2019年07月22日
(聞き手:佐々木快)
江戸時代から続く国内製薬最大手の武田薬品工業。ことし1月にはおよそ6兆2000億円をかけて海外の製薬大手を買収するなど、外国人が普通に社内を歩くグローバル企業となりました。世界を相手にビジネスを展開する中、人事担当者が知って欲しいと選んだマストなニュース3本とは。
まず1つめのニュースは「新元号『令和』に決定」。なぜこのニュースを選んだのですか。
はい!このトピック私が選んだんですけども、武田って創業から何年かはご存知ないですよね?
調べてきました。238年ですよね!
すごいですね?合っていますよ。1781年ですから!
この、長い歴史を歩んできた、本当に古い会社ですけどその中でも平成の時代は、すごい歴史に残る時代だったと思ってるところです。
社会的にもいろんな変化ありましたよね、リーマンショックとかテロとか。企業的には、ほかの会社を買って自分たちの会社の規模を広げていくっていうすごく活発な時代になったかなと思っています。
令和の時代は、どのように変わっていくんでしょうか。
特に“働き方改革”は「令和」の時代から本格的に進む取り組みとして人事で注目しています。また、私たちの格好を見ると分かると思いますが、結構ラフなスタイルで働けるようになってきています。
テレワークも推奨され、カフェなどでも仕事ができるなど、新しい働き方が本格化し始めているんです。私も週に1、2回は自宅やカフェで仕事をしています。
テレワーク:「離れたところで働く」という意味の造語で、情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方。「在宅勤務」や、「サテライトオフィス勤務」などがある。
会社に入ってきて外国人の社員とすれ違いませんでしたか。
はい。びっくりしました。
私も、3年前に就職活動をした時に同じ気持ちでした。「あれ外国人がいる!」っていう。
私自身、武田は、堅い日本人の会社っていうイメージがあったんですけどね。でも、実際は、グローバル化してる会社で、外国人の従業員も多くて、社内公用語もだんだんと英語になりつつあります。
2014年からは社長がフランス人に代わり、役員も8割が外国人です。仕事のスピード感や文化もすごく変わってきています。
実際に変化を体感することはありますか?
例えば、以前は私が何か提案したらまず上司に評価してもらい、その上司がさらに上の幹部に話を持っていくというヒエラルキーがありました。資料も英語と日本語の両方を作らなくてはいけませんでした。
でも、今は違いますね。意思決定の際には「皆で話し合って決めよう」とするスピード感や、「皆が英語で分かるなら英語だけでいい」という生産性が高い方法にシフトしたと感じています。
グローバル化の観点で言うと、海外とのミーティングも増えているので早朝や深夜にも入ってきます。なので、自分たちが効率的に働ける時間帯に働く“フレキシブルワーク”をしているケースも多く見られます。
国際化が進むなかで、いろんな国籍の社員が入ってきて、さまざまな文化も入ってきました。どのようにして会社を働きやすくして、社員が安心できる環境を作っていくのかが、私たち人事にとってすごく大事になってきています。
どう制度を整えれば社員のモチベーションが上がるのか、安心感を与えることができるのか、令和の時代にさらに大事になってくると思っています。
2つめは「多様性」に関するニュース。こちらはなぜ選ばれたのでしょうか?
