2021年04月09日
社会に出ると、あらゆる場面で顔をのぞかせる「リーダーシップ」と「チームワーク」。
今回、学生リポーターが取材したのは、サイバーエージェントの藤田晋社長です。
ベンチャー企業を社員数5000人規模に成長させた藤田社長には、働き方が変革する時代だからこそ、あえて、今の若者たちに伝えたい「思い」がありました。
(聞き手:伊藤七海 西澤沙奈)
よろしくお願いいたします。
きょうのテーマは「リーダーシップ」と「チームワーク」です。
まず率直にリーダーの役割で、いちばん大事だと思うことを教えていただけますか。
基本的には、“リーダーはみんなをまとめ上げる仕事”なんですよね。
たくさんの人が集まって1つの仕事を成し遂げるのが会社なので、みんなを同じ方向に向かわせて結果を出していく、それがリーダーのシゴト。
「天才IT起業家出現」「ジャパニーズドリーム」ともてはやされたが、直後のITバブル崩壊で株価が暴落、買収の危機に。その後も幾多の変革期や荒波を乗り越え、経営するサイバーエージェントは、社員数5000人規模の大企業に成長。
ただ、やり方は、昔と今では変わってきていますね。
どういった点が変わってきたんですか?
昔は、社長が社長然として、部下も「社長!」とひれ伏すような、“お偉いさん”という感じだったでしょ。
でも、今は、SNSやインターネットの影響もあって、社長ってそんなに大したものではないと、バレるようになっちゃったんですよね。
どういうことですか?
社長がすごく威張っていたとしても、ネットでの発言を見れば、考えていることが全部わかってしまうでしょ。
(社長という)役職の権威によって、みんなをついてこさせることが非常に難しい時代になったんですよ。
トップダウンからボトムアップに変わったということですか?
そうです。トップダウンが非常にやりづらい時代になったんです。
昔はカリスマっぽく高圧的に振る舞えたけど、それすらもバレてしまうようになった。
企業の規模が大きくなったら、社長って「雲の上の人だな〜」みたいな感じで、遠い存在になるような気がするんですけど……。
今でもあるかもしれないけど、昔ほどではないですよ。
昔は、課長、部長、という役職が特権階級になってたんですよね。社長に近いところで情報が止まって、一般社員には共有されない、といったように。
でも、今は、僕も普通に新入社員とSNS上で会話するぐらいだから。
なるほど。
今もトップダウン型のリーダーもいるけれども、昔ほど、それをやりやすい時代じゃなくなって、代わりに“サーバント・リーダーシップ”が出てきたんですよね。
サーバント・リーダーシップ……?
貢献型というか支援型。
みんなが働きやすい環境とか、能力を発揮しやすい環境を作り、みんなの力を引き出して結果を出していくタイプのリーダー。
結局、(みんなを)同じ方向に向かわせるっていうのは、どういうやり方であれ必ずやらなきゃいけないんですよ。高圧的であろうが支援型であろうがね。
それがリーダーの役割だから。でなければ(リーダーとしては)「仕事をしていない」のと一緒なんです。
ただ、僕の時代くらいからは高圧的なやり方が通用しなくなった。
自分と同世代の社長で、有名な人だと堀江貴文さんや前澤友作さんがいるんですけど、みんな会社でそんなに威張ってないですよ。
そうなんですね。
威張れないです、もう。時代が変わってしまった。
藤田さんご自身は今、どういうリーダーシップを心がけていらっしゃるんですか?
それは完全に後者(サーバント・リーダーシップ型)ですね。
「社員が働きやすい環境」や「成長しやすい環境」、「モチベーションが上がるような仕掛けとか仕組み」をいっぱい作っていく。
「社員の能力を引き出す」ことで、「会社の業績を伸ばす」というスタイルです。
では「リーダーシップとは」を一言でいうと?
うーん、一言でって、ちょっと難しいんだけど。
「貢献」ということになるかな。
時代的にはそぐわないけど、実は、昔のやり方(役職の権威によってみんなに言うことを聞かせる)のほうが、やりやすかったってことはあるんでしょうか?
