2022年02月01日
(聞き手:白賀エチエンヌ 堤啓太)
ワクチンの3回目接種って必要なの?どのくらい効果はもつの?副反応は?気になるギモンについて、医療や科学などが専門の中村幸司解説委員に1から聞きました。(2022年2月改訂)
学生
堤
3回目の接種は必要なんでしょうか?
そう考えられています。
中村
解説委員
2回目の接種から25週を過ぎると、オミクロン株の場合、発症を防ぐ効果は10%程度にまで下がってしまいます。
どうしてですか?
ワクチンを打って体が「ウイルスが来たら攻撃しよう」と覚えても、時間が経つと忘れちゃうんです。
私たちが、時間の経過とともに学習したことを忘れてしまうのと似ています。
なるほど。
だから、皆さんが学校で勉強したことを家でもう1度復習するかのように、2回目のワクチン接種が進められてきました。
さらに2回目の接種から5か月くらい経つと、また体がウイルスを攻撃することを忘れてきてしまって、感染を防ぐ反応が鈍くなることがわかっています。
だから、3回目の接種が必要とされているんです。
学生
白賀
再び復習しようということですね。効果はどれくらいあるんですか?
例えば、デルタ株の場合で見てみます。
ファイザーのワクチンを2回接種したあと、時間の経過とともに発症予防効果は下がりますが、ファイザーかモデルナのワクチンを追加接種すると、90%を超えるぐらいまで効果が上がります。
オミクロン株の場合、効果は接種後の期間に関わらず、デルタ株より低くなっています。
2回目の接種後、25週以上がたつと10%ほどまで下がりますが、こちらも追加接種で65~75%まで効果が上がります。
モデルナのワクチンを2回接種した人の追加接種でも、同様に効果が上がっているというデータが出ています。
ファイザーやモデルナのワクチンは、2回目接種から時間が経過しても、「重症化防止効果」は感染予防や発症防止の効果ほど低下しないとされています。
ですから「3回目接種だけでなく、まだ1回目・2回目の接種を済ませていない人にワクチン接種を進めることも大切だ」と話す専門家もいます。
3回目の接種でも気になるのはやっぱり副反応です。
私は1回目より2回目の副反応の方が重かったんですが、3回目はさらに重くなるんでしょうか?
海外の臨床試験の結果ではファイザー、モデルナどちらのワクチンを追加接種しても、2回目までと副反応はほぼ同じ程度だとされています。
2回目までの接種よりも脇の下の痛みや、リンパ節のはれという症状が若干増えているようですが、ほとんどの場合、症状は軽く、短期間で治まったと報告されています。
ただ一般に若い人は免疫をつける能力が高いので、副反応が出やすい傾向があります。
私は2回目の接種後に38度の熱が出たのですが、3回目も同じ程度の副反応を覚悟した方がいいってことですか?
そうですね、でも追加接種をして副反応が出るのは過去2回接種したワクチンの効果がある程度、保たれていることの現れでもあるんです。
ワクチンが効いている証拠なんですね。
追加接種をする場合、2回目までと違うメーカーのワクチンを打ってもいいんでしょうか?
「交互接種」のことですね。
はい。その方が効果が高いと聞いたような気がしますが…。
確かにデータは多くはないものの、2回ファイザーのワクチンを接種した人が、3回目にモデルナのワクチンを打った場合、発症を防ぐ効果が高いことを示唆する研究結果はあります。
厚生労働省は、専門家による検討の結果、3回目に2回目までとは異なるメーカーのワクチンを接種しても、3回とも同じメーカーのワクチンを接種しても「効果や副反応に大きな差はない」としています。
どのワクチンを選んでも大丈夫ってことですか?
自分で選ぶというよりは、皆さんの接種会場で、どのメーカーのワクチンを取り扱っているかで決まると思います。
子どもへのワクチン接種は、どうなっているんですか?
これまで、12歳以上だった新型コロナワクチンの接種対象が5歳以上に拡大されました。(2022年1月)
それぞれの自治体で今後、順次、接種ができるようになります。
子どもは「大人より感染しにくい」という話も聞いたことがある気がします。
それでもワクチンを打った方がいいんでしょうか?
子どもは「大人よりも新型コロナにかかりにくい、かかっても症状が軽い」と言われているのは確かです。
ワクチンを打つメリットが大人よりも小さく、あまり接種を急いでこなかったんです。
でも、感染力の強いオミクロン株は、ワクチンを打っていないこともあって、子どもたちにも感染が拡大しています。
学校などで感染が広がると、子どもから親にうつす、重症化しやすいおじいちゃん、おばあちゃんにうつすということにもなりかねません。
子どもにどれくらい感染しやすいのかは、まだわからない段階ですが、マスクをつける、3密を避ける、給食は黙食で、などの対策を今まで以上に徹底する必要があります。
あわせて、子どもへのワクチン接種も選択肢として入ってくると思います。
子どもがワクチンを接種した場合の効果や副反応はどうなんですか?
海外の臨床試験では有効性や安全性が確認され、すでにアメリカやヨーロッパでは5歳以上へのワクチン接種が進んでいます。
ファイザーが5歳~11歳を対象にした臨床試験の結果、発症を防ぐ効果は90.7%に。
副反応は、38度以上の熱が2回目の接種後で6.5%、倦怠感が2回目の接種後で39.4%などとなった。
症状はほとんどが1日から2日で収まり、軽度から中程度だったとされている。
発症を防ぐ、あるいは周囲に広げないようにするメリットと、副反応などのリスクをよく考えて、接種するかどうか保護者が子どもと一緒に判断するということになります。
そもそも、ワクチンってどういうものなんですか?
