2021年07月13日
(聞き手:小野口愛梨 堤啓太 徳山夏音)
人気女性ファッション誌VERYの編集長を10年以上務める、今尾朝子さん。「自分に自信がなかった」と、実は就活では出版社を受けてすらいません。どうやってキャリアをつくっていったのか?そして、ママとして子育てと編集長の両立は?
今尾さんは、どんな学生だったんですか。
働くのが楽しみでしかたがなかったです。
そのころは総合職と一般職と分かれて採用している会社も多くて、できればずっと働きたかったので、総合職で仕事をつかみたいと思っていました。
光文社 VERY編集長 今尾朝子さん
1971年生まれ。フリーのライターを経て、光文社に入社。2007年からVERYの編集長。同社として女性がファッション誌の編集長に就いたのは初めて。出産・育休も経て、子育てをしながら仕事を続ける、ママ編集長。
学生時代に2年間、新聞社でバイトをしていたことがあって。
スポーツ新聞のF1担当の雑用係みたいなものを、大学の先輩からバトンタッチしてもらいました。
はい。
海外の記事を訳す仕事っていうことで、英語ができる人を探していると。
でも、ぜんぜん英語得意じゃなかったんですよ。
えっ?
英語の記事を渡されて、「これを訳してみて」って言われたんですけど、平気な顔して「分かりました、おうちで訳してきます」って言って、意気揚々と持って帰ってクリアしました。
あとで考えると、多分、その場で訳してほしかったんだと思うんですけど。
そうですよね、きっと。
本気で仕事をする大人たちと触れ合い、大人としてちゃんと扱ってくれて、学校に行くより新聞社のバイトに行くのが楽しくてしかたがなくって。
記者の仕事ってかっこいいなとか、文章が上手な方の記事って本当に素敵だな、憧れるなっていう気持ちが芽生えたと思います。
ただ、就職活動に関しては、私は女子大だったんですけど、先に早慶上智とかの面接が終わって、そのあとに私たちが面接してもらえるっていう順番があると思っていて。
「どうせ受かんないよ」って自己肯定感が低く、マスコミに憧れはあったけど特別なものは何一つ持っていなかったし、そのための努力もしてこなくて。
そうなんですか。
そこで、数字が嫌いじゃなかったので、ほぼ金融をメインに受けていました。
ただ、好きだった衣食住を扱う会社があって、そこは異業種でしたが受けました。
金融系の早さと違って5回くらい面接してくださって。
これだけ自分のことを見て、必要としてくれたとうれしくて、就職を決めました。
でも、3月の研修期間で「私は居場所を間違えたかも」と不安を感じて、退職したくなっちゃったんです。最低ですよね。
あれっ?
4月の入社式の日に、駅で転職情報誌を買ったのを覚えています。
みんな就職してちゃんとお給料もらって頑張っている中で、自分だけ落ちこぼれてしまって。
どうしようって思っていた時に、友達から「記者になりたいって言ってたよね」と、光文社のCLASSY.という雑誌のフリーランス契約の記者募集を見せてもらって。
入社して3か月が過ぎたころでしたが、「それがやりたい!」って、そのとき本当に遅ればせながら思ったんです。
やりたいことに気づいたんですね。
ただ、実は私CLASSY.を読んでなかったんですね。
ライバル社のファッション誌は読んでいて、どうしてCLASSY.よりもそっちがいいかを面接でいくらでも言えたんです。
そしたら、「そこまで言うんだったらやってみたら?」と言っていただいて、採用してもらいました。
それから光文社でお仕事をされたんですか。
3年くらいフリーランスのライターをしていました。
ただ、本をいっぱい出すような才能がある人だったらずっとフリーでやっていけるんでしょうけど、私にはそういう才能はないと自分で分かっていて。
それに、社員ではないので、この写真を大きくしたいとか、メッセージをもっとこう伝えていきたいのにとか思っても会議に入れてもらえず、シャッターが閉まってしまう感じがしたんです。
それで、あっ私は編集者になりたいんだなと、次の目標が見つかったんです。
なるほど。
そしたら、たまたま10何年ぶりに光文社が既卒採用しますっていうのが出ていて、採用していただきました。
ずっと出版社への憧れがあったんですか。
雑誌はすごく好きで中学生くらいからずっと読んでいて、大事にしていた雑誌をとってあるような子でした。
ただ、自分にあまりにも自信がないから就職先として結びつけないほうがいいと思っていて、別の業種できちんと手に職を得て地道にやっていけたらいいなと思っていました。
努力もせずに、臆病だったからかもしれません。
私は出版社に興味があるんですけど、高倍率・高学歴だったり長時間労働だったりってイメージがあって・・・
今尾さん自身も、就活の時は無理かもしれないと思われたんですね。
自分の分析は間違ってなかったと思います。
自分への自信のなさに対して準備をすればよかったのかもしれないけど、私はそんなにできた学生じゃなかったので、諦めていました。
はい。
経験が自信をつけてくれるっていうのがあって、あとで気付いたとしても、間に合うと思います。
20代で1年違うとか、私の場合は入社した時点で4年違ったんですけど、それが遅いか早いかっていうと、20代の数年ってそんなに差はないと思います。
ありがとうございます。
編集長になられたあと、ご自身もママになって変わったことはありますか。
編集長になって、子どもがいない時期と子どもが生まれてからの時期が半々ぐらいだと思うんですけど、自分は全く変わっていないと思います。
読者に対する愛情は同じなので、子どもがいないから記事がつくれないわけでも、人に対しての想像力が持てないわけでも決してないと思います。
そうなんですね。
逆に自分が体験してそれが全てになってしまうとよくないですよね。
私が乳児を育てた時期なんてもう6年も前の話だけど、それを引きずって「あの時こうだったから、みんなこういうことが知りたいはず」なんて思っても、6年前と今じゃ育児グッズもママたちの見方も違います。
なので、チームに男性もいてほしいし、子どもがいるいないに関わらず色んな編集者がいて面白い雑誌をつくっていきたいなって思うし、そういうのが理想ですかね。
私のイメージだと、子どもを産んでから復帰をするのって勇気が必要なのかなと思ってしまって。
育休から戻る時、今尾さんのお気持ちはどうだったんですか?
