2021年05月12日
NHKの就活応援Twitterで自己肯定感に関するお悩みを募集したところ、数多くの投稿をいただきました。就活への具体的な悩みだけでなく、自分自身の価値を疑ったり、人生の目標が見いだせなくなっている人もいました。
小児精神科医で自己肯定感の研究者でもある古荘純一先生は「立ち止まることも必要」と話します。
就活は大切だけど、それだけですべてが決まってしまうわけじゃない。
就活の色んな場面で自分を責め続けている人たちが、少しでも希望を持って明日を迎えられますように。
(聞き手:伊藤七海 勝島杏奈)
学生
伊藤
就活に対して「そもそも目標を持てなくて頑張れない」、「自分で目標設定ができない」というお悩みも結構ありました。
「(就活をするのに将来の)高い目標を設定しなきゃいけないよ」と言われました。
しかし、私が高い目標を持ったところで、実現なんてできるわけもありません。まして、そんな目標を掲げることも許されないような気がします。
かなりつらい状況ですよね。
目標の立て方も「最初から会社の経営陣になる」とか、そんな目標じゃなくていいんですよね。
古荘先生
「みんなの調整役になりたい」とか「長く勤めたい」とか「1つのことに責任をもってやり通す」とか、そういうことでいいんですよ。
高い目標、低い目標というのも他者の評価です。自分の目標が高いのか低いのかということ自体の判断も自分で決められるんですよ。
就活ですと「希望する企業はあるけれど人気だから自分には無理かも」って、そもそも目標にすることをやめてしまうこともあるかなと思います。
1つの考え方としては、最初から自分でリミットを設定しない。とりあえずエントリーしてみる。
もう1つは行きたい企業だけれども競争が激しいとか、給与はいいけど自分の都合は通らないとか、そういうネガティブな情報があって、自分には向かないと思うなら、それを避けるというのも手です。
つまり「高い目標設定がマストとされる企業が、自分の負担になるようだったら選ばない」と考えるのも選択肢の一つなんです。
学生
勝島
自己分析をひたすらやって、自分が何をやりたいのか考え続けた結果、自分自身が何者なのかよく分からなくなって、その後も選択ができない就活生は、結構多いと思います。
そもそも、自分が何なのか分からない人はどうすればいいですか?
本当に迷うようだったら、1回立ち止まる勇気も必要です。
そこで分からないまま、やみくもに就活で力を発揮しようとしても、また必ずどこかで疑問にぶつかるはずです。
私が、質問されたら、こんなふうに答えます。
2つのことを並行して行うことが苦手な発達障害の学生さんの中には、卒業と就職活動を同時に目指すのが困難な人がいます。
その場合、私は、まず、卒業を先にしましょう。
その後に、就職活動に取り組みましょうとアドバイスします。
履歴書にブランクができるというリスクはありますが、それでもじっくり考える時間があった方がいいと思いますよ。
自分の存在意義がどこにあるのか見失うことが多いです。
インターンシップや本選考に落選すると、企業と合わなかったからとは思えず自分の力量が足りないから通過できなかったんだと思い込んでしまいます。社会から必要とされていない感覚になります。
(大阪府・男性・コンサルタント/メーカー志望)
自分の価値を疑ってしまう。私も実際あったんですけれども、こういう場合はどうすればいいでしょうか。
「誰からも必要とされていない」というのは、それは自分の頭の中にだけある発想ですよね。誰かに言えば「そんなことないよ」って、もちろん言われると思うんです。
自分の頭の中だけにあることに、次々とネガティブなことをくっつけてしまうんですよね。
自分でどんどん悪いことを考えてしまうし、そういう逆境の時は解決方法が思い浮かばなくって、行動面でも誰かに八つ当たりするとか、依存するとか悪い方向に向かいがちです。
そうですね。
ですから、ちょっと大変かもしれないけれど、ここでピリオドを打つってことをやっていただければなと思います。
そして、悪い情報をくっつけて否定的な連鎖に陥るよりは、そこでしばらく休む方が有効です。
「落ちたから自分なんて必要ない」とか「取り柄がない」とか思うかもしれないけれども、それは誰かが指摘したことではないし、自分の頭の中だけにあることです。
たしかに・・・。でも、どうしても考えてしまう時は、どうすればいいんでしょうか。
