教えて先輩!メルカリ吉川徳明さん

「ロビイスト」に聞く交渉術

2019年11月27日 (聞き手:伊藤七海 土井湧水)

急成長を遂げ、メガベンチャーとも呼ばれるメルカリ。フリマアプリだけでなく、最近は金融の分野にもビジネスを広げています。実は、その陰に政府やキーパーソンとの交渉、情報収集を担う「ロビイスト」と呼ばれる社員の活躍があります。国家公務員からIT業界に転じたロビイスト、吉川徳明さんに聞きました。

経産省から「ロビイスト」へ

よろしくお願いします!

学生
土井

さっそくですが、今のお仕事に至るまでの経緯を教えてください。

初め8年間公務員をやっていたんですよ。

吉川さん

吉川徳明さん(37)

2006~12年:経済産業省で通商交渉やIT政策を担当。日本銀行に出向し、リーマンショック後の対応にもあたる。 2012~14年:内閣官房でTPP交渉などを対応。 2014~18年:ヤフージャパンで政策企画を担当。 2018年~:メルカリで政策企画を担当。

経産省ではTPPとか震災後の対応など、色々な政策を担当したんですけど、その後、民間に出ました。

民間企業にとってビジネスを安定して成長させるために政策って大事なんですが、その分野で活動するのが私のような「ロビイスト」です。

「ロビイスト」ってあまり馴染みがないのですが、どんなことをしているんですか。

今ある法律って、その当時の世の中とか社会を前提に作られているんですね。

で、何か新しい技術や新しいサービスが出てくる。例えばスマートフォンが出てきて、昔と今とでは、みんなの生活が全然違うわけです。

学生
伊藤

確かに、スマホがなかったころと生活は違いますよね。

そうなると、スマホがなかった時代の法律って、今になってみると必ずしも適切じゃなかったりする。

時代とか生活の変化にあわせて、ルールってどんどん変えていかないといけない。

誰かが「このルールはこう変えるべきだ」って社会に働きかけていかないとなかなか変わらない面がある。そこで、われわれは企業の側から働きかけるっていう仕事をしています。

それが「ロビー活動」なんですね。

もちろん、企業だけじゃなくて、例えば歴史的には女性の参政権の獲得だって運動をした人たちがいたから実現につながった。

ただ、特に「ロビー活動」が必要な企業って、やっぱり新しい分野でチャレンジしてる企業なんですね。

そうなるとベンチャーとかになるので、メルカリみたいな企業ほど国とか自治体に働きかけて新しいルールを作っていく。

「ロビイスト」って馴染みがなくて、映画とかも見てみたんですけど・・・

ああ、かなりドラマチックに描かれていません?

そうなんです!

そんな、相手を罠に陥れるとか、そういう世界じゃないので(笑)

でも、「ロビー活動」って言った時に世間の人がイメージするのはそういう感じかなと思いますね。

無理にでも戦略的に相手をはめ込んで自分たちの利害を実現していく、あくどい奴らみたいな。

僕、全然そういう感じじゃないですよ。

交渉は「コミュニケーション」

では、吉川さんにとって交渉とは何か?書いてもらいました。

法律を変えるっていうのは、いろんな利害の立場の人を考慮してバランスよく考えて、そこに自分たちの主張も入れていくことなんですね。

このプロセスで、意見が対立しているいろんな立場の人とも最後は合意していくんですけど、その合意をつくっていく時に必要なのがコミュニケーション

どんなふうにコミュニケーションをとるんですか?

皆さんも経験あるかもしれないけど、所属するコミュニティーによって、みんな話す言葉とか前提の知識、価値観って全然違うんですよ。それをちゃんと感じ取って理解して会話をかみ合わせていくんです。

何かこの人の反応悪いなと思ったらさっと変えて別の言葉に言いかえるとか。相手の反応をよく観察して、話し方を変えたりする。

例えば、政府の人と交渉する場合なら、どんなポイントがあるんですか?

