JAL(日本航空) 採用・人事担当者に聞く

地域おこしから空飛ぶクルマまで 航空会社の目指す新展開とは

2023年03月28日
(聞き手:平野昌木 堀祐理 本間遥)

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コロナ禍で落ち込んだ旅客数を回復させ、さらなる成長につなげようと新しい領域に挑戦している航空業界。
地域活性化や次世代エアモビリティの活用など、空のプロフェッショナルとしてのチャレンジをJAL(日本航空)の人事担当者に聞きました。

“旅をしたい”気持ちに応えるために

学生
本間

航空業界の最近のトレンドはなんですか?

LCCという言葉は聞いたことがありますか?

日本航空
松田理子さん

ローコストキャリアの略称で、簡単に言うと、安く乗れる飛行機です。

JAL(日本航空)人事部の國友俊輔さん(左)と松田理子さん(右)

手荷物を預けることや、一部のサービスに追加の費用がかかったりしますが、若年層など、できるだけ移動にかかる費用を抑えて旅をしたい方を全般的にターゲットにしています。

一方でJALのように、荷物のお預かりやお食事などの料金があらかじめ含まれている飛行機はフルサービスキャリアと言います。

いま弊社ではLCC事業に力をいれていて、ZIPAIR Tokyo、スプリング・ジャパン、ジェットスター・ジャパンの3社を展開しています。

日本航空
國友俊輔

JALが展開するLCC3社の飛行機

3社もあるんですか!

フルサービスキャリアだけだとどうしても「移動にかかる費用を抑えたい」というニーズに応えきれなかったんです。

3社それぞれ得意な路線も違うので、かゆいところに手が届く、ではないですが、お客さまの価値観やサービスに対するニーズの多様化に応えられるようにしています。

コロナの影響で苦しい時期が続いていましたが「旅をしたい」というお客さまの気持ちは絶対になくならないと思っているので、いつかその気持ちにお応えするべく準備しています。

2050年カーボンニュートラル

学生

3つのニュースの1つ目、カーボンニュートラルはどんなことですか。

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を、実質的にゼロにすることをカーボンニュートラルと呼んでいます。

学生
平野

実質的にとはどういう意味なんですか?

排出されるCO2の量から、植林などを通して吸収できるCO2の量を差し引いてゼロにするということです。

JALグループは、2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにすることを宣言しています。

どうして2050年までにゼロにすることを目指しているんですか?

持続可能な社会を目指す上で、気候変動に影響のあるCO2排出量などへの対応は特に重要な課題だと認識しています。

飛行機のCO2の排出量は、ヨーロッパで「航空機を利用することが恥だ」という意味の「飛び恥」(flight shame)という言葉があるほどなんです。

耳にしたことはあります。

ヨーロッパは、航空会社が「CO2を出している飛行機に本当に乗らないといけないのか?」というCMを出すくらい意識が高いです。

日本でもSDGsという言葉をよく聞くように、その波は私たちのところにも届いています。

CO2を出しているものの責任として、美しい空を次の世代に残せるように本気で取り組まないといけないと考えています。

実際、飛行機はどのくらいCO2を排出しているんですか?

全世界でのCO2の排出量を100だとすると、運輸部門が23%を占め、その中で航空セクターが13%を占めているといわれています。

ドイツや韓国が1年間で排出するCO2の量と同じくらいだそうです。

多いですね。

わたしたちも重く受け止めています。

直近では、JALは2019年にCO2を909万トン排出していたのですが、2030年には19年比で10%削減する目標を組んでいます。

その目標をクリアするために具体的に何をされているんですか?

排出を止めることはできないので、いろんな面からアプローチしていくため、運航の工夫省燃費機材への切り替えSAFの活用の3本柱で取り組んでいます。

運航の工夫は、荷物を軽くしたり航路を最適なものにして燃料を使う量を減らすことです。

省燃費機材への切り替えは、燃費が良い新しい機種を導入していくという取り組みです。

JALの最新の機体「エアバスA350」

3つ目の柱のSAFは、Sustainable Aviation Fuel=持続可能な代替航空燃料という意味です。

初めて聞きました。どんな燃料なんですか?

