AGC 人事 採用担当者に聞く

素材の会社が挑む「両利きの経営」って何?

2021年12月10日
(聞き手:小野口愛梨 梶原龍 白賀エチエンヌ)

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「素材の会社」として知られるAGCが、いま「両利きの経営」というキーワードで注目されています。そもそも素材業界って何をしているの?「両利きの経営」って?就活生が人事担当者に気になるニュースを聞きました。

「素材の会社」ってどういうこと?

学生
小野口

社名をよく拝見するのですが、具体的にどんなことをしているか実は知らなくて・・・

ひと言で言えば「素材の会社」です。

AGC
早川さん

例えば自動車や建物、パソコンとかスマートフォンのディスプレーに使われるガラスですね。

AGCの採用担当、写真左から井手正迪さん、早川芳さん、高橋健さん

学生
白賀

ガラスってどれくらい使われているんですか。

自動車のガラスは世界でトップクラスのシェアです。

あと、なかなか目に見えにくいんですけど、化学製品の事業もあります。

フッ素素材を使ったフィルム製品だったり、スカイツリーにも使われている紫外線などによる劣化に強い塗料などもありますよ。

藤沢市庁舎に施工した太陽光発電ガラス(画像提供:AGC)

学生
梶原

すごく幅広い製品がありますね。

ガラスの製造技術から始まっているものがほとんどなんです。

AGC
井手さん

まず、ガラスをつくるために1600度の熱に耐えられる窯を作らなければいけなかったんです。

そのためのレンガを自分たちで作り始めたのがセラミックス技術につながっていたり。

ガラスの融点を下げるための化合物を自分たちで作り始めたのが、今の化学製品の元になっていたりします。

ガラスからいろいろなものに派生していったんですね。

両利きの経営

気になるニュースで「両利きの経営」、なぜこれを挙げたんですか。

最近、本屋さんにそういう本が並んでいると思います。

何を指しているかと言うと、既存の事業を深掘っていく一方で、新規の事業を新たに探索して拡大していく。

これを両方進めていくということで、AGCもそれを進めています。

「両利きの経営」

スタンフォード大学のチャールズ・A・オライリー教授が著書で示した考え方。ただの多角化ではなく、本業の中から新規事業にいかせる技術を見極めることが重要としている。

なぜ「両利きの経営」を意識するようになったんですか。

それを説明するには、少し歴史をさかのぼる必要があります。

2010年がテレビのディスプレーに使うガラスが非常に伸びていたタイミングで、それが牽引して過去最高の営業利益でした。

ただ、そこからディスプレー用ガラスの業績がぐっと落ちてしまったんです。

どんな原因や理由があったんですか。

皆さんブラウン管テレビって知ってます?

AGC
高橋さん

ことばだけ・・・

かつて海外でも多く販売された日本製のブラウン管テレビ

主流だった真空のガラス管を使うブラウン管テレビから薄型の液晶テレビへの買い換えが進み、それにあわせて液晶ディスプレー用のガラスの需要が急増した。

液晶テレビに置き換わっていったんですけど、それが一巡したんです。

さらに他社の参入もあって、予想よりも価格の下落スピードが早まっていったんです。

ディスプレー用ガラスが収益の大半を占めていたので、引きずられて全体の収益がどんどん下がっていくという構造だったんです。

ディスプレー用ガラス(画像提供:AGC)

実際、どれくらい利益が落ちたんですか。

2010年の営業利益が2292億円でしたが、2014年には621億円まで下がっているので、3分の1くらいですね。

液晶ディスプレー用ガラスの採算悪化で、2010年から2014年にかけて営業利益が大きく減少

なので、他の事業もちゃんと育てていかないと、どうやってこれから食べていくんだと。

バランスをよくするために取り組んだら、結果的に両利きの経営につながったということです。

そうなんですね。

ただ、危機感はずっとありました。

ディスプレー用ガラスは2006年くらいからはずっと伸びていたんですけど、その頃から「いつまでもこの状態は続かないよな」という思いはありました。

伸びていく時に危機感を抱くってなかなかできないですよね。

もし自分が上り調子だったとしたら、その時にリスクは考えられないと思います。

技術ってコモディティー化してしまうんです。

付加価値の高いものを早く出して利益率が高い間にぐっと稼ぐんですけど、どんどん追いつかれていくので、どうしても価格は下がります。

なので、稼いでいるうちに次のものをちゃんと見据えて、稼げるようにするのが大切なんです。

なるほど!

