目指せ!時事問題マスター

1からわかる!アメリカ vs. イラン(2)中東情勢は?

2020年01月14日 (聞き手:勝島 杏奈)

核合意をめぐる経済制裁で深刻な対立が続いているアメリカとイラン。緊張関係がヒートアップする中、対立の現状は?昨夏までイランに特派員として駐在し、現地で取材してきた国際部の薮英季デスクに中東情勢を聞きました。(1月14日改訂)

解説は国際部で中東などを担当する薮英季デスク。シンガポール支局を経て、2017年から2年間、イランのテヘランに駐在。現地ではアメリカと対立を深めるイランの現状を取材していました。

アメリカ VS. イラン どうなっているの?

学生
勝島

よろしくお願いします。前回はアメリカとイランの対立をめぐって「緊張が高まりつつある」というところで終わっていたのですが、状況が・・・。

動きをまとめてみました。

国際部
薮デスク

核合意離脱からの主な動き

2019年の5月が重要なポイントで、アメリカが核合意(※)から離脱して1年というタイミングでした。

実際5月以降には不穏な動きがあって、イランも核合意の約束を破るようなことを始めているんです。

※イラン核合意・・・2002年、イランの核兵器開発疑惑が浮上。欧米などはイランに経済制裁を科し、中東の緊張が高まった。
オバマ政権時代にアメリカはイランと関係改善を図り、2015年、イランの核開発を大幅に制限する見返りに、経済制裁の解除で合意。ところが、2018年5月にトランプ大統領が合意から一方的に離脱し、再び経済制裁を科すように。

6月には、タンカーへの攻撃があったんですよね。

そう、イランの周辺では、6月にはタンカーへの攻撃があって、9月にはサウジアラビアの石油施設への攻撃といった事件が起きました。

2019年6月、中東のホルムズ海峡付近のオマーン湾で、日本の海運会社が運航するタンカーなど2隻が攻撃された。

タンカーへの攻撃は、どんな感じだったのですか?

日本の船会社が運航するタンカーと外国のタンカー、2隻が攻撃を受けたんです。

炎上して映像的にも結構インパクトがあったので、大変なニュースだなと思って現地で取材していました。

現地で取材されてたんですね。犯人は予想されていたんですか?

んー。イランの可能性は十分あるとは当然思っていました。それにアメリカはイランじゃないかってすぐに主張して。

でも最終的に証拠がなかった。アメリカとしては証拠を出したつもりなんだけれども、他国からみると、イランだと断定するに足りるような証拠ではなかったんです。

タンカー攻撃事件について、イランの関与を主張するアメリカ・ポンペイオ国務長官

じゃあ結局はあいまいなまま?

そうですね。

ドローンを使って攻撃

9月のサウジアラビアの事件はどうですか?

何者かがドローンを飛ばしてドローンとミサイルを使ってサウジアラビアにある2つの石油施設を攻撃したっていう事件。

狙われたのは、サウジアラビアの一番の石油関係の施設だったんです。

攻撃を受けたとされる石油施設の塔の形をした設備

爆発も起きて、一時期世界の原油の供給量の5%ぐらいが失われるっていう事態になったんです。

サウジアラビアは原油の供給量が世界の13%ぐらいを占めているけど、そのうちの半分ぐらいがこの石油施設。だからサウジアラビアにとっては生産量の約半分の石油生産が止まるって事態になったんだ。

それは大変ですね。

まあ比較的早い段階で復旧はしたけどね。

犯人はいったい?

犯人は誰なんですか?

アメリカはすぐにイランの指示のもとで行われたということを主張して、サウジアラビアもイランに間違いないって同調してね。

サウジアラビアって国は閉ざされた国であまり情報もオープンにはならないですけど、このときは、すぐに記者会見を開いたり、ドローンの残がいを示したりして。

イランが犯人だと言っているのはなぜですか?

ひとつは、使われたドローンですね。アメリカ側の主張に基づけば、イラン製のドローンだと。

あとは、イランが支援するイエメンの反政府勢力が犯行を主張したんです。自分たちがやったと。

イエメンの反政府勢力ですか?自分で言ったんですか?

警戒にあたるイエメンの反政府勢力「フーシ派」

この反政府勢力は、イランとつながりがある一方で、サウジアラビアとの間では、ずっと戦争状態にあるんです。

というのも、イエメンではこの反政府勢力と暫定政権が内戦状態で、サウジアラビアは、暫定政権を支援しているんです。

反政府勢力としては、敵対するサウジアラビアの石油施設を攻撃するモチベーションがあるんですね。

なるほど。

ただアメリカとサウジアラビアは「それは違う」と。

この反政府勢力が関わったかは別にして、イランの指示のもとで行われたということを主張していて、イランはこれを全面的に否定したんです。

とはいえ犯人が名乗り出る心境があんまり理解できないんですけど…イエメンの反政府勢力はなんのために「やりました」って言ったんですか。

ひとつは、自分たちの力を誇示することかな。石油施設は警備が厳重で、安全保障上重要な軍事基地みたいなものなんだよね。

そこを攻撃して且つダメージを与える能力があるってことを見せつけたいと。

そういうふうに考えるんですか。

もうひとつ、もしアメリカが言うようにイランがやったのであれば、親分であるイランの犯行を隠すための声明であったと。

これは陰謀論のような形になるんですけれども、そういうことも言えなくもないですね。

構図で言うと、イランとイエメンの反政府勢力が同じグループ。

そしてサウジアラビアとイエメンの暫定政権が同じグループで、そこにアメリカが一緒にいるということです。

仮にイランがやったとしても、なぜサウジアラビアの石油施設を狙うんですか?