SAFは、燃やすとCO2が出る点は化石燃料と同じですが、植物などのバイオマス由来の燃料などが原料で、製造過程でCO2を減らす仕組みになっています。

SAFのイメージ

なるほど。

さらに、使い終わった食用油とか、捨てるはずだった木とか衣料品とか、都市ごみとかも燃料になるんです。

それらは本来処理する時にCO2が発生するのですが、燃料にすることで、出るはずだったCO2を削減して再利用している、というイメージです。

非可食原料から作られたSAF

SAFは今、どのくらい導入されているんですか。

今はまだ少ないですが、2025年には全体の1%を、2030年には10%をSAFにしようと考えています。

JALが最初にSAFを搭載したのは2009年で、アジア初でした。植物を主な原料にした燃料を使ったフライトで、ちゃんと目的地に到着しています。

2021年にはお客さんから集めた衣料品を切って燃料にしました。

衣料品ですか!?

全国から集まった約25万着を切って燃料にしたんです。

国産SAFの製造に挑戦するプロジェクトで集まった衣類

へー!

これだけ聞くと夢の燃料のようなのですが、課題も山積みです。

石油由来のものは調達する経路や調達が簡単なのですが、SAFを製造する技術はまだまだこれからのところもあるので、量が少なく、金額が高いんです。

使わなければならない機運は高まっているので、航空会社同士で取り合いになっていて、調達経路の確保が難しいんです。

その課題はどう解決していくんですか。

奪い合っているだけではだめなので、全日空さんともタッグを組んで共同レポートを出すなど、CO2排出量を0にするために協力していこうという動きがあります。

2021年に日本航空と全日空はSAFの認知拡大と理解促進を目的とした共同レポートを作成

また、私たちは「ワンワールド」という世界規模の航空会社の連合に加盟していて、そこに加盟している航空会社すべてで協力して調達経路の確保に取り組んでいます。

CO2削減は、世界規模で航空業界全体としての課題なんですね。

そのとおりです。さらに、国とも連携を進めています。

例えば、日本でSAFを製造、供給する体制が整わないと、「日本では環境に優しくない燃料を積むから、もう日本に行くのはやめる!」という航空会社も出てくるかもしれない。

そうなると世界から日本が孤立する可能性もありますし、それは経済的に発展していくうえでも重要な課題なので、日本の問題ですよって呼びかけているんです。

客室乗務員×地域社会

2つめのキーワードの客室乗務員×地域社会というのは、どういうことですか。

JALは今、地域事業に注力している面もあって、そこで客室乗務員も活躍しているんです。

客室乗務員の仕事をいったん中断して、「ふるさとアンバサダー」として地域に移住して地域課題の解決のお手伝いや地域活性化に取り組む、といった活動をしています。

宮崎県で大根を漬物にするために干す大根やぐらの下で、作業の合間に農家の人たちと交流するふるさとアンバサダーのメンバー

客室乗務員の方が手を挙げるんですか?

そうです。客室乗務員って飛行機の中でお客さまと出会って絆を作ったり、ステイ先でご飯に行ったり散策したりしているので、その地域の良さを知っているんですよね。

だからこういうプロジェクトに取り組みたい人は多いです。

われわれが培ってきたネットワークや知見や知識、客室乗務員が持つ審美眼などを生かしながら地域の皆さんと一緒に新しい価値を生み出せないかと思っています。

地域活性化のために航空会社ならではの視点もあるんですか。

私たちは地域と都市や世界をつないでいるので、そのつながりを増やして新しい人、モノ、商売の流れを作り出すお手伝いができるのは、新しい流れだと思います。

どうして航空会社が地域活性化に取り組み始めたんですか。

航空会社は飛行機の会社だと思われていると思いますが、それだけだと今後より大きく成長できないというのをコロナ禍で実感しました。

皆さんもコロナ禍でなかなか移動できない時期があったと思いますが、そうなった時に航空事業だけではなかなか収益が得られない実態に直面したんです。

なので、事業構造を変えて、非航空事業にも着目しなければならないと考えています。

その一環として、地域貢献だったり、次世代エアモビリティー事業、つまり、ドローンや空飛ぶクルマなどの活用にも取り組んでいます。

空飛ぶクルマの活用にも取り組んでいるんですか?

