教えて先輩!「少年ジャンプ+」副編集長 籾山悠太さん【後編】

Gペンがペイントツールに 時代の変化を面白がる

2021年01月29日
(聞き手:石川将也 佐々木快)

漫画誌編集部→デジタル事業部→漫画誌アプリ編集部、というキャリアを進んだ「少年ジャンプ+」副編集長の籾山悠太さん(38)。スマホで見られる漫画誌アプリのスタートから6年、デジタル分野で新事業を次々立ち上げるなど、「デジタル×漫画」の未登頂の山に登り続ける籾山さんの原動力とは?

たぶん、運命……?

学生
佐々木

籾山さんは学生の頃から漫画編集の仕事に携わりたいと思って就活していたんですか?

僕は就活をしていたときは実は志望が違いまして……。

籾山さん

えっ、そうなんですか??

新聞記者とか、NHKの報道の仕事とかをしたいと思っていました。

実は報道志望だったと話す籾山悠太さん

籾山さんがいかにして「ジャンプ+」を立ち上げたのかはこちらから

教えて先輩!「少年ジャンプ+」副編集長 籾山悠太さん【前編】

学生たち

えー!

なぜそこから漫画の道に?

なぜ……(笑)そうですよね。僕、マスコミでは受かったのが集英社だけで。

そうなんですね。

漫画自体は好きで、趣味を聞かれたら「漫画」って答えるくらいだったんですけど、配属になったのが漫画の編集部だったんですよね。最初は「月刊少年ジャンプ」っていう編集部だったんです。

報道を目指して就活して、なぜか漫画編集部に。

はい。自分でそこを目指したっていうより結果的にそうなったという……。

導かれた……運命みたいな……?

そうですね(笑)就職活動のときは、志望している分野はあったんですけど、別にその仕事の経験があったわけでも、めちゃくちゃ詳しかったわけでもなく、でも就活中に聞かれたことには素直になんでも答えてました。会社の人の方が仕事内容に詳しいわけじゃないですか。

学生
石川

はい。

きっとこの人にはこの仕事が向いているんじゃないかと考えて、漫画の編集部に配属したんじゃないかなって、楽観的に考えています。

漫画の仕事に長らく携わっていらっしゃると思うんですけど、実はやっぱり報道をやりたいんです!とか今思われてないですか?

今はないですね(笑)もちろん会社員なので急に異動して違う仕事をするかもしれないですけど、今は、こんなにやりがいのある仕事はないと思っています。

そうなんですね!

僕はもともと漫画には興味があったけど、デジタルには詳しくなくて、でもデジタル事業部を経て、デジタルの仕事と漫画編集者の仕事と両方経験があったタイミングで、今この仕事ができている。

このめぐりあわせには、勝手に自分で使命感を感じているくらいなので、他の仕事をやりたいというのは今はないです。

社会人になると「出る杭は打たれる」みたいなイメージがあるんですけど、プレッシャーみたいなものはありますか?

作家さんや一緒に仕事をしていただいている人への責任は感じますが、ジャンプって前向きな部署なんですよ。過去は振り返らず、次はどんな仕事ができるかな?と先を見る文化なのでプレッシャーは感じていないです。

ジャンプ編集部での仕事をする籾山さん(写真提供 籾山さん)

次々と新しい事業に挑戦される原動力は何ですか?

僕、新しいものが好きなんですよ。旅行も好きなんですけど、それも初めて行く場所が好きで。

“デジタル×漫画”の仕事は、まだ未開拓なのでやることがどれも新しい。誰もやっていないから、どんな結果が出るかわからないし、山でいう初登頂したっていう感じが面白いんです。

そういう好奇心的な部分が原動力になっているんじゃないかと自分で思います。

新しいアイデアとの出会い

これから就職する僕たちも、新しいものに対応できる社会人になりたいって思うんですが、新たな才能や流行を発掘する時にどんな基準でこれはいける!って思いますか?

大変申し訳ないんですけど、僕、あんまりそういうのがなくて……。いまだに「どういうものがヒットするんだろう」と悩みながらいろんな仕事をしています。やってみた後、手応えを感じることはありますけど。

ツイッターで知り合った大学生に会ったというツイートもありましたが、新しいアイデアを取り入れるためにどんな情報収集をしていますか?

籾山さんのツイッター投稿「漫画のUIに対して物申したいという大学生に会ってみた」

ツイッターは今、自分が関心がある分野や人があればそれに関するアカウントをフォローして、知りたい情報を集めます。

もう一方で、はてなブックマークとかヤフートピックスとか新聞とか、もう少し客観的に情報が出ているところをチェックすることでバランスを取るようにしています。

さきほどの大学生のように、若者と会う機会を増やしたりもしますか?

できるだけしています。「少年ジャンプ+」は幅広い読者に読んでもらえてありがたいんですが、やっぱり若い読者が多いというのは嬉しいことなので、若い人の感覚が分からなくならないよう、少しでも話す機会を持つのは大事だと思っています。

デジタル時代の才能発掘法

デジタルの現場での新しい才能の発掘では、どんなことを心がけていますか?

これまでの数十年間は、漫画雑誌単位で、漫画賞とか作品を編集部に直接持って行きたいという持ち込みの電話からの新人発掘が多かったんですよね。漫画雑誌の影響力が大きく、作家さんもそこに載りたくて集まってきた。

はい。

でも今は、状況が変わってきていまして、ジャンプは今でもたくさん才能のある作家さんが集まってきますが、その他の漫画雑誌や「少年ジャンプ+」のような新しく始まった媒体に関しては最初すごく苦労したんですよね。

そうなんですか?

