2021年のノーベル化学賞に有機触媒の研究で貢献した2人

2021年のノーベル化学賞の受賞者に、有機触媒(ゆうきしょくばい)の研究で大きな貢献をしたドイツの研究機関とアメリカの大学の研究者2人が選ばれました。

スウェーデンのストックホルムにあるノーベル賞の選考委員会は日本時間の10月6日午後7時前、2021年のノーベル化学賞の受賞者を発表しました。

受賞が決まったのは、ドイツのマックス・プランク研究所のベンジャミン・リスト氏と、アメリカのプリンストン大学のデビッド・マクミラン氏です。

2人は、有機触媒の分野の研究で大きな貢献をしたことが評価され、選考委員会は、彼らが開発した有機触媒を利用することで新たな医薬品などを効率的に作り出せるようになったとしています。

有機触媒の研究に詳しく、2人とも交流のある学習院大学の秋山隆彦(あきやま・たかひこ)教授は「リスト氏とマクミラン氏は、2000年に化学反応を促す新たな有機触媒をそれぞれ同時に発表した。これまでの触媒はパラジウムなどの金属を使うことが一般的だったが、この触媒は金属を使わないことから、医薬品などを作る際にも、より安全に作ることができるし、安価に作れることも特徴だ」と話しています。

リスト氏は北海道大学の研究拠点にも所属

ノーベル化学賞の受賞が決まったドイツのベンジャミン・リスト氏は北海道大学のICReDD(アイクレッド)=化学反応創成研究拠点にも主任研究者として所属し、研究活動を行っています。

ICReDDの拠点長を務める前田理(まえだ・さとし)教授は「すばらしい業績を上げていて、いつかノーベル賞を受賞するのではないかと期待していました。その期待が2022年、かなったということでうれしく思っています。リスト先生は金属を使わずに有機合成をするという分野の研究者で、金属を使わないことで薬を作るときに不純物が入らないといったメリットがある。受賞が決まった2人はこの分野を切り開いた存在だと思う」と述べました。

そして「私たちの研究拠点は、計算と情報と実験をうまく組み合わせて新たな化学反応を見つける研究を行っていて、リスト先生には大きな協力をいただいている。ノーベル賞を受賞されるということで忙しくなると思うが、引き続き一緒に研究を進めてほしい」と述べました。

2人と親交がある中部大 山本教授「新たなことに挑戦する開拓者」

ノーベル化学賞の受賞が決まったベンジャミン・リスト氏とデビッド・マクミラン氏の2人と以前から親交があり、自身も近い研究分野で世界的な業績を上げている中部大学の山本尚(やまもと・ひさし)教授は「薬品などを作る際、反応を促す触媒として以前は金属が入った物質を使っていたが、金属が入っていない『有機触媒』を開発したことが彼らの大きな業績だ。『有機触媒』は金属を含まないので、環境に優しく、コストも安く薬品を作れるというメリットがある。環境に配慮した今の時代にもマッチした研究だ」と話していました。

そして2人の受賞について山本教授は「2人とは20年以上前から親交があるが、研究者としては新たなことに挑戦する開拓者だ。特にベンジャミン・リスト氏は日本びいきで、2人が受賞したことはとてもうれしく、これから『おめでとう』とメールを送るつもりだ」と話していました。

2人と同じ分野の研究 東北大 林教授「この分野の評価 うれしい」

人と同じ分野の研究をしていて、20年以上の親交がある東北大学大学院理学研究科の林雄二郎(はやし・ゆうじろう)教授は、2人の研究成果について、「それまでは、化合物をつくるのに金属を用いるのがほとんどだったが、金属を使わずに化合物を作ることに成功した。金属を使わないため環境に優しい上、これまで合成が難しかったタミフルなどの医薬品や、香料、農薬などさまざまな化合物が簡単に作れるようになった」と話していました。

そして、今回の受賞については、「この2人が切り開いた有機触媒の分野では、その後複数の日本人研究者が独自の触媒を開発し、大きな貢献をしていて、日本も世界的にこの分野の研究をリードしている。受賞者に日本人の名前がなかったことは少し残念だが、この分野が評価されたことはうれしい」と話していました。

また、2人の人柄については、「リスト氏は、非常に温厚で、語り合うと楽しい人だ。マクミラン氏は、研究に真摯(しんし)に向き合う人で緻密に研究を積み上げ、新たな分野の研究に歩み出している熱心な人だ」と話していました。

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