2020年02月10日
(聞き手:伊藤七海 鈴木マクシミリアン貴大 西澤沙奈)
今回の先輩は、星野リゾート代表の星野佳路さん(59)。リゾートホテルが次々と経営破綻したバブル崩壊期に、実家の老舗温泉旅館の後継者に。2020年中に開業する5施設も含め国内外で45施設を運営する“ホテル経営の革命児”として知られていますが、キャリア選択の際に考えたのは意外にも“自分の役割”だったといいます。
私、いろんな旅行サイトをよく見るんですが、星野リゾートさんって、高級なイメージがあって…。初歩的な質問で申し訳ないのですが、1泊の宿泊費って大体おいくらなんですか?
難しい質問ですね、いきなり(笑) 高級というと値段が高いイメージなんですが、値段の幅は結論からいうとすごく広いと思います。
去年、BEB5軽井沢という若い方をターゲットにしたホテルブランドの施設を立ち上げたんですが、3人で部屋に泊まると1人5000円くらいです。
かと思えば、星のや京都はグループ内で一番部屋単価が高く、1部屋1泊10万円はするんですね。
10万…!?
平均が10万円ですから、一番高い部屋は20万円くらいしてると思いますね。
1泊がですか??
1泊がです。
学生じゃとても…
手が出ない…
ただ、安くても高くても、こだわっているのは「上質さ」なんです。ですから、高級って言葉を使わず、上質な旅を提供していこうと考えています。
家業を継ぐことに関して、迷いはなかったですか?
私の場合、昔から決まっていたので迷いはなかったです。家業って面白くて、日本の登録企業の90%以上が家業なんですよ。上場していないわけです。
利益ベースでも民間の企業価値の半分は、同族会社が作っているわけですから、すごく大事なんです。
ですから、キャリアパスを考える時に、やりたいことを考えるのも大切なんですが、僕は「自分の役割」を考えてもらいたいですね。
自分がどうやって、地域や国、世界に貢献できるのか。ですから、家業がある人は、その家業を継いで伸ばすということが自分の役割として認識してもらえるといいなと思ってますけどね。
学生の頃に家業を継ぐからこうしようと思っていたことはありますか?
継ぐからには優秀な経営者にならなきゃと思っていて、優秀な経営者とは何なのかというのが私の研究テーマでした。
家業って、なんとなくカッコ悪かったんですよ、当時。親の七光りで社長になるみたいなところがあって。だけど一方で、ベンチャー企業っていうとね、なんかかっこいいですよねって。
かっこいい(笑)
よくよく考えると、ベンチャービジネスは大半が3年持たずに倒産するんですね。それは立ち上げリスクが大きいからなんですよ。私は自分の家業を立ち上げリスクが小さいベンチャービジネスと捉えたんです。
どういうことですか?
うちの場合は百年続いた旅館なので、あまり儲かってはいないんですが、そう簡単には潰れないんですよ。立ち上げリスクはないけど、伸ばす余地はすごくあるわけです。そういう風に家業をとらえると急にちょっとかっこよく見えてくるんですよね。
ちょうど継がれた時がバブルだったのかなと思うんですが。
バブルが崩壊した時。バブル崩壊で何が起こったかというと、供給過剰が起きたんです。日本中の観光関連施設が赤字に陥るっていう状態。ただ、いいこともあったんですよ。
というと?
景気が悪くなったので、人を採用しやすくなった。あと、建設コストの下落、低金利。それは当時のうちのような小さな企業にとってはすごくありがたかったです。
不景気が10年続きましたから、私が経営を始めてから10年間新しい企業が出てこないんですよ。だって供給過剰ですからね。
自分の力をつけるために、その10年間、淡々と人材を集め、ノウハウをため、お金を借りて、と繰り返すことができたのは、本当に貴重だったと思います。
星野さんのご子息はおいくつですか?
18歳なんですよ。
私たちと同世代ですね。息子さんに家業を継がせようというご意思はあるんですか?
