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ことしの賃上げどうなる? 100社アンケート 慎重姿勢浮き彫りに

2022年01月25日

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春闘が事実上スタートするのを前に、NHKがことしの賃上げについて、国内の主な企業100社にアンケートを行ったところ、基本給を一律に引き上げるベースアップを行うと回答した企業は5社にとどまり「未定」や「検討中」とする企業が半数近くに上りました。

政府は賃上げへの積極的な対応を経済界に求めていますが、新型コロナの感染の急拡大などで景気回復の先行きが見通しにくくなっている中、企業側の慎重な姿勢が浮き彫りになっています。

NHKは先月24日から今月14日にかけて国内の主な企業100社を対象にアンケートを行い、すべての企業から回答を得ました。

この中で、春闘が事実上スタートするのを前に、ことしの賃上げへの考え方を複数回答で尋ねたところ、以下のように答えました。

▽基本給を一律に引き上げる「ベースアップ」を行う:5社
▽「子育て世代など特定の層に限って基本給を引き上げる」:2社
▽「定期昇給」:25社
▽「賞与や一時金の引き上げ」:7社

新型コロナの感染拡大で多くの企業の業績が悪化していた去年より、いずれも多くなりました。

一方、コロナ前と比べると「ベースアップ」を行うと回答した企業は、
おととしより1社、3年前より7社、それぞれ少なくなりました。

また、ほかには以下のような回答です。

▽「賃上げは考えていない」:2社
▽「その他」:60社(最多)うち48社が「未定」や「検討中」

ことしの春闘に向けて、岸田総理大臣は、業績がコロナ前の水準に回復した企業は3%を超える賃上げを実現するよう、経済界に協力を求めていますが、こうした要請についての受け止めです。

▽「適切だと思う」:24社
▽「理解できるが、実現は難しい」:18社
▽「不適切だと思う」:3社
▽「その他」:37社

賃上げの実施に何が必要か複数回答で尋ねました。

▽「生産性向上につながる政府の成長戦略」:53社
▽「コストを価格に転嫁しやすい環境整備」:24社
▽「賃上げに対する更なる税制優遇や補助金」:23社

政府は賃上げに積極的な企業を支援する「賃上げ税制」などを分配戦略の柱に掲げていますが、新型コロナの感染の急拡大などで景気回復の先行きが見通しにくくなっている中、企業側の慎重な姿勢が浮き彫りになっています。

国内の景気の現状「拡大」65社も 感染や原材料価格など懸念

そのほか、国内の景気の現状について「拡大している」と回答した企業が65社に上り、前回の去年夏の調査の1.6倍に増えました。

ただ、オミクロン株による感染の急拡大や原材料価格の高騰などを懸念する企業も多くなっていて、景気回復の先行きが見通しにくくなっていることがうかがえます。

NHKが国内の主な企業100社を対象に行っアンケートの中で、国内の景気の現状に対する認識を尋ねました。

▽「拡大」:3社
▽「緩やかに拡大」:62社
合わせて65社に上り、去年7月から8月にかけて行った前回の調査の1.6倍に増加
▽「横ばい」:30社
▽「後退」:1社

「拡大」「緩やかに拡大」と答えた企業にその理由を複数回答で尋ねました。

▽「個人消費の伸び」:87%
▽「感染減少による経済活動の再開」:56%
▽「設備投資の増加」:27%

一方、先行きの懸念材料について複数回答で尋ねました。

▽「オミクロン株など変異株の感染拡大」:86社
▽「原材料価格の高騰・高止まり」:72社
▽「半導体など部品不足の長期化」:49社
▽「中国経済の悪化」:14社
▽「各国の金融緩和縮小・引き締めによる景気後退」:12社 など

日本経済がコロナ前の水準まで回復する時期について尋ねました。

▽「ことし前半」:19社
▽「ことし後半」:27社
年内の回復を見込む企業が合わせて46社と半数近くになった一方、
▽「来年前半」:20社
▽「来年後半」:10社
▽「再来年(2024年)後半」:1社
来年以降にずれ込むという企業も3割を超えました。

経済活動の正常化で業績が回復している企業も多い一方で、オミクロン株による感染の急拡大などで経済が再び停滞する懸念も強まっていて、企業にとって景気回復の先行きが見通しにくくなっていることがうかがえます。

賃上げに必要なことは

賃上げをするために必要なことは何か。

NHKが100社アンケートの中で自由記述で尋ねたところ、生産性の向上につながる政府の成長戦略を求める声が多く寄せられました。

「脱炭素やデジタル化など新たな社会的課題を需要として取り込むための規制緩和や新たな制度設計が重要」(商社)

「企業の稼ぐ力の向上に資する施策(デジタル人材の育成など)に国を挙げて効果的な集中投資を行うこと」(メーカー)

