予想はもはや無理! 消えたノーベル物理学賞の法則

私たちが頼りにしてきた“ある法則”がなくなりました。それは、選考過程が「絶対秘密」とされるノーベル賞の受賞者を予想する法則です。いったいどういうことなのか、悩める担当記者が解説します。(ノーベル物理学賞担当 記者 吉田明人)

※当初、この記事の画像や動画の中で使用していた“ウロボロスの蛇”の模式図で、基準単位を「1cm」とすべきところ、「1m」になっていました。訂正して再掲します。

法則が消えた

私たちノーベル賞を取材する記者は、発表結果をいち早く伝えるための準備を進めるため、あらかじめ受賞者を予想し、リストアップしています。

その際、物理学賞の受賞者にはある法則があるとされてきました。

物理学賞は日本人がもっとも多く受賞していて、期待も高い賞です。

2000年以降の受賞分野(JSTの資料より作成 / 右端の回数はこの期間の受賞回数)

法則というのは近年の受賞者の研究分野に関するものです。

2001年以降、物理学賞は大きく分けて原子分子量子光学・宇宙・物性・素粒子という4つの研究分野が順番に受賞。

2009年以降も、順番は多少前後しつつ、分野別ではほぼ平等な受賞回数になっていました。

ところが、2013年と2015年は素粒子の分野が相次ぎます。

2013年は、直近に大発見があったヒッグス粒子だったこともあり、「例外的な割り込みか」ともささやかれました。

しかし、2016年からの5年では宇宙分野が3回も受賞し、法則性は大きくゆらぎます。

さらに衝撃を与えたのが2021年、真鍋淑郎さんが受賞した「気候モデリング」です。

「え、それって物理学賞なの?」と関係者の間に衝撃が広がりました。

ノーベル物理学賞は新たな時代に?

そもそも物理学は、とても広い領域を扱っています。

科学関係者には有名な研究分野の模式図“ウロボロスの蛇”は、左上の、素粒子や原子といったものすごく小さい領域から、右上にいくにつれ、星、銀河、宇宙と、ものすごく大きな領域まで、物理学の幅がいかに広いかを示しています。

これまでの物理学賞は、この中の左上や右上に偏りがちだったのですが、2021年受賞の気候モデリングは右下あたりにある、これまでほぼノーマークだった「地球物理学」に分類されます。

意外とも言えるこの受賞は、世界的な地球温暖化への関心の高まりを反映したものではとも言われました。

ノーベル物理学賞も時代の変化に合わせて、その傾向を変えていくのかもしれません。

2022年も新たな分野の受賞は

ただ、こうなるともはや“法則”を頼りにすることはできず、私も当てられる自信はありません。

有力な分野や候補をリストアップする取材は2022年も続けていますが、ピンポイントで予想するのは諦めました。

2022年はさらに新しい分野の受賞もあるのでしょうか。

注目の物理学賞の発表は日本時間10月4日です。

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