2019年03月08日
(聞き手:工藤 菜摘)
自治体の広報紙というとお堅いイメージがありますよね。でも、もし書店に並ぶようなオシャレな広報紙があったら…。今回の先輩は、“手に取りたくなる”広報紙を手がけ、「自治体広報日本一」にも輝いた埼玉県三芳町の公務員、佐久間智之さんです。実は、公務員になる前は、ビジュアル系バンドのメンバーだったとか。25歳で就職した町役場で“天職”と出会った佐久間流の情報活用術を学生リポーターが取材しました。
学生リポーターの工藤です。よろしくお願いします!
まず最初に現在の仕事の内容を教えてください。
今は民間企業に(去年6月から)出向しています。民間のノウハウを吸収して、三芳町に還元する事をしています。研修で例えば営業に同行させていただいて、そのビジネス感覚を学んでいるんです。
埼玉県南部にある三芳町は、人口約3万8000人。ベッドタウンとして発展しつつ、武蔵野の豊かな自然も色濃く残ります。HPでは「東京から一番近い『町』」をPR。
三芳町では「広報紙」を担当していました。取材して撮影して、テキスト化っていうのが日常の業務。それに加えてSNSなどへの投稿もやったりしていますよ。
なるほど。
(民間に出向中ですが)今は、テレワークでできるので、例えば後輩から「広報紙の構成をちょっと見て」となった時は、画面上で見てチェックしてLINEでこうした方がいいんじゃない?みたいな事もできますね。
左側の2冊が、取り組みを始める前の三芳町の広報紙。右側が新しいもの。どれを手に取りますか?
え、全然違う…。絶対に右の広報紙を手に取ります!
そうですよね。文字の書体を読みやすいフォントに変えてみたり。
それから、大事なのは広報紙の主役は住民!ぼくは全部、住民の正面の顔写真しか使わないんですよ。そのほうが読んでいて読者と目が合って会話ができるんです。
こんな風におしゃれになったんですね。仕事のやりがいや魅力を教えてください。
自分がつくった広報紙で町のファンが増えてるなって思った時がすごくやりがいを感じますね。
広報紙は僕の中で「ファン」づくりなんです。それは2つの意味で、「FUN」と「FAN」をつくるってこと。
町の情報を発信して、イベントなどで楽しんでもらってファンをつくるんです!
1日のスケジュールで、リアルタイム検索を見ているのはなぜですか?
やっぱり、トレンドを知るって非常に重要で。旬な情報って、お魚みたいなもので、すぐ鮮度が落ちていくじゃないですか。どういうものが流行ってるのかやっぱりアンテナを立てないと、どんどん古くなっていくので。リアルタイム検索と、あとはYahoo!トップのニュースとかはサーチしています。
それからリアルタイム検索することで行政では把握できない情報も入ってくるんですよ。例えばNPOの活動で、犬の里親募集中とか。こういう情報は一般的に拡散している人の情報を拾っておくんです。そしてその情報を町の担当課に伝えて施策や対応に活用しています。
他にはどんな情報に関心を持って入手・活用しているんですか?
「リスクマネジメント」や「クライシスマネジメント」につながる情報に注目していますね。
リスクマネジメントはわかりますが、クライシスマネジメントって何ですか。
リスクマネジメントは危機を未然に防ぐこと。クライシスマネジメントは、起きた危機にどう対応するのかといったイメージですかね。
例えばこのところ、自治体だけでなくて企業でも、スタッフの不適切な動画がSNS上で炎上して会社が損害を受けて謝罪するケースがありますよね。マネジメントができる企業は、どのタイミングで世の中に公表をしているのか、そしてどんな内容を発表しているのかを時系列で追いかけることをやっています。
SNSの発達した社会では早め早めに対応することが大切で、むしろ、早急に対応することによってマイナスをプラスにするような企業が結構あるんです。いろんな企業の対応を見る事で、三芳町に置き換えて考え、自分のスキルアップに活用していますね。
そもそもなんですけど、なぜ公務員という仕事を選ばれたんですか?
