2022年01月17日
(聞き手:小野口愛梨 梶原龍)
私たちの快適な生活に欠かせないエアコン。実は日本メーカーのダイキンが世界で売り上げ1位なんです。新型コロナで「空気」への関心が高まる中で、さらに付加価値をつけてビジネスを展開しようとしているそう。でも、どうやって?人事担当者に聞きました。
1つ目のニュースに「空気の価値」を選んだ理由を教えてください。
私たちは空気の価値にずっと注目してきましたが、社会的に認識が高まったのが今のコロナ禍だと思います。
ダイキン工業
1924年創業の大阪に本社を置く空調機器メーカー。世界に100以上の生産拠点を構え、全体の従業員数は8万4000人以上。2020年度のグループ全体の売上高はおよそ2兆5000億円、主力の空調機器事業の売り上げは世界1位というグローバル企業。冷媒から機器の開発・製造、販売、メンテナンスまで自社でカバー。
どのように取り組まれましたか?
例えば私たちのルームエアコンの代表的なモデルは換気をしながら部屋を暖めることができます。
今まで持っていた技術をさらにレベルアップして、短期間で開発して世間に出したんですよ。
蓄積された技術がコロナ禍で生きたんですね。
そもそも、なんで空気に付加価値をつけようと考えているんですか。
空気って目に見えないし、無料でいつでも吸えるし、価値なんか分からないよっていうのが皆さんの本音だと思っていて。
でも、お二人も水って蛇口をひねると飲めるけど、ミネラルウオーターも買いませんか?
たしかに買います。
最近は香りや味がついた商品がありますが、みんなが買うようになったのは付加価値を見いだしたからではないでしょうか。
空気でも同じようにできないかと。
当たり前ですけど、空気って1日のうちに人が一番多く取り入れる成分なんです。
よくよく考えると私たちの体に非常に大きな影響があるはずで、そこに価値を見いだしてもらえれば大きな可能性になると思います。
なるほど、「換気」以外にも付加価値をつけることってできるんでしょうか。
例えばよく眠れる空気や、目覚めやすい空気。
学生さんだと授業で居眠りしそうになった経験はありませんか?
あります(笑)
長時間同じ空間にいると、モヤっとした空気になることがありますよね。
で、外に出たらリフレッシュすると思うんですけど。
それはCO2濃度が低くなったからです。
ここに着目して、温度や湿度をコントロールするだけでなく、すっきりした香りを付けたりして「授業に集中できる空気」を作ろうと大学と共同研究したりしているんですよ。
次に「フードロス」ですが、これはどうして選ばれたんですか。
実は…ダイキンっぽくないものを選ぼうって思ってたんです。
たしかに関連性がなさそうだと思いました。
関係なさそうなんですけど、実は快適な空気の環境が必要なのは人だけじゃないんですよ。
人だけじゃない?
フードロスって聞くと食べ残しが廃棄されるイメージがあると思うのですが。
世界全体で見るとフードロスのインパクトが大きいのは、消費者に届く前の段階での廃棄なんですよね。
全然知らなかったです。
新興国などでは、消費者にさえ届かずに廃棄が起こっています。
食品に対して適切な環境が保持されていないことが原因なんです。
具体的にどういう取り組みをされているんですか?
