目指せ!時事問題マスター

1からわかる!株・為替(6)為替から見える世界の経済と政治

2020年12月25日
(聞き手:伊藤七海 勝島杏奈)

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「円高」「円安」になる背景には、国どうしの思惑があります。少し難しくも感じますが、為替の歴史から、新型コロナウイルスの感染拡大で起きた変動まで、じっくり聞きました。

かつては1ドル360円!

学生
勝島

ここまで、為替が国どうし、特にアメリカの影響を受けて変動すると伺いました。

過去にアメリカの影響をすごく大きく受けた例ってありますか。

そもそも、アメリカの影響を大きく受けていたんです。

布施谷
デスク

NHK経済部 布施谷博人 デスク:主に金融分野を取材、アメリカ・ワシントンでも勤務

ちょっと歴史の話をすると、今は1ドル100円ぐらいですけど、戦後長い間1ドル360円っていう時代が続いていたんです。

学生
伊藤

あっ、歴史の授業で習いました。

通貨の仕組みとして、相場を固定するっていう時代が続いていたんです。

それが固定相場制ですね。

そうそう。

固定相場制
1ドル=360円など、通貨レートを特定の水準に固定する仕組み。貿易の際に為替変動での損益が発生せず、リスクを抑えられる。一方で物価の上昇などを反映しないため、長期的には適正な為替レートから外れる。

それが変動相場制っていう市場に任せる仕組みに移行して、売り手と買い手が出会うところで値段が決まって相場が変動するようになった。

なんでかというと、アメリカの事情なんです。

第二次世界大戦後、「アメリカが世界の圧倒的なリーダーとして通貨の安定も責任を持ちます」という仕組みとして始まったのが固定相場制だったんです。

ブレトンウッズ体制って言うんだけど、世界経済が混乱していたので、為替が安定した世の中を作りましょうというのが当初の理念だったんです。

けど結局アメリカが仕組みを維持できなくなった。

そうなんですか。

この仕組みの重要なポイントは、ドルを決まったレートで金(gold)といつでも交換できるようにしていたこと。

金と連動させることでみんながドルを信用して、制度は回っていた。

だけど、日本や当時の西ドイツなどが経済成長を果たす中で、だんだんその仕組みを維持することが難しくなってきた

日本や西ドイツからアメリカ向けの輸出がどんどん増えていくと、結局アメリカはドルで代金を支払うじゃないですか。

はい。

そうすると、ドルがアメリカから日本などにどんどん出ていく。

そのうち「こんなたくさんのドル、アメリカは本当に金と交換できるのかな」と、心配になりますよね。

アメリカにしても、世界中にどんどんドルが出ていっちゃって、固定相場を維持するのが難しくなったんです。

なるほど。

それで、いつまでも360円っていう仕組みは無理だとなって1971年、当時のニクソン大統領がドルと金の交換は停止すると、突然宣言したんです。

1ドル=360円から切り上げられ、日本国内でも大きなニュースに

国の思惑が影響

そこから市場に任せようと変動相場制に変わるんですが、日本の経済は成長していたから円の実力も上がっていました。

高度経済成長期の日本 高速道路の整備も急速に進んだ

1ドル360円だった円相場は、300円、260円ってどんどん円高になっていって。

1985年のプラザ合意を経て、1ドル150円というところまで円高になったわけ。

ニューヨークのプラザホテルでの会議 日本からは当時の竹下大蔵大臣が出席

プラザ合意

1985年9月22日、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの大蔵大臣らが集まって開かれた会議。過度なドル高を是正するために協調介入することで一致した。結果、1年で1ドル=240円台から150円台に急激に円高が進んだ。

そうすると輸出産業にどういうことが起きるか何となく想像できる?

