教えて先輩!ミニチュア写真家・見立て作家 田中達也さん

視点を変えれば世界が変わる 「もう1つの目」からのアイデア発想法

2023年03月10日
(聞き手:黒田光太郎 梶原龍)

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岩や砂利で山や川を表す庭園の枯れ山水、お盆の時期に飾るナスとキュウリの精霊馬など、ある物で別の物を表現する「見立て」は、私たちの暮らしに息づいています。

 

その「見立て」をミニチュアで表現し、SNSのフォロワーは370万人を超えるなど国内外から人気を集める田中達也さん。特別な世界を生み出し続ける田中さんのアイデア発想法を聞きました。

始まりは“ブロッコリー=木”

学生
梶原

初めての見立て作品はどんな作品ですか。

これです。

ミニチュア写真家・見立て作家
田中達也さん

田中さんが初めて「見立て」を意識した作品

当時、ブロッコリーがそんなに好きじゃなくて食事で余りがちだったので、余ったブロッコリーを木みたいに立てようという感じで撮りました。

田中達也さん

2011年からミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート作品を毎日SNS上で発表。2017年にはNHK朝の連続テレビ小説『ひよっこ』のオープニング映像を手がけ、2020年にはドバイ万博にも参画。Instagramのフォロワーは370万人を超える(2023年2月現在)。著書に「MINIATURE LIFE」、絵本「くみたて」「おすしが ふくを かいにきた」など。

見立てって、「何かが何かに見える」というのもそうだし、服を選ぶ時も「見立てる」って言いますよね。

それから子どもが遊びたくてもおもちゃがない時に、代わりに何か日用品を使ってごっこ遊びをするのも見立てです。

代用するとか工夫するって言葉に近いと思っています。

「見立て」には日本人の精神的な部分もたくさん詰まっていて、調べると奥が深いし、そうした発想は多くの人にも必要なことかなと思います。

ひらめきは買い物中にも

学生
黒田

そのインスピレーションはどこから得ているんですか?

買い物をする時が一番アイデアが湧きます。

スーパーや100均に買い物に行っていろいろ商品の棚を眺めたり。ずらっとものが並んでいた方がとにかくアイデアが出ますね。

あとはネットショッピングもよく使います。1つの商品をクリックすると関連する商品や似たものもたくさん出てくるから。

たくさんのアイデアを考えるコツが気になります。

アイデアを今から考えよう!みたいにはしないですね。

だから、写真を撮るときに考えるわけじゃなくて、普段暮らしている中で引っかかることはなんでもスマホにメモしています

田中さんのアイデアのメモ

ただ、何の心構えなしにぼーっと見てると僕も思いつかないので、探しているモードでやると見つかりやすいです。

探しているモード?

雪の景色を作りたいとなったら、買い物とか普段暮らしている中で白いものを探します。

最終的に実現したいアイデアをちょっと頭の片隅に入れておくだけで、あまり意識していない時に入ってきた全く関係ないことがそれに繋がったりするので。

何かしら頭の中に入れておくというのは大事ですね。

使えそうな物を別の物に見立てる作業が難しそうです。

風景を表現したいという時は、形をよく簡略化します。

例えば木を使った風景を表現したい時は、木ってイラストで書くと丸い形に下に棒1本付けると、木に見えますよね。

はい。

ということは、なんでも丸いものに棒が刺さっていれば木として見立てられるということです。

例えば、アメリカンドッグとか棒アイスをたくさん並べると森みたいになりそうだなとか。

アメリカンドッグを木に見立てた作品「Corn Dog Forest/ジャンク風土」

一つアイデアが出たら、これができるならあれもできる、みたいな感じでどんどん繋がっていくので、芋づる式で形の共通項を探すという感じです。

前後のストーリーを感じられる作品を

作品の中には流行や時事的な話題をテーマにされているものもありますよね。

今だと、コロナなどは世界的にみんなが注目している共通の話題なので、見立ての題材にしやすいですね。

コロナ禍になる前にマスクをパラシュートに見立てた作品を投稿したんですけど、その時は海外のフォロワーの評判はよくなくて。

それで、海外の人ってマスクをしないので全然なじみがないということが分かったんです。

けど、コロナ禍になってマスクをするようになるとマスクが共通の話題になって、より多くの人に伝わるようになりました。

マスクを波に見立てた作品「We overcome many difficulties./荒波を乗り越えよう」

戦争の作品も話題になりましたよね。

侵攻を表現した作品「NO WAR/戦争反対」

これはどの国がどの国を侵攻しているという設定があるわけではないんです。

アートって政治的なメッセージを発信するものというイメージがあるんですけど、僕はあまり政治的なメッセージはいれないようにしていて。

どうしてですか?

自分の中では、見立てのために共通の認識を探しているので、「良い」「悪い」みたいに分断される政治的なメッセージは作品では表現しないようにしています。

そのどちらにも共通していることを探すのが僕の仕事で、戦争がダメというのは当たり前なので、そこは表現できると思うんです。

この作品は、なぜメモ帳と鉛筆で表現されたんですか。

人間がほかの動物と違うのは、文字や言語でコミュニケーションがとれることじゃないですか。

本当は書くことに使うべきである鉛筆で攻撃しているということは、人間らしさを捨てた、折角積み上げてきたものも鉛筆一本で全部台無しということで作りました。

この作品はきれいに作るとだめだなと思ったので、メモ用紙も破ってぐちゃぐちゃにして、建物が壊れた様子を表現しました。

すごく奥深いですね。

ビルの中に人の生活が入っているのもすごく細かいなって思いました。

見立ての風景の中のミニチュアの人の生活も表現したいと思っています。

あえて1人のものもあれば、家族構成にして、この人とこの人はこういう会話をしているんだろうなといった、前後の物語を感じさせることはすごく意識しています。

家族を表現した作品の1つ「Basket Farm/新たな農法を編み出す」

そこまで考えられているんですね。

子どもに説明できないものは作らない

万人にテーマを伝えるために、普遍性以外に意識されていることはありますか。

大人から小さい子どもまで見てくれているので、子どもに「これってどういうこと?」って聞かれて親が説明できないものを作りたくないなと思っています。

親が説明できないもの?

