2019年08月01日
(聞き手:工藤菜摘 伊藤七海)
個人の資産運用から企業の資金調達まで、投資に関するさまざまな業務を手がける「大和証券」。大学では、「農学部」だったという人事部の枝正也さんが選んだマストなニュースは、一見、証券業界とは直接関係がなさそうなもの。なぜ?その意味をくわしく聞いてきました。
ニュースの話に入る前に、私からすると証券ってちょっと別世界のイメージで・・・。どういう仕事をされているのか教えてもらえますか?
はい。簡単に説明しますね。まず「金融」は、「お金を融通する」という言葉が縮まって金融なんです。
資金を運用したい投資家と、資金を必要としている企業などをつなげて、お金の流れを作ってあげる。それが金融の役割です。
その中で証券会社はどういう仕事ですか?
金融には「直接金融」と「間接金融」の2つがあるんです。
身近なのは銀行だと思いますが、銀行は、個人から預かったお金を、企業に融資しますよね。間に入ってお金の行き先を決めることから、「間接金融」と言うんです。
これに対して証券会社は「直接金融」です。投資家が「この会社の株を買いたい」と思った時に、お金を直接その会社に運ぶのを手伝う役割です。
銀行との違いを教えてください?
銀行からお金を借りる場合は、担保がないとまとまったお金が借りられませんよね。融資先が倒産した場合は銀行が責任を負うことになるので。
直接金融では、投資家がいいと思えばお金を集めることができます。企業のチャレンジを応援して、社会のイノベーションにつなげるというのが、証券会社の特長だと思います。
投資って学生でもできるものですか?
投資している学生の方は、たくさんいらっしゃいますよ。私が入社した20年前は1つの株式を買える単位も違って、学生には手が出ない単位のお金だったので、大学生の時に投資するってことを考えたことはありませんでした。
今は10万円なくても普通に投資できますので、投資をはじめやすくなっています。
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された2030年までの国際目標のこと。「誰ひとり取り残さない、持続可能で多様性と包摂性のある社会」の実現のために、貧困問題やエネルギー問題の解決など、世界が目指すべき17のゴールが設定されている。(詳しくは「1からわかる!SDGs」をお読みください)
ありがとうございます。では、ニュースの話に移らせてください。1番目はSDGsですね?
世界では、貧困や飢餓など、さまざまな問題があります。そういう世界的な課題に、皆さんも就職すると向きあうかもしれないですよね。だから、考え方を知ってもらいたいと思って選びました。
大和証券では、SDGs推進委員会を設置して、会社の中期経営計画にも取り入れています。
経営計画にですか。
我々は金融機関なので、様々な課題を金融の力で解決できないかと、SDGsの前からずっと考えてきました。
企業理念にも「社会への貢献」がありまして、経済的な利益を追求するだけではなく、社会的な解決を図るサービスや取り組みをと思っています。
具体的にはどんなことをしているのですか?
例えば、私たちが2008年に国内で初めて販売した「ワクチン債」という商品があります。投資を通じて、予防接種を受けられない途上国の子ども達を支援するものです。
ワクチン接種は、世界各国からの寄付でまかなっていますが、効果を出すには1度にたくさん打つ必要があります。だから多額のお金を集める必要があったんですね。
そこで生まれたのが「ワクチン債」です。(※ワクチン接種を実施する団体の債券を買うと、団体はその資金でワクチンを購入できる)
証券会社の業務は直接金融なので、自分が出したお金がどこに向かっているか明確にわかりますよね。
なるほど。
お金を増やしたいというよりも、子どもを救いたいと思っている方にとって、投資が直接、社会貢献にもつながることになります。
この仕組みが好評で、投資に無関心だった方々の心をつかむことができて、初回の発行時には1万人を超えた投資家が集まりました。
投資って自分のためにやると思うんですけど、人のために投資する人が増えているんですね。
企業として経済価値も生んでいますし、社会的な課題も解決できる、こういった取り組みをどんどん行いたいと思っています。
次は「デジタルトランスフォーメーション」。聞き慣れない言葉ですが…
AIとかIoTといったITの進展で、ビジネス環境は激しく変化しています。
商品やサービスを変革していくとともに、業務そのものや組織、企業風土などを変革していく。これがデジタルトランスフォーメーションです。
このニュースを学生はどう捉えたらいいですか?
