2020年ノーベル物理学賞に
「ブラックホール」の研究者3人

2020年のノーベル物理学賞に、ブラックホールに関する研究で大きな貢献をしたイギリスのオックスフォード大学のロジャー・ペンローズ氏ら3人の研究者が選ばれました。

スウェーデンのストックホルムにある王立科学アカデミーは、日本時間の2020年10月6日午後7時すぎ、2020年のノーベル物理学賞の受賞者を発表しました。

受賞が決まったのは、次の3人の研究者です。
・イギリス オックスフォード大学 ロジャー・ペンローズ氏
・ドイツ マックス・プランク地球外物理学研究所 ラインハルト・ゲンツェル氏
・アメリカ カリフォルニア大学 アンドレア・ゲッズ氏

ペンローズ氏は、20世紀最大の物理学者と言われたアインシュタインの一般相対性理論によって、ブラックホールの形成を証明したことが評価されました。

また、ゲンツェル氏とゲッズ氏は、宇宙の観測技術を発達させ、私たちの銀河の中心部にあると見られていた、太陽のおよそ400万倍の質量の超巨大ブラックホールの存在を明らかにしたことが評価されました。

「3人の研究は銀河形成の解明に非常に重要」

宇宙物理学が専門で東京大学大学院理学系研究科の須藤靖教授は、「ここ10年から20年ほどの研究で、すべての銀河の中心に巨大ブラックホールがあるのではないかと言われていて、3人の研究は銀河形成の解明にとって非常に重要なものだ。宇宙は、一般の人の科学への興味をかりたてる分野で、研究者としてうれしい」と話していました。

3人のうちペンローズ氏は、難病と闘いながら宇宙の起源やブラックホールなどの研究を続け、2018年に亡くなったイギリスのスティーブン・ホーキング博士とも一緒に研究をしていたということで、須藤教授は「ホーキング氏が存命の間に受賞できていればと悔やまれる」と話していました。

また、ノーベル物理学賞はこれまで物理学の異なる分野が順番に受賞する傾向があると指摘されていましたが、2年連続で宇宙分野の研究の受賞が決まったことについて、「分野にとらわれず、重要な研究には賞を授与しようという姿勢の表れではないか」と話していました。

宇宙物理学者 佐藤勝彦さんは

宇宙物理学者で東京大学名誉教授の佐藤勝彦さんは、「いずれもブラックホールについての研究だが、思いつかないような組み合わせで、それぞれ別に受賞してもおかしくない研究成果だ。私たちのブラックホールの研究が物理学でも天文学でも大きなテーマになってきたということで喜ばしい」と今回の受賞をたたえました。

その上で、「最近は技術が進歩してものすごい精度で観測ができるようになるなど、数学的な理論と最先端の技術がうまくつながる時代となり、その中でブラックホールが観測できるようになり、大きな研究課題になってきたのだと思う。この受賞をきっかけに、若い人たちがおもしろい研究対象としてこの分野に入ってきてくれるようになることが一番うれしい」と話していました。

ゲンツェル氏知る日本の研究者は

ノーベル物理学賞の受賞が決まった3人の1人、ラインハルト・ゲンツェル氏と20年ほど前にドイツの同じ研究所にいたという名古屋大学大学院理学研究科の立原研悟准教授は、「受賞が決まったことを聞いて驚きました。私は別の研究グループでしたがゲンツェル氏は当時からすごい研究者で、仲間に対して鋭く、厳しい指摘をしていていずれも理論に裏付けられたものばかりでした。彼の前では変なことは言えないなという緊張感がありました」と当時を振り返りました。

その上で、立原准教授は、「あれだけの仕事をした人であり、今回のノーベル物理学賞は正しい評価ですが、彼は、まだ現役で今後もより精力的に研究を続けていくのではないかと思います。ブラックホールはこれまでSFの世界でしたが、観測によって証明できる時代になりました。今回の受賞をきっかけに多くの若者にこの分野に興味を持ってもらいたいですし私も頑張っていきたいです」と話しています。

「ブラックホール」とは

ブラックホールは極めて高密度で強い重力のために物質だけでなく光さえも抜け出すことができない特殊な天体です。

20世紀最大の物理学者と言われたアインシュタインの一般相対性理論の結果として形成されることが理論的に明らかになりました。

そして、1990年代の初頭以来、銀河の中心で見えない天体が強い重力で他の天体を引きつけている様子を確認し、観測でも証明されることとなりました。

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