2022年の注目 ナターシャ・カンディッチさんとは

民族紛争の中での人権侵害や戦争犯罪を調査してきました

2022年のノーベル平和賞の候補の1人とされているのが、1990年代に旧ユーゴスラビアの国々で起きた民族紛争をめぐって人権侵害や戦争犯罪を調査してきたセルビアの人権活動家、ナターシャ・カンディッチさんです。

旧ユーゴスラビアの国々では、東西冷戦の終結後の1990年代、民族や宗教の違いをめぐって激しい紛争が起きました。

弁護士でもあるカンディッチさんは、1992年に現在のセルビアの首都ベオグラードにNGO「人道法センター」を立ち上げ、人権侵害や戦争犯罪の被害者や目撃者の証言を集めるなどして、国際的な捜査や裁判に関わってきました。

このうち1995年にボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァでセルビア系の武装勢力がイスラム系の住民8000人以上を殺害したとされていますが、カンディッチさんは虐殺の様子を記録した映像を独自に入手し、2005年に国連が設置した「旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所」に提出。

さらにこうした映像をセルビア国内でも公開したことで、それまで虐殺の事実を受け入れてこなかった世論にも影響を与えたといわれています。

カンディッチさんらは今も行方がわかっていない被害者の家族などに聞き取り調査を行い記録を続けることで、被害の全容を解明しようとしています。

その後、国際社会では世界の紛争地での戦争犯罪などを裁く常設の裁判所の設置を求める声が高まり、2002年にICC=国際刑事裁判所が発足、ICCは現在、ロシアによる軍事侵攻を受けたウクライナで、戦争犯罪などの捜査を進めています。

カンディッチさんがノーベル平和賞に選ばれれば、紛争地での戦争犯罪などの責任を追及する取り組みを後押しする、強いメッセージになるとみられます。

能智 春花

国際部記者

能智 春花(のうち はるか)

2012年入局 大分局、長崎局、国際放送局を経て現所属

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