2022年03月29日
周囲から「内定もらった」という声が聞こえはじめると、焦ったり、不安になったりしますよね。そんな時、データから客観的に就活を見てみると少し冷静になれるかもしれません。
リクルート就職みらい研究所の増本全 所長に、23年卒の就活を最新データから読み解いてもらいます。
(聞き手:田嶋瑞貴 本間遥)
まわりでもちらほら内定を持っている人が出てきて、焦る就活生が増える時期なのかなと思います。
内定を取ることで安心したいということであれば、本当は早くから内定が出る企業をうければ良い話なんですが、でもそうじゃないですよね。
はい。
自分なりに納得した選択肢のところに就職したいというのが本来の目的ですね。
であれば、ぼんやりした周囲の情報で不用意に焦ることはなく、自分が本当に受けたい企業の選考スケジュールを押さえることの方がよほど大事です。
それがまず大前提。
確かにその通りですね。
その上で、数字的な部分でお話をしましょう。こちらをご覧ください。
3月1日時点の内定率は22.6%という数字になっています。
前年と比べて5ポイントくらい増加しているので、去年の先輩たちより少し早いペースで進んでいっているという感じですね。
今まわりで「内定が出ています」という場合、5人に1人の話をしてるんだっていうことがまず1つあります。
そうなんですね。
さらに、どこから内定をもらっているのかを見てみましょう。
圧倒的に高いのは情報通信業です。前年よりも割合が高くなっていることが分かります。
ずば抜けて高いですね。
そうなんです。だからまわりに情報通信業を受けている人がいると「内定が出始めているな」と感じるかもしれません。
そうでなければ、その他の業界を見ていただくと分かる通り、まばらに出ているという感じかと思いますね。
もし受けていない業界や企業の内定の話で焦ってもあまり意味がないですよね。受けなくては内定は出ないわけですし。
なるほど。
通信業界に行きたいと考えていた場合、すでにこれだけ内定が出てしまっていると、これからエントリーしてもあまり内定をもらえないんじゃないかと不安になりますね。
企業によって内定の出し方は違います。
データは業界全体の引いた数字でしかないので、改めて自分が受けたい企業の選考スケジュールを確認し、細かく情報を把握することが大事だと思います。
ちなみにスケジュールでいうと、内定出しのピークはいつ頃なんでしょうか?
こちらが3年分の内定率の推移なんですが、3月、4月、5月と傾斜が上がっていきます。
去年を見ると、ボリュームとしては3月と4月が一番出ています。
さらに、こちらのデータをご覧ください。
3月1日時点で「内定を得ている」と回答した学生に対し、何社から内定をもらっているのかを尋ねた結果です。
複数内定の割合が年々増加しているのが見て取れますね。
増える傾向にあるんですね。
つまりその裏側では、内定辞退とか選考途中での辞退が非常に増えている。
なので、企業は、悲鳴を上げています。
なぜ、一人当たりの内定取得企業数が増えているんですか?
採用活動のオンライン化が進んでいる影響を受けているんだと思います。
オンライン化によって出会いは効率化され、応募や選考を受ける学生の数が増えているんですね。
なるほど。母数が増えていると。
でも選ぶのは1社じゃないですか。かつ、一人あたりの内定取得社数が増えているため、内定を辞退する割合も増えてしまっているんです。
内定辞退は実際どのくらいの割合なんでしょう?
