化学賞

2019年ノーベル化学賞受賞 吉野さん開発「リチウムイオン電池」とは

「リチウムイオン電池」は、プラスの電極に「リチウム」という金属の化合物を、マイナスの電極に特殊な炭素を使う電池で軽いのに出力が大きく、繰り返し充電できるのが特徴です。

軽くて出力が大きい電池の開発は昭和50年代から進められてきました。

「ニッケル」や「鉛」などを使った従来の電池は1.5ボルト前後という低い電圧しか取り出せない欠点がありました。

一方、「リチウム」を使うと3ボルト以上という高い電圧は得られましたが、発熱や発火のおそれがあり、安全に充電することができませんでした。

こうした中、昭和55年、イギリスのオックスフォード大学で研究していたジョン・グッドイナフさんと当時の研究員で、現在は「東芝」のエグゼクティブフェロー、水島公一さんらがリチウムとコバルトの酸化物「コバルト酸リチウム」をプラスの電極に使うと、電圧が高いだけでなく寿命が長い電池になると発表しました。

この成果に注目した吉野彰さんが5年後の昭和60年、プラスの電極に水島さんが発見した「コバルト酸リチウム」を、マイナスの電極に特殊な炭素を使い、初めて実用的なリチウムイオン電池の開発に成功しました。

これにより、軽い上に激しい発熱を抑えて安全性が高く、何度でも使うことができる今のリチウムイオン電池の実用化が大きく前進したのです。

それからさらに5年後の平成2年、当時、「ソニー」に務めていた西美緒さんがリチウムイオン電池を世界で初めて商品化することに成功しました。

ほかの充電池と違って電気を使い切らないまま継ぎ足しで充電を繰り返しても容量がほとんど減らないため、携帯電話やパソコンなど身の回りの製品に多く使われ、IT機器の普及に大きく貢献しました。

また、時間がたっても失われる電気が少ないことから、9年前に地球に帰還した日本の小惑星探査機「はやぶさ」にも搭載され、7年におよんだ宇宙の旅を支えました。

さらに、ハイブリッド車や電気自動車のほか、次世代の送電網を支える蓄電池といったエネルギーや環境の分野でも活用が広がっています。

世界の市場規模 7兆4000億円に上る予測も

リチウムイオン電池はスマートフォンやパソコンなどで広く使われていますが、今後は電気自動車などでも利用が広がり、2022年には世界の市場規模が7兆4000億円に上るという予測も出ています。

リチウムイオン電池は、ノートパソコンや携帯電話、それにスマートフォンなどのデジタル機器で幅広く使われ、普及してきました。

今後は、車の電動化によって一段と市場が広がると見込まれていて、民間の調査会社「富士経済」は、2022年の世界の市場規模が7兆3900億円余りとなり、2017年時点と比べておよそ2.3倍に伸びると予測しています。

一方で、電気自動車やハイブリッド車に使われるリチウム電池ではパナソニックなどの日本メーカーだけでなく、電気自動車の普及が進む中国のメーカーが急激に力をつけ生産を拡大させています。

中国で最大手の電池メーカー「CATL」は2019年に入ってトヨタ自動車やホンダと電気自動車向けの電池を共同開発することで相次いで提携を結びました。

こうした中、日本のメーカーは、リチウムイオン電池の性能を高める技術開発を進めていて、このうち京セラは、今月、電極層と呼ばれる部分を液体状ではなく粘土状にすることで製造にかかるコストを3割ほど減らせるという新たな技術を発表しました。

材料の成分や配合を変えたことで従来の製品より数年ほど長もちするようになり、発火の恐れも少なくなったとしています。

今後はこうした新たな技術開発で日本メーカーが存在感を示せるかも問われることになりそうです。