いったん(考えることを)ストップして、ストップしたときの気分転換として、絵を描くとか、運動するとか、自分なりのリセットの方法やタイミングを常日頃から考えておくといいかもしれません。
ありがとうございます。次の悩みです。
「面接やインターンシップのグループワークでうまく話せない」というお悩みもあったのですが、こちらの悩みについてはどうですか。
話している途中でつまづき、そこから焦って色々なこと (「次、何話すんだっけ?何が正解?」「なんでこんなにダメなんだろう」など) を考えてしまって、しばらく話せなくなってしまいます。
また、そのことを後から振り返って落ち込み、余計に話せなくなってしまいます。
(岡山県・女性・食品/化学志望)
精神医学的な「開き直り」っていうのが必要になるんですけれども、緊張するというのは誰にでもあるんです。
緊張する環境の中で、言葉とかジェスチャーで他人にわかるように表現して結果を出していく、それが目指す完成形。
ですけれども、完成形を出せる人は、ほんの一部だと考えてください。
もし結果が出せなかったとしても、自分で「こう話したい」というイメージが持てたとしたら、最終的な表現がうまくいっていないだけなんです。
なるほど。
場合によっては、それが言いたいけど言えなくてよく理解していることが、面接官に伝わっているかもしれない。
コミュニケーションにはプロセスがたくさんあって、企業としては完成形までできる人ばかりでなくて「発想が豊かな人」、「いろんなことをデータとして記憶しておいて比較するのが得意な人」、いろんな人がほしいと思います。
はい。
私もかなり緊張する方で、人の目を見て話せないんです。
えー!
緊張すると一気にしゃべってしまうから、それがプラスとなる面もあるし、逆にとにかく先にしゃべってしまうから、この人とは話が合わないって思われるかもしれません。
でも、そこがわかれば十分だと思うんですよね。
面接って、10分くらいで自分の人となりを説明しなきゃいけないんです。
いっぱい考えて準備しているからこそ、いざその場に来ると何からしゃべろうとか、いろいろ考えすぎてテンパって自分が何をしゃべっているのか分からなくなることがあるんですが、緊張との上手いつきあい方はありますか?
やはり20代というのは人生の中で一番緊張しやすい時期ではあるんですよね。
そうなんですか?
人前での緊張が極度に強いことを、日本では「対人恐怖」と言ってきましたが、医学的に「社交不安」と呼ばれています。
特に入社試験を受けるような大学を卒業するころというのは、「社交不安」の人の割合がかなり高まってくるので、緊張して当たり前なんですよ。
緊張しない人がいたらそれはラッキーだったね、くらいのところでいいんじゃないでしょうか。
10分の面接が評価のすべてってことではなくて、評価しやすい一部分だって開き直るということだと思います。
お話を聞いて、改めて難しい問題だなって思いましたね。就活って20年ちょっとの人生の中で一番自分と向き合わなきゃいけない時間だなって思っていたので。
コロナ禍になって、私の周りに精神的な悩みを抱えている人が増えたように感じています。
精神医学では、恋愛の失敗とか、信頼する人の裏切りとか、身近な人が亡くなったとかそういう人生の出来事に加えて、就職活動っていうのもかなり精神症状を顕在化する大きなイベントになるんですよね。
だから、立ち止まるとか、無理をしないとか、それが全てじゃないということを考える余裕とかが必要だと思いますし、周囲の人もそれを許容する考え方が必要だと思います。
多くの就活生が、コロナで家から出なくなって、必然的に1人で考える時間も増える一方、人から褒められたり、何気なく友達としゃべっている時に気づきがあったりっていう機会がなくなっているんじゃないかと思います。
結局、人に会うとかソーシャルな活動をすることで、悪い方向に向かう考えを止めるっていう解決法を無意識にやっている人が多いんですね。
それがなくなっている今、就活生は非常につらいと思います。こういう話を聞いて、少し気持ちが楽になる人がいればいいと思います。
学生たち
ありがとうございました。
そもそも「自己肯定感」って何なのでしょうか。古荘先生に解説してもらいました。
最近よく聞く「自己肯定感」って何ですか?
編集 吉岡真衣子 撮影 白賀エチエンヌ
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