2019年04月12日
(聞き手:小杉山聡 佐々木快)
訪日外国人が急増し、めまぐるしく変化する旅行業界の中で、創業100年を超える国内最大手の旅行会社、JTB。お話を伺ったのは「旅行会社は地方の活性化に役立つ職業だ」と胸を張る人事担当マネージャーの荒木喜之さんです。選んだニュース3本は・・・
2018年に観光などで日本を訪れた外国人旅行者は3000万人を超え、過去最高を記録。2013年に目標として掲げていた「年間1000万人」を達成して、わずか5年で3倍に増えたことになる。外国人旅行者の国内での消費金額も増えていて、地方への経済効果も大きくなっている。
まず1つ目の訪日外国人のニュースですが、旅行業界としては大きなニュースですよね。
今、政府は2020年に、訪日外国人4000万人、出国する日本人が2000万人を目標として掲げていて、我々の業界が担う役割はやっぱり大きいと思っています。
地方への経済波及効果も高いと言われていてJTBとしてもどんな事をしていくのかがすごく大事です。学生の皆さんにも知って頂きたいとこのニュースを選びました。
実際、訪日外国人の増加によってJTBの売上も伸びているのですか。
訪日外国人すべてを取り込めてるかといったら、まだそういった状況ではないと認識しています。
では、どういった取り組みで外国人観光客を取り込もうと考えているのですか?
海外の方といっても国や地域によってもニーズや動向が違うので、いろいろと分類してマーケティングしていくのですが、特に訪日外国人の旅行の特徴としては「FIT」なんですね。
「FIT」・・・どういう意味でしょうか?
個人で来る人のことです。もともと訪日外国人の方はグループで旅行に来る団体旅行よりも個人で旅行に来る人たちが多いということです。
FIT:Foreign Independent Tourの略。団体旅行やパッケージツアーを利用することなく個人で行く海外旅行のこと。
でも、個人旅行客が多いとなると、旅行会社を通さなくてもネットでホテルの予約をしたりできますよね。旅行会社の存在意義とはどういうところですか?
今はやっぱりオンラインで申し込まれるとか、消費者の購買行動がすごく変わってきています。(変化しているのは)日本だけではないので、いろんなニーズに応えられるような動きをJTBとして取り組んでいます。
オンラインで予約する旅行サービスの市場規模は年々拡大。国の調査によると、日本国内の市場規模は、2.4兆円(2013年)→3.4兆円(2017年)。4年でおよそ40%増加している。
例えばみなさんも旅行に行くときって、意外と現地に行ってからの観光については何も予約していないケースが多いと思うんです。
航空券とホテルしか予約してないことが多いです。
そうですよね。旅行とひと口に言っても「旅行の前」と「旅行中」と「旅行の後」の3つのシーンで考えるんです。例えば旅行中の日本に到着してから次に起こすアクションを狙います。
国際線が到着する空港にJTBは独自の観光案内所を持っています。そこで訪日外国人向けのパッケージツアーを展開していくとかですね。
旅行代金トータルで100万円使うとしたら、全部を担うのではなく、その一部分を狙っていくような取り組みですね。
あとは、JTBは創業から107年を迎える会社なので、今まで培ってきた中で旅館やホテルとの実績があって「仕入れ力」が強みなんですよね。
「仕入れ力」とは?
これまでの歴史で、販売実績があるので、実は、JTBだけでホテルや旅館にお部屋を確保しているんですね。
イベント期間中などは宿泊先を確保するのが難しいこともあるので、海外の旅行エージェントは我々の仕入れ力を強みだと思ってくれているようです。
2つ目のニュースは、東京オリンピック・パラリンピックですね。
とても楽しみにしています。ビジネス的には、大きなイベントが開催される場合、建設ラッシュでホテルが増えるとか各業界の動きも情報として気になります。
それにJTBとしてオリンピック観戦ツアーを提供して仕事が終わりっていうわけではないんです。
どういうことですか?