サウジアラビアは、戦争はしてないけれどもイランとずっと対立してきた国なんです。

イスラム教の宗派がそれぞれ違って、中東で影響力のあるライバルでもあるんですよね。

世界のイスラム教宗派・・・「スンニ派」と「シーア派」が2大宗派。「スンニ派」の信者はおよそ9割を占める。「シーア派」は少数派だが、イランでは信者が9割を占めている。逆にサウジアラビアは圧倒的に「スンニ派」が多い。

アメリカはサウジアラビアにたくさん武器を売却するなど、すごく親密な関係を築いてきた。

ちなみにサウジアラビアの新しい皇太子は特にイランが嫌いとされていて、トランプ大統領の政策に足並みをそろえてきたんです。

つまり、アメリカとサウジアラビアは、どちらもイランと対立しているわけですね。

雪解けのきっかけはあったけど・・・

実は少し融和的な状況も生まれていたんです。

イランに厳しい政策をとってきたアメリカのボルトン大統領補佐官という、トランプ大統領の重要な部下だった人物が9月に事実上解任させられました。

トランプ大統領(手前)とボルトン元大統領補佐官(右)

それはトランプさんが解任したんですか?

そうです。トランプ大統領は「自分は彼の政策と合わなかった」と言っています。

もしかすると圧力一辺倒のイラン政策が変わるんじゃないかっていうような見立てもあった。

トランプ大統領もイランともうそろそろ仲よくしたいと思っている可能性があるってことですか?

当時はそう思っていました。ところが…

そうはならなかったってことですか?

そうなんだよね。9月下旬に国連総会があって、イランのロウハニ大統領がニューヨークに行く機会があったんですね。

トランプ大統領もロウハニ大統領と首脳会談をやりたいっていうことを盛んに話していて、電撃的な首脳会談が行われるんじゃないかと期待されていた。

国連総会・・・アメリカニューヨークの国連本部ですべての加盟国(193か国)が参加して、世界で起きているさまざまな問題について話し合う場。毎年9月に始まる総会では、すべての加盟国の代表らが演説をして、意見を述べる。

会談は結局行われたんですか?

そういう可能性があるんじゃないかって思ってる時に起きたのがまさにサウジアラビアの石油施設の攻撃、9月14日ですね。

そこで、再び緊張が高まるっていうフェーズになって対話のムードもしぼんでしまって実際には行われなかったんです。

続く経済制裁 イランへの影響は?

ずっと、緊張が続いてるじゃないですか。これ、解決ってどうやったらできるんですか。

難しいですね。

なんで解決しないんだろうという疑問があって。一体アメリカとイランはどうしたいんですか?

そこは重要なポイントで、イランが求めているのは、アメリカの経済制裁の解除なんですね。それがないと、そもそも対話に応じられないっていうのがイランのスタンス。

アメリカが核合意という国際的な約束を破って、舞台から降りてしまったと。その上で経済制裁を勝手に発動したっていう状況で、さらに対話を認めてしまうと。

こういう国際的なルールを破ってその上で相手に行動を変えさせるっていう事がまかり通ってしまうんじゃないかってイランは主張している。

そうなんでしょうけど…

一方のトランプ大統領も、国内の自分の支持者の意向とか、同盟国イスラエルとの関係とかもあって、イランに対する圧力を強化してきたんですよね。

でも、イランはいまのところ動じない。ここで譲歩すると、これまでの圧力政策がやっぱり間違っていたってなってしまうので、それはできない。

引くに引けない?

そう、引くに引けない状況ですね。

イランへの経済制裁はずっと厳しく続いているんですか。

ずっと続いている。一番大きいのは原油が輸出できないっていうこと。

原油は大きな収入源ですよね。イラン国民もかなり貧しい思いをしてるんですか?

イランの通貨は、私が赴任した2017年からすると価値が4分の1くらいになってしまった。

通貨が暴落し、イランの首都テヘラン中心部の両替所に掲げられた通貨レートを見る市民

例えば輸入品はドルで買わないといけないから、イランの人は自国の通貨をドルに変えて物を買うよね。

輸入の家電製品を買おうとするとしたらね、今までの4倍のお金を用意しないと買えなくなってしまったことになる。

100円だったものが400円になったということですか?

そうです。イラン国内の人たちは今まで買えたものが、とても買えない状況になってしまったんだ。

テヘランのバザールにあるペルシャじゅうたん販売店で客を待つ男性

あとは、イランには海外に子どもを留学させているっていう家族も多いんですね。

たまには留学先に行って、子どもの顔を見たいっていう親も多いだろうけど、これまでの何倍も出さないと海外にも行けない状況で、不便を強いられてるよね。

どのくらいの間に通貨の価値が4分の1になってしまったんですか?

急激に下がったのはトランプ大統領が核合意から離脱した2018年5月頃からかな。そこから急激に価値が失われたことになるね。

もし自分がイラン国民だったら不満が高まってると思うんです。それはイラン政府に対してなのか、トランプ大統領に対してなのか、どっちなんでしょうか?

そこはすごく重要なポイントだね。アメリカに、これだけ理不尽な政策を強いられれば、国民の間で反米意識が高まりそうだけど、実際にはそう単純でもないんだよね・・・。

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