ANA(全日空)人事担当者に聞く

エアラインは"国際情勢"と密接。アンテナの翼を広げよう

2019年03月01日 (聞き手:土井湧水)

就職先として学生からの人気が高いANA(全日本空輸)。お話をお伺いしたのは人財戦略室の二川恒平さんです。

パイロット、客室乗務員など職種別に採用をしていますが、二川さんが採用を担当するのは「グローバルスタッフ職(事務)」、いわゆる事務系総合職です。

選んでいただいた“マストなニュース”3本は・・・

OPEC 原油の減産協議へ

2018年12月に行われたOPECの協議

サウジアラビアなどが中心となって構成するOPEC=石油輸出国機構が、原油の生産量を減らす協議を行っているというニュース。2018年5月、アメリカがイランへの経済制裁の再開を発表。原油不足への不安から価格が高騰、OPECは生産量を増やした。ところが、今度は原油が余るという見通しが広がり、2018年10月をピークに値下がりが続いているため、生産量を減らすかどうか協議している。 (2019年2月現在)

学生
土井

最初に選ばれたのは、「OPECの原油減産協議へ」のニュース・・・。難しいニュースと受け止めてしまったのですが、なぜ重要なのでしょうか?

航空業界では、このニュースに限らず、原油の生産量に関わるニュース全般がとても重要です。飛行機を飛ばすには、人件費や機材購入費など、さまざまなコストがかかりますが、そのなかでも燃料費などのコストは非常に大きいです。原油の生産量が減ると価格が上がることにもつながり、そうすると我々の事業に対するインパクトも大きいんです。

二川さん

なるほど・・・!原油が値上がりすると、航空券の価格が上がることもあるのでしょうか?

原油がとても高くなってしまうと、そこは「燃油サーチャージ」というかたちでご負担をお願いするということはあります。ただ、極力、企業努力で、価格が上がらないように頑張ろうとはしています。
(※燃油サーチャージ:航空会社が、燃料価格が上昇した場合に国際線の運賃に上乗せする特別料金のこと)

原油価格の変動に対して、どういった対策を取っているんですか?

変動する原油価格について、専門に見ているチームがあります。
日々安定的に飛行機を運行していくのが使命ですので、安いときに多く購入しておくとか、変動の影響を受けにくいような努力をしています。

常に国際情勢にアンテナを張っているんですね。

原油以外にも、国際情勢が影響するものの1つに、為替があります。
我々は国際線も多く飛ばしておりますので、為替変動の影響も受けます。
円高になると、輸出企業は影響を受けやすいですけれども、旅行業界で考えると、現地のホテル代など海外旅行の価格が下がりますので日本のお客様が旅行に行きやすくなります。
逆に、円安になると海外旅行には行きづらくなりますが、海外からお越しいただく方々が来やすくなります。

どちらになっても、プラスの面とマイナスの面があるんですね。

円高なら旅行需要が高まる、円安ならインバウンド(外国人の日本旅行)のニーズにこたえる、といったように、国際情勢に柔軟に対応できることが求められます。
われわれは、原油や為替の価格動向を踏まえながら、今後どのような戦略を立てていこうかという検討をしています。

米中貿易摩擦の行方

2018年3月、アメリカのトランプ政権が鉄鋼製品などに関税を上乗せしたことをきっかけに、以後、互いの輸出品に関税をかける制裁措置の応酬が繰り返された。両国が「貿易戦争」と呼ぶほどまでエスカレート。

続いて、米中貿易摩擦の重要性を教えてください。

こちらも今まさにホットな話題ですよね。やはり国際情勢の動向が今後どうなっていくのか、日本の景気はもちろんですが、海外からの人の流れ、貨物の流れも、我々航空会社としては押さえておく必要があります。

貨物の流れも関係するんですか?

エアラインというと、学生の皆さんは、乗客の動向が気になるかと思うのですが、一方で、貨物の話題も大事な観点です。
路線によってはあまりお客さまが乗っていらっしゃらない路線もありますが、実はその下には航空貨物が満載されていて、便としては収益が上がっているということもあります。
見えにくい部分ですが、貨物も運んでいるということも、我々の大きな収益になっています。

貨物がそんなに積まれているんですね!どちらかというと、貨物は、船で運んでいると思っていました。

食品などのように「重くて大きくて安い物」は船で運びますが、「軽くて小さくて高いもの」たとえば精密機械などは、船で何か月もかけて運ぶというよりは、飛行機で運びたいというニーズがあります。飛行機の貨物室にスマートフォンが満載で運ばれていることもありますよ。

貨物のことと、米中貿易摩擦がどう関係してくるのでしょうか?

例えば、中国から日本を経由してアメリカに行く貨物のルートがあるのですが、そこの物流量が減ってしまうということもありえます。
「日本に物を運ぶ」という物流は非常に大きいものですが、それと同じくらい、「三国間流動」という、アジアから日本を経由してアメリカ、またその逆、という動きが非常に旺盛なんです。

なるほど、そうするとアメリカと中国の関係が悪くなると困りますね。

中国のIT業界が伸びていく中で、米中貿易摩擦によって、精密機械などの流動が滞ってしまうと困るということもあり、このニュースには注目しています。
我々としても、国際線で中国路線というのは非常に力を入れている分野でもありますので、中国とアメリカの、人と物の流れがどうなっていくのかを注視しながらこのようなニュースと接しています。

中国路線に力を入れているのはなぜですか?

