2022年03月18日
(聞き手:小野口愛梨 田嶋瑞貴)
私たちの身近にある建物を扱う不動産業界。建物を建てて終わり…ではありません。数十年先を見据えた街づくりの構想を進める一方、ロボット活用にも取り組んでいると言います。実際どんなことをやっているの?三菱地所の人事・採用担当者に聞きました。
不動産会社は大きい建物を建てるという印象があります。
住宅も不動産ですし、オフィスとか商業施設、物流施設とかホテルも扱っています。
いわゆる街を開発していく仕事をしています。
1つの建物を作るのにどれくらいの期間が必要なんですか。
長いものだと10年を超えるぐらい、短いものでも2~3年ほどの工事期間を経てようやく1つの建物が完成します。
例えば、今、高さが390メートルで日本で1番高くなる予定のビルの建設を進めていますが、工事期間だけで10年ちょっと、検討期間も考えると完成まで15~20年ぐらいかかります。
ものによっては、すごく時間がかかるんですね。
完成したあとも、街のイメージを向上させるイベントの企画やプロモーションといったエリアマネジメントをして、より魅力的な街にしていく取り組みもしています。
例えば、大丸有エリアはご存じですか。
大丸有エリア
東京・千代田区にある大手町、丸の内、有楽町を合わせたエリア。東京を代表する一等地で、日本でも有数のビジネス街。
私たちが130年前ぐらいに明治政府から購入した土地なんですけど、建物を建てたあともずっと私たちが所有しながらいろんなところに貸したりしているんです。
130年も前から。
1980年代は大丸有エリアってオフィス街しかなくて、勤務時間外や休みの日は全部シャッターが閉まって、誰もいない寂しい街になる。
「丸の内のたそがれ」って呼ばれてたんですけど。
今の姿からは想像できないです。
求められる街の姿とかけ離れていたので、もっとにぎわいを創出していく街づくりをやっていかなければいけないなと。
それで2000年代に丸ビルやその辺りが再開発されて、常盤橋とか有楽町とか他のエリアも段階的に開発を進めているんです。
私たちが土地を持っているからこそ、エリアマネジメントや多面的な開発ができるんです。
1つ目のニュースとしてオフィスの変化を挙げていただいたんですが、どうしてですか。
新型コロナウイルスの影響で、良くも悪くもオンラインの導入が進み、オフィスの在り方も大きく変わってきていると思ったので選びました。
多くの人がこの2、3年でオフィスや場の必要性を強く感じる機会が増えたんじゃないかと思います。
オフラインの特別感が増しました。
私たち不動産会社も、コロナの前はオフィスをただ「箱=働く場所」として提供すればビジネスとして成り立つことが多かったです。
でも、コロナ禍で対面で会うことの価値がより高まったので、ただ箱を渡すだけではなく、「働く場づくり」という考え方が加速しました。
どういう空間で働けば生産性や効率がより上がるのか、1人1人の満足度を高めながら働くことができるかということですね。
中身を充実させるようになったんですね。
あと、先がなかなか見通せない中で、ある程度余白を残す、柔軟性はすごく大事かなと思っています。
柔軟性ですか?
例えば、先ほど説明した日本一高くなる予定のビルですが、設計図面の検討段階でコロナ禍になってしまって。
屋外空間へのニーズが高まったので、外壁に小道を加えるなど、外の空間をより多様に使えるよう設計変更しました。
世の中の変化に合わせて対応したんですね。
今後もどのように環境や世の中が変わっていくか、建物や街に何が求められるかは分からないので、柔軟に対応できるよう、余白を作っておくことがすごく大事なんだと思います。
ほかにコロナの影響を感じたことはありますか?
コロナ禍になってテレワークが普及したことで、「全員出社しなくてもよくなったので、オフィスの面積を小さくしていきたい」と言う会社もあると聞きます。
オフィスの面積を小さくするメリットってあるんですか。
単純に、100の面積を借りていると100のお金がかかるんですけど、70だけなら70のお金ですみますよね。
となると、不動産会社としては賃料が減って損になるんじゃないですか?
そうとも言えなくて、私たちはエリアマネジメントの一環で、新しいビジネスを生み出すための企業同士の交流拠点の運営もしているんです。
その観点から言うと、例えば1階100平米の10階建ての建物で、100平米ずつ10社に借りてもらう。
それよりも50平米ずつ20社に借りてもらった方がいろんな企業や業界が集まるので、新しい価値が生まれやすくなるのではないかと期待しています。
新しいビジネスのきっかけ作りもされているんですね。
対面で会うことの意味を再定義しながら、交流が生まれやすい空間、場づくりというのは今後も力を入れていきたいですね。
次のトピックス、ロボット活用を選ばれた理由を教えて下さい。
時代の変化が早くなっている中で、DXという観点で、IT化、ロボット化にも非常に力を入れているので、選びました。
どうして不動産会社がロボット活用に関わっているんですか?