オリンピックはいろいろなきっかけにもなります。スポーツツーリズムとかユニバーサルツーリズムのようなテーマにも積極的にチャレンジしていきたいと思っています。
スポーツツーリズム:スポーツ観戦のための旅行やそれに伴う周辺の観光のこと。またスポーツに関わる人どうしの交流などスポーツをきっかけとした様々な旅行。
ユニバーサルツーリズム:年齢や障がいの有無に関わらず、誰でも参加できる旅行のこと。
1つ目のニュースで訪日外国人の話もしましたけど、2020年は日本をPRする絶好の場ですよね。五輪をきっかけに2020のレガシー、遺産というものをつくりながら、次世代にもしっかりつなげていきたいのです。
オリンピックの開催地は東京なので、やはり、PRできるのは東京だけになってしまうのですか。
必ずしもそうではありません。例えば事前合宿ってありますよね。
この事前合宿をめぐって全国の自治体が「ぜひうちに来てください」という形で呼び込もうとしているんです。
そうした取り組みを通じて日本には各地に“こんなにいい観光素材があります”というのを世界の方々にPRできる機会になりますよね。
そうですね。
訪日外国人は3000万人を突破しましたが、アジア諸国が中心なので、それ以外の国の人たちにも来ていただけるチャンスだと思います。
地方の人口減少に歯止めをかけ、各地域がそれぞれの特徴をいかして活性化を目指す政府の戦略。
3つ目の「地方創生」のニュースはどういった点が注目のポイントでしょうか。
「観光」って地方の成長にとって大切で、日本の将来を担っていると思っています。
例えば皆さん、沖縄旅行に行くとすると、飛行機を手配するし宿泊するし、美ら海水族館に行きたいなとか、ソーキそば食べたいなってなると思うんですよね。
さらに旅行中はおしゃれしようかなとか、保険入るよねとか。そうやって人が動けば、地方にいろんな経済効果がありますね。
いろんな産業に影響があるんですね。
そうです。そして、人や企業を呼び込んで、雇用を生み出し、地域の経済を活性化していく。
だから、観光客に来てもらうためにどうするか?と、地元の方々と一緒に考える。そして住民が愛着を持てる地域を育てていくような形を私たちもお手伝いしています。
今後、人口減少は避けて通れないので、旅行という素材を使ってどうやって「交流人口」を拡大していくのかに積極的に取り組んでいます。
交流人口:地域の外から訪れる旅行者や短期滞在者などの人口。地方、特に過疎地の活性化の鍵だとして注目されている。
荒木さんは地方で勤務された経験はありますか。
もともと富山県出身なんですが、入社してから11年間、富山の支店で営業をしていました。
北陸新幹線が開業したときには、県内でマラソン大会が開かれることになり、その事業に担当として携わりました。大会には1万数千人のランナーが参加したんですけれど、半分が県外のお客様でした。海外からも来てくれたんですよ。
そうすると宿泊して、観光して、地域にお金が落ちますよね。立山連峰を見ながら走るコースなんですけど、いい景色でいいコースだと言われて、富山県民としても嬉しかった仕事の1つになりますね。
私は宮城県出身なのですが、自分の地元にたくさん来てくれると嬉しいですよね。
日本には、各地域にそれぞれの宝があります。
ふるさとにもっと人が来ていただくために、いい所はなんだろうとか、反対になにが障壁になっているのかとか、私たちも日々考えています。学生のみなさんにも、ぜひ自分の地元について若い発想で考えてみてほしいですね。
3つ注目ニュースを挙げていただきましたが、それぞれ仕事に深く関わっているんですね。
そうですね。仕事に関わるので、情報をキャッチすること関しては敏感になっていますね。例えば富山にいたときは、地元紙は絶対に見るようにしていました。
情報に敏感になっていないと、商談でもなかなか話が合わなくて、悔しい思いをしたこともたくさんあります。勉強したり情報をキャッチしたりする事に無駄はないと思いますよ。
勉強する時間や、情報収集する時間をいとわずにどんどん積極的にやってほしいということですね?
やっぱり、自分のキャリアをイメージするには、幅広い情報が必要ですよね。
会社に入ってからも業務に関わらずいろいろな分野の勉強をして自分自身のスキルを高めることも大事と思っていて、私もいまの業務とは全く関係ない財務について、知識がないので勉強しているところです。
最後になりますが荒木さんは就職先にどうしてJTBを選んだんですか。
JTB社員は旅行好きが多いと思うかもしれませんが、実は私はそこまで旅行が大好きというわけではなかったんです。
そうだったんですか。それでなぜ?
就活中、自分が何をしている時が楽しいかと考えたら、人と接する事が好きでした。
アルバイトの選択にしても、キッチンで働くよりホールに出て仕事をしたいって思ってたんです。そういう今までの自分自身がやってきた選択とか、自分が楽しいなって思った瞬間を軸に考えましたね。
そういういきさつがあったんですね。
なので、私としては、JTBというフィールドで、これをしてみたいという方に入社してもらえたら、嬉しいです。