2020年02月25日
(聞き手:佐々木快 西澤沙奈 )
クセのある悪役から人情味あふれる上司まで、様々な役柄をこなしてきた俳優の橋本じゅんさん。どうすれば自分のことが伝わるのか、面接をどう乗り切ればいいか、学生リポーターが聞きました。
これまで共演してすごいと思った役者さんはいますか?
水川あさみちゃん、小栗旬くん、綾野剛くんなど、これらの方々はすごいですよ。
心でどう思ったかというのを、セリフと関係なく沈黙で雄弁に語ることができて。力強いし、まぶしい領域です。
橋本さんと水川さんは全国の国立大学の中で12年連続就職率トップの福井大学をモデルにした福井発地域ドラマ「シューカツ屋」(放送は2月26日 午後10時 NHK BSプレミアム)で共演。橋本さんはおせっかいな就活支援室長役
そういうすごい人が現場ごとにいるんです。先日まで舞台をやっていたんですけれど、阿部サダヲくんとか、麻生久美子さんとかは、お互いに目を合わせただけでやり取りができる。
すごい!それってどういう感覚なんですか?
お互いの間にピンポン球があって、真ん中でずっと落とさないように圧を当て続けて移動させることができるような感覚。そういう感じです。みんな本当にいい役者さんだと思いますね。
これまでの役者人生で、印象に残っている仕事を教えてください。
全部ですね。その役から離れるとロスが起きてしまうというか・・・。
大河ドラマにも出演していましたが、悪役は嫌だと思うことはありますか?
悪役には悪役のロマンがあるんでね。
『おんな城主 直虎』では、高橋一生さん演じる小野政次を罠にはめ、死に追いやった近藤康用を熱演。「政次ロス」は大きな話題となり、近藤は政次ファンからの恨みを買った。
ヒーロー、ヒロインがみんなに共感されたり、格好いいと思われたりするためには、敵がちゃんと憎たらしいと思われないと成り立たないと思うんですね。そういう責任感は感じています。
でも、直虎の時は人気者の高橋一生を殺すという話を聞かされて、マジかと思いましたね。
高橋君から「僕、じゅんさんに殺されるらしいですよ」って言われ「えっ、マジ、何話で?」って(笑)
様々な役柄を演じ分けるコツはありますか?
演じるって、所詮はウソをついているんですよ。殺人犯の役でも、実際に殺すわけじゃないし。だからそれをどこまで本当で固めてウソを見えにくくするかという、物理的な努力ですね。練習とか稽古とか。
例えば、時代劇だったら日本舞踊の先生のところに行って習うんです。典型的な悪役の所作を覚えて、このセリフの時にはバサッと羽織をまとうとか、手の内を見せないようにふるまうとか。
大変そうですね。
そういうのって、ふだんやっていないと分からないじゃないですか。一日入門して、3つネタを仕入れて、それを9つくらいに見せられるかどうか。
身につく、板に付くっていいますけれど、付け焼き刃ってバレちゃうんですね。バレないようにそれをいかに準備するか。
全部、準備の段階で決まります。準備という努力は絶対に必要だし、人の何倍もやって当たり前。
なるほど。就活にも通じる気がします。
ただ、それだけだとダメなケースもあって…。準備をした上で、何も考えずに飛びこんでみることも大事ですね。
本番の時にですか?
そう。自分の中でストーリーを考えて、イメージがついちゃう時があるけど、人間ってそれだけじゃないですよね。個人のスキルも大事だけど、一番大事なのはお互いを信用できるかどうか。
例えば、仕事をしていて、隣の人の具合が悪い時に、「ちょっときつそうだね。ここはやっておくよ」と声をかけられれば、効率も質も上がるし、仲も良くなるんです。
これって役者も作品作りも同じだと思います。どんどん自分をさらけ出してほしい。
現場ごとに求められる役割は違うんじゃないですか?そういう場合、どのように対応されるんですか?
