2022年04月22日
(聞き手:石川将也 小野口愛梨 田嶋瑞貴)
ビジネスの世界で「プレゼンの神様」とも呼ばれる澤円さん。実は文系の学生からエンジニアに就職し、最初は専門用語が分からない「ポンコツ社員」だったと振り返ります。そこから徹底的に苦手と向き合うことで、「ポンコツ」を強みに変えたといいます。
どんな就活をされたんですか?
情報感度がめっちゃ鈍くて、大学4年になってからぼんやりと何となく就活でもするかって感じで。
のろのろと始めたんだけど、それでも20社くらいは内定もらったんじゃないかな。
その中で給料も従業員もそんなに悪くなかったので、ある生命保険会社に決めて内定式にも参加したわけです。
時代ですね・・・
【澤円さんプロフィール】
生命保険会社のIT系子会社を経て、1997年に日本マイクロソフトに入社。2018年には業務執行役員に。2020年に独立。年間250回以上のプレゼンをこなす「プレゼンの神様」としても知られる。
でも年末になってなんか違うなと、別に生保の仕事にそれほど興味ないぞって思ってしまって。
会社に入っても何するかわからなくて、そもそもこれって就職じゃなくて就社じゃないかと思ったら自分の人生を生きている感じがしなくなっちゃったんです。
これが何十年と続くと思ったら嫌になって、内定蹴っちゃったんですよ。
えっ、その後はどうしたんですか?
何になろうかなって考えたときに、ある場所で出会った社会人に「何されているんですか?」って聞いたら、その方が「システムエンジニアです」って答えたことを思い出しました。
社名じゃなくて、職業名で答えたのが印象に残っていたんです。
かっこいいなと思って年明けから就活をやり直して、システムエンジニアになったんです。
当時はSEってどれくらい普及してたんですか。
全然!全然!一般的にもまだまだ認知度の高い職業って感じじゃなかったです。
そもそも僕は経済学部だったので、文系でプログラマーになるなんていうのは、大学の同期で一人もいない。
当たり前だけど仕事内容が理解できず、でもインターネットもないから調べようがない。
アルゴリズムもなんかの音楽のリズムだって思っていたぐらいです。
さっぱり分からないところからのスタートで、2年間本当にポンコツで全然役に立たなかった。
ポンコツ・・・苦労されたんですか?
もうとにかく言葉が分からないから、全然太刀打ちができないし質問もできない。
そんな悲惨な状態だったんですけれど、たまたま先輩がめちゃくちゃ優しい人で、その人にとってもお世話になりました。
そんな状態で2年くらいもがいていたら、インターネット元年が来たんですよ。
1995年にパソコンが安くなって、ネットにつながりやすいOSが出来たというので爆発的にユーザーが増えたんです。
するとコミュニケーション方法が全部変わってリセットがかかりました。
リセット?ゼロになるっていう感じですかね。
そう。インターネットっていう時代は誰も知らないので、全世界、全員が初心者に逆戻りになった。
1995年にマイクロソフトが発売したWindows95は、インターネットが一般に普及する大きな契機となったといわれ、最初からダイヤルアップ接続機能(電話回線を使う通信環境)とWebブラウザが付属していた。インターネットが体験できる機能は当時まだ珍しく、利用者が増えていくきっかけとなった。
僕は発売されてすぐにけっこう高いパソコンをローン組んで買って、ネットにつなげてひたすらネットサーフィンしました。
ただ遊んでいるだけだけど、他にやっている人はいなかったので、それだけで先行者特権ってものが得られました。
「澤はどうやらネットに詳しいらしい」って社内でも認知されて、仕事にすごくプラスに働いた。
戦略的にじゃなく本当に好きで続けたっていうことですね。
過去を振り返って自分を褒めたいと思うものはほとんどないけど、エンジニアになったことと、95年にパソコンを買ったことの2つは褒めてやりたい。
へー!
その後プレゼンはどう工夫していったんですか?
自分で工夫したわけじゃなくって偶然の産物みたいなものでした。
とにかくポンコツエンジニアなので、パソコン、コンピューターのことはさっぱり分かんなかった。
でも分からない中でジタバタしながら覚えていく、そのプロセスって実はすごく価値がある。
例えば、スポーツやる?
壁を登るスポーツクライミングをやります。
周りに生まれつきお前超天才だろってやついない?
いますいます。
そういう人ってできない人がいるとなんでできないの?って思っちゃう。
確かに感覚で言っている感じがします。
この差が大きいわけ。
僕は教えるのがうまいんです。
なぜかというと、できない時間が長かったので、できるようになるプロセスが全部わかるんですよ。
最初からできてしまう人は、プロセスを分解して言語化できない。
感覚でつかんでいるかもしれないですもんね。
僕の場合だと、ゼロから構築しているから何でできるようになったかは全部説明が可能なので、それが強みになったんですよ。
説明や話がうまいんじゃなくて、わからない人の視点が分かること、これが一番大きな武器なんですね。
どういう過程を経て武器が扱えるようになったんですか?
