2019年09月20日
(聞き手:勝島杏奈 佐々木快 )
今回の先輩は、プロ野球、北海道日本ハムファイターズの遠藤良平GM補佐。東京大学でエースとして活躍後プロ入り。引退後は人材の発掘や育成とチームの強化をフロントの立場で担ってきました。「一流」と呼ばれる「プロ」は何が違うのか?ビジネスに通じる経験を聞いてきました。
訪ねたのは千葉県鎌ケ谷市にあるファイターズの2軍の野球場。懸命に汗を流す選手たちの中には、秋田の金足農業高校からドラフト1位で入団したルーキー吉田輝星投手の姿も。
遠藤さんはベンチで、選手の様子を観察していました。
遠藤さんは東京大学の投手として、東京六大学リーグで通算57試合登板、8勝32敗、防御率3.63、152奪三振を記録。通算8勝は東大の投手として歴代5位の成績です。
1999年、ドラフト7位で日本ハムファイターズに入団。プロとしての現役生活は2年間。1軍での登板は1試合で、打者1人に対してのみでした。現役引退後、球団に職員として入社。アメリカへの研修留学を経て、現在はGM補佐としてプロ・アマで年間およそ300試合を視察してチーム作りに貢献しています。
よろしくお願いします。
さっそくですが、GM補佐としてのお仕事の内容を教えてください。
はい。プロ野球のチーム・球団には、いろいろな専門職がいます。
選手以外では、監督、コーチといった指導者のほか、トレーナーやスカウトがいますが、ゼネラルマネージャーというのは文字どおり「ゼネラル」ということで、全体的にそれをまとめます。
私はその補佐なので、あまり「これが専門です」という分野を持たずに、チーム強化とチーム編成、選手育成を全体的に見て進めていくという役割ですね。
選手、球団職員として多くの「一流」を見てきた遠藤さんに“プロとは何か?”書いてもらいました。
こう書かれた意味を教えてください。
一流ほど、こういうものを持っています。プロだから細かい部分を徹底しないといけないとか一般的に言われるけど、そんなことはなくて。
本当の一流、プロはもっと根源的な好奇心を持っている。
うまいからとか、お金をもらっているからということじゃなくて、そんなことを度外視した「俺、これが大好き」「うまくなりたい」というのを持っているのが一流だと思います。
“これぞプロだ”と思った出来事はありますか?
大谷翔平という選手はやっぱりすごいなと思います。何がすごいかって、本当に野球が好きだっていう好奇心と向上心で動いているように見えます。
大谷翔平選手
岩手県出身の25歳。投手と野手の「二刀流」でプレー。2012年のドラフト会議の直前には大リーグ挑戦の意向を表明しましたが、日本ハムがドラフト1位で指名。「二刀流」として育成すると提案を受け入団し、2017年まで所属しました。2018年から大リーグのエンジェルスでプレーしています。
大谷選手!確かに、楽しそうにプレーしているように見えます。
高いレベルでやることにしか興味がない。野球が大好きで、もう野球をやっているのが一番の遊びだと思っているんじゃないかって。
印象的な出来事は?
彼がメジャーに挑戦する時のことですね。彼がいつメジャーに行くのかというのは、周りはすごい気になるわけですよ。
でも、いろいろなルールがあって。この年齢だとこの年俸しかもらえないってことがあるんですよ。でも本人はね、一切考えないんだって。
えー!
全然関係ないんだって。あと1年待てば10倍以上のお金がもらえるって言われたんですよ。しかも10倍っていうのは別に100円と1000円の違いじゃないですからね。
ただ野球がしたい、なんですね。
そう。今行けるんだったら行きたいと。
うわー、かっこいい!
だから、プロだなっていうよりは、むしろ純粋に野球小僧って感じなんだけど、一周回って『超プロ』みたいな。こういう選手が一番強いですよ。
プロ野球というビジネスの中で、決断することも多いかと思います。就活生のヒントになるような、勝負の厳しさを感じたエピソードはありますか?
就職活動では自分自身の決断を下さなきゃいけない。そういう意味で言うと、分かりやすいのは1軍の栗山英樹監督ですね。
栗山英樹監督
プロ野球ヤクルトで選手として活躍。野球解説者を務めた後、2012年から日本ハムの監督に。大谷翔平選手のほか、中田翔選手など若手の育成に定評があり、2016年には日本一に。
例えば、大谷選手の「二刀流」。本人は本当に楽しそうにやっています。でも、それを球団としてやるかどうかっていう決断をする際には、球界全体に賛否両論があったんです。
みんな正解は分からない。けれど、戦いの中で世の中に価値を提供できるとしたら、何か新しいことにチャレンジする。みんなができないと思っていることをあえてやる。挑戦することだと思う。
それは失敗する可能性も高いので、決断自体には本当に勇気がいるんだけれど、栗山監督は「二刀流」を決断した。
これまでいろんな失敗もしているわけだけど、挑戦する事に価値があると信じて、決断するっていうかな。そういうのは、見ていてすごく勉強になります。
挑戦するのはリスクが伴うけど、踏み出す勇気が勝負のカギなんですね。
そうですね。もちろん、そこに行くために本当いろいろな準備をする。
それこそ情報を集めるとか、自分に勝算があるのか。ちゃんと自分なりに準備をして考えた上で、でもここには勝負する価値があると思ったなら信じてやる。
GM補佐としての1日のスケジュールを教えてもらいました。
GM補佐として、どのように情報収集しているんですか。
言い方が難しいな・・・こっちから情報を取りにいくというか。
情報を取りにいく?
