ノーベル賞級研究 熾烈な先陣争い

世界中で科学者は、最初の成果を上げることを目指して、ライバルに先を越されないよう熾烈な先陣争いの中で研究しています。中には、“ノーベル賞級”と言われる研究をめぐって激しい争いが繰り広げられたケースもあります。

エイズが大きな社会問題になっていた1984年、アメリカ国立衛生研究所のロバート・ギャロ博士は原因となるウイルスを発見したと発表。これに異論を唱えたのがフランスのパスツール研究所のリュック・モンタニエ博士で、モンタニエ博士はギャロ博士の発表の1年前にウイルスを発見したと論文で発表していました。

どちらがエイズの原因となるウイルスを発見したのか、特許も絡むため、アメリカとフランスの政府を巻き込んだ国際的な論争にも発展しました。

その後、特許料については、米仏の大統領が入る形で2人を共同発見者として折半することで和解しましたが、本当はフランス側がウイルスを発見したようだという流れになっていきます。

そして2008年、ノーベル賞の選考委員会は、フランス側、モンタニエ博士ら3人にエイズを引き起こすウイルス、HIVを発見した功績で、ノーベル生理学・医学賞を授与。先陣争いに決着が付けられました。

現在でも、ノーベル賞級と評価されている研究をめぐって同様の先陣争いは繰り広げられ、遺伝子を自在に操作できる「CRISPR-Cas9」(クリスパー・キャスナイン)という新たな「ゲノム編集」の技術を誰が開発したのか、その特許をめぐってアメリカの研究機関同士で裁判になっています。その中で、2020年のノーベル化学賞は、この「ゲノム編集」の技術の基本的な仕組みを開発したアメリカ人とフランス人の2人の女性研究者に与えられました。

藤ノ木 優

福島局記者(元科学文化部)

藤ノ木 優(ふじのき まさる)

2009年入局。福島局、札幌局などで原発事故の農業や環境への影響や、大学の科学研究、地域医療などを取材。
現在、科学・文化部で医療分野を担当し、新型コロナウイルスの取材にあたる。

各賞一覧へ