それで、2016年に新たな収益の柱を育てるために、「エレクトロニクス」、「ライフサイエンス」、「モビリティ」という3つの分野に積極投資すると打ち出しました。

なぜ、その分野なんですか。

世の中がどうなっていくのか10年とか20年単位で調べたんです。

その結果、「将来的にはこういうものが必要になってくる」っていうのが見えてきたからなんです。

実際、どうやって調べたんですか。

社内で若手から中堅くらいまで、そういうことができそうな人を集めて。

その人たちがけっこうな時間をかけて学会に行ったり、コンサルティング会社のリポートを調べたりして、世の中のトレンドを話し合いました。

ひとつだけに頼ったビジネスだとやっていけないっていうのは、素材業界のトレンドなんですか。

素材業界はいいものを出せば売れるわけじゃなくて、世の中がどうなっているのか、産業がどうなっていくのかをしっかり考えないといけない

例えば長寿命化とか、自動運転といったものに私たちはどう貢献できるのかと考えるんです。

そうなんですね、ちなみに「両利きの経営」って何かリスクはあるんですか。

「両利きの経営」をやること自体がけっこう難しくて

既存事業をやっている人たちからすると「自分たちが頑張ってお金を生み出している」と。

一方で新規事業をやる人たちは次のもうけの柱を作ろうと投資するんですけど、失敗することも多いですよね。

たしかに。

すると、失敗に対して既存事業で頑張っていた人たちに「稼いだお金を無駄にして」みたいな感情が生まれます。

一方、新規事業をやっている人たちは「足を引っ張られている」となる。

組織的にうまくいかないことが生じるんですね。

あー、そうですね。

言い出すのは簡単なんですけど、それを運営するのは難しい。

うまく進めていくにはどういうことが必要なんですか。

いろいろな社員の声を聞くとか、若手の声をむげにしないというのは非常に重視しているポイントですね。

定期的に若手がトップとしっかりコミュニケーションをとるような機会があったり、若手が有志活動で盛り上げていこうという動きが生まれていたりします。

新型コロナワクチン

続いて新型コロナワクチン、これを選んだのは何でですか?

ワクチンって注目されていますよね。

でも、そこに日本の素材業界が貢献しているっておそらく学生の皆さんは知らないと思うので選びました。

えっ、そうなんですか。

どういうきっかけなんですか。

まさに「両利きの経営」なんです。

「ライフサイエンス」の分野に投資する中で、海外の会社を買収して医薬品ビジネスも伸ばしていました。

そこから、今後バイオ医薬品っていうのが必要になってくるんじゃないかとトレンド感が出てきて、バイオの領域にも進出しました。

コロナワクチンはそのバイオ医薬品の分野で、タンパク質とか、DNAとか、細胞を医薬品に使う領域です。

医薬品部門の工場の様子(画像提供:AGC)

実際、ワクチンの製造にはどう関わっているんですか?

ワクチンのDNAの設計をするのが製薬会社さんで、その効果とかを確かめているのも製薬会社さんです。

私たちはまず、それを大量に作るためのプロセスを作ります。

さらに、こう検査して、こういう形でお客様にお渡しすれば安全で信頼されるものが作れますというのを確立して、製薬会社と合意したうえで作ってお渡しする。

医薬品ビジネスで培ってきた製造技術とか、製薬会社からの信頼があったからだと思います。

世界中の製薬会社から依頼が来て、それを作ってお出ししているんですよ。

ちなみに、そもそも経営にコロナの影響はあったんですか。

2020年度は新型コロナの影響としては、営業利益で500億円くらいのマイナスです。

例えばガラス事業、コロナで自動車の製造とか建築工事が行われないと、そこにガラスが入らないじゃないですか。

全体で大きく影響は受けたんですが、新型コロナワクチンの製造を含む「ライフサイエンス」の部門が支えてくれたと思います。

ワクチンをつくったのが効いた。

これがもしガラス事業一本だったら、コロナで大幅赤字になっていたところです。

クリーンエネルギー

最後にクリーンエネルギーを選んだ理由を教えてください。

色々な国で「カーボンネットゼロ」と宣言をされていて、実はそこに日本の産業が寄与していることを知っていただきたいんです。

例えばモノを作る工程や空調とか、日常生活でも二酸化炭素が出ますよね。

それを素材を使って解決できないかと、素材メーカーとして取り組んでいる一大テーマなんです。

どの生産プロセスで環境への負荷が出てしまっているんですか?

ガラスを溶かすので、その過程でCO2は出ます。

ガラスを製造する窯(画像提供:AGC)

今、技術的に色々なことを検討している最中で、燃焼効率を上げるために水素を使うとか電気で加熱して溶かすという方法もあったりします。

ただ、AGCだけで解決できる問題ではなくて、そもそも発電の時CO2を出さないようにしないといけないとか、実は水素を作る時にCO2が出ているとかまだまだ問題があります。

なるほど、ガラス素材そのもので解決するというのはどういうことですか。

例えば「真空断熱ガラス」というものを開発しています。

真空断熱ガラス、建物外の熱を中に伝えにくい(画像提供:AGC)

ガラスって建物の中で熱の出入りが一番激しいんです。

コンクリートの壁は熱を伝えにくい素材なのでそんなに熱の出入りってないんですが、窓ガラスって冬に触ったら冷たいですし、夏は暑いですよね。

なので、そこの断熱性を上げると、部屋の中の冷暖房効率ってめちゃくちゃ上がるんです。

 

そうなんですね。

温度を一定に保てれば冷暖房をよけいに使わなくていいので、CO2削減につながるということです。

素材のいいところって、使ってもらうだけで大きな効果が出るところなんですよ。

例えばビルの窓ガラスが断熱性が高いものに代わるとか、エアコンの冷媒が代わっていると、知らない間に環境にいいことができるんです。

素材そのもので社会に価値を提供するというのが根本にある考え方なので、今の社会課題を解決できるようになりたいですね。

本日はありがとうございました。

編集:加藤陽平 撮影:石川将也