日々、目の前にあることを必死こいてやる。これだけ。
よくどうやったらうまくいきますかとか、どうやったらすてきなキャリアを作れますかって質問を受けます。
そんなこと考えている暇があったら、目の前のことを必死にやったほうがいい。
どうしてでしょうか?
なんでこれができない、なんでうまくいかないんだってことを徹底的に考えるからです。
キャリアのことばかりを考えているということは、仕事に集中できていない状態かもしれないですね。
それはどういうことですか?
何のために仕事をするのかって事なんですけど、会社の経営って3層構造になっていて、一番上にあるのが社会貢献、経営者の視点なんです。
次が仕組みの運用、日本語だと管理職と呼ぶマネージャーの視点です。
そしてタスクを実行をする一般社員の視点になります。
はい。ここまではわかります。
一般社員は仕事自体のディテールまで解像度高く見えているはずです。
なので、キャリアのことを考えるのは大いに結構なんだけど、解像度の高い世界をしっかり見ることをないがしろにしていませんかというのが僕の問いです。
見るべき世界を見ていない?
そう。
まず最も解像度が高い世界を説明可能な状態にしてみて、自分が主体的に動けているものは何なのかって考えることが、キャリアを語る上で一番重要になってくるんです。
それって学生で言えば学業とかアルバイトの解像度を上げていくっていうことですか?
まずはそういうことです。
自分に問いかけるんです、なんで自分はこれが好きなんだ、なんでこれに興味を持てるんだ、なんでこれが嫌いなんだとかって言う事を説明できる状態にする。
そうすると他の人にも説明ができるんです。私はこういう人間なんでこれが得意でこれが苦手ですみたいな話ができる。
それにプラスして外の世界にも興味を持てば、私であればきっと世の中にこうやって貢献できる気がしますと気づくことができる。
自分と社会のつながりを考える…
自分を主体にしてストーリーが語れない人は、結局のところ他人の人生の都合に合わせて生きるしかなくなってくる。
自分そのものの適性もわからないままで全く合ってないところに放り込まれても、文句一つ言えない状態になりかねない。
そう考えると、まずは自分のことを説明可能な状態にする、徹底的に観察する、これ非常に大事なポイントなんですね。
SEをされていたころはまさにそうだったんですか?
そう。僕はエンジニアには全く向いていなかったんですよ。
でも、向いてなかったからやらないほうがよかったかというと、やっといてめちゃくちゃよかったんです。
要するに経験なんです。経験は嘘をつかないのでそれを言語化しておくと流用可能なんですね。
その道のトッププロではなくても、「知っている」という事は別のポジションでは武器になるんですよ。
そうなんですね。
例えば僕の場合だとポンコツだけど一応エンジニアであるという立ち位置があるのでテクノロジーっていうタグが付いている。
テクノロジーという立脚点しかないと僕よりもっと詳しい人には絶対勝てないんだけど、僕はテクノロジー×ほにゃららがいくつもあるので、そこからの派生でいろんな話ができる。
サイバーセキュリティーやビジネスマネジメント、ピープルマネジメント、そしてプレゼンテーション、セルフブランディング、マルチキャリアこの全部が僕のタグになっている。
すごいたくさんですね。
この掛け合わせができるとすごいユニークさが際立つ。
おまけに見た目が長髪で思い出してもらえるのもタグの掛け合わせになる。
ファーストキャリアのときには最初のタグ、強固なタグをつけるために何ができるかといった考え方をしてもいいのかなと。
一つ強いタグを作る。
割り当てられた仕事でそれを徹底的にやって、さらに抽象化してそれを説明できる状態を作る。
すこし戻りますが目の前の仕事に集中する中で、社会とのつながりをどう見出せばいいのかなって気になりました。
ものすごいシンプルに考えちゃっていいと思うんですよ。
「ありがとう」って言われるかどうかです。
間接的かもしれないし場合によっては自分のところに届かないかもしれないんだけれど、誰かに感謝される仕事を私はしているんだっけ?という見方は大事かなと思います。
最後に「仕事とは」をお聞きしても良いですか?
「人を幸せにすること」
人がハッピーになってないことやるのって、つまんなくないですか。
はい。
ひたすら石を積む仕事だとしても、その石が積み上がっていくことですごい喜ぶ人がいるとしたらまだ頑張れますよね、意味があるから。
人が幸せになるっていうことが仕事の意味なんです。
なるほど、ありがとうございます。
撮影:梶原龍 編集:鈴木有
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