僕自身、小学3年生と幼稚園の年長の2人の子どもがいて、毎日家で作品を作っているので、必ず子どもたちに見られるんですよ。

例えば、暴力的な作品を作ったとして、説明を求められたときに「これは子どもに教える事じゃないよ」というものは親としては作れないという思いはあります。

子どもに伝わる、伝えられるものは、結果的にどの年齢の人にも伝わるものになりますし、いろんな国の人が分かる作品にもつながっていくのかなと思います。

子どもに言われたアイデアをそのまま採用したこともあります。

マグロをパラシュートに見立てた作品「Sushiglider/うまく着地できるのはひと握り」

子どもがテレビを見ている時に、赤いパラシュートが飛んでいて「マグロみたいじゃん」みたいなことを言って。

いいね、そのまま使ってみようって作ったら、普段僕が投稿する作品よりいいねがすごく多かったです。プライドが…(笑)

(笑)

そういう直球なアイデアってすごく大事だなと思って。

自分で作った作品は子どもに通じなくてボツにした方が多いかもしれないですね。

例えば、ウーバーイーツの後ろのリュックが黒いさいころだったらおもしろいなと思って。道がすごろくみたいになっていて、さいころをふらないと先に進めない。

というのを「面白くない?」って言ったら、「どういうこと?」って言われて、理屈っぽ過ぎたな、と思ってやめましたね。

理屈っぽいとだめなんですね。

そもそも解説しないと面白くない、というのは広告を作っていた身からするとちょっと反則な気がするので、まず子どもにそれを説明している時点で雲行きが怪しくなる。

パッと見て、「これ○○じゃん、面白いね」と言われると、良かったなとなります。そうじゃない時は考えますね。

アイデアは無限

見立てのアイデアはどれくらいストックがあるんですか。

アイデアはものすごくありますよ。数えられないくらい。使ってないアイデアは1000から2000ぐらいはあると思います。

そんなに!

一日で平均して5つくらい新しいアイデアを思いつくとして、写真として形にするのが1日1個なので、一生追いつかないですよね、アイデアのスピードに。

だから、ずっと続けられそうだなと思っています。

アイデアが尽きることはないんですね。

一番怖いのは、健康と自分の気分ですかね。健康も自分のやる気もどうにもならないですから。

あと、飽き性なので、飽きないかっていうのも心配ですね。

あんまり加熱しすぎると一気に飽きちゃうので、淡々と同じ分量をやり続けるっていうのは、一番いいさじ加減かなと思います。

世界を広げて

田中さんの今後の展望もお聞きしたいです。

いくつかありますけど、1つは、ミニチュアじゃない作品ですね。

ミニチュアじゃない作品ですか?

最近だと神戸空港の屋上に大きなブロッコリーを建てたんですけど、モチーフを大きくしたら人がミニチュアになったような気分が味わえる作品が作れるだろうなと。

神戸空港に設置された「ブロッツリー」

それも人がミニチュアの視点になるっていう意味ではミニチュア的な作品ではあるんですけど。

ミニチュアに限らず、見立てを感じさせるものをもっと街なかや公共の場で展示できるといいなと思います。

それもおもしろそうです!

あとは、海外でも「見立て」という言葉を使ってもらいたいと思っています。

よく翻訳の人に、「見立て」はどう翻訳したらいいんですかって言われるので、見立てをそのまま表現できる言葉って海外にないんだなと思って。

例えるなら、「絵文字」みたいになればいいなと。

「絵文字」?

「絵文字」すごいですよね。海外の人にも「emoji」で通じるんですよ。それぐらい「見立て」という言葉も広まればいいなと。

で、見立て=田中だってなるとよりうれしいですね。そういうのは目標としてあります。

そのためにも、もっといろんな国で展覧会を開催して、話題を広げることができるといいなと思います。

視点を変えることで見えてくるもの

最後に、田中さんにとってミニチュアとは何かをお聞きしたいです。

ミニチュアを介すことで視点を変えられるので、自分の「もう1つの目」です。

ブロッコリーも、僕から見たらブロッコリーですけど、ミニチュアからすると大きな木に見えるじゃないですか。

はい。

人形を置いてスケールと視点が変わることで見立てが伝えやすくなったり、振れ幅が変わるので、その気づきが面白い。

人形があるから、ブロッコリー=木だと誰にでも分かりますし、ホッチキスの針も高層ビルに見える。

ホッチキスをビル群に見立てた作品「New York/芯シティ」

視点を変えないと分からない世界なので、ミニチュアを置くことでみんなにその視点の変化に気付いてもらう。

ミニチュアが視点を変えてくれるんですね。

別の視点を持つということですね。

ミニチュアに限らず、一回視点を変えると別の側面が見えるので良いと思います。

いろいろな視点で物事を見ていこうと思います。

ありがとうございました。

撮影:本間遥 編集:谷口碧

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