2022年09月14日
「ワークライフバランス」は企業を選ぶ際に気になるポイントの1つですよね。では、実際にどんなところを見たら働きやすい会社か分かるのでしょうか。
残業時間は?休みは取りやすい?新入社員がすぐに辞めてしまってない?労働法の専門家に基礎知識を教えてもらいました。
(聞き手:梶原龍 本間遙 藤原こと子)
ワークライフバランスを重視して企業を選ぶ就活生も多いと思います。
「一生懸命働きます」とか、休みたい時には「休みます」と選択できることはすごく大切ですよね。
「家庭を顧みず残業もどんどんして、とにかく仕事だけ一生懸命やりなさい」という会社で働くと、いつの間にか「何のために仕事してるんだろう」ってなってしまいます。
自由な選択ができる中で仕事することが実はパフォーマンスとしてもいいんですよ。
あまりワークライフバランスを重視していない就活生でも気にしたほうがいいですか?
働くことが好きで、仕事重視でこれから5年10年はやりたいと思っていても、社会の環境も自分の生活リズムもいつ変わるか分かりません。
重視するか重視しないかはそれぞれの考え方ですが、長い目で見ると大切なことなので、皆さんにそういう意識を持ってほしいなと思います。
東京大学 社会科学研究所 水町勇一郎教授
働くうえでのルールを定めた「労働法」の専門家。著書を多数執筆。研究、講義の傍ら、政府の働き方改革実現会議議員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
では、働きやすい職場を探そうと思ったら、会社のどんな数字を見たらいいですか。
ワークライフバランスの観点から言うと労働時間ですよね。
残業時間がどれくらいあるかとか、有給休暇の取得率がどれくらいか。
さらに新入社員含めてどれくらい会社に定着しているか、どんどん辞めていっていたらやっぱり働きやすいい環境じゃないのかなと思いますよね。
残業時間は、具体的にどれくらいの数字だったら気をつけたほうがいいってありますか?
労働基準法により『36協定(サブロク)』を結んだ場合でも、時間外労働(休日労働は含まない)の上限は、原則として、月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がないと超えることはできません。
また臨時の特別な事情があり、労使が合意する場合でも、原則の月45時間を超えることができるのは、年6か月までなどとなっています。
平均して月45時間に近づいていたらかなりの長時間労働ですけど、それ以下でもほかの企業と比較してみてほしいです。
定着率はどうですか?
入社3年後の定着率が9割以上だったらけっこう高いかもしれないし、もし半分が辞めているのであれば辞めすぎてますね。
ただ、業種にもよるので、同じ業界のほかの会社と比較してどれくらいかを確認してみてください。
ほかにも、女性の管理職比率をみるといいと思います。
女性が働きやすい職場って男性も働きやすいんです。
男性にも当てはまることなんですね。
働きやすい職場環境にはいい学生とかいい人が集まって、かつ定着率が高くなるので、企業としても生産性が高くなって成長していく。
会社も働いている人もwin-winの関係にするために、日本でも一生懸命取り組まれているところです。
そういう情報はどこに載ってますか?
情報の集め方はいくつかあって、まずは企業のホームページ。
あとは就職関係の情報誌みたいなもの。なるべくたくさんの企業からデータを集めて共通の指標で出してるものがあります。
なるほど。
そもそも、法律上は大企業にはさまざまな情報の公表義務が課されています。
一方で中小企業だと、法律上、情報の公表義務が課されていません。
でも、基本的には自分たちは恥ずかしくない、ちゃんとやっているって示したい会社は、大企業であっても中小企業であっても、自信をもって内部の情報を見せています。
逆に言うと見せてないところは、『何で見せられないんだろう』っていう疑ってみる必要があるかもしれませんね。
例えば中小企業でホームページとかに情報が載っていない時はどこを見れば良いですか。
「若者雇用促進法」という法律(正式名称は「青少年の雇用の促進等に関する法律」)があって、それに基づいてデータを公開している中小企業だったら、厚生労働省が作っているホームページで検索することもできます。
若者雇用促進総合サイト(※NHKのページを離れます)
就職しようという学生と主に中小企業をマッチングすることを目的に、厚生労働省が開設。企業名で検索すると勤続年数や有給取得率などを見ることができる。
そういう情報、人事に聞けば分かるかもと思いつつ、やっぱり聞きづらくて・・・
まずは知り合いや先輩に聞くっていう方法もありますよね。
で、人事に聞きづらいっていうのは確かにあると思います。
でも、みんなが聞くことが、これからの就職活動の雰囲気を変えていくことになり、いい職場環境をつくっていくためには大切なんですよ。
「若者雇用促進法」では、就職活動で求職者が聞いてきたらちゃんと情報を提供してくださいねっていうことが、企業に義務づけられています。
若者雇用促進法
新卒で就職後、企業側とのミスマッチにより離職してしまうことを避けるため、労働条件に加え平均勤続年数、研修の有無などといった職場の状況も情報提供する仕組みなどを作った法律
そういう雰囲気をつくることを法律も応援しているし、積極的に聞く人たちが増えていけば会社としてもそういう情報を大切にするようになる。
就職活動をする側も企業選びがしやすくなって、よりハッピーなほうに近づくと思います。
そういう情報を知っているか知らないかだけでも、だいぶ就活が変わりますね。
実は中途採用の人はこういうことを意識しながら会社探しをするんだけど、新卒採用の場合って会社で働いたことがないからどうなっているかよく分からない。
残念ながら、メンタルヘルスの不調を訴えたり、過労死・過労自殺をしてしまった人のなかには、入社後すぐになってしまう方ってけっこういるんですよ。
その企業の体質をきちんと見分けて入社しないと、そういうアクシデントが起こる可能性もある。
そうですよね。
そういうことを聞いたら嫌がられるかもって怖いかもしれないけど、すごく重要な情報です。
就職活動ではやっぱり内定がほしいということに走っちゃうのですが、大切な会社選びの際には、本当に重要な情報をきちんと見て選んでほしいです。
ちなみに、コロナの時もそうだったのですが、「内定取り消し」のニュースを見ることがあります。
企業が学生の内定を簡単に取り消せるのですか?
基本的に会社側が簡単に内定取り消しを行うことはできません。
多くの企業は10月1日に正式に「内定」を出していると思いますが、それ以降は「労働契約」が成立しているんです。
だから、会社として内定取り消しをするのは解雇と同じだと考えられています。
解雇ってなかなか簡単にできないのと同じで、会社として内定取り消しをするのは法的には難しい。
学生側が内定を辞退するのは問題ありませんか?
学生の場合は、実は会社で働いたあともそうなんですが、「辞職の自由」というのがあるんですよ。
2週間前に辞めることを予告すれば、2週間後には辞職の意思表示が有効になる。
内定の時も同じで、2週間前に予告をすれば内定だった人の労働契約が成立していてもいつでも辞められる。
モラルの問題はあるかもしれないけど、ちゃんとした理由があったり、新しく入ってきた情報でやっぱり働きにくい会社だと感じた時とか。
もう一度就職活動しなおそうという場合には、ちゃんと自信を持って「内定辞退します」って言うことは、法的に守られている権利だと思っていいです。
そう思ったら安心ですね。
「ワークライフバランスを守る基礎知識」、次回は残業時間について詳しくお伝えします。
編集:清水阿喜子、撮影:今井桃代
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