2021年03月11日
(聞き手:伊藤七海 田嶋 あいか)
原発から出る「核のゴミ」。たまにニュースで耳にするけど、いったい何が問題になっているの?そもそも「核のゴミ」って何?気になるギモンについて原子力が専門の水野解説委員に聞きました。
よろしくお願いします。
さっそくですが「核のゴミ」ってそもそもどのようなものなんですか?
水野解説委員は初任地・青森で核燃料サイクル施設の建設をめぐる取材に携わったことをきっかけに、東海村の臨界事故や福島第一原発の事故など、これまで通算20年以上にわたり原子力を専門に取材。
原発の運転をすると必ず、いろいろな放射性廃棄物が出ます。
例えば、作業員がつける手袋や防護服もそうです。
この放射性廃棄物の中で、最も放射能レベルが高いのが、発電で使い終わった核燃料(使用済み核燃料)です。
日本では、さらに、ここから再利用できるプルトニウムなどを取り出し、残った廃液をステンレス製の容器に流し込んで固めています(=ガラス固化体)。これが核のゴミです。
専門的には「高レベル放射性廃棄物」と言いますが、放射能レベルが非常に高く、処分も難しいので、かなり厄介だというニュアンスを込めて「核のゴミ」と呼ばれるようになりました。
なるほど。
核のゴミは高レベルの放射性廃棄物ということですが、そのレベルってどのような基準で決まるのですか?
それは、人体にどれだけ有害な放射線を出すかということです。
核のゴミは非常に放射能レベルが高く、できたばかりの時には近寄ると20秒ぐらいで、人が死んでしまうぐらいの強い放射線が出ているんですね。
わあ、そんなに!
ただ、放射性物質の種類によって違うのですが、高レベル廃棄物も1000年ぐらいたつと大体99%ぐらい放射能はなくなるといわれています。
でも、それではまだ最終的に安全とは言えないということで、天然のウラン並みの放射能になるためにかかる「数万年」にさらに余裕を加え、10万年は隔離しなきゃいけないという話になっています。
壮大なスケールの期間ですね…。
今から10万年前というと、我々人類の祖先、ホモ・サピエンス(現生人類)が大陸各地に広がっていった時期。
そこから今に至るまでの間隔で、人が絶対に手をつけないような隔離方法を考えなきゃいけないと考えると、どれだけ厄介なものかということが分かると思います。
この厄介な廃棄物を最終的にどこに処分するかがまだ決まってないんです。
まだ決まっていない…。ということは、核のゴミはいま、どこにあるのですか?
核のゴミの大もとの使用済み核燃料は、基本的には、全国にある原発の中で保管されています。
あとは、2022年度上期の完成を目指している青森県六ヶ所村にある再処理工場にも、すでに運びこまれています。
これらを合わせると、その量は約1万9000トン。
このほか、イギリスとフランスに運んで、再処理を委託した分が約7000トンあり、全部で2万6000トンに上る計算になります。
数字が大きすぎて想像ができません…。
原子力発電は昔から行われてきたはずなのに、なぜ、今なお、核のゴミが問題になっているのでしょうか。
日本では60年代から原発を使い始めていて、当時から核のごみが出てくる事は分かっていました。
でも、エネルギーの需要が増え続けるなかで、石油などに頼らない方法として、どんどん原発を建設していこうということになったんです。
当時は原発をつくることで手いっぱいで核のゴミの処分については「後から考えればいい」「しばらく保管しておこう」ということになっていました。
原発をどんどん作っていこうという段階のときに、核のゴミの処分については深刻に考えていなかったということ?
そうです。結構、厄介な問題だし、ちょっと処分場の話をすると反対運動にあったりするということもあって、なかなか進みませんでした。
その後、議論が進むきっかけとなったのは、10年前の福島第一原子力発電所の事故です。
事故では原子炉のなかにあった核燃料が溶けてそこから大量の放射性物質が放出されました。
それとは別に、使用済み核燃料を保管していたプールの水が蒸発し始め、使用済み核燃料も溶けて、大量の放射性物質が放出されるおそれもあったんです。
幸い、プールの水がなくなる事態は免れましたが、そこでようやく、やっぱり核のゴミのもとを地上に置いたままにしておくっていうのは、良くないという話になったんです。
原発事故でようやく重い腰を上げたっていうのが実際のところです。
震災がきっかけになったんですね。
そうです。事故がなかったら、まだのらりくらりしていたかもしれないですね。
こうしていろいろな問題があると、このまま原発を使い続けなきゃいけないのかなって思ったりもしますが…。
確かに事故後は原発はやめるべきという意見が増えましたが、まだ必要だという考えもあります。
今、エネルギー問題を考える時に一番考えなきゃいけないのは、政府が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという方針を打ち出していること。
日本が排出しているCO2の40%は電気を作るときのものなので、とにかくCO2を出さないような発電方法にしていきましょうと、火力発電の見直しを進めています。
そうした中にあってCO2フリー電源の代表格は再生可能エネルギー。しかし、再生可能エネルギーだけで、2050年にすべての電気を賄うというのは現実的ではないとの見方もあります。
そこで、発電の時にCO2を出さない原発も選択肢の1つだね、というのがいまの政府の考え方です。
正直、まだ、自分の身近な問題として捉えきれない部分があります。
まぁ、そうなんですよね。
一般の人たちが簡単に目にできる場所には保管されていないので、自分たちのゴミという感覚はなかなか持てないのかもしれません。
でも、もともとは自分たちが使った電気から出された廃棄物だということを考えれば、あまり他人ごととは思えないという気持ちを少しは持ってもらえるのではないかと思っています。
現実として「核のゴミ」はあるんで、それはやっぱり処分しないと。
次回は「核のゴミ」の処分方法や、海外の状況について見ていきます。
編集:小浜 一哲
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