そうですね、何かルールを変えるっていうことを働きかける時って、メルカリがうれしいだけではなくて、それを使ってるお客様の生活がこうなりますとか。

さらに大きな話、日本で少子高齢化が進みますね、人口減少しますね、外国企業も参入してきて、国際競争が色々激しくなりますねと。

はい。

そういう中で、日本社会が良い方向に進むには、僕らが提案するこの政策をこういうふうに変えるべきじゃないかっていうような語り方をします。

「世の中こうなるでしょ」と。その時に、僕らのビジネスをそれにあわせて伸ばすと、これだけ多くの人がうれしくなりますみたいなストーリー作りが大事です。

「法律を変えてほしい」って、ベンチャー企業が言って政治の側は動いてくれるんですか?

数年前と比べると、すごく仕事がしやすいんですよ。

えっ、そうなんですか?

今は政府全体でいかに経済を成長させるかってところにすごく力点が置かれてるので、経済成長させるにはベンチャー企業をどう伸ばしていくかは重要な論点なんです。

なので、前だと多分、会いに行こうとしてもなかなかアポ入らなかったのが、今はすごく簡単にアポ取れるし、向こうからヒアリングにも来てくれる。

SNSは仕事に役立つように

さまざまな立場の人と会う吉川さん。どんなふうに情報収集をしているのか。1日のスケジュールを教えてもらいました。

「一般的に話題になっているニュースを知る」のが大事だということですが、なぜですか?

世の中の雰囲気とかトレンドを理解しておきたいんです。IT業界にいると、ほっとくとSNSばっかり見るわけですよ。

でも、それは間違いなく偏っている。

いろんなソースのメディアを見る事が大事だと思うんです。だからテレビも見るし、ネットも見るし、たまに本屋さんに行って雑誌をバーッて見る。

例えば、どんなものを見るんですか?

NHKのニュースで朝とか夜、何を報道してるかとか。ワイドショーなら、日中家にいる人たちが何見ているとか、どういう関心があるかとか分かる。

ほかにも、髪切る時に雑誌を置かれるじゃないですか。ふだん見ない雑誌、スポーツとかグッズ系とか、どかどか置かれるので見まくるんですよ。

そういうのも大事な情報のソース。世の中の人ってこういうのを見てるんだって理解するのが大事かなって気がしますね。

ツイッターのアカウントも拝見したんですけど・・・。

拝見しちゃいましたか(笑)

