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ソニーグループ前社長 平井一夫さんに聞く リーダーの要件

2022年09月22日

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危機に直面していた時期に社長に抜擢され、赤字だったソニーグループを見事に復活させた平井一夫前社長。一貫してやり通したのは“社員の話を聞く”というリーダーの基本ともいえることでした。そのとき大事にしていたことは「肩書ではなく、人格で仕事をすること」。どう行動したのか、具体的に聞きました。

(聞き手:本間遙 黒田光太郎)

“窮地”だからこそ力を発揮

学生
黒田

ソニーが危機に直面していた時があったんですか?

当時は2012年ですが特にエレクトロニクスのビジネスがかなり窮地に立たされていました。

平井さん

1960年東京生まれ。幼少時代は父親の転勤でニューヨーク、カナダなど海外生活を送る。大学卒業後、CBS・ソニー入社、ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ社長などを経て、2006年ソニー・コンピュータエンタテインメント社長。09年ソニーEVP、11年副社長、12年社長兼CEO、18年会長。19年からシニアアドバイザー。

残念ながら赤字も出ていましたし、株価もかなり下がっていたという状況でした。

ソニーはこれからエレクトロニクスのビジネスを続けることができるんだろうかと、皆さん非常に心配されていて「大丈夫なの?」と言われていました。

2012年2月、社長交代の発表記者会見(右側はハワード・ストリンガー会長兼社長※肩書きは当時)

非常に厳しいときに会社から「社長」の打診があったのは、ある意味でソニーがこういう時代だから「平井かな」と指名していただいたんだろうなと勝手に思っています。

学生
本間

それはどうしてですか?

私は性格的に、自分の前に何かこう壁とかですね、挑戦だとか難題とかそういったものがあると頑張ろうって思えるんです。

「大丈夫なんですか」っていうところに直面すると本当に闘志が湧いてくる。

生まれ持ったものじゃないですが、毎日会社に行って色んなチャレンジがあるのが私は大好きでした。

ルールなき対話の場を作る

社長は社員にとって雲の上の存在のようになってしまうとも思いますがリーダーとして心がけていたことはありますか?

「社員との対話の回数、場を多く設けなければいけない」というのが1つあります。

私は子会社や製造事業所といったいろんな現場に行って、社員の皆さんと質疑応答をしました。

これを6年間で70回やったので、平均すると月に1回は地球のどこかで社員と対話するミーティングをしました。

社員らとの対話の場、タウンホールミーティングでのスピーチ

私の質疑応答には1つだけルールがあります。それは「ルールがない」ことなんです。

ルールがないんですか?

何を聞いてもいい、NGな質問はないですよと。

「これ聞くと怒るだろうなとか一切ないから聞いてください」というのをルールにして続けてきました。

それでもなかなか質問しづらいような…。

最初のうちは「変なこと聞くと怒るんだろうな」となるのです。でも回数を繰り返していくと「家ではゴミ出しするんですか」って聞いてくる社員がでてくるんですよ。

「私はゴミ出し担当です」と正直にお応えして「家中の全部のゴミ箱から集めるのが大変なんですよね」みたいな話をして。

社長なんだけれども、それ以前に「ゴミ出しするおじさんなんだな」と、一人の人間として見てもらえるかどうかがすごく大事でした。

すると「平井さんはこっちの方向に行きたいって言ってますがもう少し説明してくれないと分からない」とか「こういう見方ってないんですか」とだんだん対等の議論になってくるんです。

そうなんですね。

「社長の言うこと聞いておしまい」から「社長が来たからこそ意見を言う機会なんだ」というように、雰囲気を変えることができました。

このような質疑応答から発展したことはあるのでしょうか?

例えば「自分のアイデアを商品化するプロジェクトがないので困っています」ということをいろんなところで聞きました。

なので新しい部署を作って、ビジネスの可能性があるアイデアについては商品化することをやりました。

社員の意見を聞くのは非常に大事でそれがマネジメントにもつながっていきました。

「意見」と「異見」を聞いて判断

さまざまな意見を持つ社員をまとめていくのって大変だと思うのですが…。

意見には「自分はこう思います」という“意見”と、「私は違うと思う」の異なる見方の“異見”の2つがあると思っています。

私が特に重視していたのは後者の方です。いろんな事柄に対して、社員が“異見”を言える環境をなるべく作るようにしていました。

“意見”ではなく“異見”…。

意見を求めて、異見を求めて、最終的にイエスかノーか、やるかやらないか、を決めることがリーダーの仕事だと思っています。

ベストはリーダーが「正しい判断」をすることですが、その次に良いのは「間違った判断」をすることなんです。

間違えても大丈夫なんですか?