我々はどうしても従来の考え方が根付いている部分があります。学生だからこその新たな発想もあると思うんですよね。
今は消費者としても利便性を考えて、それを踏まえて社会で活かしてもらえたらと思います。
AI化というと、従業員の削減につながるという話も聞きますがどうなんでしょう?
たしかに業務の効率化で、人手がかからなくなる部分はあると思います。
ただ、それがすぐに従業員の削減につながるかというのはちょっと違って、そこで余った時間をより付加価値の高いものを作り出していくことに人の手がかかると思っています。
効率化した部分を人間がやるべきところにあてるということですか?
そうですね。今まで事務処理にかかった時間を全部お客様に充てれば、それだけお客様のニーズをくみとることができますよね?
どれだけAI化が進んでも、人にしかできない仕事ってあると思いますか?
例えば、証券の分野ではお客様のニーズは様々です。家族構成も資産構成もそれぞれ違いますよね。
お客様ひとりひとりに最適な提案をするためには、その人のことをよく知らないといけません。それはさすがにロボットだけだと難しいと思います。
たしかにそうですね。
人と人のコミュニケーションで初めて知ることができる情報もありますよね。
ある程度までは、ビックデータで潜在的なニーズをつかんで効率的にはできると思いますが、最終的にやっぱり人がやる部分というのは絶対に必要です。
ITになじみのない学生でも知っておかなければいけないことはありますか?
自分自身でプログラムする人と、それを使って運用する人は別かなと思っているんですね。
例えば、将来マネージメントを行っていく上で、直接システムやプログラムをつくることはできなくても、ITでこういうことができるのではという発想や想像力の方が重要かなと思います。
そういうことが社会人になって役立つということですか?
そうですね。AIなどは手段に過ぎないと思います。まずは課題を解決する思考力を磨いてほしいと思います。
2018年9月時点で100歳以上の高齢者は全国で6万9785人と、48年連続で過去最多を更新。「平均寿命」も男女とも80歳を超え、特に女性は約87歳になっている。政府は、「人生100年」とも言われる時代に対応した医療福祉や雇用などの分野の政策強化を掲げている。
3つ目は「人生100年時代」。これはなぜ選ばれたのですか?
長寿の時代を迎え、ライフスタイルが多様化しています。自分にあったライフプランを考える重要性が非常に高まっていて、若いうちから計画的な資産形成が重要になっています。
にもかかわらず、日本の個人の家計貯蓄を見ると、有価証券の比率は約16%で、直接金融が他の国に比べて遅れているという思いがあります。
そうなんですね。
日本がさらに成長していくためには、成長力のある企業を応援していく直接金融の役割が非常に重要になってくると思います。そういうところを知ってもらいたいと思って選びました。
老後に2000万円必要っていう話も聞くので、限られたお金を効率良く増やさないといけないというのはわかるのですが。
もっと気軽に投資ができるような手段があれば良いなと思うんですけど・・・。
そうですね。大和証券ではスマートフォンをメインチャンネルにした新たな金融サービスを提供しようとしているんですよ。
稼働は来年以降になりますけど、投資にいま一歩踏み出せない若い方に楽しく学んで気軽に投資体験ができるようなサービスを提供します。投資に対する正しい知識を持っていただく機会を提供できればいいなと思っています。
私たち大学生も、自分の人生100年の中で資産について考える時代になっていると。
そうですね。企業で働く期間も雇用延長で長くなってきていますし、長生きする中で健康面リスクなど、不確実性が高まっていると思うんです。
ですので、早いうちにお金も含めて人生設計を立てていたほうがいいんじゃないかと思います。
最後に、どのような学生に来てほしいですか?
大和証券グループは創業117周年。創業当時から脈々と受け継がれているパイオニア精神があります。常に新しいものを見いだして、より高いレベルでチャレンジしていく、そういう人に来ていただきたいと思います。
金融機関は、形のない商品を扱っているので、競争力の源泉は人材になるんです。
日本の有価証券の保有比率はまだ低く、証券ビジネスの拡大余地は大きい。チャレンジ精神があって成長したい人にぜひ来ていただきたいです。