例えば、外国人と仕事をしないといけなかったり、今まで男性ばかりの社会で生きてきた人だと女性との接し方が分からなかったりする場合があります。
ほかにもLGBTや、いろいろな考えを持っている人たちがいるので、そうした人たちと円滑に仕事をしていくためには、知識だけではなく、多様性について理解することが大事になってくるからです。
LGBT:L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー。日本語で言うと、順番に、女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、出生時に割り当てられた性別とは異なる性を自認する人。
これからボーダレス社会が進むと思います。学生の皆さんが会社に入社するとき、もしくは入社してから10年以内には、そもそも共通言語が日本語かも分かりません。さらに世界中どこにいても一緒に仕事ができる環境が整っている可能性がすごく高いと思います。
その中では、多様性を受け入れて価値を生み出していく仕事が残っていくと思います。学生のうちから多様性に触れて認識し、歩み寄りを行っていくことが大切です。
学生のうちから触れていくことが大事なんですね。
私たちの仕事は“答えのないミッションの追求”だと思います。そこでどうやって価値を生み出していけるのかとなれば、多様性の中から生まれます。
異なる人たちの異なる意見があり、バックグラウンドが違うからこそ、新たな価値が生まれるのです。
多様な意見や才能を、どのように生かしているのですか。
例えば福利厚生や報酬の制度は国によって全然違うので、いろいろな国の人たちと議論していると「こういうやり方もあるのか」と気づくことがあります。
日本では今でこそ女性活躍と言われていますが、海外ではもっと取り組みが進んでいる国もあります。そうした国でどのように育児をしながら女性が働いているのかを参考にすることもあります。
いろいろな考えを持っている人をもっと受け入れて学生生活を送ることも大事ですね。
全然違う人の考えまで理解するのは難しいことですが、そういう人たちがいることを理解するだけでも大きな違いになると思います。
皆が一緒の考えだろうと思い込んでいると、見えないところがいっぱい出てきてしまいますから。
そうですよね。
先ほど話したLGBTだったり、外国人雇用をもっと受け入れていこうという話だったり、これからもっと長く働くことになると、さまざまな年齢の人とも一緒に働くことになりますよね。
最後は「健康投資」のニュース。こちらはなぜ選ばれたのでしょうか?
最近、この健康投資が注目されています。ちょうど私たちが生まれた当時、まだ会社でもデスクでタバコが吸えたり、長時間労働したりすることがよしとされる固定観念がありました。
今は「人生100年時代」と言われていますが、個人がどのような人生を築いていきたいか、企業としても尊重するよう目線を動かしています。そうした波がいま来ているので、学生の人たちに知ってほしいと思いました。
健康経営と健康投資:「健康経営」は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。「健康投資」は健康経営の一環で、従業員が健康でいられるよう投資することが従業員の活力向上や生産性の向上など、組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されている。
健康投資では、どのような取り組みを進めているのですか。
歩く習慣を身につけてもらおうと、歩数を計測して目標値を上回れば景品をもらえるウォーキングキャンペーンとか、ジムの入会金を控除するキャンペーンを健康保険組合が実施しています。
これまでは個人が勝手に自分を高めるためにジムに入るという嗜好性が高いものでしたが、今は会社がジムに通ってもらうようサポートしています。健康的になることで、より生産性の高い仕事ができてヘルシーな会社を作ることができるからです。
社員が健康になれば会社にもメリットが大きいのですか。
ずっと仕事をしていることが良いわけではなく、いかに生産性を高くして、効率よく仕事をするかということがこれから重視されます。
会社が健康投資を進めていくと、どのようにすれば人々の質の高い人生をサポートできるかという価値観も高まっていきます。もしかしたら「治療」ではなくて「予防」にさらにシフトしていく社会になるかもしれません。
製薬会社として私たちが抱えるミッションである「人々の健康に貢献すること」に対して、どのような価値を創造できるのか考えさせられるニュースでもあるのです。
今回、私たちは「Be Unique, Change the world」をコンセプトに掲げて3つのニュースを選びました。これからの時代は、異なる価値観を持った個人が集まって新しい価値を作り出す。それが会社の価値にも繋がっていくという考え方です。
会社は1つの結果を出すためには、いろんな人の協力がないと生み出せません。個々を大切にしながら皆でコラボレーションし、結果に結び付けることがすごく重要な要素になるのです。
3つのニュースはすべて関連していたのですね。
それと、就職活動をするにあたってビジネスニュースを見る時、どのような視点を持つといいですか?アドバイスをお願いします。
ニュースと自分は何かしら繋がっているという認識を持って、もう1段階深堀りしてほしいですね。「自分に対してはどういうことだろう」とか、「社会に与えている影響はなんだろう」と。
例えば「なぜ健康投資がいま注目を浴びているのだろう」と考えたとき、これは人口問題や人々の価値観の多様性にも繋がっていることが見えてきます。
さらに、もう1歩踏み込んで、自分がどのように関わっているのか、自分はどのようなアクションを起こせるのか考えてもらえれば、身近に感じないビジネスニュースであっても意外と近いことを感じると思います。
なるほど。意識してみます!ありがとうございました。