠気に襲われて眠り込んでしまう「ナルコレプシー」という睡眠障害にオレキシンが関わっていることが分かり、治療薬の開発が進められています。

また、オレキシンの働きを抑えることで不眠症を改善する薬も開発されていて、2014年から日本とアメリカで実用化されています。

こうした業績が認められ、柳沢さんは2003年にアメリカ科学アカデミーの会員として迎えられたほか、2016年には紫綬褒章を受章しています。

2023年9月にはイギリスの学術情報サービス会社「クラリベイト」が、今後、受賞が有力視される研究者として柳沢さんの名前を発表しました。

2023年9月19日 引用栄誉賞の受賞会見

クラリベイトの引用栄誉賞の受賞について柳沢さんは「オレキシンの発見は、それまで原因不明だった『ナルコレプシー』の原因の究明につながり、睡眠学が新しい時代に入るきっかけになったと思う。睡眠の基礎研究という分野に社会的な関心が高まり、こうした賞として認識されたことは非常にうれしい」と話していました。

「研究楽しめる環境整備が必要」

柳沢さんは、アメリカ国籍を取得し、現在もテキサス大学の客員教授も務めるなど、長年アメリカで研究を続けてきました。

そのうえで、日本の研究者の現状について、「アメリカの研究者は、研究をやらないと、あっという間に立場がなくなってしまうが、研究以外基本的にやることがなく『暇』がある。一方で、日本の若い研究者を見ていると、研究とは関係のない事務的な業務の数があまりにも多くて、結果的に研究の時間が取られているように感じる。いい研究をするためには研究を楽しむ心の余裕を持てるような環境整備が必要だ」と述べ、より研究に時間を割ける環境が必要だと訴えました。

そのうえで、研究を支える国の対応については、「ノーベル賞が出た分野は、産業界からもお金が出るので、放っておいてもよくて、国が『日本の強み』だといって支援しても周回遅れになる。アメリカの場合は、NIH=国立衛生研究所をはじめとした研究資金を提供する組織の幹部が元研究者だったり、イギリスでは省庁の副大臣級のレベルの人がもともと各分野の専門家だったりして、こうした人がこれから発展する分野を選んで支援をしている」として将来有望な分野を見定める「目利き力」が政策決定者に求められると指摘しました。

一方で、柳沢さんは「研究者人口は減っているが、少なくとも生命科学の分野では、光る研究が出続けているので、そういうことを評価して伸ばしていくような科学技術政策の設計が求められる」として、研究の質を高めていくべきだと話しています。

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