要は、調べていく。当たり前ですけど、僕がやらなきゃいけないのは自分のチームの選手の事をちゃんと把握しておく事です。
だから1軍2軍と、あとは将来ファイターズの選手になるかもしれないアマチュア野球のドラフト候補になる選手たちは、きちんと自分の目で見て評価したい。今の時代、テレビとかスマホとかでプレーの映像・試合自体は見られるので。
日本ハムは、毎年その年の最高の選手をドラフト1位で指名するイメージがあるんですけど、なぜですか?
そんなの当たり前じゃないですか。
でも、競合するリスクを避けることも考えられると思うのですが。それでも、とりに行くのはなぜですか?
プロだからドラフト指名ひとつとっても、やっぱりメッセージ性がないと面白くないじゃないですか。
僕が常に思うのは、もちろん優勝したいけど、じゃあ優勝したからいいのかっていうとそうでもなくて。
そうなんですか!?
いくら強くたって、お客さんが見て楽しいな、応援したいなとか、あの選手頑張ってるな、負けたけど何かよかったっていうのがないと、プロスポーツが世の中に存在する意味ってないと思うんですよね。
そうじゃないと、ファンにとって意味がないと・・・。
もちろんです。プロ野球は常に、見てくれている人に対してのものと思っているので。
例えば、野球をやるだけだったらどこでもできる。河川敷でもできるわけです。
誰も見ていない河川敷の球場で160キロのボールを投げたとして、いくらもらえるでしょうか。
もらえませんよね・・・。
そう、1円ももらえません。
プロ野球をプロ野球たらしめているのは、やはりビジネスとしてお客さんからお金をいただいて、それに対して価値を提供すること。
今のプロ野球はそこそこ人気があるかもしれませんが、100年前には存在自体がなかったですし、100年後にもあるかわからない。だから、そのことを自覚しないと。
かつてはドラフトで選ばれた側で、今は選ぶ側ですが、どういう感覚ですか?
大学時代ここを頑張らなければプロには行けないとか思っていた部分と、実際にプロ野球のスカウトが見ているところは、結構違うんだなっていうのはあるかな。
例えば、僕は大学時代、「これぐらい勝ち星あげないとプロには行けないだろう」と思っていたけど、選ぶ側からしたら勝ち星とかほとんど見てない。
見てないんですか?
実際、プロ野球という世界で通用しそうな何かが見えるかっていう事が重要。
例えば、就職活動でいったら、自分が一生懸命この会社に興味があって、この会社に入りたいっていうのをアピールすると思うんだけど。
でも、会社はこの子はうちでどういう活躍をしてくれるだろうとか、どういう役割を担ってくれるだろうっていう事を考えてます。
球団職員としてファイターズを受けたいっていう人と、事前に少し話すケースがあるんです。
その時にだいたい学生さんは「本当にファイターズ大好きです」とか、「ずっと野球をやっていて、野球に携わる仕事したい」ってアピールしてくるんです。
そうなりますよね。
僕が言うのは、「だったら、お金払って見に来たほうがいいよ」ってこと。
そうなんですか?
もし入社したら、どこを向いて仕事すると思うって。野球場に背中向けて、お客さんのほうを見て仕事する。野球なんか一切見られない。
それでいいのか、本当にファイターズが好きだったらほかの会社に行ってお給料もらって、お金を使って球場来て、ビールでも飲みながら見たほうが絶対幸せだぞと。
それでもその企業で働きたいかって考えると、質問の受け答えも変わるだろうし、自分がそこに挑むための準備も変わりますよね。
最後に、遠藤さんにとって「仕事とは何か」。書いてもらいました。
「挑戦することに価値を見いだす」。どんな意味でしょう。
例えば、就職活動でいきたいところがあって落ちたとしても、頑張ったことはどこかで巡り巡って、自分なりのプラスになって返ってくるとか、ああ報われたなって思える時がくるかもしれないし。
だから、努力することとか挑戦することは、目指した結果に結びつかないと無駄だったと思うかもしれないけど、全力で挑戦してほしい。
ただ取り組むだけじゃなくて、挑戦することに、結果がどうあれ、価値を見いだしてほしい。
就職活動でも、挑戦してみたいと思います!
本日は、ありがとうございました。