教えて先輩! 佐久間宣行プロデューサー(1)

人気プロデューサーに聞く「売れる企画」の作り方

2022年07月22日
(聞き手:阿部翔太郎 本間遥)

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「ゴッドタン」に「トークサバイバー!」。テレビや動画配信で次から次へとヒット企画を生み出す、プロデューサーの佐久間宣行さん。就活やビジネスにも役立つ「売れる企画」の作り方、聞きました。

やりたいことをやるために

学生
本間

早速ですがプロデューサーってどんなお仕事なんですか。

基本的には番組の最高責任者っていうことです。

佐久間
プロデューサー

キャスティングするのも、コンプライアンスをチェックするのもプロデューサーなんです。

その中で代表的な仕事は企画を決定して、チームを編成して、ディレクターたちの作ってくるものをチェック。

常にある程度の作品を仕上げて生産ラインに乗せていくことですね。

番組作りのすべてをされているのがプロデューサーっていうお仕事なんですね。

はい。ただ僕はすごく変わってるプロデューサーだと思います。

佐久間宣行さん

テレビプロデューサー、演出家、作家。新卒でテレビ東京に入社し、「ゴッドタン」「ピラメキーノ」など手がける。会社在籍中からでラジオパーソナリティーも務める。ネットフリックスで「トークサバイバー!」を企画し、大きな話題を呼んだ。

僕はもともとディレクターに近いんですよ。

ディレクターとして自分の思う番組を作るうえで、プロデューサーも兼任して予算組みとかチーム編成までしたほうがやりやすいなと思って。

めんどくさいけどプロデューサーをやってる

学生
阿部

めんどくさいというのは?

プロデューサーになるとお金の管理とか大人のつきあい、コンプラとかも向き合わなきゃいけないから、ディレクターだけでやっていきたい気持ちはあったんです。

でも、そうすると自分の番組を守ってくれる人がいなくなるというか。

例えばプロデューサーが最終的な表現の決定権を持ってたりするわけ。

はい。

「ここはピー入れないとダメですよ」とか、「ここは編集でカットしないとだめですよ」とか。

そうすると僕が作りたい、ちょっと過激だったりする表現は責任取れないからNG出されるんだけど、自分が最高責任者であれば僕が怒られるだけですむ

なるほど笑

じゃあ自分のやりたいことをより実現できるから・・・

そうです、だから僕は兼任してるんです。

おもしろいは伝わらない

じゃあバラエティ番組をつくる時、どんな芸人さんやゲストを呼ぶかって佐久間さんが決めているんですか。

定例会議があるから僕だけじゃなくてチーフとか担当のディレクターとも相談するけど、お笑いの分野においてはほぼ自分で決めますね。

どうやって、そうできるように実現させてきたんですか。

基本的に僕は組織の中では自分の思っていることとか、自分の本当の実力は伝わらないと思ってて。

1個ずつちゃんと行動を変えていくとか、企画書を出していくとか。

なるほど。

その企画書はけっこうロジックで書きます。

マーケットがこうで、こういう理由だからこれが当たるんじゃないですか、だからこういう内容ですって。

1年目2年目のころは「これおもしろいでしょ」って企画書書いていたんだけど、おもしろいって伝えるのはほんと難しい。

最悪なのは確実にいろんな人に届くように、おもしろいと思ってることを曲げちゃうこと。

そうならないように、おもしろいと思ってるものをそのまま世の中に出したいから、ロジックで周りを固めて組織を通すんです。

戦略は変えても根っこは変えない

企画といえば、話題になった「トークサバイバー!」を見させていただいたんですけど、どうやってあんな前例がないものを思いつくんですか。

テラスハウスとかリアリティーショーを見てる時に笑っちゃうことがあって、それでドラマのトーンでかっこよく撮ってトークするっていう企画を思いついたんです。

Netflix「トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜」

トークサバイバー!

佐久間さんがネットフリックスで手がけた番組。千鳥さんや劇団ひとりさんらが出演。ドラマが進行している中で不意にフリートークを振られ、おもしろくなかった人が脱落。出演者が最後まで生き残ることを目指しトークで競うバラエティー。

