2020年01月29日
(聞き手:高橋薫 土井湧水 西澤沙奈)
「世界は誰かの仕事でできている。」「バイトするなら、タウンワーク。」「がんばるあなたがNo.1」耳に残るコピーを次々と生み出してきたのが、コピーライターの梅田悟司さんです。言葉のスペシャリストが大事にしてきた伝え方の極意とは?
そもそもコピーライターってどんな仕事ですか?
企業の広告物における言葉を作るのが基本的な仕事です。
新商品が出た時や企業の何周年の時などに、どういう言葉で企業の思いを伝えるか、製品にどんな思いが込められているのかを言語化して、広告の一部として使っていく。それがコピーライターの大きな役割です。
広告のキャッチコピーだけでなく、SNSで日々どんなことをつぶやけばいいのかとか、新商品のキャンペーンをどう発信していけばいいかとか、そういう相談も増えているんです。
企業の “中の人”をサポートするということですか?
そうですね。最後の一言一句まで考えることは少ないですが、どんなテーマでコミュニケーションを取ればいいかの作戦会議を一緒にする感じです。
SNSにもコピーライターが関わっているんですね。
WEBは映像もありますけど、基本は文字と写真の世界なんです。昔に比べて、文字の役割や存在意義は大きくなってきています。
TwitterだってFacebookだって基本は文字。もちろんニュース記事もそうです。文字の役割は非常に高まっているんです。
今、この瞬間に何を伝えるべきなのかという根本、つまりコンセプトを一緒に考えるのが、コピーライターの大きな仕事になり始めている感じです。
企業のことを発信する時に、気をつけていることはありますか。
思っていないことは言わないことです。
「こうすれば話題になるかも」というよこしまな気持ちが先行すると、大げさに言ってみたり、思ってもないことを発信することにつながります。ここは注意が必要です。
その一方で、「何かをつぶやこう」という動機があるから、ネタが見つかることも結構あります。
小さな気づきが、大きな反響につながります。自分だけが見えている世界、その企業だからこそ見えている世界にこそ、価値があるんです。
この企業がどういう企業なのか。自分たちの製品がどういうことに役立つのかをまず一緒に考える。
そこから生み出されたものの一部を切り取るように、SNSで発信していくようにしています。
例えばどういうことでしょうか?
商品が食べ物なら、「おいしい」でも、「こういうものに合うよ」、「もっとこういうレシピを作れるよ」でもいいし、「商品が生まれたきっかけには実はこんな思いがあった」とつぶやいてもいいと思います。
商品そのものだけじゃなく、どんなところと関わりがあり、どういう人が食べてどういう世の中になってほしいか、一回議論しておくと、“中の人”も今日はこれを発信しようと切り取れるじゃないですか。
前提となる共通認識を作ることをよくしています。
やっぱり梅田さんは、小さい頃からたくさん本を読んでいたんですか?
いや、本はまるで読んでいませんでした。実は僕は理系で、大学院を出てからコピーライターになったんです。どちらかというと、もの作りがベースにあるんです。
そうなんですか!
僕が広告代理店に入った当時はまだ、「ものを作る人」と「ものの良さを伝える人」の間に結構、距離があったんです。
ある人は「いい物を作ればいい」、ある人は「たくさん売るためにはどうすればいいか」と考えていて、作る側と宣伝する側の間に認識のズレがありました。
でも、もの作りの人たちの気持ちが分かるコピーライターなら、その間をつなげるんじゃないかと思ったんです。その会社の中のことを理解して、エンジニアの話をきちんと聞いて広告につなげたいって。
実は社内の壁って、意外と高いんです。
どういうことですか?
会社ってあまり隣の部署とは話し合わないんです。「これを伝えれば絶対売れる」とか、それぞれの部署だけで判断していて、お互いのことは言わなくても分かってるみたいに思ってしまっているんです。
例えばみなさんも、家族に「私ってどういう人?」って聞かれても、なかなか照れくさくて言えないですよね。
確かに・・・。
家族だから「言わなくても何でも分かっているだろう」と思っていても、実際に話を聞いてみると、全く伝わっていなかったり、話を誤解して大きなズレが生じていたりするんです。
だから、外部の存在は大切です。内部だけでは暗黙の了解のように感じられていることでも、外部に伝えることによって初めて内部が気づくということは結構あるんです。
コピーライターが書いてはいけないことがあるんですが、知っていますか?
なんでしょう?