円高だから、輸出に困りますよね。

そう。

ざっくり価値が半分になったら、今まで100ドルで売っていたモノは200ドルで売らないともうからなくなっちゃう。

2倍になったら誰も買わないよねって話になっちゃうじゃないですか。

確かに。

プラザ合意のあとに起きたのが円高不況だったんです。

日本の企業は大変な苦労をして円高に対応していったけど、そのころから日本は円高恐怖症みたいなものに陥っていて。

実体験として刷り込まれているので、今でも円高のほうが大変だっていう人が相当数いる。

意外と相場が自然に決まっていくイメージではないんですね。

変動相場制の下では、基本的にはマーケットでの自由な需要と供給で価格が決まる仕組みなので、そこは株と同じで自然に決まっていく

ただ、違うのは2国間の思惑、政治の世界が通貨には入ってくる時がある

市場で決まるけど、どちらかの国だけに有利なことになりかねないっていうことがあるので、ある種の協調というか、話し合いというか、調整というか。

えー。

妥協、譲歩も含めてなんだけど、協調して為替のレートを合意した水準に操作することが、時としてあるんです。

例えば東日本大震災の時、すごく円高が進んでしまったって話しましたよね。

あの時はほかの国と協調して、みんなで円を売ってドルとかユーロを買って、円高を抑えようと行動したりしたわけです。

各国が日本の大変な状況を理解して、協調行動をとった。

新型コロナで為替相場に起きたこと

今、新型コロナの影響って全世界に広がっていますよね。

感染者数に差はあっても全世界に影響がある場合、その時はどの通貨が買われるとか、為替の影響ってどうなるんですか。

世界のお金のやり取りの中で、ドルは44%と圧倒的なシェアを持っています。

ドルを世界の基軸になる通貨としてみんなで一定の信認を置いてるから、やっぱりドルに頼る面がある。

はい。

コロナの時で言うと、市場の人たちもすごく混乱して、アメリカで感染が急拡大した時に慌ててドルを売って。

新型コロナウイルスの感染は世界に拡大 市場にも不安が

3月上旬に1ドル105円くらいだった相場が、あっという間に101円まで円高になった瞬間があった。

そのあとは、逆にドルが急に買われだして、2週間で101円くらいから112円ぐらいまで円安が一気に進んだ。

何が起きてたかというと、まったく先行きが分からない中で株を持ってるのも大変だし、とにかく「安心なものは何か」と

結局みんな、「ドル、ドル、ドル」となったんです。

そういう時ドルを買うことを「有事のドル買い」って言います。

「有事のドル買い」・・・ですか?

何か大きな出来事が起きた時の一番安心確実な通貨って、やっぱりドルじゃないのかっていうことです。

コロナの感染拡大の瞬間には、それがちょっと見えたかなと思います。

為替の背景に “複雑な変数”

ちなみに、通貨が安いか高いかどっちがいいかっていうと、物を買う側からすると通貨が高いほうが絶対いいんですよ。

外国の物を安く変えるから。

そうですよね。

だけど、物を売る立場からすると安い方がいいわけ。

歴史の話をすると、第2次世界大戦の前に大恐慌が起きて、株価が暴落しちゃって、すごい不況が世界的に起きた。

あの後、何が起きたかと言うと、通貨安競争が起きた。

通貨安競争…。

通貨安競争

各国が自国の輸出を有利にするため、競って通貨が安くなるよう誘導すること。1929年、アメリカの株価暴落を発端に各国に広がった「世界恐慌」の間にも起きた。

未曽有の不況のなかで、とにかく物を売りたいと。

みんな競い合うように、通貨を安くしよう安くしようというような競争をした。

それもあって国と国の対立がどんどん深まって、やがて第2次世界大戦へとつながっていったとも言われています。

だから、戦後の世界では通貨安競争はやめようというのが大前提にあるんです。

そうなんですね。

ただ、例えば戦後、日米の貿易摩擦っていうのがありました。

アメリカからは「日本はアメリカに自動車なんかを輸出するために、円を安くしてんじゃないか」という声があがった。

そのせいで日本製のものが、安く洪水のようにアメリカに入ってくるんじゃないかって思う人はけっこう多かった。

そんなふうに為替と貿易の問題って、2国間の政治の問題になりやすいんです。

なるほど。

今はアメリカと中国の間でそれが起きてる。

中国から大量の物が入ってきているのは、中国が意図的に人民元を安くしてるからじゃないかって。

通貨、為替って経済や貿易のために絶対必要なんだけれど、対立の種になることが常々あるんですよ。

株とはそこが違う。株は基本的には上がればみんなハッピー。

だけど為替は本当にシーソーゲームなんで、自分の国にとっていいことは相手の国にとって悪いことっていう事態が起こりうるので、かなり複雑なんです。

いえ、すごい分かりやすかったです。

うんうん。

何を言いたかったかというと、通貨の問題って国と国の利害がかなり反映されるので、舞台裏では僕らの知らない各国間の話し合い、丁々発止としたやり取りっていうのが常に続いてるんです。

為替相場の動きを決めるのは自由主義の経済では投資家なんだけど、国と国の思いがぶつかり合うっていうところが、すごくダイナミックな世界。

投資家は国と国の利害さえも深読みして取り引きするから、よけい複雑になる。

僕らでは解析できないような複雑な変数が為替の世界にはあるんです。

僕らからすると、通貨、為替は株価以上に取材しがいがあるというか、何が起きてるんだろうっていう舞台裏を知れたらすごいなって、関心がある世界なんですね。

知れば知るほど、複雑になりそう。

けど、外交まで見えてくるというのは、面白いなって思いました。

ありがとうございました!

編集:加藤陽平

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