それはそっちの方が簡単に決まってます(笑)
なぜかというと、トップは人事権を握っているんですよ。誰しも、自分が望む仕事をしたいと思いますよね。
はい。
でも、どんな優秀な社員でも、職場異動させられたらやりたい仕事ができなくなるから、人事権を握られていると言うことを聞きます。
そういうやり方でも結果を出す経営者はいるので(結果を出すことだけ考えれば)本当はなんでもいいと思います。
だけどそのやり方が通用しなくなってきているということなんです。
今のお話をお聞きすると、2019年度の入社式で、藤田さんが新入社員に対して「No Pain,No Gain」と厳しい言葉をかけられたというリーダーシップのあり方と、若干矛盾するところがあるかなと思ったんですけど。
この時はどういう意図で新入社員にこの言葉を贈ったんですか?
2019年度入社式で、藤田晋社長が新入社員に向けて「楽をして得られるものは何もなく、仕事で辛いことがあったり、大変なことが起こるほど、自身にとってのキャリアアップであり、成長に繋がる」として、あえて「No Pain,No Gain」という言葉を贈り、内外から反響があった。
2019年当時、世の中が「働き方改革一色」だったんですよね。
確かに……。
長時間労働を是正して、仕事の効率を上げるべきだ、と。
この考えは、ある程度のベテランの人だったらその通りなんです。「無駄な仕事はやめて、重要な仕事に集中すべき」というのは。
でも、今から仕事を始める新入社員が同じ事をしたら、かつての先輩よりも成長が遅れてしまうので、「ある意味損をするよ」ということを、情報として伝えたんです。
世の中全体が働き方改革一辺倒という空気だったので、「2019年前後に新社会人になった人たちだけが、その強い影響を受ける可能性」を考えて、あえて逆側のことを言ったということです。
そうだったんですね。
仕事というのは、やっぱり痛い目にあったり憂鬱なことがあったり、そういうきつい目にあうことで、いちばん成長するので。
就活中の学生は「楽しいことを仕事にしたい」とか、「やりたいことをやれる仕事に就きたい」と考えている人も多いと思うんです。
その……何でしょう、「憂鬱な仕事」というのは、こなしていくうちに「楽しい仕事」になっていったりするんですか?
それはですね、根本的に就活中は、そこに気づかないかもしれないですけど。
「自分が得意な仕事が楽しい仕事」なんですよ。
なるほど!
自分ができる仕事が楽しい仕事。
例えば、「数学がすごく得意」だと、「数学って楽しいな」ってなるし。
そうですね。
「英語が得意」だと「英語って楽しいな」と思うじゃないですか。
はい。
でも、よく考えてみたらそんなに楽しくないですよ、英語も数学も(笑)
たしかに(笑)
会社というのは事業内容が違っていても、仕組みはだいたい一緒なんですよね。
映画を作っていても服を売っていても、基本的には「ものを作って販売して投資して」というように、営利目的でその繰り返しが行われているものなんです。
その中でやっぱり「仕事が得意であれば仕事って面白い」んですよ。
はい。
仕事を得意になるためには筋トレと一緒で、ある程度苦しさを通り越さないとできない。
仕事ができなければ仕事が面白いと思えなくて、夢中になることもできないですから。
最初から得意なわけはないから、筋トレする、みたいな感じですか。
「最初のうちにめちゃくちゃ頑張ると得意になっていく」んですね。
それを20代の最初にやっておくといい、ということですか?
20代前半は、サービスタイムみたいなものなんですよ。
サービスタイム?
勝負どころです。新入社員の最初のころは、先輩社員がみんな面倒を見て色々教えてくれるし。
だから最初めちゃくちゃ頑張る。「仕事ができるな」と思わせれば、あとは楽になる。
とはいえ、「憂欝じゃなければ仕事じゃない」っていう感じって新入社員の方たちには実際どう受け入れられてるんですか?
