目指せ!時事問題マスター

1からわかる!「米中貿易摩擦」【前編】そもそもの経緯は?

2019年08月05日 (聞き手:田嶋あいか)

「世界経済にとっていちばんのインパクトがある」「行方を注視している」―――「人事が選ぶマストニュース」のコーナーで多くの企業が取り上げた「米中貿易摩擦」。マストなニュース…、これは知らなきゃマズい…。国際情勢と経済の両方に詳しい布施谷博人デスクに1から聞きました。(取材日2019年3月17日、改訂版7月16日取材)

始まりは1年前

学生
田嶋

きょうはよろしくお願いします。

「米中貿易摩擦」はよく話題になっていますが、詳しいことが分かりません。なぜ、いつごろから起こったのでしょうか?

事の起こりは、トランプ大統領になってからです。動きが表面化したのは1年前、2018年が最初です。

布施谷デスク

解説は、ワシントン支局に勤務した経験があり、経済担当の布施谷博人デスク。大学時代は競技スキーをしていたそうです。

中国で作ったものが、安い値段で世界にバーッと輸出されていくようなイメージは、何となく分かりますよね?

はい、何となく分かります。

最初にトランプ大統領が問題視したのは、中国で作る鉄鋼製品でした。

鉄の棒というか、ニュースなどで見かける真っ赤なもの。あれが中国で大量に作られて、すごく安く世界にばらまかれていると彼は問題視したんです。

最初は鉄だったんですね。

それで2018年3月、その鉄に「おれは関税をかけるぞ」と始まった。

2018年3月 中国製品への25%関税の大統領令にサイン

「関税」とはどういうものかというと、海外旅行の帰りにお土産をたくさん持ち込みすぎると、税関を通るでしょ?

あ!何をどれくらい買ったか紙に書いたことがあります。

そう、例えばワインを規定量以上買うと、税関でお金を払わないと持ち込めなくなる。

旅行者がスーツケースを抱えて税関を通るように、中国からたくさんの物を積んだ船がアメリカに入る時にも、関税がかかるんです。

中国 山東省の青島港

関税がかかると、アメリカの人たちは、中国から来た物を関税の分だけ高く買わなくちゃいけなくなる。

関税の分、値段に上乗せされるということですね。

そうそう。関税をかけて値段が上乗せされれば「中国から高い物を買うよりアメリカの工場で作ったほうがいい」となるんじゃないかと思って最初に仕掛けたのが、2018年の3月だったんです。

中国は反発 事態はエスカレート

最初は鉄だったけど、それだけじゃなく中国からいろいろな物が入ってきていることをトランプ大統領は問題にした。

トランプ大統領は、大統領になる前の「不動産王」と呼ばれていたときから、「アメリカの貿易赤字は悪である」という考えを持っている人だったんです。

アメリカが中国から買い過ぎて赤字になっている。赤字になっている分だけ、アメリカの工場で働く人たちの仕事がなくなっているじゃないか、と。

なるほど。それで関税を。

トランプ政権は2018年の7月以降、いろんなものに関税をかけ始めました。

鉄のあとに、ロボットとか、半導体とか1000品目以上、合わせて500億ドル分、中国製品に関税をかけるぞと。

そんなに多くの品にですか。

関税で圧力をかけていけば、中国が「ごめんなさい」と、輸出を減らしたり、アメリカからたくさん物を買って相殺したりするんじゃないかな、と期待したんです。

でも中国は違った。アメリカに対して「理不尽に一方的に関税をかけるなら、私たちも我慢できません」と対抗してきた。

強く反発したんですね。

そうなんだ。中国も、アメリカから買っていた大豆や牛肉など主に食料に、同じ金額だけ関税をかけて対抗する、と報復に出てね。約800品目、500億ドル相当に関税をかけた。

