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2022年ノーベル化学賞 2回目の受賞者の“朋友”
野依良治さんが語る【全文】

2022年のノーベル化学賞に選ばれたアメリカ、スクリプス研究所のバリー・シャープレス教授は、2001年、当時、名古屋大学の教授だった野依良治さん(現・JST=科学技術振興機構研究開発戦略センター長)とともにノーベル化学賞を受賞しています。

野依さんはシャープレス教授との親交が深いと聞き、今回の受賞についてお話を聞きました。

記者)
バリー・シャープレス教授が、2022年2度目のノーベル化学賞に選ばれたことをどのように受け止めていますか。

野依さん)
親友ですから大変喜んでいます。私とシャープレス教授は、新しい分野を目指して「不斉触媒反応」という研究をやってきましたが、2000年ぐらいまでには、この研究は花開いて2001年にノーベル化学賞をいただきました。

シャープレスは非常に夢を追いかけるような人で、その当時から今回の受賞対象となった「クリックケミストリー」という分野の研究を始めていました。一般的には1つの仕事でうまく成果が出ていると、ほかの分野に進むというのはなかなか難しいわけですが、彼は夢を追う青年のような気持ちを持ち続けた人ですね。

それが今回、再び花開いたということで、心から祝福したいと思います。私たちがもともと研究していた「不斉触媒反応」というのはひとつの大きな分野になったわけですが、それからまたまったく新しい分野を切り開いたということです。本当にうれしく思います。

「クリックケミストリー」創薬に活用

記者)
今回、受賞した「クリックケミストリー」という分野は私たちの生活にとってどのような役に立つものなのでしょうか。

野依さん)
端的に言いますと創薬に関係すると思います。最終的に人々に届く薬は大量生産しなければいけないわけですが、まずその効果的なものを見つけるというのが大変な作業なんです。

2万個作って1つ当たるかどうかというふうなことです。10年かけて1000億円以上の開発費がかかるということです。一般の方は「生産」ということに興味がいくと思いますが、創薬の場合にはまず「ディスカバリー」、つまり新しいちゃんとしたものを見つけるということが大変なので、今回の成果はその研究に非常に役に立つ仕事です。おそらく世界中の製薬企業の研究では日常的に使われている手法になっていると思います。

シャープレス教授と野依教授は「朋友」

記者)
シャープレス教授とのことで思い出すことなどはありますか。

野依さん)
1969年のことですけれども、私は名古屋大学からハーバード大学に移りました。シャープレスはスタンフォード大学からハーバードにやってきまして、同じポスドク(博士研究員)仲間でした。教授は違いましたが非常に仲よくなりまして、それからずっと友達関係を作ってきたわけです。家族ぐるみの付き合いで、非常に、まあ、朋友と言いますかね。そういう感じです。

彼はいつも夢を持っていてですね、何を言いだすかわからないって感じなんですね。こういう風にあなた(記者)と対話をしていても、次にだいたい何を言うかなというのは感じるものでしょう。ところが彼は突如として話しだして、何言っているかわかんないっていう感じなんですね。それは私の英語力だけではなくて、多くの仲間たちが言うことですね。彼には何か新しい夢がいつもみえているんじゃないでしょうかね。

記者)
私たちが考えつかないようなことを普段から考えているような人ということなんでしょうか。

野依さん)
いろんなことを考えているのか、感じているのか分かりませんけども、どちらかというと直感の人ですね。大きな発見というのは合理的なデザインだけではなかなか難しいと思うんです。「セレンディピティー」と言いますけどもある種の直感が大事だと思います。

これは偶然ではなくてやはりそれまで培ってきた経験なり、知識なりの上に成り立つ訳ですけれども、彼は非常にやっぱり「セレンディピティー」を持った化学者だと思います。

2回目の受賞 成功体験を捨てて新しい分野に転身

記者)
シャープレスさんの受賞は今回で2度目になります。野依先生から見て、2度ノーベル賞を受賞することにはどのような意味があると思いますか。

野依さん)
2つの大事な分野を開拓し、そしてリードしてきた。こういうことじゃないでしょうか。一般的には研究者というのは何か良いテーマを見つけたら、それをずーっと続けていって、なかなかやめるということは難しいんです。

テーマを発掘することも難しいですが、やってきたテーマをやめるということもこれまた難しいと思いますね。

彼は2000年ごろに、すっきりと今までの成功体験を捨てて新しい分野に転身したと言いますか、そう思います。大事なことは彼のこの「クリックケミストリー」の中核をなす、ベースになっているのは、非常に伝統的な、そして信頼性のある化学なんですね。いろんな分子にあまねく適用が可能だという、そういう反応です。

迅速に、そして確実に反応して、バイプロダクト(副産物)を出さないと。こういう反応です。ですから「クリックケミストリー」と言うんですね。シートベルトがガチャッとはまるような、そういう反応です。ベルトッツィさんも同じタイプの反応を使っている訳です。その元はドイツの立派なフーズゲンという先生の非常に大きな発見に基づいています。

記者)
今回の受賞が日本の研究者や次の世代の若い人たちにとってどのような影響を与えると思われますか。

野依さん)
そうですね。やはり分野の融合ということが大事だと思います。私が勧めたいことは、自分の専門は大事にして、そこで力をつけなきゃいけないわけですけれども、それがどういうふうな科学的な大きな意味を持つかということを、常に考えて展開をしていかなきゃいけないと思うんですね。

若い人には無限の可能性があるわけですから、それは高さと広さと両方ですね。少し広く物事を見ることが大事じゃないでしょうか。日本ではこの道一筋という、そういう生き方が高く評価される傾向がありますけども、たまには違う道にも入ってみることが大事じゃないでしょうかね。

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