中国から日本にお越しいただくインバウンドの需要もありますし、日本から中国に行くビジネスや旅行の需要もあります。

たしかに街中でも、中国からの観光客がとても増えていると感じます。

また、羽田と成田をデュアルハブとして我々は位置付けているのですが、特に成田は国際線の乗り継ぎに非常に利便性が高い空港です。
(※デュアルハブ:「2つのハブ空港」の意味。ハブ空港とは、乗り継ぎの拠点となる、路線が多い空港。)
中国は、華僑の方などが世界中に住んでいて、そういった方々が母国・中国に帰るときに、故郷が地方都市などで直行便がない場合は、どこかの乗り継ぎ空港を経由して帰る必要があります。
そのときに成田空港で乗り継ぎをして、我々の路線ネットワークを利用して頂きたいという思いがあります。

中国の各地の空港への便がたくさんあると、そういうニーズにも応えられるんですね!

そうですね。最近、中国との路線が非常に増えていることもあって、今後、人をたくさん採用して、人材育成をしていかなければならないと思っております。

羽田空港内で自動運転バスの実証実験

今年1月に羽田空港で行われた自動運転バスの実証実験

羽田空港では、空港業務省力化のため、旅客ターミナルと駐機場の間を、自動運転のバスで走行する実証実験が行われている。ANAとソフトバンクの子会社などが進めている。

3つめのニュースは、「羽田空港内で自動運転バスの実証実験」。こちらはどうして重要なのですか?

なぜこれをエアラインがやっているのかというと、空港のバスが、自動運転技術の実験に適しているからです。
普通は飛行機から橋で直接ターミナルに渡りますが、便によっては飛行機から地上に降りて、ターミナルまでバスで移動することがあります。ご経験されたことはありますか?

私はないのですが、たしかに、空港内をバスが走っていますよね。

そういったバスは、基本的に速度やルートが決まっていて、滑走路付近の道路に歩行者がいるわけではないので、自動運転という技術を実際に試していく上では、理想的な環境なんです。
自動化に取り組むことによって、より付加価値の高いところに人材を投入し、働き方改革を実現していきたいと考えています。

「付加価値の高いところに人材を投入する」ということは、具体的にはどういうことでしょうか?

単純作業だったり、ルーティーン業務だったり、そういうところをIT技術で効率化し、お客さまに接する、付加価値の高い業務を人が担っていくということです。

お体の不自由な方だったり、ご高齢で旅慣れてない方だったり、そういった方に手厚いケアをさせて頂くことによって、ANAはサービスがいいな、また乗ってみたいな、と思って頂きたいです。

誰でもできるようなサービスとか、決まりきったことをやるような人よりも、自分のアイデアで動くような人、付加価値の高いサービスを提案する人を求めているということでしょうか?

いえ、そういう人物だけではなく、「多様性」が大事だと考えています。
0を1にする仕事、たとえば新しい技術を取り入れて新しい事業を立ち上げる、そういったものは一見華やかに見えますし、インパクトも大きいと思うのですが、一方で、我々は空港、航空機のオペレーションをしている会社になりますので、安全を守り続けることも、大前提で大事な要素になります。
それは0を1にする仕事ではなく、もともと9.9くらいのものを9.9999と限りなく10、安全に近づける努力をし続けるような仕事です。

どちらを担う人も必要ということですね。

コツコツ突き詰めることも大事な挑戦の仕方だと思いますし、一方で、何かをゼロから生み出すことも大事な挑戦の仕方だと思います。

よくわかりました。今回は3つニュースを挙げて頂きましたが、学生にはニュースをどのように見ていてほしいですか?

求められるのは、ニュースに触れたときにいかに自分ごととして考えられるかどうかだと思います。

自分なりの物差しを持つということでしょうか?

例えば原油問題や米中貿易摩擦の話題は、学生生活を普通に送っていく上では全く触れなくても過ごせてしまいますよね。でも、自分が学生時代のうちにいろいろな経験をしておけば、そのニュースに対する見え方や、興味関心も広がっていくと思います。ニュースに触れる前段階として、「自分の領域」をいかに広げておくかということも大事なのではないかと思います。

いろいろと教えて頂きありがとうございます。
きょう選んでいただいたニュースは、自分で調べて知っておいた方が良いのでしょうか?

必ず知っておかなければならないというわけではなく、入社してからしっかり勉強してほしい部分です。
今回この3つのニュースにさせていただいた理由は、社会の流れ、動きの中で、グローバルな国際線を運行しているエアラインは影響を受ける、ということをご理解いただければと思ったからです。

ありがとうございます。お話を聞かせていただいて、これらのニュースが、航空会社にとって重要な理由がよくわかりました。

エアラインは、社会の流れ、法律が変わるとか、情勢が変わるとかそういった影響を受けやすい業界ですので、やはり私が採用を担当している「グローバルスタッフ職(事務)」という職種を志望する学生さんには、そういったことや、新しい技術を用いて何かできないかという観点に常にアンテナを広げてほしいです。
さらに、それをインプットするだけではなくて、それをエアラインとしてどういうふうに対処していくのか、この技術を使って我々に出来ることは何なのかを考えていってほしいです。

ありがとうございました!