2019年03月22日
(聞き手:工藤菜摘・小杉山聡)
メガバンク3行のうちのひとつ、三井住友銀行。お話いただくのは、人事部採用グループ長の藤原真塩さんです。
平成10年に入行、長く法人営業を担当されてきた藤原さんが選ぶ今マストなニュース3本は…。
ブレグジットは「Britain」+「Exit」、イギリスのEU離脱を表す造語。離脱をめぐって迷走を続けるイギリス。EUと合意した離脱協定案が議会で2度にわたって否決され離脱の延期を決めるが、交渉の先行きは不透明な状態が続く。イギリスに生産拠点を置く自動車メーカーなどの間で生産計画を見直す動きが広がっていて、離脱が泥沼化すれば、企業のイギリス離れはさらに広がるとみられている。
学生
小杉山
なぜブレグジットに注目しているのか教えてください。
学生
工藤
私も疑問で、この問題が銀行にダイレクトにかかわるのでしょうか?
銀行のビジネスは、個人向けと法人向け大きく分けると2つあって、このうち法人向けのビジネスは、お客様である企業の経営戦略をサポートする仕事なんです。
お客様に提案をして新しいビジネスを一緒に仕掛けていくんですね。
なのでブレグジットという事象に対しても、その動向を見極めて今後の戦略を提案していくことが求められるんです。
藤原さん
イギリスに工場がある日本の自動車メーカーが生産体制を見直したりする動きは、すでに出ていますよね。
また、ヨーロッパの本部組織をロンドンに置いている会社は非常に多いのですが、今後はロンドンからヨーロッパ全体をコントロールするというビジネスのやり方自体が変わっていくかもしれない。
そういう企業の経営戦略を一緒に考えていくのが銀行の仕事なんです。
企業の経営戦略のたて方というのは、具体的にどのようにやっていくものなのですか?
たとえばメーカーであれば、まずは自社の商品の強みなどが大事ですけど、それに加えてどの国でビジネスをやるかも大事なんです。
どの国で製品を作るのかといった戦略をたてるときに大事なのは貿易などのルールで、その国や地域の消費の動向とかいろんな情報を集めて戦略を練っていく。ブレグジットの話だと、地政学リスクと言うんですが、そういった政治的な問題についても、どう読み取って判断していくか、ここが経営戦略をたてる上でとても重要になるんです。
地政学リスク(地政学的リスク)…ある特定の地域が抱える政治的、軍事的な緊張の高まりが、地理的な位置関係によって、特定の地域の経済、あるいは世界経済全体の先行きを不透明にすること。
大事なのはリスクを予測することなんですね?
そうですね。将来を予測してビジネスを組み立てていくんですけど、ブレグジットのように先行きが分からない問題、不透明感が漂っているという状態が一番難しいんです。
見通しがたたなくて戦略をたてられない、ということはないのですか?
見通しがたてづらい、というのはリスクでもあるけどチャンスでもあるんですよ。
先行きが見通せない中で、将来を見据えて、新たな戦略とか新たな投資を先んじてやった会社が次にのびていったりするので。
不透明な局面だからこそ次の一手がすごく大事になる。
リスクをチャンスに変えて行くお手伝いをわれわれがしていければと思っています。
よく分かりました。
ブレグジットをリスクだけでなくチャンスとしてもとらえていらっしゃるのは驚きでした。
IT技術を使った新たな金融サービス。金融を意味するファイナンス(Finance)と技術を意味するテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。身近な例ではスマートフォンなどを使った送金、モバイル決済、ネットバンキング、仮想通貨なども含まれる。
なぜフィンテックを重視しているのでしょうか。
フィンテックだけにフォーカスするというよりも、まずはプラットフォーマーって分かりますか?
ちょっと分からないです。
GAFAは分かりますか?
GAFAは分かります。
私も分かります。
GAFA…Google、Apple、Facebook、Amazonの4社のこと。世界中の多くのユーザーが4社が提供するサービスをプラットフォームとして利用し、氏名や住所、「何を購入したか」、「何に興味を持っているか」などの個人情報を提供している。GAFAのサービスはユーザーの生活を便利で豊かにしてきた反面、個人情報の独占が世界各国で懸念材料にもなっている。
GAFAなどが「プラットフォーマー」なんだけど、このプラットフォーマーの台頭とフィンテックを絡めてお話したいと思います。
ポイントは情報なんですよね。
情報ですか。
お二人とも20代ですよね。
スマートフォンで何でも情報をとれるのが当たり前の世代ですよね。
アマゾンとか使っていますか?
