2021年11月22日
「学生時代に力を入れたことは何ですか?」
多くの就活生が面接で聞かれる質問、いわゆる「ガクチカ」です。
面接やエントリーシートの準備に向けて考え始めているかもしれませんが、ある悩みが広がっています。
「新型コロナのせいで、書くことがない」
都内の大学3年生、逸見千夏さんは就職活動のまっただ中です。
不動産やIT業界を目指して、エントリーシートを書いていますが、どうしても手が止まるのが「ガクチカ」の欄です。
逸見さんはイベントの運営や広告の制作をするサークルに所属していて、本当ならそのサークル活動を「ガクチカ」にするつもりでした。
しかし、サークルで多くの役割を担えるはずの2年生の時、新型コロナの感染が拡大しました。
大学の授業は完全にオンライン化、構内には入れず、サークルも対面では活動できなくなりました。
最大のイベントだった大学のミスコンテストはオンラインで開催されましたが、感染防止のために関わる人数を制限され、逸見さんはほとんど役割を与えられませんでした。
大学3年 逸見千夏さん
「先輩から『就活ではチームで取り組んだことをアピールするといい』とアドバイスを受けて、サークルを頑張ろうと思っていたんですけど・・・正直、主体的に取り組んだエピソードがないんです」
ほかに「ガクチカ」に書けることはないか、浮かんだのはアルバイトの経験です。
自宅近くのカフェで2年間働き、もうすぐ時間帯の責任者を任されるくらいの経験を積んでいましたが・・・
ここでもコロナに翻弄されます。
カフェは時短営業になり、アルバイトのシフト自体が減らされます。
逸見さんもオンラインになった授業で毎回出される課題に時間を割くようになり、アルバイトに入る数が減っていきました。
「ガクチカ」でアピールできるほどには活躍できなかったといいいます。
大学3年 逸見千夏さん
「就職に向けて学生生活を振り返ると、なかなかこれを頑張れたと言えることがなくて。ほかの学生と比べたら『弱い』んじゃないかと感じてしまいます。コロナの影響は大きかったです」
逸見さんのようにコロナに翻弄される就活を経験したのは、1つ上の学年の先輩も同じです。
東北の大学に通う4年生の長岡杏珠さんは、大学を休学して海外留学することを決めていました。
それを就活でもアピールしようと思っていましたが、コロナで留学が中止。
まさに「ガクチカ」を失ったと悩みましたが、大学より前、人生すべてを振り返るような面接を経て内定を得ました。
長岡さんが内定したのは人材サービスのベンチャー企業。
この会社が新たな面接方法を始めたきっかけも新型コロナです。
実は、企業の側も「ガクチカで聞けることがない」と悩んでいたのです。
Thinkings 採用担当 城居秋馬さん
「コロナで2年間、自由に外に出られなくなった中では、大学時代にやってきたことを聞いても話してもらいにくい。ほかの方法でその方の人となりを、しっかり理解する必要があると感じました」
この会社が導入したのが「ライフラインチャート」という手法。
横軸に年齢、縦軸に幸福度をとったグラフを就活生に描いてもらいました。
幸せに感じる出来事があれば上方向に、悲しいことが起きたなら下方向に線を引きます。
長岡さんのグラフは中学の初めバスケットボール部になじめなかったころに最も落ち込みますが、卓球部に入って持ち直し、高校で短期留学を経験するとピークを描きます。
大学でも留学を決意し、さらにグラフが上向きますが、コロナで留学が中止になり大きく落ち込んでいます。
企業は実際にこのグラフをもとにして、人生すべてを振り返るように面接をしました。
採用担当者が重要だと考えていたのが、困難を乗り越えられる人物かどうか。
注目したのはグラフの谷から山に向かっていく時の気持ちでした。
中学で卓球部に入り直したことを聞くと、「部員3人の弱い部だったけど、練習に打ち込んで周囲からも認められた」というエピソードが。
さらに、大学時代の留学が中止になってしまったことを聞くと、「すごく落ち込んだけど、日本でも何かできると思い、国際交流のサークルをつくった」というエピソードが出てきました。
採用担当者が「自分の力で物事を変えよう取り組める人物」だと感じ、長岡さんは内定を得ることができました。
内定者 長岡杏珠さん
「留学もできず、大学の間だけだと『特に何もなかった』と思い込んでいました。でも、人生すべてを一緒に振り返ってもらえたことで、『自分なりに行動してきたことがたくさんあった』と気付けました。それを知ったうえで採用してもらえたので、頑張れると思います」
そもそも、サークルやアルバイト、課外活動ばかりが「ガクチカ」なのでしょうか・・・
学生の本分である「学業」こそ「ガクチカ」なのでは?