役割に気づかないで現場に行くこともありますよ。台本ができるのが遅れていたり、現場で台本と全く違うことを要求されたりとか。
だから、例えば赤・白・黒とか、大・中・小とか、自分の中に3種類の全く違う種類のカードを用意しておくんです。
そうやって180度対応できるようにしておいて、現場のみんなの動き、相手役、監督の指示にあわせて変えていくんです。
自分を他の人に置き換えて演じるのって難しそうですね。
難しいですよ。その役の中に自分にはないものがあったりするんです。でも、そういうときにも方法はあるんです。
例えば、就職先が決まらなくてもう全社落ちて、自分の進む進路がなくなった。そういうときにどういう顔をしますか?
絶望の顔ですね。
どんな顔するの?やってみて。
今の顔、絶望の顔に見えないですよね(笑)。絶望の顔って難しい。僕がやってみますよ。
おー。
人って眠たいときにも、こういう顔をするんですよ。絶望の顔も、眠たい顔も表情だけ見たら同じ。
えー。そうなんですか。
だから、まわりにそう見えていればいいっていうところで渡っていくのも必要なんです。
「俺、これからどうしていこう・・・」という心境を表現するには、ずっと飛んでいく風船を見上げるイメージをするとか。
要は気持ちがどう思っていようが、映っている見え方が台本に寄っていればいいんですよね。
どういうことですか?
ある時、鏡を見ながら思ったんですよ。いろんな顔をやってみるんだけれども全部違うと。
でも、後輩が内緒で俺の日常の動画を撮ったのを見たときに、こういう風に芝居ができればいいんだって。
能動的に芝居をやりがちなんだけど、実はやらないほうがいいっていうのも技術なんですよね。頑張らないことを頑張っている感じです。
びっくりですね、そんな見せ方もあるんですね。
橋本さんは、打ち合わせやオーディションなどの時に意識していることはありますか?
結局は楽しんでやることなんじゃないですか。楽しむためにはいい準備をする。いい準備をするには、趣味の時間もすべてつぎ込むくらいの気持ちで。
僕は磯釣りが大大大好きなんだけど、もう1年以上行っていない。楽しみを全部仕事に持ってきているんです(笑)
就活の面接でも、準備していたことと全然違うことを聞かれるような場面もあると思いますが、アドバイスはありますか。
沈黙を排除すること。車に例えると、アイドリングを保った状態でエンジンは切らないこと。たとえアクセル踏んで動かなくなっても、心が折れてバチッとエンジンを切ってしまわないで。
エンジンをかけたまま雰囲気を落とさないようにつなぐ。そうすると、またどこかが温まってゆっくり走り出すことがあるかもしれない。
あきらめないことが大事ですね。
舞台でも結構そうなんですよ。幕が開いたらセリフを止めちゃいけないんです。お客さんのテンションが下がっちゃう。
SHOW MUST GO ON!(ショーは続けなければならない)です。
準備してきたものを出し切った後の、何もエンジンが掛かっていない状態が本当の君だと思われるよりは、とりとめがないことを言っていても、やる気は結構ありそうだと思われた方がいい。
俺は食いついていますという姿勢をやめないこと。どんどん押していけばチャンスを、採用をつかむことにつながるかもしれないね。
まだやりたいことを見つけられない就活生に向けて、一言お願いします。
一芸に秀でる者は多芸に通ず。一つのことをやりこんだら、多岐にわたって視野が広がるんです。
一つのことを突き詰めているからこそ、「あなたが持っているものを提供してよ」、「じゃあ、あなたが持っているものは何?」みたいにWIN―WINになって、どんどん輪が広がっていく。
だから、やりたいことがないとか言わずに、一つのものがどれだけやれるのか試してほしい。そうすると見えてくるものがあるから。
徹底的に準備をして、マインドを強く持って、待ったなしで前だけ向いていってください。応援しています。
私たちも一つのことを見つけられるように精進します。ありがとうございました。