ファミリービジネスで居続ける良い点として、短期的な収益にこだわらず、中長期的な目標に進むことができるんです。
グローバルに活躍できるホテル会社になりたいというのが私たちの今の目標なんですが、株主がいたり、投資家がいたりすると、そういう非効率な目標にはネガティブな人も出てくる。ファミリービジネスだからそこに向かって真っすぐ進むことができるんですね。
ただ、今従業員数3000人体制になってきていて、私が軽井沢の実家を引き継いだ150人の会社とはもう容易さが違うんですよね。
そうですよねえ。
ですから、新しい形のファミリーガバナンスの方法を学んで、次の世代に競争力が維持できるように移行していきたいなと思います。
息子さんにキャリアのアドバイスもされたりしますか?
何となくしてますが、私自身もそうでしたけど、次の継承者って大変なんですよね。本人にもいろんな迷いがあるだろうし、無理やりこちらの意図を伝えても仕方ないんでね、今はね、ちょっと放置しておりますね。
え~(笑)
冬の一日のスケジュールをいただきましたが、スキーすごくされていますよね?
すごくします。
なんでそんなにスキーされるんですか?
私、アイスホッケーやってたんですよ、体育会でね。でも、「週末アイスホッケーやらない?」って言っても、誰も来ない(笑)
世代も限られますからね。
そうそう。スキーは趣味として、いろいろな世代の、社内外の人と行けるし。旅とも連携していて、世界中いろんな山に行くことができる。
50歳になった時に考えたんですよ。人生最後の後悔ってなんだろうかと。あるとすれば「もっと滑っておけばよかった」って。
すごい発想!
で、70歳になってから滑ろうといっても難しいわけですよね。なので50歳の時からスキーの滑走日数については目標設定して、毎年最低60日は滑っていくと。これは実は会社の業績よりもこだわっています。
業績よりも?!
会社の業績目標はあまり把握してませんが(笑)、スキーに関しては、7月から南半球でシーズンが始まるんですけど、ちょうど先週(取材日2019年12月12日)で19日滑ってるんですよ
スケジュールで気になるのが、「テレビ会議システム」って言葉ですけど、これはオフィスに行かず、スキーをしながらで仕事ができる働き方改革の一環でしょうか?
スキーに行きながらパソコンを通じて会議に参加できるっていうのは、私にとって必須アイテムですね。例えば、7月にニュージーランドに滞在していると、現地の15時、16時が、日本の12時で、スキー場から帰ってきてから午後の日本の会議に参加できちゃうんですよ。
ちなみにスキーがない日はどういったスケジュールなんですか?
私の中では、年間通して雪あり月と雪なし月があるんです。雪あり月っていうのは、南半球の7、8月ですね。で、日本の12月から3月まで。
スキーって、前の日に雪が降って、次の日晴れると一番いいんですよ。晴れるかどうかわかるのはどのくらい前だと思いますか?
1週間くらい前ですか?
2週間前なんですよ。だから2週間前までは予定を入れないっていうのが大事なんです。晴れている日に固定の予定が入ってると、「なんで今日こんなところで仕事してるんだろう。あそこの山晴れてるのに!」みたいなね。だから、スキーの日程を優先させてもらって、社員に迷惑かけてるんですよ。雪なし月に関してはもう仕事に集中です。
朝から晩まで?
そう。9、10、11月は土日関係なく。
東京に限らず全国に行かれるわけですか?
そうです。私の場合は海外の営業活動もありますし、雪なし月にがっつり仕事をして、雪あり月はダラダラ仕事する(笑)
海外に行くときは奥様も同行されるんですか。
妻は全く別の仕事をしていましてね。私より忙しいくらいなんで、全然別行動。
それだけお忙しいと家事や子育てとお仕事の両立ってどうされてるんですか?
えっと、適当です。今は子供も18歳ですけど、小さいときは私は家業で時間が比較的自由なので、相当やっていましたけどね。出張には妻は来ないけど、子供を連れていってましたから。スキースクールに入れて、その間にスキー場の仕事をしてました。
その中でお子さんにも気づきが?
スキーが嫌いになりました。
(爆笑)
そうなんですか?
プロ並みでは?
無理やりやらせてましたからね。腕はすごくいいけど、今は本人の興味はそこにはないみたいですね。やりすぎた感が。
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