実は課外活動ではなく、学業への取り組み方をきっかけに企業に採用された人も少なくありません。
ビルの管理をする企業で働く、入社2年目の森瑛子さん。
この企業の面接では「履修履歴データベース」というサービスを利用しています。
学生が自ら提出した大学の履修科目や成績などを、同意のもとで採用選考に使うことができるサービスです。
企業側は応募してきた学生の成績と、登録している同じ大学の学部生の成績の平均値を比べることや、どんな科目を受けていたかといった情報を面接のきっかけにすることができます。
森さんの面接の時、採用担当者がまず聞いたのが「学生時代に力を入れた“科目”は?」という質問でした。
ポイントになったのが、その時の説明の様子。
1年以上継続的に取り組んだ「地域創生学」という科目について、熱量を持って詳しく、それでいて面接官にとっては初めて聞くような内容も分かりやすく説明しました。
会社では面接の評価基準のひとつとして、簡潔に深く説明できることと定めていて、森さんはまさに基準に当てはまる「強み」を持っていました。
さらに、その特徴をいかしてもらおうと、入社後の配属先は社内のITシステム部門に。
「文系」の森さんにとっては意外な配属先でしたが、分かりやすく説明できる強みをいかして、ITの知識に差がある人たち、それぞれに合わせた対応をして活躍しています。
森瑛子さん
「入社して配属を聞いた時はびっくりしましたが、今は楽しくお仕事をしています。大学の科目で培った、問題を探って解決するという能力はいきているなと感じています」
日本管財 採用担当 本柳弦子さん
「アルバイトとか部活の経験の話というのは学生は準備して、『武装』して面接に来るので、実は本当のところが見えにくいんです。大学で学んだことについては改めて用意する必要はなく、素で応えてくれるので特徴も見えやすいです」
この「履修履歴データベース」というサービス、新型コロナをきっかけに利用企業が2年間で2割増加し、470社で使われています。
サービスを開発した会社は、就活で学業への取り組みも重視されるきっかけになってほしいと考えています。
履修データセンター 辻太一朗 代表
「ビジネスでもスキルを身につけるためには学び続ける必要がありますが、学ぶ力は履修した科目や成績から推定することができます。そうやって企業が学業にも注目すれば、学生自身の学ぶ姿勢が変わってくるのではないかと期待しています」
実は「ガクチカ」の捉え方に学生と企業でギャップがあると、専門家は指摘します。
リクルートの調査で、学生と企業、双方に面接で重視していることを聞きました。
すると、学生側は1位「アルバイト経験」、2位「人柄」、3位「所属クラブ・サークル」。
一方、企業側は1位「人柄」、2位「企業への熱意」、3位「今後の可能性」。
企業はあくまで学生の人柄や可能性を知りたいと考えていて、サークルやアルバイトといった経験そのものを聞きたいわけではないようです。
リクルート就職みらい研究所 増本全 所長
「『ガクチカがない』というのは、学生からも企業からも聞きます。ですが、何かほかの人とは違うレベルで踏み込んでいった学びがあれば、どんな題材であれその人らしさが浮き彫りになるはずです。同時に企業の側も何を求めているか、もっと開示していけば課外活動ばかり重視する就活が変わるかもしれません」
取材:谷口碧
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