使っています!
アマゾンで欲しいものを検索すると、それに関連する商品のリコメンドが勝手にどんどん来ますよね。
便利だけど何か気持ち悪いな、と思ったことはないですか?
僕は監視されているような気分になりますね。
GAFAなどインターネット上で基盤を提供するプラットフォーマーには、基盤を通して利用者の個人情報など膨大なデータを取得し、その情報をもとにサービスや広告を配信できるという強みがある。
キーはやっぱり情報で、購買情報や個人情報がビジネスを進めるうえでとても重要になってきているということなんです。
情報をビジネスに生かすというのは、たとえば20代の男性ならこの商品が売れているとか、そういう情報を収集するとビジネスに有利になるということですか?
そうですね。
でもそういう時代になると逆に自分の情報をどう守っていくかということも大事になってくる。
個人情報をどうやって管理していくか、これからもっと問われる時代がやってきます。
フィンテックも同じ流れで見ていってほしいんです。
PayPayとかLINE Payとか使っていますか?
僕は使っていないです。
PayPayは使っています。
彼らの狙いは何かというと、やっぱり同じように購買データ、消費行動といった個人情報を集めて、それを次のビジネスに生かしていきたいということなんです。
それで金融ビジネスでも、いろんなものが乱立してきている。
そうした話は銀行にはどのように関係してくるのですか?
たとえば情報銀行というのがニュースで少し話題になっています。
情報銀行ですか。
銀行にお金を預けるのは信用しているからですよね。
情報も、これからは信用しているところに預けようという時代になっていくのではないか、ということです。
銀行の役割の中に、お金だけじゃなくて情報も管理するとか、情報を個人個人がどう生かしていくかサポートする、ということも入ってくると思っていて、そういうビジネスを今やろうとしているんです。
情報を財産のひとつとしてとらえているということですよね?
そうですね。SMBCグループもクレジットカード業務などをやっていてたくさんの情報を持っていますので、ビジネスで活用するとともに、個人個人の情報を守っていくということと両面でやっていく。
新しい領域ってたぶんたくさんあるので、今いろいろ検討しているところです。
これから学生さんが社会に出ていくときにも、情報をどう集めて、どうコントロールして、どう生かしていくかはビジネスの大きなポイントになってくるので、そこは注目したほうがいいと思います。
小惑星「リュウグウ」の岩石を採取して生命の起源の謎に迫ろうと、4年あまり前に打ち上げられた探査機「はやぶさ2」。2月に地球から3億4000万キロ離れた「リュウグウ」への着陸に成功。計画通り岩石を採取できたとみられていて、次は小惑星内部の岩石を採取する世界初の試みに挑戦する。
なぜ「はやぶさ2」に注目されているのですか?
私の中の銀行のイメージは固いというか、どちらかというとハードなニュースを選ばれるかなと思っていたので。
まず単純にすごくうれしいニュースだなということで選んだんです。
「はやぶさ2」って、もともと最初の「はやぶさ」の失敗があって、そこから長い間多くの日本企業の知恵と技術と努力が結集して今に至っているんですよね。
私も以前、営業をやっていたときに電機メーカーさんとかを担当していて、日本のメーカーの技術を世界にアピールするチャンスがあるといいなと思いながら仕事をしていたんですが、今回まさに世界中に大きな新しい一歩として認められた。
それがすごくうれしかったんです。
日本の快挙ですもんね。
そうそう。あと宇宙開発って今、世界で結構大きなテーマになってきていて、その中で、小惑星探査の領域においては、日本が一歩リードしている。日本のプレゼンスという意味でもとてもうれしいニュースだなと思って選びました。
宇宙開発にもビジネスチャンスを見出しているのですか?