ワクチンは基本的に「疑似感染」をさせることで体の中に抗体などを作り、感染や発症、重症化を防ぐものです。
体は1度感染したウイルスを覚えていて、次の感染に備える能力があります。
2度目以降に感染したときはウイルスをすぐに攻撃して増殖が進む前に退治します。
だから、2度目の感染はしなかったり、感染しにくくなったり、あるいは、感染しても軽症で済んだりするんです。
だったら、1度感染したことにすればいいじゃないかというのがワクチンの考え方です。
でも、本当に感染させてしまうと、その感染症が重症化してしまうリスクもあるので「擬似的に感染」をさせるのがワクチンなんです。
どうやって作るんですか?
1つはウイルスそのものを使う方法です。
ウイルスを弱くして体に入れて、増えないうちに体に抗体、つまり攻撃部隊をたくさん作らせます。
これが生ワクチンです。天然痘のワクチンなどがこれにあたります。
ほかにもやり方があるんですか?
ウイルスを「殺して」感染する力を完全になくし、殻のような部分を体に入れるやり方もあります。
中村解説委員が解説する「時論公論 オミクロン株 ここまでわかった特徴と第6波対策」はこちらからご覧ください
ただ、一般的にウイルスは「生物ではないと」考えられているので、そういう意味では「殺す」という表現は正確ではないのかもしれませんけどね。
殻を入れることで、体は感染したと思って攻撃部隊をつくっておくことができます。
すると、本物のウイルスが入ってきたときに「同じものがきた」と思って攻撃してくれます。
これを不活化ワクチンといいます。インフルエンザのワクチンがこれです。
国内で多く接種されているファイザーやモデルナのワクチンはどれにあたりますか?
いずれも遺伝情報を使ってつくる新しいタイプのワクチンで、「mRNAワクチン」と呼ばれています。
新型コロナウイルスの表面には、細胞に感染する時の足掛かりとなるトゲトゲのような突起があります。
mRNAワクチンには、この突起部分のいわば設計図が含まれています。
それを体の中に入れると、細胞のなかで設計図をもとにウイルスの突起部分が作られるんです。
突起部分の作り方のレシピを入れるようなイメージですか?すごいですね。
突起が体の中でつくられると、あたかも、その突起をもった新型コロナウイルスに感染したときと同じように「変なものが入ってきた」となって、体内に攻撃部隊ができます。
部隊の代表が「抗体」です。
抗体などができると、次にウイルスが体内に入ってきたときに細胞への侵入を防いだり、ウイルスを攻撃したりします。
それが感染予防や重症化の防止につながるという訳です。
この方法でワクチンを作るのは初めてだったんですが、効果が抜群に良かったんです。
ところで、なぜ、国産のワクチンはないのですか?
日本で開発中の主なワクチンとして厚生労働省が挙げているのは5つあるんですが、国産に限らず、新しいワクチンの開発が難しくなっているんです。
その理由の1つが、何万人という大規模臨床試験がこれまでより難しくなったからです。
どうしてですか?
すでにワクチンができていて、それを打てば、感染や発症・重症化のリスクをかなり抑えることができるようになっています。
この状況の中で、新たなワクチンの臨床試験に何万人もの人に協力してもらってもいいのかという問題を抱えているんです。
具体的にはどういうことですか?
大規模臨床試験では参加者の半数にはワクチンを打ちますが、比較の対象となるもう半数には、何の効果もない注射を打ちます。
何の効果もない注射を打たれた人は、健康状態の観察が行われる数か月の間、感染のリスクにさらされるため、特に、有効なワクチンがある中では、道義的問題があるとされているんです。
また、多くの人が2回の接種を終えた今、ワクチンを接種していない人を探して試験に参加してもらうのも難しくなってきました。
さらに、去年の夏の第5波のあとのように感染状況が落ち着いていると、そもそも感染する人が少なくて、得られるデータが少ないという時期もありました。
こうしたことから、臨床試験を海外で行う、あるいは何の効果もない注射ではなく、すでに承認されているワクチンを接種し、その比較で効果をみるといった方法がとられています。
いつ頃、使えるようになるんですか?
例えば塩野義製薬は、安全性や有効性が確認できれば、2022年3月までに国に承認を申請し、実用化を目指すとしています。
ようやく、という感じがしますが、今後、未知のウイルスがまん延したら、日本はまた海外からのワクチンの輸入に頼らなくてはならない状況になるのでしょうか。
実はこの課題は以前から指摘されていました。
2009年に新型インフルエンザのパンデミックがありました。この時もワクチンは最初、海外から輸入していました。
この教訓として当時の専門家が、安全保障の観点からワクチン開発の推進や生産体制の強化を提言していたんです。
それがずっと生かされてこなかったということですか?
そうです。
実はコロナウイルスをターゲットとしたmRNAワクチンは2016年から日本でも研究が進められていました。前年に韓国で「MERS」が広がったのがきっかけです。
しかし、日本には入らず、世界的な感染拡大とならなかったことなどから、研究費が抑えられ、研究は凍結してしまいました。
この研究が続けられていれば、国産のmRNAのワクチン開発が早期に実現できたかもしれません。
この先は、しっかり取り組んでほしいと思いますね。
新型コロナのワクチンも今後、繰り返し打たないといけなくなるかもしれません。
この先も海外から買い続けるより、自分の国のワクチンは国産でまかない、途上国などに日本から供給できるようになってほしいと思います。
日本ではいま、3回目接種を進めていますが世界には1回以上、接種した人の割合が10%に満たない国もあるんです。
このような点からも、国産ワクチンの開発は重要だと思います。
編集:栗田真由子 撮影:小野口愛梨
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