漫画賞への応募の数も減って、持ち込みの電話もかなり少なくなっている漫画編集部は多いと思います。それで、デジタルを使って作家さんを獲得しようと思って立ち上げたのが「ジャンプルーキー!」です。

編集部に掲げられたジャンプルーキー!募集のポスター

どんな仕組みですか?

漫画を投稿して公開できるネット上のサービスです。昔は紙で描いて投稿する流れが多かったんですけれど、漫画家さんの作画環境が大きく変わったんですよね。

といいますと?

デジタルデバイスで描いて、そこから投稿したり読者に公開したりすることが全てデジタル上でできるようになった。だから、その部分をジャンプでもやろうとしたんです。

なるほど。

今、毎月だいたい3000話くらいの漫画が投稿されているんですよ。

「ジャンプルーキー!」で初めて投稿して、ジャンプ各誌でデビューした作家さんというのも150人を突破しました。

学生たち

すごい。

「ジャンプの漫画学校」という講座も開いてますが、同じ目的ですか?

「漫画学校」は「ルーキー!」と近いところもあります。昔と比べるとスマートフォンなどで見られるいろいろな娯楽があるので、漫画雑誌の存在感が今後小さくなる可能性もあると思っています。

それでもやっぱりジャンプに才能のある作家さんが集まって欲しいと思った時に、雑誌以外にも集まれる“場所”があるといいなと思って。

ジャンプの漫画学校の様子(写真提供 集英社)

場所ですか?

ジャンプは創刊53年になるんですが、その中で編集部に溜まっているいろんなノウハウとか経験があるので、それをしっかり漫画家を目指している人たちに伝えていくと。

さらに成長してもらうだけじゃなくて、新人作家さんが、漫画学校があるからジャンプは信頼できる、だからそこに投稿しようって思ってもらうことを目指した漫画の創作講座です。

そうなんですね。

あと、デジタルをいかすということでいうと、今まで紙媒体では難しかったレイヤーからも作家さんに出会うことができると思うんですよ。「ジャンプPAINT」っていうサービスを2017年から始めていまして。

ジャンプPAINT?

これは無料で漫画を描けるペイントツールなんですね。

「ジャンプPAINT」の操作画面

ジャンプPAINT

スマートフォンやiPad、パソコン上で漫画が描ける無料のデジタルツール。アプリ内でジャンプ作家の原画をなぞって練習ができるほか、漫画のブラッシュアップやストーリーづくりのヒントになる講座なども展開。アプリから直接ジャンプルーキー!や漫画賞にも応募できる。

今までは完成した漫画を編集部に持ち込んだり漫画賞に郵送するところから編集者との接点が生まれたのですが、作家さんも漫画を描くツールがデジタルに変わったので、それ自体をジャンプが提供すれば、描き始めるところからジャンプの創作テクニックみたいなものを伝えることもできます。そのまま完成した瞬間に直接ジャンプに投稿・応募することもできます。

確かに。

これは紙ではできないですよね。デジタルだからこそ。“Gペン”(インクをつけながら描く漫画用のつけペン)を提供しても良いのかもしれませんが、それではちょっとつながりが弱いわけですよ。

漫画の未来をどう描く?

いろんな挑戦を続けてこられたわけですが、ご自身は漫画の未来をどういう風に思い描いていますか?

めちゃくちゃ明るいんじゃないかと思いますね。デジタル技術は毎年のようにすごいスピードで進化しています。スマートフォンの機能も上がっていますし、アイデアがある人がどんどん出てきています。

漫画は、今僕が予想しているよりももっとたくさんの人が読んで、海外へも届けやすくなり、作家さんの才能が花開きやすくなる表現ができるようになっていくと思っています。

カメラ担当
学生 田嶋

今日は撮影を担当したんですけど、一つおうかがいしてもいいですか?私漫画のコマをどこから読むのかも分からないレベルなんですけど、縦スクロールの漫画は唯一読むんですよね。

LINEマンガやピッコマとかですか?

そうです。あれを読み始めたきっかけはカラーで縦読みでとっかかりやすかったからなんですけど、「ジャンプ+」は横読みが多いなって思って。

多いですね。

横読みに対するこだわりってあるんですか?

いや、どちらもありだなと思っています。縦スクロールももっとやりたいんですけどね。形式より中身、面白さをより優先的に考えた結果、横読みが増えています。横読みの漫画を描きたい漫画家さんの方が多くて。

単行本にはしやすいですよね。

そうですね。単行本は漫画家さんの収入、印税に繋がることなので、それも関係していると思います。

韓国の漫画は縦スクロールが多いみたいです。

韓国ではLINEやカカオのようなIT企業が漫画をやっているんですよね。ここ数年海外ではカラーの縦スクロールが広まってきていてライトな読者が増えています。日本の漫画は特にコアな人気があるんですが、単行本も例えばアメリカで買うと一冊1000円くらいします。

高い!

現状、海外の単行本の市場は大きく、漫画家さんの収入にもなっています。しかし、ライトな読者の中で今、カラー縦スクロールマンガを楽しむ海外の方が増えているので、意識はしています。

全然構造が違って面白いですね。

そうですね。

それでは、最後に就活生へのメッセージをお願いします。

時代が今すごく変わっていて、今後も変わり続けていくと思います。その中で仕事をするというのは、レールや仕組みがあった上でそこに乗っかるというのではないんですね。

常に新しいことに直面し、どんな結果が出るか分からない。でも、うまく結果が出れば、世の中に自分の仕事で貢献できるので、ぜひ、時代が変わる中で仕事をすることを面白いととらえて、前向きに就活してもらえたらいいなと思います!

学生たち

ありがとうございました。

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