そのために、雇用の流動化を促す法整備や仕事の内容に応じて賃金を決める「ジョブ型」など新しい働き方の拡大が必要だという意見も目立ちました。

「成長産業への円滑な労働移動による生産性の向上が不可欠。雇用調整助成金に頼った雇用保持の労働政策から、失業保険の拡充、教育・職業訓練機会の付与、副業などを促進する積極的労働政策にかじを切るべき」(食品)

「労働者が転職しやすい環境整備など労働市場の柔軟性を増すこと」(商社)

「ジョブ型人事制度による職責と結果に応じた報酬を実現することが重要」(食品)

一方、「賃上げ税制」などの政府の分配政策については意見が分かれました。

〈好意的な意見〉
「政府のサポートがあることでより賃上げを行いやすい環境になる」(メーカー)「優遇税制は好業績企業において検討を後押しするきっかけになる」(インフラ)「労働者の所得が増加していないことが、日本経済停滞の要因の1つであるので、適切な方針であると思う」(メーカー)「分配を通して、長らく低迷する個人消費の喚起につながることを期待する」(小売り)
〈否定的な意見〉
「所得の向上は賃上げだけで実現できるものではない。税制改革や社会保障改革が進まぬ中、企業だけに責任を求めるのはバランスを欠く」(メーカー)「単に賃上げを促すだけでは、人への投資にはならない。持続的な実質賃金の上昇には、企業の成長期待を高める設備投資を促す成長戦略、構造改革が優先されるべき」(食品)「税制の優遇で、企業が賃上げを行うとは思えない」(小売り)「3%の根拠が不明」(メーカー)「デフレマインドを払拭(ふっしょく)するために賃上げは必要だと思うが、その判断は各社が決めること」(商社)

専門家「このタイミングでの賃上げ 非常に重要」

第一生命経済研究所 永濱利廣首席エコノミスト
「物価が上がっている中、それに合わせる形で賃金が上がらなければ家計の実質的な購買力は下がってしまう。このタイミングでの賃上げは景気回復のために非常に重要なポイントだ」
「岸田政権が打ち出した賃上げ税制の効果に注目しているが、物価の上昇によって多くの企業で輸入する原材料の負担が増えているので、こうしたコスト高の中で人件費を上げるのは高いハードルだという企業側の言い分も分からなくはない。政権が目標としている3%の賃上げは難しく、2%を超えればいいほうではないか」
「海外で賃金が上がっているのは、転職が非常に盛んで労働市場が流動化し、人手不足になりやすいためでそういう国では優先的に賃金を上げざるをえない。一方の日本は新卒一括採用や年功序列賃金、定年制で同じ会社で長く働いたほうが得をする仕組みになっているため、こうした状況では賃金を上げなくても人手不足になりにくい。社会人が大学などで学び直す『リカレント教育』や人材への投資、転職した人への所得税の税制優遇などで労働市場を流動化させることが賃上げに効果的だと思う」

 

回答企業(五十音順)
IHI、旭化成、アサヒグループホールディングス、味の素、イオン、いすゞ自動車、出光興産、伊藤忠商事、インターネットイニシアティブ、AGC、ANAホールディングス、SGホールディングス、ENEOSホールディングス、王子ホールディングス、花王、鹿島建設、川崎重工業、キヤノン、京セラ、キリンホールディングス、KDDI、コマツ、サイバーエージェント、サントリーホールディングス、JFEホールディングス、JTB、J.フロント リテイリング、資生堂、清水建設、シャープ、商船三井、すかいらーくホールディングス、スズキ、SUBARU、住友化学、住友金属鉱山、住友商事、西武ホールディングス、Zホールディングス、セブン&アイ・ホールディングス、ゼンショーホールディングス、大和証券グループ本社、武田薬品工業、中部電力、ツルハホールディングス、ディー・エヌ・エー、デンソー、東海旅客鉄道、東京海上ホールディングス、東京ガス、東京電力ホールディングス、東芝、東レ、凸版印刷、トヨタ自動車、日産自動車、日本製紙、日本製鉄、日本電気、日本電信電話、日本航空、日本生命保険、日本電産、日本ユニシス、任天堂、野村ホールディングス、博報堂、パナソニック、東日本旅客鉄道、日立建機、日立製作所、ビックカメラ、ファーストリテイリング、富士通、富士フイルムホールディングス、ブリヂストン、マツダ、マレリホールディングス、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産、三井不動産、三越伊勢丹ホールディングス、三菱ケミカルホールディングス、三菱自動車工業、三菱重工業、三菱商事、三菱電機、三菱UFJフィナンシャル・グループ、村田製作所、明治、メルカリ、モスフードサービス、ヤマトホールディングス、ヤマハ発動機、ユニ・チャーム、楽天グループ、リクルートホールディングス、リコー、ローソン

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