「僕がこう思った」って書くことです。情報がない中で何かを書こうとすると、結局自分で書いちゃうし、それは自分のエゴでしかないんです。
だから、コピーを書くときは、準備が全てです。
どういう気持ちでこういう物を作っているのかを綿密にヒアリングして、企業の思いと世の中とを結びつけるために、どういう文脈が必要なのかを常に考えています。
いいコピーが生まれる瞬間ってどういう感じなんですか。
その瞬間って、意外と自分では分からないものなんです。例えば、300個コピーを書くとして、そのうちどれが至極の一つなのか、書いている僕には分からないんです。
ただ普段は意見が違う人たちも、「なんか引っかかる」という反応を示すものがあるんです。
「すごくいい」もあれば、「全然ダメ」もあるんですが、反応する方向は違っても反応してしまう。つまり、無視できないという状況です。
ジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」なんてまさにそうでした。
あれこれコピーを出していくうちに、みんなが「無視できない」「なんかある気がする」というものがありました。そこをどうやって見つけていくかという事だと思います。
そこが難しさでもあり、やりがいでもあるということですか。
僕は、その商品のいいところを一言で表現する事はあまり好きじゃないんです。
むしろ商品やサービス、もっと大きな視点で言えばその会社が背負ってきた全ての歴史を、みんなが共感できる形で一言にするにはどうすればいいかを、常に考えながら仕事をしています。
企業の人は、よくここ数年の市場動向の話をするんですが、それってシェア争いでしかないんです。あそこを出し抜いて売れればいいみたいな。
でも、もう世の中ってそういうことでは何も動かないと思うんです。
梅田さんはどうやっているんですか?
僕は、分かりやすくするためにその企業や商品の歴史を全部年表にしています。
そして、この商品があった世界となかった世界で何が違うんだろうかっていうことを考えます。
壮大な話ですね。
こういう話をすると、だいたいこいつ面倒くさいやつだなって思われるんです。(笑)でも、それが一番大切です。
何でこういう商品が生まれたのかを知るには、起源にさかのぼらざるをえないんです。本当の意味で企画が生まれる瞬間、そこに何があったのかを聞くことをすごく大事にしています。
だから、きちんとエンジニアの人に話を聞きますし、時には退社した人にも聞きます。今は退職した人でもFacebookとかでつながれるので、フラットに話を聞きに行く事も結構あります。
梅田さんは、2016年から2017年にかけて、4か月半の育児休暇を取得。家事体験をもとに書いた著書「やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。」は、多くの人の共感を読んだ。
私、将来バリバリ仕事もしたいんですけど、結婚も育児もしたいんです。梅田さんは家族の時間を多く取っていて、理想的だなって思って。
育休をとったことが大きいと思います。やっぱり家事育児って、大変だしすごく大切だって感じているので。
家のことは基本、大人2人がやってちょうどいいくらいの量にできていると感じたんです。だから、できる限りのことはやっています。妻に言ったら、笑われると思いますけど。
家庭と仕事の両立は大変じゃないですか?
限られた仕事時間の中で、考える時間の確保は最も重要です。
僕の場合、朝を考える時間に充てています。起きて1時間半くらい家事をやって、8時半くらいに家を出るんです。そこから駅の近くのスタバみたいなところで、1時間くらい一気に考えています。
家での情報収集はラジオなんですね。
家にいるときは座っているより、家事や仕事など何か作業をしていることが多いので、「アレクサ、NHKラジオかけて」みたいな感じで、流しながらやっています。
テレビを見ないのには何か理由が?
テレビの情報ってニュースを除いては、古いんです。3か月前に誰かが企画した物が流れているし、テレビCMだって、半年前に誰かが企画したものがオンエアされていることが多いんです。
ラジオのほうが制作スパンが短いし、実際に生放送も多いので、今話題になっていることを自分の中に取り入れるには、ラジオの方が適していると感じます。
言葉を仕事にする中で、ラジオから得るものってどんなところですか。
いい歌詞の音楽を聴くことです。言葉だけで伝えるっていうのが僕たちの最終命題なんです。そういう意味で、いい歌詞の日本語の曲はすごく勉強になります。
例えば、曲を聴いていて、「えっ、これって私のこと歌ってるの?」みたいなことがあるじゃないですか。「なんでこの人私のこと分かるの」みたいな。
あー、恋愛系とか。
そうそう。やっぱりいい歌詞っていうのは、まだ概念として生まれていない気持ちみたいなものを、言語化しているんです。
心の機微をきちんと言葉として整理をして、あのときの気持ちってこれなんだと気づかせてくれますし、感情を一つの言葉として自分で理解できるんです。曲だけじゃなくて小説もそうですね。