2022年08月19日
(聞き手:梶原龍 徳山夏音)
宝塚歌劇団で唯一無二の「おじさん役」としての地位を確固たるものにした天真みちるさん。人気絶頂の中、“中間管理職”としての悩みにぶつかっていきます。第二幕の幕開けです。
学生
梶原
おじさん役を極める中で、壁にぶつかったことはありますか。
だんだん、役だけではなく中間管理職の役割も求められるようになってきて。
天真みちるさん
1つの舞台で70人の演者に対して、演出家の先生って1人だから、一人一人に演出をつけてくれるのではなく、生徒どうしで補っていくんですよ。
各場面で一番年上の人が後輩をまとめて、先生はこういうふうに舞台を作っているんだろうなと察知して、自主稽古で反映させたうえで先生にお見せして「そっちの方向であってるよ」って言ってもらえるようにするんです。
先生の意向が前提なのに、だんだん「こうやってみたら面白くね?」って、私がリーダーとして作り過ぎちゃった時があって。
ある時期から先生の考えるビジョンとズレていくことが増えていっちゃったんですよね。
元タカラジェンヌ 天真みちるさん
2006年宝塚入団、花組配属。数々のオジサン役を演じ、2018年に退団。
芸名は座右の銘の「天真爛漫」から。愛称は「たそ」。現在は「たその会社」を起業し社長を務めながら俳優として舞台などに出演。演出や脚本も手がけるなど活動の幅を広げている。(特技のタンバリン芸を生かして余興芸人としても活躍中)
学生
徳山
どういうことですか?
まずは目の前のたった1人のお客様である演出家の先生に「うん」って納得してもらわないといけないんです。
それなのに「自分は本当はこういう場面を作りたいんだ」っていう気持ちが強くなってしまったんですね。
そのわだかまりが完璧に解消しないまま初日を迎えたりするんですよ。
お客さまの反応を聞くと、「すっごいよかったよ」って言う方もいれば、演出家の先生と同じ事を言う方もいて。
正解は1つじゃないなって。
だったらもう、宝塚でおじさん役としてこれから先もやってくっていうことではなく、1回外に出て、本当に自分が作りたいものを見つけなきゃいけない時が来たのかもしれないって。
宝塚を辞めるという決断をする覚悟って、どうやって生まれたんですか?
宝塚内外の人から、「守ってもらえるものがなくなるんだよ」ってよく言われて。
「元」宝塚歌劇団になるんだよって。
でもその肩書をなくして何で外に出たいかというと、プロデュースとかキャスティングとかイベント自体がどうやって制作されるのか知りたいという気持ちがあって。
就活でもちょっと近いかなと思っていて、企業から求められる自分に合わせるか、自分の価値観を大事にするのがいいのか、迷います。
就活だったらメリットをどこに持っていくかによるかなと思います。
今、自分が宝塚出身でよかったなと思っているのは、「タカラヅカ」を好きな人って確実にいて、それだけで信頼関係が生まれたりするんですよね。
「はじめまして、私は10年以上宝塚に在団していました」と言うと、それだけで入り込んだ話もできて、関係が築ける。
だから企業や組織にいることで得られるメリットが欲しいのであれば、就活の時は採用側の求める価値観にもある程度自分を寄せなきゃだめかなと。
ただ、自分がどんな人間なのか、どんなスキルを身につけたいのかは、入る前にはあまり決め過ぎないほうがいいと思ってるんです。
どうしてですか?
そうすると選ぶ道がめちゃくちゃ狭くなる気がするから。
入ってみて、こんな道もあったんだって気付くこともあるし、AでもBでもないCという別の道も作れたりするから、窓口は絶対狭めないほうがいいと思うんです。
就活はお見合い大作戦だから、「結婚前提にお付き合いしたいと思って来たんですよ」って言ったあとで、“ちょっと結婚は無理だな…”って思った時に初めて見つかる何かもあると思うんですよね。
就活はお見合いなんですね。
そうそう。だって3番目ぐらいまでつけるじゃないですか。
そうですね、第3志望くらいまで考えます。
本当に1つしかないんだったら本気でいけばいいと思うんです。
ただ、例えば宝塚ファンの方もそうですけど、初めてお手紙をいただいた時に「もう私にはあなたしかいません!」ってものすごい熱量のお手紙をいただくんですよ。
でも、いつの間にかお手紙が来なくなったりして……。
そうなんですか。
「この作品でこの役をやった私」が好きっていう時があるんですよ。
でも舞台って、超真面目なおじさんが2回続くときもあれば、変なおじさんが3回続くときもあるから、そういうのを経て、10年以上応援してくれる方は残ってくださるんですよね。
「あんたって、そういうところあるよね」って、ファンを超えて親友のような唯一の理解者のような存在になっていって、絆が生まれていくんです。
急に「好きです」だと「嫌い」になる瞬間も早いっていうリスクは、就活もあると思った方がいいかもしれないですね。
ありがとうございます。
卒業された後は、 制作の道に進まれたということですが。
芸能関係の会社で社員として、プロデュースやプロジェクトの発足からやらせてもらって。
予算にも携わって、「だから演者にこれぐらいしか入んないんだ…。私、結構頑張ってたのに~」とか、数字として自分の価値を初めて目の当たりにできたんですよ。
いやこれ高くない?って思って費用を削ったらものすごくクオリティーが下がったり、音響とか照明とか人員を削減したらこんなにも出来に開きが出たりするんだとか。
お客さまにひとときの夢を感じてもらえることができて来年以降も続いていく公演と、クオリティーが下がったから「次はもう行かない」になるかどうかのさじ加減、采配は制作にかかってるんだっていうこともわかりました。
お仕事は順調だったんですか?
