2022年のノーベル経済学賞に
米FRB元議長のバーナンキ氏ら3人

2022年のノーベル経済学賞に、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会の議長を務めたベン・バーナンキ氏など3人が選ばれました。金融危機が起きる仕組みを解明し、その対処法を示したことが評価されました。

スウェーデンの王立科学アカデミーは、日本時間の10月10日午後7時前、2022年のノーベル経済学賞の受賞者を発表しました。

受賞が決まったのは、
▼アメリカのFRB=連邦準備制度理事会の元議長、ベン・バーナンキ氏、
▼アメリカのシカゴ大学の栄誉教授、ダグラス・ダイヤモンド氏、
▼アメリカのワシントン大学セントルイスの教授、フィリップ・ディビッグ氏の3人です。

スウェーデンの王立科学アカデミーは、現代の銀行についての研究では、銀行がなぜ必要なのか、銀行の破綻がいかに金融危機につながるかが明らかにされていますが、これらは1980年代はじめに行われた3人の研究が基礎となっているとしています。

そして、3人の研究はその後の金融市場の規制や金融危機の対処方法に重要な役割を果たしたとしています。

授賞理由について王立科学アカデミーは「経済における銀行の役割への理解を深めた。それにより、金融市場への規制や金融危機への対処のしかたについて多くの示唆を与えた」としています。

バーナンキ氏とは

2022年のノーベル経済学賞に選ばれたベン・バーナンキ氏はアメリカ、ジョージア州出身の68歳。

2006年にはアメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会の議長に就任し、2014年までの2期8年にわたって、金融政策のかじ取りを担いました。

2008年のリーマンショックのあと、世界的な景気の悪化に歯止めをかけるため、政策金利を事実上のゼロ%に引き下げる「ゼロ金利政策」を実施するとともに、金融市場に大量の資金を供給する「量的緩和策」を打ち出しました。

FRBの議長に就任する前は、アメリカのプリンストン大学の教授などを務めました。経済学者としては、1930年代の世界恐慌の分析を行い、銀行の破綻を含む金融危機が実体経済にどのような影響を及ぼすかなどについて、研究を行いました。

スウェーデンの王立科学アカデミーは、バーナンキ氏の業績について、銀行の預金が引き出され金融機関が破綻すると、貯蓄が投資に振り向けられなくなり、経済危機が深刻化し長引くメカニズムを明らかにしたとして、評価しています。

バーナンキ氏「全く予期していなかったが非常に光栄なこと」

ノーベル経済学賞の受賞が決まったFRBの元議長のバーナンキ氏は10月10日、現在所属するアメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所で記者会見しました。

会見でバーナンキ氏は受賞を知った経緯について「昨夜、ノーベル賞について考えることもなく妻と携帯電話の電源を切ってベッドに入った。受賞を知ったのはシカゴに住む娘からの固定電話での連絡だった」と明かしたうえで「全く予期していなかったが、非常に光栄なことだ」と喜びを語りました。

受賞理由として王立科学アカデミーが引用した39年前の自身の論文については「私が強調したかったのは金融システムは経済活動の原動力になる一方、失業を引き起こす力も持っているということで、従来の常識とは異なるものだった。およそ40年前の論文なので少し古い印象もあるが、いまでも有益なアイデアが含まれていると思う」と振り返りました。

一方、今回の受賞理由を説明する文書で関連の業績として紹介されたプリンストン大学教授の清滝信宏さんについてバーナンキ氏はNHKの取材に対し「私が一緒に研究してきたマーク・ガートラーとともに大変興味深い仕事をしている卓越した経済学者だ」と述べました。

ダグラス・ダイヤモンド氏「驚き」

アメリカのシカゴ大学の栄誉教授、ダグラス・ダイヤモンド氏は電話を通じて会見し「驚きました。ぐっすり寝ていたら、突然、携帯電話が鳴りました」と受賞の喜びを語りました。

そして今の経済状況について問われたのに対し、ダイヤモンド氏は「人々が金融システムの安定性に対して信頼を失い始めると、経済危機は悪化する。金利が急速に上昇するなど予想外なことが起きると金融システムに疑念が持たれるようになってしまう」と述べ、金融の健全性を維持することが大切だという認識を示しました。

今回の3人の受賞決定 専門家の受け止めは

2022年のノーベル経済学賞にアメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会の議長を務めたベン・バーナンキ氏など3人が選ばれたことについて、慶應義塾大学の坂井豊貴教授に聞きました。

Q.3人の受賞の受け止めは?
A.新型コロナという世界的な危機が訪れ、世界が不況に陥ってしまうかもしれない中、各国の中央銀行は、低金利政策をとるなどして早期に対応した。その1つの基礎を与えたのが今回の受賞者たちだと言って良いかと思う。リーマンショックのときも、アメリカは早々に手を打ったという印象を持っているが、その背後にこうした学問があったはずだ。

Q.3人の研究の意義は?
A.資本主義の世界というのはお金が滞りなく循環することが大切だ。
銀行は最も重要なお金の中継点であり、そこがもし壊れそうになった場合は早期に手を打たねばならない。だから、例えば政府が預金保険の制度を整えておくとか、中央銀行が最後の貸し手としてきちんと信用を支えるとか、いわばパブリックな部門をきちんと整えておかなければいけないということが彼らの研究によって明らかになっている。

Q.マクロ経済学の研究で世界的に知られるアメリカ・プリンストン大学教授の清滝信宏さんの受賞を期待する声も出ていたが
A.ノーベル経済学賞は発表されるときに、受賞理由を説明する論文も公表されたが、今回は、その中で清滝教授の研究について各所で触れられていた。今後も清滝教授のノーベル賞の受賞は期待されるのではないかと思っている。

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