ブランクがあって会社に戻るのが不安かどうかというと、多かれ少なかれみんな不安はあると思います。
まだ産んで数か月だとホルモンバランスもきっと前とは違ったり、体に劇的な変化が起こっているまっただ中なので。
コピー機ってどうやって使うんだっけ、自分の暗証番号なんだっけって立ち止まってしまうと聞いていたんですけど、私も本当にそうなりました。
えー、大変なんですね。
でも、みんなが「帰ってきてよかった」って言ってくれたのが、一番モチベーションにつながりました。すごく嬉しかったですね。
今うちは2人育休の部員がいて、先週1人帰ってきたんですよ。
自分の人生だから最大限育休を使うのもありだし、自分で決めればいいことなんですけど、私は帰ってきてくれて本当に嬉しかった。
休んでいる間にいろんな経験をされたと思うから、客観的に私がその話を聞いてみたいし、1年や2年のブランクでスキルが落ちるというものでは決してないです。
大丈夫なんですね。
逆に同じことずっと続けるよりも、1回リセットしてバージョンアップできるぐらいの気持ちでいてもらえればいいんじゃないかな。
日々生活していていろんな気づきがあったら、それをちゃんと引き出せる社会でありたいですよね。
スケジュールも見せていただきました。
お仕事の時間をしっかり区切っている感じがしていて、お子さんとの時間を作るためということですか。
子育ては楽しいし、私にとって大切な時間です。
でも、そもそも、そうしないと子どもの世話をする人がいないから、当たり前のことでもあるんです。
子どもがいる時といない時では仕事の時間が半減しています。
でも、妊娠した時から数えるともう7年くらいなので、これが逆に当たり前になって、あの異様なブラックな働き方をしていた時がおかしかったんだなって思っちゃいます。
今が当たり前になったんですね。
基本9時半5時半で、私が会社にいる時間は部員たちが相談をしたり会議開いたりを優先しています。
今はオンライン会議も多く、外出も減ってだいぶ時間の使い方が変わってきました。
効率化した部分もあれば、雑談が減ったのはいたいなと感じることもありますね。
本当は夫と家事育児が半々にできるのが理想ですけど、それはそれぞれの家庭の事情にもよると思います。
はい。
うちはまだ、もろもろ半々にはできていなくて、現状は週1で私が遅くまで働ける日があるっていう感じなんですけど。
家族とか自分がハッピーじゃない働き方をしていたら部員もついてこないだろうし、あきらめずによりよい働き方を常に模索しています。
できていないことはいっぱいあるんですけど、諦めることも大事かなって思います。
子育てしながら編集長のお仕事もされて、本当にすごいなと思います。
今尾さんにとって「子育て」とは、教えてください。
明日聞かれたら違うことを話していると思うんですけど、「こどもの未来はママ(パパ)の未来」。
私自身は子育てがすごく楽しいし喜びでしかなくて、かわいくてしかたがないし、宝物っていうと依存症みたいですけど(笑)
パパもママも自分の子どもが生まれて、子どもの未来をよくしたいってみんな思うんです。
読者の方から伺うお話だと、「仕事との両立が難しくて、これだけ家庭にしわ寄せが来るんだったら一度キャリアは諦めたほうがいいのかな」とか。
はい。
子どもの未来を考えるのは親の義務だし、当たり前の気持ちかもしれないですけど、ママの未来を止める必要はないんじゃないかなって思って。
子育てをしながら、こどもの未来と自分たちの未来を両方走らせる。
両方ですね。
自分たちも一人の大人として、社会に何ができるのかとか自分をどう活かすかとか考え続けていけたら両方ハッピーなのかなって。
そんな子育てをしていきたいなって思います。
本日はありがとうございました!
編集:加藤陽平 撮影:梶原龍
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