そう。なぜかというと間違えた判断をしたことに気付いたら、軌道修正をすればいいからです。

一番よくないのは決断しないことなんです。

イエスかノーかわからないと、組織は結局正しいのか間違っているのかもわからず迷走するだけになってしまいます。

難しい判断をするときの決め手というのは、どういったものなんでしょうか?

自分がどう思っているかいうことはすごく大事です。

ただし同時に周りに異見を求めて「こっちの結論の方が会社のためになる」って思ったら、「そっちのアイデアがいい」と認める勇気が必要ですね。

リーダーには、間違えた判断をしたと気付いた時に「ごめん。間違えた」と言える勇気がないとダメなんです。

この2つ、要するに“異見”を聞いて最後は自分で判断すること。そして、間違えたら「間違えた」と言える勇気さえあれば、判断しやすい環境がつくれると思います。

時には辛い判断も、、、、

経営が厳しい状況の中でつらい判断も迫られると思いますが、具体的なエピソードあれば教えて頂きたいです。

一番つらいのは、社員の皆さんに何らかの形でマイナスの影響が出ることです。

こういう判断を下さなければならない時には、身を引き裂かれるどころでは済まないぐらい苦しい気持ちになりますよね。

例えば、ある事業を売却したり撤退せざるを得なかったりする時が、一番苦しい判断を迫られた時でした。

そうだったんですね…。

2015年2月経営方針の説明会の様子

平井氏は「VAIO」のブランドで展開していたパソコン事業の売却やテレビ事業、映像・音響事業を分社化するなど、経営の立て直しに向けた改革を進めた

ただ、ここで大事になってくるのは、判断を先送りしても問題が解決することがほとんどないということです。 どちらかというと問題が大きくなってしまう。

会社にとって何が一番重要なのかをより冷静になって考えると同時に、マイナスの影響を受けてしまう社員に対しては処遇や手当て、再就職を斡旋するなど、色んなことをしなければいけない。

私が「つらいと思う」のは、私のことですから。それよりも「会社はどうしなきゃいけないか」を問わなければいけないし、一番優先順位は高いです。

肩書で仕事をしない 人格で仕事をする

これちょっと伺っていいのかなって思うんですけれども…。

NGの質問はないので、何聞いてもいいですよ。

よくドラマなんかでリーダーが部下に裏切られたり騙されたりするシーンがありますが、実際にそういうことってあるんでしょうか。

それはですね、リーダーというのは「肩書」で仕事しちゃダメで、人格で仕事しなきゃダメなんですよ。

部長だから偉いんじゃなくて、人格が優れていてかつ部長だから偉いんですよね。

あんまり人間として尊敬したくない人に対しては、この人のために120%頑張ろうと思うかというと、私はクエスチョンだと思いますね。

そうですね。

信頼関係ができていれば、ドラマみたいな裏切りはあまりないんじゃないかなと思います。

逆に、肩書きだけの仕事をしていると「何かあったらちょっとひっくり返してやろうかな」っていう変な気持ちも出てくる可能性もあるんじゃないかなと思いますけどね。

幸い私は鈍感だからそういったことは感じなかったかもしれないですね。

なるほど!ありがとうございます。

リーダーは“せきまかせる”?

ひとつお伺いしたいのですが、平井さんにとって、リーダーとはどういうものなのでしょうか?

はい。「リーダー」とは、こちらです。

読めますか?何て読むか分かります?

…。

せきにんせる?「何だこれは」と思いますよね。

いろんな事業領域でビジネスをする会社では、各分野にそれぞれのエキスパートがいるわけです。

例えばゲームだったらゲームのプロに任せる。自分で全部できないですから。

全部自分でできないこと認識した上で任せる。ただし、任せるのはいいですけど、結果については責任をとる。

特に、状況が上手くいかなかったら責任をとる、上手くいったら褒めれば良いんです。

任せて責任を取るのがリーダーです。

日本語はおかしいですけど、この「任」という字が共通になってくると私は思います。

2つの意味があっていい言葉ですね。

責任せる(せきにんせる)です。

もしくは責まかせる(せきまかせる)。日本語としてはおかしいですけど、そういうことです(笑)

ありがとうございます!

人格でチームを引っ張り、判断のために意見と異見の両方を取り入れることがリーダーには重要だとした平井さん。次回、記事の中編では、“異見”を言いやすくするための『部下が発言しやすい環境の作り方』と、社員が120%の力を出すため『チームワーク作りで大事にしていたこと』に迫ります。

撮影:藤原こと子 編集:清水阿喜子

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