家庭や育児についてもツイート

けっこう、ツイッターを使っていらっしゃって。お子さんのこととか、いろんなことをつぶやいていますよね。

あんまり炎上しないようにはしていますよ。

で、なんで使って発信しているかなんですけど。僕はけっこう明確で、自分の仕事にプラスになるだろうなと思っている面があるんです。

だから、主には記者とか、有識者、学者の先生とか、政策に影響を与える人たち向けに届けばいいなと思って書いてる事は結構あります。

そうなんですね。

政策や交渉など、仕事に関するツイート

人間って、例えばこういう会議室に呼んで、こう思ってるんですよとか説明しても、みんなあんまり聞いてくれないんですよ。やっぱり構えちゃうっていうか。

むしろ、検索して見つけて読むとか、他の人がシェアして流れてきて読むっていうのだと、人の頭に入りやすいんですよ。

そういう情報に対しては、警戒心が解かれてる。その点では、SNSはすごくいいツールだと思っています。

確かに、そうかもしれません。

ただそれって、その人が言ってることが常に正しいかどうか以上に、発信のしかたがバランスがとれてるなとか、ひとのことを悪く言わないなとか。

何かニュースがあった時に、みんなが瞬間沸騰してワーってなってる時に、ちゃんと問題の構図を考えてるなとか。

そのアカウントの人格が「なんかこいつ信頼できるっぽいな」と思ってもらうほうが大事なんですよ。

ちなみに、スケジュールを見るとご家庭のことも。「娘たちがEテレ見る」とか。

2歳と5歳の娘がいるんですけど、もう戦場ですよ、戦場。

何回も怒って娘を起こしてご飯食べ始めるんですけど、Eテレ見て食べないから、消すぞっていうと娘たちが怒り始めて。

時間がどんどんなくなっていくから、早く早くって。もう夫婦ともに、座って朝食食べないですね。バタバタすぎてニュースが見られるような状態じゃない。

夜も寝かしつけて、22時にもう1回仕事を再開されてるんですね。

仕事再開と書きつつ、だいたい疲れて集中してないんで、そこでツイッターやってます(笑)

自分の環境を良くする努力を

就職活動も、ある意味で交渉ごとかなと思うんですけど。何かアドバイスをいただけますか。

ロビー活動で、僕は実はあまりに難易度が高いところには入っていかないんです。

勝ちやすいフィールド、成果が出やすいフィールドを自分で選んでいるところはあります。

努力しても成果を出すのがすごい難しいところでどんなに必死に頑張っても、ほぼ成果って出ないので、フィールドの選択はすごい大事。

学生にとっては、難しい・・・。

そうですよね。どういうフィールドがいいかって、学生のうちは分からないと思うんですよね。

で、そういうフィールドを1発で当てるっていうのも難しいので、別に働き始めてからも常にフィールド選択をするんだっていう頭でいる方が大事だと思う。

10年やってたら2回か3回ぐらい動くチャンスはあると思うので、その中で自分が働きやすい環境を見つけて動いていったらいい。

じゃあ今、就活していて「ここの企業に行くんだ」って一直線に向かってる子たちも、何年かしたら、もしかしたら別の世界があるかもしれない?

あるかもしれないっていうか、絶対そうだろうなと思いますね。

いろんな事情や変化が、学生時代では想像もできないほどあって、人生の優先順位ってもうどんどん変わっていくんで。

「この仕事だ」って決め打ちする必要は全くないかなって思います。

そう感じられるのって、転職も多く経験されているからですか?

そうですね・・・。実際、僕は就活に落ちまくったんですよ。数十社受けて1社だけしか内定もらえなくてすごい落ち込んだ。最悪の時期でした。

でも、霞ヶ関から転職する時とか、日銀から出向して役所に戻る時、僕を落としまくった企業がみんな、来てくれ来てくれって言うわけですよ。

なんか採用って、その時にその会社と自分が合うかどうかだと思った

あまり、就活の結果だけにとらわれないほうがいいということですか?

自分がやりたいこととか、この業界で絶対自分やりたいって明確に言える理由がある人ってごく一部だと思うんです。

正直、あんまりそこで苦しまなくていいと思っていて。

社会に出たあと、そこからだんだん自分の環境を良くしてくっていう努力を怠らないほうがよっぽど大事だと思います。

仕事を通じて 自分を変える

最後に、吉川さんにとって仕事とは何か、教えてください。

「新しい経験を通じて 自分を変える 発見する」ですか?

もちろん収入を得る機会とかそういうのもあるんですけど、僕自身は大学では友達がいなくて、その後就活も落ちまくって、要は社会人スタート時点で、全然自信がないわけですよ。

ただ、その後今に至ると、すごく人と会って交渉したりとか説得する仕事をやってて、何かいつの間にか人脈も広がってるんですよ。

だから、仕事で「自分を変える」なんですね。

仕事でいろんな人と会ってチャレンジをする中で、自分もよく知らなかった自分を発見するっていう経験の繰り返しだったかなと思うんです。

自分が思う自己像ってけっこう偏ってるし、仕事を通じて人間変わる面もすごいあるなって。

みんなあんまり自分を決めつけず、仕事って「変わる自分を発見する場」なんじゃないかなって思っています。

本日はありがとうございました!

編集:加藤陽平

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