そうです。実際に飛ばして、生活に取り入れていこうとしています。

2025年に大阪で開かれる万博でまずお披露目をして、それ以降に本当に社会で運用できるようにしていこうとしています。

空港にアクセスしにくい場所もあるので、そういったところに導入して、よりストレスフリーに旅ができたらいいなと思っています。

そんな夢みたいな話が現実になるのかと思うと楽しみです。

次世代エアモビリティーの開発は航空業界の発展にもつながっていくんですか。

逆の考え方かもしれませんが、航空事業をやってきたからこそ貢献できることがあるのではないかと考えています。

ドローンや車などが空を飛ぶものになると、落ちる可能性を含めた安全のリスクがあります。

どのように安全管理をするのかが重要になってくるので、それを今までやってきた航空事業者の知見を生かせる点が大きいです。

ジェット機とドローンや空飛ぶクルマなどを組み合わせてシームレスな移動を実現するために、いろんなメーカーさんと一緒に実証実験などを行うことも目的の1つです。

都内で行われたドローンで荷物を運ぶ実証実験

ドローンや空飛ぶ車といった次世代モビリティーを使うことで、山岳部など我々がニーズにお応えできなかった場所にも貢献できるようになるのではないかと考えています。

空の使い方を広げつつ、安全を担保するというのがポイントで、そのプラットフォームを作る場に航空会社が入っているというのは非常に意義があることだと思います。

ロボット接客

最後のキーワードはロボット接客ですね。実際にロボットが接客しているんですか?

DX推進の一環で、裏に人がいるアバターロボットの導入を検討していて、スタッフがロボットのカメラを通してお客さまの様子を見ながら遠隔操作してご案内をしています。

羽田空港などに導入が検討されているアバターロボット

今までは出社が前提で、実際に空港にいないと仕事ができない環境でしたが、ロボットを活用することでテレワークもできるようになるのではないかと考えています。

また、羽田空港にいる1人のスタッフが、北海道が混む時間には北海道、沖縄が混む時間には沖縄のロボットを操作する、みたいなことも将来的にはできるようになります。

便利ですね!

ただ、ロボットによる接客だと、サービスが変わってしまう気もします。

AIではなく人が操作することで、今まで私たちが培ってきたヒューマンスキルはそのままお伝えすることができるので、おもてなしの品質には大きな違いはないと思います。

こうしたDXを推進するのは、我々が楽をするためではなく、効率化することによってできる時間をほかのヒューマンサービスに充てて、その質を高めていくためなんです。

それに、従業員が時間を有効活用してより満足感を得て、よりお客さまのことを考えることができるようになれば、お客さまの体験価値も高まる、というように循環すると思います。

お客さまの体験価値を向上させるためにも、まずは社員の働き方や満足度を高めるために何ができるかというのは考えていかないといけないと思っています。

ロボット以外にはどんなDXの取り組みをされているんですか。

荷物を自動で預かる機械や自動チェックイン端末を空港に導入することで、荷物を預けるための長い列を緩和してお客さまにストレスフリーな旅を提供したり。

羽田空港などに導入されている自動手荷物預け機

飛行機をより安全に飛ばすために、エンジンの振動などのデータをビッグデータで分析して、不具合の発生を予測して未然に防ぐ予測整備もしています。

いろんな分野がDXされているんですね。

まだまだ試験運用や実証実験段階の取り組みも多いので、どんどん皆様の目に見える形で新しい取り組みを実現していきたいと思います。

チャレンジ精神を持って

最後に就活生にメッセージをお願いします。

航空会社=航空事業だけ、という時代からどんどん変わってきているので、航空会社にも今はいろんな活躍のフィールドがあります。

飛行機のことに詳しくないから航空会社は受けられないとは思わずに、さまざまな人に仲間になっていただいて、大学などで学んだことを生かして活躍してもらいたいと思います。

私たちも成長のために様々なチャレンジをしているので、就活生のみなさんもチャレンジ精神を持ってご自身の就活活動を進めてほしいと思います。

ありがとうございました。

撮影:池田侑太郎 編集:谷口碧

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