新鮮さを保つ温度や環境を管理する空調を提供しています。
食品が生産から消費者へ届くまで、保管したり輸送したり、さまざまな空調管理が必要です。
輸送の時間も長くなっているので、それに伴って低温環境が必要な場面は非常に増えています。
例えば船で赤道を通っている間も食品の入ったコンテナの中はマイナス20度に保ったままで、食品ロスを発生させずに日本まで運ぶこともできるんですよ。
そうなんですね。
さらに、温度を管理するだけでなく、空気の組成技術にも力を入れています。
空気を構成する成分を野菜や果物など保管するものによって変化させ、適した環境に整えるイメージです。
空気の構成まで変えられるんですね。
野菜や果物って呼吸をするから傷んでいくんです。
例えばバナナも呼吸をしているから熟れて黄色くなって、熟れ過ぎると腐ってしまう。
これを防ぐために空気中の酸素の濃度を減らすことでバナナの呼吸をストップさせて、長い輸送期間を「仮眠状態」にしてあげるんですよね。
こうすることでお客様のもとに届く際に再度呼吸を始めてフレッシュなまま提供することができます。
酸素の濃度を変えるって、すごい難しい技術なのかなって思うんですけど…
もともと展開している在宅医療用の酸素濃縮機の技術を応用しています。
患者さんがより多く酸素を取り込めるように酸素濃度を高めるのですが、食品コンテナでは酸素を取り除くという逆の視点で技術を応用しているんです。
技術をさまざまな場面に応用しているんですね。
ただ、食品ロスも含めてSDGsが注目されていますが、主力のエアコンは環境に負荷がかかる印象があります…
環境負荷が大きいというのはおっしゃるとおりで、空調業界全体の課題でもあります。
でも、このままエアコンなしで生活できますかっていうと多分そうじゃないと思うんです。
…はい、生活できないかもしれません。
空調機の需要は2050年までに世界全体で3倍になるともいわれてるんです。
世界で3倍ですか。
需要が伸びる中で環境課題に向き合っていく必要があります。
具体的な目標はあるんですか。
温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を目標として掲げています。
そのために、例えばインバーター技術の普及が挙げられます。
インバーターはエアコンのモーターの回転数が急上昇・急降下しないようコントロールするものです。
当社の環境技術を搭載すると、搭載していないものと比べると約60%省エネが実現できます。
日本では普及していますが、中東やアフリカの普及率は9%くらい。
これをグローバルスタンダードにしたいと取り組んでいます。
3つめがパーソナルカラー診断ですね。
皆さんの身近にあるキーワードで、よく見かけるものということで選ばせていただきました。
すごくよく見ます。イエベ・ブルベ診断とか!
パーソナルカラー診断
「イエローベース」、「ブルーベース」などをはじめ一人一人の肌や、髪色などの特徴にあわせて似合う色のメークや洋服などをすすめる。
それだけよく見るということは、ビジネスの世界でも変化があるんだろうと思います。
でも、いったい空調メーカーとどう関わりがあるんですか?
これまでは「大量消費時代」でしたが、今は業界問わず個人に合わせた「多様性の時代」とよく言われますよね。
空調事業もその流れに沿って販売の方法やマーケティングが変わってきています。
ただ、当社は業務用の空調を多く扱っていたので、実は空調機を使うお客さまとこれまであまり接点がなかったんですよ。
はい。
でも多様性の時代にどうやって商品を届けるか。
お客様の個別の声をとらえていくために新しい販売ルートや戦略が必要だろうと考えました。
そこで、「こういう商品がほしい」などお客様の声を吸い上げて商品開発に生かすプラットフォームも立ち上げたんです。
実際にお客さんからの声で変化はありましたか?
エアコンって「大きくて白い箱」みたいなイメージがあるかと思いますが。
パネルの質感やカラーを500種類から選んでいただけるような商品も手がけるようになりました。
500!
お客様の「どんな空間にしたいか」っていうニーズに沿った商品を提案できるようになっているかと思います。
個人のニーズに寄せるようになったきっかけってありますか。
やっぱり時代背景が大きいんじゃないかなと思うんです。
けっこう昔ですけど、高度経済成長の時代だと、物を持つこと自体が生活を良くしてきたと思うんですよね。
はい。
例えば洗濯機を持つことで、私たちが自由に使える時間が増えて、豊かさにつながっていたと思うんです。
けど、それが達成された時代に「豊かさって何だろう」っていう、次のステージに行ってるんじゃないかなと。
なるほど。
これまではこちら側から何を提供したいのかっていう、「プロダクトアウト」の考え方でビジネスをしていたかと思います。
今はマーケットからニーズを吸い上げる「マーケットイン」の考え方に寄っていっています。
最後に、皆さんはどんな人と働きたいか教えてください。
「あなたはどうしたい?」と本当によく問われる企業です。
「自分はこんなことがしたい」と発信できるような方と一緒に働けると楽しいなと。
ご自身でも「これだけは負けない」っていうこだわりや、意思を表明しながら行動できるところは大切な要素になると思います。
自分が何をしたいかっていうところが重要なんですね。
本日はありがとうございました!
編集:秋元宏美 撮影:本間遙
あわせてごらんください
就活ニュース
就職先の規模の前に やりたいことを明確に 20代の選択(2)
2022年01月07日
人事が選ぶマストニュース
AGC 人事 採用担当者に聞く 素材の会社が挑む「両利きの経営」って何?
2021年12月10日
先輩のニュース活用術
教えて先輩! コピーライター阿部広太郎さん【後編】 君の“好き”に進もう! 自分に合う仕事の見つけ方
2021年12月24日