宇宙開発の意味ってどこにあるのか、まだよく分からないんですが。
ビジネスチャンスはありますよ。
まず資源開発というのが入り口としては大きな目的になっているのではないかなと思います。
たとえば月って資源がたくさんありそうだとわかっていても、今はまだ月に行くだけでも大変ですよね。
でも10年後20年後50年後には普通に行けるようになって、普通に資源開発をしていく時代も来ると思うんです。
地球でも、レアメタルやシェールオイルは、以前はコストが高すぎて取れなかったけど、今は取れるようになってきているでしょ。
確かに。
今まで当たり前ではなかったものが当たり前になる時代というのはいずれ来るので、それを見越して動いているんです。
あとは夢を持って仕事することの大切さみたいな、それがこのニュースで感じたこととしては一番大きいですね。
夢を持つ大切さですか。
この「はやぶさ」もたくさんの失敗があって、「もうだめだ」と諦めかけたことは何度もあったと思うんだけど、努力を積み重ねて諦めずにやってきたことが今回の成果につながっているんですよね。
夢を持つことと、諦めないで努力を続けることの大切さですね。
社会に出るとつらいこともたくさんあるけど、諦めずに頑張る気持ちは持っていて欲しいなと思います。
「夢を持って仕事をする」。
そう話してくださった藤原さん。フィンテックやAIなど新しい技術が次々生まれ、仕事のあり方も大きく変わっていくこれからの時代に求める人材についても聞きました。
AI技術がどんどん進歩すると銀行員の仕事がなくなるというのを読んだことがあるのですが、将来の銀行員のあり方ってどう考えていらっしゃいますか?
銀行の仕事って、書類が沢山あってハンコをいっぱいついてとか、そういう昔ながらのイメージを皆さん持っているかもしれませんね。
もちろんまだ、そういう定型的な仕事も一部では存在していますが、そういった仕事はどんどん機械化しています。
じゃあ人は何をするんですかという話なんですけど。
人にしかできない仕事ということですよね。
そうです。たとえばお客様に経営戦略のアドバイスをしていくときに、機械が予測できる答えというのはたぶん誰でも思いつくんですよね。
それでは競合に勝てない。
新しい商品やサービスを考える、未来を予測する、それに対して打ち手を考えて提案していく。こういった仕事は人にしかできないので、そういう創造的な仕事に時間や経営資源を集中していくことになります。
なので仕事はなくなりません。
人は、より創造力が求められる仕事や、付加価値を生み出す仕事に従事していくことになるんです。
これからの時代、銀行を目指す学生たちにこれはやっておけということはありますか?
その質問よくされるんですけど、毎日、新聞を読んでニュースを見てくださいとお答えしています。
世の中では毎日新しいことが起こっていて、それを後から勉強しようとしても、絶対追いつかない。
世の中で起きていることをその都度、自分の引き出しに蓄えていくということがとても大事なんです。
自分の中にそういう蓄えがあると、いろんなものがつながっていって、お客様のところへ行ったときに、過去こんなことがあってこうだったから将来こうなるという話ができるようになる。
引き出しをいっぱいつくっておけば、就職してからも有利なんですね。
そうです。歴史から学べって言うじゃないですか。
これまで起こったことの中に、将来を予測するためのヒントがあったりするんです。
歴史を学ぶのも大事ですが、これからの時代、たぶん歴史の中にないことも起こりますよね。
銀行のビジネスも変わっていく。
そういう中でどういう人材に来てほしいですか?
学生さんに求めるものは、ひとことで言うと好奇心ですね。
銀行の仕事というのは、ありとあらゆる業種のお客様がいるので、好奇心があって、いろんなことに興味を持てるというのは結構大事だったりするんです。
「半沢直樹」というドラマがあったじゃないですか。
僕の中の銀行員ってあのドラマのイメージなんです。
営業で成績を出せないと出向とかあったりするんですか?
その質問もよく聞かれます(笑)出向というのがドラマではすごくネガティブに扱われるけど、グループ会社に行ったり来たりは普通によくあることで、ネガティブなことでも何でもないということをまず知ってほしいです。
そうなんですね。
あと、失敗したらすぐ飛ばされるということもなくて、僕は今マネージャーですけど、失敗経験をいかに積むかということを下の人達にはやってほしい。
やっぱり人って失敗から学ぶことがたくさんあるので、失敗を恐れて何もやらない人のほうがよっぽどダメです。若い人はどんどん失敗してください。