基本的にはサイバーエージェントは、強制するような組織じゃないので、情報として伝えるけど、あとはお好きなようにという……。
刺激を受ける人もいるし、マイペースな人もいます。みんなそれぞれ考えてやっていると思います。
リーダーって、物事を決めるときに長い目で判断しなきゃいけないじゃないですか。そういった俯瞰力はどうやって養われてきたんですか。
麻雀ですね。みなさんは、ご存じないかもしれないけど(笑)
麻雀・・・!
麻雀って1局2局って対局が進んでいくんだけど、その場、その場の「目の前ばかりを見て判断している」と結局、最後は全体で負けたりするんですよね。
俯瞰力というのは、そういうゲームから学んだ部分もありますね。
あと、適度にいい加減な性格をしていることも必要です。
本当に真面目な社長って、逆に間違えやすいですよね。
というと?
真面目すぎると、今期は赤字になる、明日どうしよう?来月はどうしよう?という考えになっちゃうじゃないですか。
そうではなくて、今は先行投資で赤字でも、3年間のトータルで見ればプラスになる、といった考え方ができないといけない。
なるほど。
例えば、遊園地を造るのに1000億円の投資をして、敷地を増やしてアトラクションを作るということを、10年かけてやるとするじゃないですか。
10年間で1000億円の赤字になるんですよ。
想像できない額です。
実際には、開園してから収入が入るようになり、どこかで損益分岐点を超えて利益が出る。それが長い目で見られるかということです。
会社って基本的にはそういう構造になってるので、俯瞰できることがリーダーには必要ですね。
それも麻雀を通して学んだものですか?
麻雀ですね(笑)
つまり経営と麻雀が似てるって事ですか?
麻雀って1回負けるとすごく負けたような気がするけれども、その日1日で10回やるんだったら全体で勝てばいいだけなので、あんまり気にしなくていいんですよ。
「もうダメだ、こんなに負けてる、次は勝たなければ」という気持ちになりがちなんだけど、10回の中で取り返せばいいっていうのが俯瞰力。
なるほど。
株も株価が下がってる時は、すごく損した気分になりますよね。
でも、焦らず保有しておいて、今後、買った時より株価が上がった時に売ればいいんだと考えておけば大丈夫。
そのメンタルはやっぱり痛い経験をしていたからこそでしょうか?
痛い経験の積み重ねによるものですよ。やっぱり、楽したら成長が止まるんです。
「No Pain,No Gain」って、話をさっきしましたけど、僕もやりたくない仕事をいまだにやってますよ。
そうなんですか?
「いやだけどやってる」っていうのは、大変な仕事なんだけど、大抵は、のちのち自分の力になっていくものだなって思います。
どうしても、「仕事は楽しくやった方がいいんじゃないか」と思っちゃうんですけれども・・・。
そんなぬるま湯に浸かっていると、あとあと自分にしっぺ返しが来ますかね?
わかってもらえないかもしれないけど、仕事が得意になればどんな仕事だろうがめちゃくちゃ面白くなります。
でも、この服のブランドが好きだからこのアパレルに入ったとか、この芸能人が好きだからマネージャーになりましたっていうのは、わりとすぐに飽きる。
好きなことと、得意なことは大抵は別なんです。
痛みを伴う仕事が大切ってことはすごく分かったんですけど、逆にやらなくてもよかったなっていう仕事はありますか。
僕はかたっぱしから全部やっていました。アポイントも入れられるだけ全部入れて、取材も全部受けて、それをやって初めて僕は取捨選択できるようになった。
経験をしていない若いうちから取捨選択するのは無理なので、効率重視を若者にまで押しつけるのは限界があるのではと思います。
じゃあ若いうちはどんどん目の前にある仕事を・・・
やって初めて分かるんです、これはいらなかったなって。
経験してみることが大事という事なんですね。
リーダーに必要な俯瞰力は麻雀で身につけたという藤田社長。
後編では、「チームワーク」についても聞いていきます。「藤田晋社長が一緒に働きたいと思う社員はどんな人ですか」はこちらから。
編集 吉岡真衣子
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