あの・・・経緯を言うと少し長くなるんですけど、僕、22歳までビジュアル系バンドやってたんですね。
えー、そうなんですか!?
バンドで飯食おうと思って、4年間くらいバンド時代がありました。
で、2年間、専門学校に通ったあと25歳の時に三芳町に就職したんですけど、当時は公務員に入るときのリミットが25歳までだったんですよ。だからそこを逃すともう後がないわけですよ。
なぜ三芳町を受けたかというと倍率が低いから(笑)
倍率!?
倍率が低い根拠は、三芳町は当時ホームページがなかったんですよ。自治体でホームページがないのは、かなり誰も知らないだろうと。だから僕、逆にホームページがない自治体を調べまくったんですよ。
逆の戦略ですね。
僕は、三芳町の隣の富士見市に住んでいました。市と町の境のあたりだったから、一歩またいだら三芳町だったんですね。でも、僕、富士見市に引っ越してきてから3年間くらい、三芳町の存在を知らなかったんです。
東京育ちで、埼玉の市町村を知らなくて。自分が3年いて知らないような町は、これは倍率は低いだろうと。当時は一つの自治体しか受験できなくて、僕はとにかく誰も受けないようなところを探しました。
広報紙をつくる時のことも伺いたいのですが、紙面に載せる情報の入手で工夫されていることはありますか?
SNSもそうですし、日常生活の中でもそうですし、「トレンド=流行」をつかむことを意識しています。
結婚式ではやっていますけど、「フォトプロップス」ってわかりますか。
フォトプロップス?
写真を撮影する時に使う小道具なんですけど、みんな手作りのフレームを持って、そこから顔を出して撮影、とかありますよね。すごく結婚式でやってて、これでみんな笑顔になるんですよ。
そこで「LOVE MIYOSHI」というボードを住民に持ってもらって撮影する試みを始めました。
狙いは何ですか?
1つ目はその写真を広報紙に載せて住民主役の広報紙をつくること。
2つ目は住民の写真を表紙にして差し上げるんです。
家族写真になるし、家に置いてもらえれば、お客さんが来た時に「三芳町ってこんな町なんだよ」って、住民自身が発信してくれる。
3つ目は、このデータを住民にプレゼントするんですね。年賀状に使ってもらいたくて。
そうすると「LOVE MIYOSHI」を全国に拡散できますよね。
就職活動についてもお聞きしたいのですが。バンド時代って、ニュース見ていましたか?
それ、愚問ですよね(笑)でも、今になって面接をやる側になって思うのは、学生はネットサーフィンだけで終わってる感じがしますね。自分の好きな情報しか取りに行かない。
まあ当然なんですけども。自分の能力を上げるためにサーチしているのか、それとも自分が好きだからいくのか。プッシュとプルのところのすみ分けができていないと思うんです。
といいますと?
顔の見えるコミュニケーションが大切じゃないですか。コミュニケーション能力を上げるっていうことは、好きな情報だけじゃなくて話題づくりになる今のトレンドをこちらから話したりすることも求められると思うので、さまざまな情報にアンテナを張ることがポイントでしょうね。
こういうの書くの、すごくテンション上がりますね。後で写メ撮ろう(笑)
ぼくにとって働く=「たのしごと」です!
「たのしごと」ってどういう意味ですか?
何か、結構つらい事があっても楽しい。何でも楽しい事に変換することによって、ポジティブに仕事ができるようになっているので、前向きに考えるっていう意味で、「たのしごと」を意識してます。
まさに僕の「たのしごと」論がぎゅっと詰まっているのが広報紙です。
自分がやった事がすごく住民に伝わるし、喜んでもらえるのでうれしくて楽しい。本当に楽しいですよ。だから広報紙=生き様ですね。
佐久間さんがつくった広報紙は、ポップで本当に書店に並んでいる雑誌を読んでいる気持ちになりました。また、就活生の私にとっては、トレンドをつかむ重要性は身にしみて感じることができました。ぜひ三芳町に行ってみたいです!