やり返したと。

そうすると、今度はアメリカが黙っていなかった。「それなら、こっちはもっとやってやる」と、さらに2000億ドル相当に関税をかけた。

結局、中国から入ってくる品目のほぼ半分に関税を上乗せするという状況になったんです。

さらに、今度は、中国も対抗して、600億ドル相当に関税をかけた。こちらはアメリカからの輸入品の70%ぐらいにあたる。

70%って、結構な割合ですね。

アメリカのほうが中国からたくさん物を買っているから、関税をかける物もたくさんあるけど、中国はもう関税をかける物がなくなってきちゃっているんだよ。

そういうことなんですね。

米中貿易摩擦について、より詳しくは、こちらのサイトもご覧ください「米中新冷戦」

アメリカ側の背景は

僕はアメリカに駐在していたから、中国よりもアメリカの目線で語っちゃうことがあるから、そこは割り引いて聞いてほしいんだけど。

分かりました。

トランプ大統領は「貿易赤字は大問題だからなんとかしないと」という一貫した思いがある。

だけど、アメリカでは、中国がアメリカの企業秘密を盗み出したり、電子部品やAIなんかの重要な技術をカネにものをいわせて手に入れたりして、対抗しようとしている、と問題視している人も多くいるんだよね。

なるほど・・・

“このまま中国に自由にやらせていいのか、中国が世界中の技術を吸収してアメリカに追いつくことを許していいのか”というようにね。

中国の発展を抑えるためなんですね。

そうそう。貿易摩擦の問題はトランプ大統領が登場したから表面化したんだけど、実はアメリカにはそういうマグマみたいなものがグツグツあってね。

中国という出る杭を、なんとか打たねばという思いも重なって、どんどん激しくなっていったという側面もあるんです。

大丈夫なんですか、そこまでして?

常識的に考えると、関税をかけて得する人はほとんどいないよね。中国から物を仕入れている人たちは、コストが上がっちゃうから、「ちょっと待って、やめてくれ」って思うでしょ。

消費者だって、価格が上乗せされるのは困るよね。だから、関税をかけるというのは、必ずしも合理的な選択ではない。

そうですよね。

だけど、この際だから中国を押さえつけたほうがいいっていう人たちがたくさんいるのもまた事実で。

特にアメリカの軍事技術や宇宙開発をやっている人たちは、中国が軍事に応用可能な重要な技術を吸収してアメリカに対抗したら、国と国との安全保障、軍事の問題でもやばいと思うわけですよね。

経済的には合理的な選択ではなくても、ここで押さえつけとかなきゃいけないという声もあるわけです。

問題がさらに複雑になってきた米中貿易摩擦、日本への影響は?今後の見通しは?【後編】はこちらからごらんください。

「一時休戦」はしたけれど

両国とも譲らずということですが、でも、さすがに影響はあるんじゃないですか?

それで、去年12月、アルゼンチンでG20が開かれたときに、トランプ大統領と習近平国家主席が直接対話をして、「しばらく休戦しましょう」となった。

2018年12月 アルゼンチンで会談

その後、貿易担当の閣僚たちが議論を続けて、米中双方とも「6月の日本でのG20までになんとかしないといけないね」という思いがあったと思うんだけど、5月に大きな動きがあったんだ。

何があったんですか?

5月にワシントンで閣僚級の交渉が、事実上うまくいかなかった。物別れに終わってしまったんだよね。

直前までは“交渉はうまくいくんじゃないか”と思われていたんだけどね。トランプ大統領は中国への不満をツイートした。

5月5日、トランプ大統領はツイッターで中国の交渉姿勢に不満を示した。

そして、閣僚交渉のさなかに、2000億ドル相当にかけていた関税を10%から25%に引き上げることを決めちゃったんです。

10%が25%になるって、影響は大きいですよね。

そうだよね。

これに対して中国は、アメリカからそんなにたくさん輸入しているわけではないのでできることは限られるんだけど、600億ドル相当にかけていた5~10%の関税を最大25%まで引き上げるぞと報復した。

また状況がエスカレートしてしまったんですね。

それにとどまらず、アメリカはさらに、残り3000億ドル相当、中国製品のほぼすべてに関税をかけるぞと言い始めたんです。

中国製品のほぼすべてにって、どんな物がありますか?