最初に考えた時、誰にも分かってもらえなかったんですけど、僕は誰にも分かってもらえないってことはおもしろいんだと思っているんです。

ただそのまま企画書を出したら絶対通らないから、自分の持ってるバラエティ番組の中でパイロット企画をつくりました。

そしたらいろんな人がおもしろいって言ってくれて、大規模なネットフリックスでも通った。

初めは周りから理解が得られなかったんですね。

得られないし、それが当然だと思う。

でも、そのほうが当たる。

Netflix「トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜」より

最初から100人がおもしろいって言った企画は、100人が思いつく企画なんです。

最初は自分だけがめちゃくちゃおもしろいと感じて、それが伝わらなかったらラッキーです。

そしたらその(おもしろさの)原液をもうちょっと強めたほうがいいのか、薄めたほうがいいのかで企画が通せるようになると考えたほうがいい。

ネットフリックスでの番組ってテレビと比べるとかなり大きな予算なのかと思うのですが、作り方も変わるんですか。

かける予算はメディアによって全然違いますよね。

予算以上にネットフリックスだったら有料で見てもらう人が多いけど、一挙配信しても途中で離脱する人も多い。

だからその視聴者の気持ちを想像して戦略は変えてます

なるほど。

でも、根っこにある「これがおもしろいでしょ」っていうものは変わらないです。予算規模も関係ない。

だって、例えば星野源さんの曲は四畳半で歌っても良い曲だし、武道館で歌ってもいい曲でしょ。

でも、武道館の時は演出変えるじゃない。そういう感じ。

だから自分が作っているものも、何万人にも見てもらうと遠くて見えない人もいるから演出は変えるんです。

受け手の自分を大切に

番組を作る中で、プロデューサーとして心がけていることってありますか。

何て言うんだろう・・・受け手としての自分が飽きないことですかね。

受け手としての自分?

「視聴者」とか「読み手」っていう意味での自分がおもしろがっていられるかっていうことが、自分の中でけっこう大事で。

受け手の自分がフレッシュじゃないと、その数年後に作るものがフレッシュじゃなくなるんですよ。

「作ってるだけの人」になっていったり、ロジックで作るだけになってきちゃうと、味が分からなくなる。

作り手目線だけじゃなくて、受けとる側の目線を持っている感じなんですか。

そうですね、究極的に言うと自分が見たいものを作っているんで。

見たい自分をリニューアルしていくっていう気持ちがないとだめだろうと思います。

そういう感覚を養うためにいろんなものを見る?

うーん、結果的に役立ってるだけで僕はおじいちゃんになって死ぬまで、できれば毎週のように映画とか見たいっていう人間なんです。

たまたま今仕事で作り手をやってるのも、自分が受け手として見たいものがないから作るだけで。

そうなんですね。

あとは、せっかくプロデューサーなんだから自分がおもしろいと思う人に売れてほしいし、おもしろいと思う劇団に長続きしてほしい。

そのほうがおじいちゃんになった時の自分が楽しいなって、そんなつもりで仕事してるって感じですかね。

ちなみに佐久間さんの思うおもしろいとか好きなものってどういうものなんですか。

僕が好きなのはその人だけの確信があるというか、何なら一銭も儲けなくてもこれやってんだろうなって人。

マーケティングで作った個性じゃなくてその人の中に初めからある、どうしようもないような個性がこびりついてる人がおもしろいなと思うんです。

佐久間Pの情報収集術

いただいたスケジュールを見ると、情報収集を一日中頻繁にされているんですね。

自分の番組のパブリックサーチはしますよ、傷つく意見は傷つく意見で「こう思われたんだ」みたいな。

幸いもうおじさんでメンタル強いんで、なんだったら頭にくる意見のほうをブックマークしたりします。

そうなんですね。SNSでの流行とかも気にされたりするんですか。

はやりは気にしないけど、SNSでいろんなものに対するいろんな人の意見を聞く中で、こういう表現で傷つく人が増えたんだなとか、流れを把握するようにしています。

で、傷つく人がいるものはどうしてなんだろうなって考える時間を持ちます。

なぜですか?

何かを表現したときに誰も傷つかないなんてなくて、ある程度しょうがないんだけど。

でも、ここで気を遣えなかったからたくさんの人が「うわっ」て思ったんだってことは感覚として持っておきたいんです。

なるほど。日ごろのネタ探しというか、情報はどう拾っているんですか。

YouTubeもTikTokもふつうに見るかな芸人系のものは。

それ以外は自分が気に入った作品を検索して、それについておもしろい感想を書いてる人を見つけて、そういう感想が3つ以上あったらその人のブログをフォローするようにしています。

一般の人でもですか?

うん、一般の人でもフォローしてて、その人が僕の知らない作品でおもしろいって言ったら興味がなくても見る。

そうすると、おもしろい可能性が高い。

自分と似た感覚の人を信じてるって感じですか。

そうそう。だからtwitterでも、全然知らないフォロワー1000人ぐらいのお芝居好きの人とか、そういう人もフォローしてるんです。

しびれるくらいの感動

何かを作り上げることのおもしろさとか醍醐味ってどこにありますか。

やっぱり、おもしろさが人に伝わった瞬間ってビリビリしびれるくらい感動しますよ。

自分が半径3メートルぐらいの人と話して思いついたことが、何万人、何十万人、何百万人に伝わった瞬間の感動はすごい。

おもしろいってなかなか伝わらないと思って仕事しているからこそ、伝わったときは何倍も感動するんですよね。

自分がやりたい企画だからこそ、根っこにある「おもしろさ」は変えず戦略的に提案を通す佐久間さん。今、そんな佐久間さんの仕事のしかたも注目されています。次回は「仕事術」についてじっくり聞きます。近日掲載です。

編集:加藤陽平 撮影:徳山夏音

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