22年卒でいうと、採用予定数を100とした場合に、1.7倍の171.2人に内定を出しているというデータが出ています。
辞退を見越してってことですか。
そういうことです。内定辞退を見越して先に出しちゃおうよっていうケースもあれば、辞退するくらいだったら内定を出さないっていう会社もあるんですが。
ただ、内定辞退の割合でいうと21年卒では、採用予定数を100人として内定を出したのが156.6人、内定辞退が56.6人でした。
これが、22年卒では、内定を出した171.2人に対し、内定辞退が75.7人と、増えているんです。
冒頭にあった内定率の数字を見ると、今年も割合がさらに増えることが予想されます。
うーん。
そうなると企業は採用が終われないので、採用活動が長期化します。
去年よく起きていたのですが、想定以上の内定辞退が出てしまい、途中で追加募集をせざるを得なくなったりします。
採用計画数に対して採用数が足りたか足りていないかというのを“充足率”っていうんですけど、この割合が前年より減っているんです。
その理由を聞くと、「選考辞退が予定より多かった」と答えた企業が前年とくらべてすごく増えています。
あ、本当ですね。
採用の興味深いところなんですが、例えば去年50%の内定者が辞退したという数字があった場合、今年の景況感などを踏まえて「今年は内定辞退率を55%くらいに置いておこう」とシミュレーションするわけです。
そうすると例年よりもさらに多くの内定出しをせざるを得ない。
そのためには、1次選考者、説明会参加者、応募者という母数をさらに増やさないといけないということになります。
はい、そうなりますね。
ですが、これが巻き起こすのはさらなる内定辞退です。
もう、負のスパイラル…
これも現行の採用活動の大きな課題の一つなんですね。
こんな話を聞くと、いざ内定を辞退しなければならなくなった時、ただでさえ心苦しいのに、さらにプレッシャーがかかります…。
内定辞退をするにあたっては、何よりもスピードを含めた誠実な対応が大事です。判断したタイミングですぐ辞退するというのが、相手の立場にも立つ対応となります。
内定を辞退しないまま、抱えられていくことが一番負担だということです。
内定辞退者が1人もいない企業なんてほとんどないので、人事担当者もわかっています。
なので、そこは別に遠慮せずスピーディに誠実に対応すればよいと思います。
今年の採用予定人数はどんなふうになっているんですか?
その前に、大卒の求人倍率の推移を見てみましょう。
22年卒の求人倍率は、1.50という水準です。これは100人に対し、150の求人があるという意味です。
2020年卒以前は求人倍率が1.7とか1.8あって、未曽有の売手市場と言われていました。
コロナ禍で求人の総数が減り、倍率が下がっているんですが、リーマンショックや東日本大震災の余波を受けた2012年3月卒の求人倍率は1.23でした。
そんなに?
就職氷河期と呼ばれていた時期には、0.99倍にまで落ち込んだ時代もあります。
ですから、過去の危機だと言われていた時よりもよっぽど高い水準が現在地なんですね。もちろん、業界によってばらつきはありますけど。
そうなんですね。
それでは、肝心のみなさんの代の採用見通しはどうなりそうかを見ていきます。
こちらは、企業が採用予定数を増やすか減らすか聞いた調査です。
ピンクが前年、青が23年卒ですから「増える」が増加しています。これは、採用意欲が回復傾向に向かっているということを示しています。
志望企業の採用人数が少ないと、「自分なんか入れるわけない」って弱気になっちゃう人もいると思うんですが、採用人数って気にしたほうがいいですか。
自分が受けられる枠があるかどうかくらいは気にした方がいいですが、枠の多い少ないはコントロールできませんからね。
はい。
僕は自分の就職活動のとき、何がしたいのかが分からず採用数が多い企業を順番に受けていたんです。
それで、面接で何しに来たのって言われて「内定人数が多いからです」とはさすがに言えないなあと思って、「やりたいことは特にないです」って言っていたら全部落ちましたね。
やっぱり数の話ではないんですよね。自分が伝えたいこと、相手が聞きたいことについてちゃんと会話ができるかどうかですよね。
採用人数が多い企業って結構安定してるんじゃないかなという印象があります。
なるほど。もしその見方をするんだったら、「従業員数」「新卒採用数」「中途採用数」、さらには経年推移などを広く見た時に、初めて見えてくるんじゃないかなと思いますね。
というのも、中途採用をメインでやっていて、新卒採用が少ないだけかもしれないですしね。
あと、従業員全体に対し何人採用しているのかとか、いろんな観点から見るのがいいのではないでしょうか。
あ、確かに。従業員が比較的少なく採用枠が去年よりぐっと増えていたら安定している企業だという気がします。
その場合、安定してるというより成長フェーズに入っているということでしょうね。人材に投資していきたいフェーズに入っていると見るのが自然でしょう。
面白いですね。
このように、ちょっと引いた目線で数字を見ていくと、その企業の新卒採用に対しての考え方が見えてくることもあるかもしれません。
ありがとうございました。
【後編】では、23年卒の採用プロセスの傾向を聞きます。近日公開予定。
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