わかりやすいところでは、中国で作られるiPhoneとかナイキのシューズ。

今までは生活な身近な製品には関税を上乗せしないようにしていたんだけど、中国をたたくために、そういうものにまで関税をかけようとしたわけです。

iPhoneにも関税上乗せか

ファーウェイへの締めつけ

それからね、直接は米中貿易摩擦の名目とはちょっと違うんだけど、アメリカはファーウェイという中国の通信機器大手への締め付けを強化したんです。

締めつけというのはどういうことですか?

ファーウェイの副会長がカナダで逮捕されたというニュースは覚えているかな?

はい、ニュースで見ました。

ファーウェイの孟晩舟副会長。2018年12月、アメリカの要請を受けたカナダの捜査当局にバンクーバー国際空港で逮捕された。容疑は、ファーウェイの関係会社を通じて制裁下のイランの通信会社と取引した際に、アメリカにある複数の金融機関に虚偽の説明をしたというもの。

その後、アメリカ政府は5月、アメリカの企業が許可なくファーウェイに半導体とかソフトウェアの部品などを売ってはいけないという決定を出したんです。

ファーウェイのスマホにはグーグルの「アンドロイド」という基本ソフトが使われているんだけど、グーグルが供給を一時止めるという話になった。

すごい厳しいですね、なぜそんな決定を出したんですか?

アメリカ側の言い分としては、ファーウェイがアメリカの安全保障や外交政策上の利益に反する活動をしていると。

背景には、次世代通信規格の5Gで世界の通信網を中国勢に握られることへの危機感があるといわれています。

アメリカのシンクタンクは次世代通信規格5Gについて「重要な通信設備を製造できる企業がアメリカには残っていない」と分析し、今後の5Gの整備ではノキアなどのヨーロッパ勢とファーウェイなどの中国勢しか選択肢がないことが安全保障上の懸念になっていると指摘した。

でも、貿易に関する交渉が決裂しちゃった後に中国企業を締め付ける決定を出してくるということは、貿易摩擦をめぐる中国への圧力の1つだって見ることが普通だよねってみんな思ったわけです。

そうですよね。

アメリカは中国に対し、

▼2000億ドル分の関税を上乗せして、

▼残り3000億ドルにも関税をかける準備を始めるぞと言って、

▼中国にとって最も重要な情報通信分野で世界をリードする企業、ファーウェイにも圧力をかけ出したというわけ。

G20大阪サミットで・・・?

ファーウェイの話は、そういうことなんですね。

そんな中、6月にG20大阪サミットがあった。

ここまで対立がエスカレートしていたら会うのは無理なんじゃないかという観測もあったけれど、トランプ大統領と習国家主席は、一応、直接会談した。

会談の結果、双方の見解として「建設的な議論ができた」ということになっている。

去年12月の会談以来、いろいろ激しい対立があったけど、なんとか解決に進む方向に持っていきましょうというようなことで、一応握手したんですね。

アメリカ側は、3000億ドルに関税をかけることには猶予を持たせると。それで7月に入ってから、閣僚どうしが協議を再開した。

一応、いい方向に進んだということですか?

いい方向なのかどうかは、冷静に見ないといけないね。

報復合戦と休戦を繰り返している感じだよね。

その間に、関税の対象はどんどん広がっているし、ファーウェイに対する締め付けもあって、状況は明らかに悪くなっている。

どちらかというと、この間、話がよりこじれて、ますます解決が難しくなっちゃっているように僕は見ているよ。

問題がさらに複雑になってきた米中貿易摩擦、日本への影響は?今後の見通しは?【後編】はこちらからごらんください。

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