例えば、TeamsとかZoomって20年前にはなかったじゃないですか。
20年前になかったものを今普通に使ってるという事は、20年後も今はない新しい技術が普通に使われているかもしれない。
となると、私たちは、新しい技術を街に受け入れることができる態勢を考えていかなければいけないフェーズになってきていると思っているからです。
未来に対応する場を今から提供していくということですか。
そうです。
開発したあとも土地を持ち続けていることで新しいテクノロジーを実証実験する環境が整っているので、外部の企業の力も借りながら、一緒にロボット活用を進めています。
例えば、ソフトバンクさんとか、トヨタさんといった会社と連携しながら、このタイミングで全自動の車を走らせてみようか、みたいなことをテスト的にやっています。
いろんな企業が協力し合って、未来の街づくりをしているんですね。
今は業界の枠を超えて企業が協力することで新しい価値を提供しようという流れがあると思います。
ロボットの活用はどれくらい進んでいるんですか。
うちのオフィスでも、清掃員の方だけではなくて、夜の時間に全自動の掃除機みたいなロボットが動いてごみを吸い取っています。
担当する商業施設でも、全自動の警備ロボットが普通に置いてあります。
なので、2030年とか40年とかどうなっちゃうんだろうなっていうのはちょっとワクワクしていますね。
ロボットを導入することでどういった課題を解決できるんですか。
国内でいうと、少子高齢化や、労働人口が減ってきているという社会課題があるので、そういったところに1つの解決策を提示できるのかなと思います。
例えば1つのビルで警備の人が2人必要だけど人が足りない、といった時に1人分はロボットが貢献できるんじゃないかなと。
あと、トラックの運転手も人手が足りていないといいますが、物流も私たちになくてはならない存在じゃないですか。
今はまだ大丸エリアの中だけでの実証実験の段階ですが、将来的に高速道路を無人で走らせる事ができるようになれば、運転手が不在でも荷物を届けることができるようになったりとか。
へー、すごい!そんな未来が来るんですね。
いずれはそういう世界が実現するのではないかなと。
私たちが何歳になっているのかは分からないですけど(笑)
建物は1回建てると、60年とか70年とか使うので、それぐらい先を視野に入れつつ街作りをやっていく必要があるんです。
未来を想像するってなかなかできる事じゃないですよね。
難しいですよね。
想像を膨らませる事はできますが、イメージ通りにいかない社会環境の変化もあるので、やっぱりいかに余白を残しながら対応していくことができるかが大事だと思います。
最後ですが、どうして北京オリンピック・パラリンピックを選ばれたんですか。
北京オリンピック・パラリンピックで日本のみなさんも海外に注目されていると思います。
私たちも海外に注目して、海外事業にも非常に力を入れているんです。
グローバルという共通点があるかなと思い、このニュースを選ばせていただきました。
海外事業は全体の事業の中ではどれくらいの割合を占めるんですか。
全体の2割ぐらいですが、2030年に向けての長期経営計画で海外事業により力を入れていくことにしています。
でも、現地にも不動産会社ってありますよね?
そうなんです。日本と全く同じような形でできるかっていうと、そこは難しい部分があるので、エリアによって進出方法をちょっとずつ変えています。
ニューヨークだと、アメリカのファンド系の企業であるロックフェラーグループに、M&Aで吸収合併する形で三菱地所グループに入ってもらっていたり。
ほかにも共同事業という形で現地の会社と一緒に街づくりを行うといったケースは今増えていますね。
現地の会社と協力しているんですね。
私たちが持っている面的な街づくりに関するノウハウや知見を提供しつつ、相手には現地の文化とか習慣とかを教わりながら進めています。
どんなノウハウを日本から提供できるのかが気になります。
大丸有エリアの街作りが実はすごく特殊なんです。
あたかも私たちが土地のすべてを持っているみたいな話し方をしてきましたが、大体120ヘクタールぐらいある中で私たちが持っているのは3分の1ぐらいで。
そうなんですか。
3分の2は他の権利者さんの建物やビルなんですが、私たちがその街全体のトータルコーディネートしてるような立ち位置なんです。
そういう立ち位置で街づくりや開発をやってる会社って世界にみるとあんまりないんですよ。
なので、私たちが培ってきた街全体の開発や運営管理といったところのノウハウを提供しているという感じです。
特に力を入れている地域はどこなんですか。
ASEAN圏です。
シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシアなどで事業を進めています。
どうしてASEAN圏に力を入れているんですか。
ASEAN圏は今、人口が増えて経済が発展してきている地域なんです。
経済が発展すると、オフィスや物流や住宅といった不動産のニーズがたくさん出てくるので、非常に大きな伸びしろになってくると思っています。
ニューヨークやロンドンはある程度形ができていて、すでに完成している建物をどう維持していくかというフェーズに移ってきているところもあるので。
新しくこれから開発していく、となると、ASEAN圏の方がより注力していくべきエリアだと思います。
今後はどう海外事業を進めていくんですか。
まだ先になるとは思いますが、未着手のエリアなどでも開発をしていきたいですね。
開発を進めることで、世界各国各地がより豊かになっていけばいいなと思います。
すごく規模が大きくて夢がありますね。
本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
撮影:阿部翔太郎・黒田光太郎 編集:谷口碧
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