2019年ノーベル文学賞 2年分発表 ポーランドとオーストリアの2人

ノーベル文学賞の選考を行うスウェーデン・アカデミーは日本時間の10月10日夜、発表が見送られた2018年と、2019年の2年分の受賞者を同時に発表し、2018年の受賞者にポーランドの女性作家オルガ・トカルチュク氏(57)が、2019年の受賞者にはオーストリアの男性作家ペーター・ハントケ氏(76)がそれぞれ選ばれました。

スウェーデンのストックホルムにある選考委員会は、日本時間の10月10日午後8時ごろ、2018年と2019年の2年分の受賞者を発表しました。

このうち2018年の賞に選ばれたポーランドの作家、オルガ・トカルチュク氏は、1962年にポーランド西部で生まれ、ワルシャワ大学で心理学を学んだあと、執筆活動を始めました。

2007年に発表した代表作の小説「逃亡派」は、異なる時代や場所を舞台に起きるエピソードを集めた作品で、読者がさまざまな旅を経験した気持ちになれる「斬新な紀行文学」だと評価されています。

翌2008年にはポーランドで最も権威がある文学賞「ニケ賞」を受賞し、日本語にも翻訳されています。

ノーベル賞の選考委員会は「彼女の作品は、1989年以降の新しいポーランド文学のすばらしい手本となった。小説は、自然と文明、理性と狂気、そして男性と女性などを対比して、そのなかで生まれる緊張感で表現されている」と評価しています。

一方、2019年の受賞者に選ばれたペーター・ハントケ氏は、映画「ベルリン・天使の詩」の脚本を書いたことで知られる作家で、1942年、オーストリア南部のケルンテン州で生まれました。

1966年に小説「雀蜂」でデビューし、小説だけでなく戯曲や詩など幅広いジャンルの作品を執筆しています。

一方で、1990年代のユーゴスラビア紛争の際には、西側メディアの報道の偏りやNATO=北大西洋条約機構による空爆を批判して議論を巻き起こしました。

ノーベル賞の選考委員会は「ハントケ氏は第二次世界大戦以降のヨーロッパで最も影響力のある作家の1人で、その作品は人間の存在価値を常に探求し続けてきた」と評価しています。

デューク雪子さん 「バランスとれた選考」

ノーベル文学賞の今回の選考について、スウェーデン在住の文芸評論家、デューク雪子さんは、バランスがとれた選考だと評価しています。

2018年の文学賞を受賞したポーランドのオルガ・トカルチュク氏については「多文化をテーマにしている作家で、強硬な今のポーランドの政権を強く批判している。また、フェミニストなのでセクハラスキャンダルや#MeTooなどが大きな問題となった2018年の受賞者としてふさわしいと思う」と評価しています。

また、2019年の文学賞を受賞したオーストリアのペーター・ハントケ氏については「旧ユーゴスラビアで民族主義を掲げたミロシェビッチ政権を支持するなど、その政治的な姿勢が問題視されたこともあったが、ドイツ語圏の最もすぐれた作家だということは、誰もが認めるところだった。今回は2人が受賞するという状況もあって、バランスがとりやすかったのではないか」と指摘しています。

また、スキャンダルに揺れたスウェーデン・アカデミーについて「選考委員長を務めたオルセン氏をはじめ無事に発表できるかどうか本当に必死だったが、今回の発表でまずはやまを越えたと思う。外部の有識者を入れた形での選考を続けていくのかどうかも含めてアカデミーは、さらに改革に取り組んでいくことになるだろう」と話しています。

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