卒業して再就職して、どこかまだ社会人1年目みたいな気持ちがあって。
自分の関係するプロジェクトで「ここの部分、削減しますね」って上司が発言しても、反対できなかった自分がいて。
そのあと現場を見てようやく、手を抜いたのがもろバレだこの舞台は…って、プロジェクトに他人事で携わっていたなと反省が生まれて。
自分の手がけることに責任持ってやっていかないといけないと感じた時に、組織にいたら結局、宝塚にいた時と同じ状況になるんじゃないかと思って。
それで独立されたんですね。
今は、もう個人で責任を持って仕事をやっています。
1人でやっていくって覚悟がいりませんでしたか。
覚悟を持って進むっていうよりは、劇団にしろ会社にしろ挑戦したいなと思ったことが見つかった時に、組織だと「やっていいですか?」と許可申請が必要な人たちがいるじゃないですか。
「それ成果出るの?」という質問が足かせになるけれど、フリーだとどうなってもいいから飛び込めるっていう自由さがあって、だからこそ足かせ付けてる間にやりたいことはたくさん作っておいたほうがいいなと。
やめたらこれだけに命をかけられるみたいなものがあったら、1発目ってバーンっていけると思うんですよ。
はい。
だから、覚悟をつけていくっていうよりは、断食道場に入る時もそうだと思うんですけど、とりあえず体重が痩せた時に「最初に食べたいもの」を書いていくみたいな。
その時ってなぜか一番ワクワクするじゃないですか。
わかります。
もう、そこら辺は見切り発車でいいんですよ、1人だから。
成果が出なかった時に初めて覚悟って生まれて、このまま続けるのか、何が駄目だからずっと伸びないのかっていうのも考えていけるし、辞めてもいいし。
覚悟を決めるために、組織にいる間にソロじゃなきゃできないことを考えた方がいい。
モチベーションになりそうですね。
ソロ向いてるなあっていうのも、組織にいた経験がないとしみじみ思わないんですよ。
1匹狼で生きる方がいいんだなって納得するためにも組織での自分の限界は知っておいたほうがいいっていうか。
最後に天真さんにとって「仕事」とは何ですか。
根性論に聞こえたら嫌ですけど、「自分のキャパを知ること」ですかね。
これからの人生を決めていくものだ!とか、先に根性論で決めちゃうと、全部が否定形で削除していくことになるんですよね。
これじゃないそれじゃないって感じで、自分のキャパが分からないまま終わると思うんですよ。
かっこいい目標ってあると思うし最初は形から入ってもいいんですけど。
例えば、肩肘張って、お見合いにガチガチの決め打ちでいくと、すぐに嫌になっちゃったりするかもしれないですよね。
そうですね。
とりあえずどんな仕事でもやってみたら自分の得手不得手が分かってくるし、その時に周りにどんな人がいるのかってことも分かります。
生きていくにあたって自分が最初からこれは向いてないんだって考えちゃいけないし、まんべんなくやっていって、自分の得意な五角形を見定めていく。
仕事ってそうやって見つけていくだけのものだから、あんまり肩肘張らないほうがいいですよ。
就活生に向けてメッセージをお願いします。
私の場合で言うと、後悔をものすごく次へのパワーに変えられるタイプの人間だったので、失敗におびえずに、たとえ失敗してもそういうものだと思ってほしいです。
映画の「インディ・ジョーンズ」※で、間違った道を歩くとバーンって奈落の底に落ちていくシーンとかあるじゃないですか?
※映画『インディ・ジョーンズ』シリーズ
ハリソン・フォード演じる考古学者がスリルに満ちた冒険を繰り広げる人気映画。
就活って雇い主が向こう側にいて、「問題です、どれが正解だ?」みたいな、そんな感じですよね。
はい。
踏み外したら奈落の底に落ちるんだけど、1回落ちて見ると何か引っかかりがあるかもしれないし、落ちた先に洞窟が見つかったりもするし、正解だけを踏み抜いていくことが本当によかったのかって分からないですよね。
雇い主と同じブレーンになっちゃっても、個性が生きなくなってしまうかもしれない。
もし踏み外しても、インディもどうなっても死なないんでね。
皆さんも「インディすら踏み損じるときあるんだからね!」ぐらいで生きていけると、その先に見つけた道で自分にとって何か新しいものが1つ手に入ったかもっていう楽しさがあるかもしれないから、あんまり、ガッチガチにならないように。
ありがとうございました!
編集:秋元宏美 撮影:阿部翔太郎
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