目指せ!時事問題マスター

1からわかる!ベーシックインカム(3)
日本で実現できるの?

2021年01月26日
(聞き手:伊藤 七海 勝島 杏奈 )

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すべての人に無条件で現金を配る制度「ベーシックインカム」。日本で実現の可能性は?導入したら社会の課題解決につながるの?未来のことで不確実なことも多いのですが、社会保障分野担当の竹田解説委員に解説してもらいました。

ベーシックインカム
国が「無条件」に「国民全員」に現金を配る制度。起源は16世紀にさかのぼるが、コロナ禍で生活を支える手段として議論が再燃。財源の確保が課題。

日本で実現の可能性は?

学生
伊藤

日本で、ベーシックインカムは導入できるのでしょうか。

これまで見てきたように、普通に考えると、財源がネックになりますよね。これは相当厳しい。

竹田
解説委員

だとすると現実的にできそうなのは、前回も少し触れた「給付付き税額控除」

ノーベル経済学賞を受賞した米国のミルトン・フリードマン博士が「負の所得税(negative income tax)」として提唱した仕組みがもとで、限定的なベーシックインカムと位置付けられているものです。

簡単に言うと、ベーシックインカムは現金を配るだけですが、これは減税と組み合わせて効率的に行おうというものです。

所得がある人には減税をし、所得がなくて税金を納めていない人にはお金を配る。

学生
勝島

えっと、もう少し詳しく説明していただけますか?

話を聞いた竹田忠解説委員は経済、雇用、社会保障が専門。経済部記者時代には通産省(当時)や大手商社などを担当。日本だけでなく、世界10か国以上の雇用現場を取材した経験も。

では、画で説明しましょうか。10万円を給付した場合の例で考えてみましょう。

たとえば、ある程度の所得があって15万円の所得税を納めている人の場合は、10万円が引かれて、5万円だけを納税すればいい。

納めている所得税が8万円ならば、納税しなくて済むうえ、引ききれずに残った2万円の現金が支給されます。

所得税が0の場合には、10万円の現金が支給されるわけです。こうすれば、10万円を配るのと同じ効果を、より効率的に実現できます。

確かに、これだと、それぞれの経済状態に応じた対応ができますね。

お金のない人ほど、ちゃんと現金を給付する。より所得の低い人に恩恵がストレートなんだよね。

格差是正の切り札に?

でも国からすれば、給付にはお金が必要ですし、入ってくる税金も、減税によってそれだけ減るわけですから、財源が足りないという点では、結局同じことなのでは・・・・。

鋭い! 確かにそうですよね。でも、それは説明を単純化しているためです。

この仕組みをすでに導入している欧米などの先進国の多くでは所得に応じて給付の額を変えているんです。

つまり、所得が一定以下なら、例えば10万円が現金か、減税かで全額支給されます。

一方で、所得の多い人の場合は、控除の額を徐々に減らして、一定以上は減税をやめる

そうすれば、豊かな人にまで、なぜお金を配るのかという、ベーシックインカムの最大の課題をクリアできる。

今、この国が解決すべき最大の課題は、汗水流して働いている人が、なぜ貧しいままなのか。特に日本は、正規と非正規の雇用格差が大きいんです

どのぐらい違うんですか。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調べによると、フランスだと、非正規の人は正規の給料の9割をもらっています。

ドイツは大体8割。イギリスで7割日本は57%です。

比べると、かなりの差があるんですね…。非正規で働いている人からは、不満もでますよね。

実際、非正規の人たちの中には、生活保護レベルよりも低い賃金しか受け取れないワーキングプアが問題になっているわけです。

個人で頑張っても格差が埋まらないなら、応援する仕組みが必要ではないですかっていう話です。

切実な問題ですね。

さらにこれからは、AI(=人工知能)でいろんな人の仕事が奪われる可能性があると言われている。

例えば、自動運転が完全にできるようになれば、運転手という職業はなくなる可能性もあります。

そうなると仕事がなくなった人はどうすればいいんだとなりますよね。

私たちにとっても、人ごとではない問題だと思います。

いろんな仕事のAI化を、国が国際競争力向上のため促進するというのなら、それに対するセーフティネットも国は責任をもって行う必要があります。

たしかに。

ITの仕事でも、介護でも、新しい仕事に移るためには、学び直しや研修が必要です。

その時、ベーシックインカム的な政策があれば、すごく助かるのではないかと。

それが、AI時代には、ベーシックインカムが必要では、と言われている理由ですね。

最低限の生活保障が、これまで以上に大事な世の中になりそうですよね。

コロナで生活が厳しいから、お金を配ればいいというのは、確かに重要ですが、あくまでも一時的な話だと思います。

どうして日本では、給付付き税額控除が導入されていないんですか。

実は、かつて、給付付き税額控除が、国会などで盛んに議論された時があったんです。

消費税を10%に上げる際の、いわゆる低所得対策として、当時の民主党政権で真剣に議論されていた。

しかしその後、政権が交代し、低所得者への対策としては、よりわかりやすい軽減税率が採用され、給付付き税額控除はほとんど議論されなくなった。

さらに、この仕組みは、先程説明したように、所得に応じて控除などを調整しようとすると、所得や資産の正確な把握が必要になるという課題がある。

当時は、これが難しかった。でも今はマイナンバー制度がある。この制度を駆使すれば、給付付き税額控除の導入は可能だと思います。

いまが分岐点

もし日本が、ベーシックインカムを導入するとしたら、いま、どの段階にいますか。

日本は分岐点にいると言えると考えています。いま説明したように、進むために必要な杖、つまりマイナンバーは手に入った。

でも、完全ベーシックインカムへの道のりは厳しい。もう少しなだらかな、給付付き税額控除なら行けるかなと。

 

分岐点というのは?

前に進むか、それとも折り返して、今まで通りの一律的な行政サービスを続けるのかという意味です。

それはいつごろ、はっきりするんでしょうか。

2025年と2040年が、大きな分岐点の年になるのではないかと考えます。

2025年は、団塊の世代が、全員75歳以上の後期高齢者入りをします。一気に医療や介護の費用が増えます。

さらに2040年は、65歳以上の高齢者が最も増える年です。

その時までに、現役の人たちに頑張ってもらう仕組みや、高齢者も働き続けられる仕組みをつくれるかが、一番重要です。

国のあり方みたいなところとも関わっているんですね。ただお金をもらえて「やったー」っていう話ではないんですね。

実際、あまり危機感をもって考えたことはなかったです。わかっている未来があるなら備えないとですね。

課題は、生涯現役を、どう支えていくかです。

そのために、ベーシックインカム的な政策で賃金を補完するという発想は、これからの日本を考えるヒントにしてもいいかもしれませんね。

ベーシックインカムの仕組みや課題について竹田解説委員の解説でした。

編集:廣川 智史

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