目指せ!時事問題マスター

1からわかる!「リブラ」【後編】今後どうなる?

2019年10月24日 (聞き手:井山大我 田嶋あいか)

フェイスブックのザッカーバーグCEOは、10月23日アメリカ議会で、2020年前半としていたリブラ発行の時期を、事実上先送りする考えを示しました。背景にはリブラに向けられている強い懸念があります。「リブラ」とは【後編】では、フェイスブックの意図や課題について、引き続き、飯田香織デスクに詳しく聞きます。

ユーザー27億人の衝撃

学生
井山

そもそも、なぜフェイスブックはリブラを作ろうとしているのでしょうか?

ザッカーバーグさんの話だと、スマホで写真を送るようにお金も送れるようにしたいと。たぶん彼は純粋に、そう思っていると思うんです。

飯田
デスク

なるべくたくさんの人が金融サービスを使えるようにしましょうねっていうのがフェイスブックが言っていること。

フィナンシャル・インクルージョン、日本語だと「金融包摂」という考え方です。

金融包摂

誰でも必要な金融サービスを使えるようにすること。貧困や差別を受けている人が、経済的な生活を送れるように、例えば、預金できる口座や、安全に送金できる仕組みを提供しようという考え方。

でも「それって、本当?」って疑っている人もたくさんいると思う。私もそうですけど。

学生
田嶋

確かに…。

フェイスブックは自社の「メッセンジャー」とか「ワッツアップ」でも利用できるし、独立した「リブラ」というアプリをダウンロードして使うこともできると説明しています。

はい。

で、フェイスブックって99%、売り上げのほとんどが広告収入なんですね。

リブラがスポティファイとかウーバーでも使えるとすると、メッセンジャーとかを使った商取引が増えて、広告の価値が高まるじゃないですか。

なるほど。

金融包摂の話も、ザッカーバーグさんは心からそう思ってるのかもしれないけど、実際は、たぶん広告収入も上げたい。

あとフェイスブックで「あ、この靴かわいいな」って思ったら、すぐにリブラで買えるみたいなサービスも想定してると思います。

リブラの基本。ビットコインなど既存の暗号資産(仮想通貨)との違いや、名前の由来、仕組みにについては、「リブラ」とは【前編】で解説しています。

フェイスブックのアプリって、スマホを持っていればほとんど入っていますよね。

そう。ユーザー数はすごくて、フェイスブックだけでも24億人と言われていて、メッセンジャーとかワッツアップも入れると、27億人。

フェイスブックが関わるアプリ

すごい規模感…。

そのユーザー全員が、リブラを持てるってことですか?

対象にはなるはずです。みんなが衝撃を受けているのは、ユーザー数が多いからなんですよね。

全員が使うとはとても思えないけど、もし27億人が使うとしたら、1つの国よりはるかに大きい

世界の全人口の3分の1。やっぱりインパクトがものすごく大きいんですよね。

発展途上国の金融インフラに?

特にどんなユーザーがターゲットになるんですか。テクノロジーに慣れたアメリカ人とかですか。

むしろ出ている資料を読むと、アメリカ国内よりも、もっと発展途上国のユーザーを想定していると思うんです。発展途上国の場合、そもそものインフラが整ってなくてもスマホはある。

そうなんですか。

以前は普通の電話が広がってからスマホが普及していたんですけど、有線を引くのはお金がかかるじゃないですか。だからそういうのをとばして、いきなりスマホ。

そういう国の人には、メリットがある?

発展途上国の人たちだと、近所に銀行がないとか、そもそも銀行口座を持っていない場合もあります。

そういう人たちも、コンビニでチャージして使えるようになるとみられています。

例えば、どこか外国で働いている場合、銀行に行かなくても、スマホでお金(リブラ)を受け取れて、家族に送金する時に手数料がかからないと。

さらに、そのお金(リブラ)をわざわざ現金に交換しなくても、そのまま何か違うものに使えるというならメリットがあると思います。

自分の国の通貨よりも、リブラのほうが便利ということですか?

通貨が急に大暴落するような国。例えば、10円だったリンゴが、ある日いきなり100円になってるみたいな国もあるので。

そういう場合、通貨より安定しているリブラでお給料を払いましょうってこともできるでしょう。

通貨の変動に左右されず、一定の給料がもらえるのはいいなと思います。

そうだよね。だから、さっきの金融包摂の話になるんだけど、よりみんなを包み込むような金融サービスになるんじゃないかって、一部では言われているんです。

金融政策で各国が警戒感

ここまで、リブラで何ができそうかお話ししたけど、2人は使ってみたいですか?

私はけっこう使ってみたいかも。海外に行く時もわざわざ両替しないでいいってことですよね。それって結構便利だなって。

どこかに行くたびに円で計算し直す必要がなくて、1リブラいくらっていうのが、毎回自分のスマートフォンに出てくるので。それはちょっと便利かなと私も思いました。

僕はちょっとやっぱり怖いんですよね…。

どの部分が怖い?

あまりテクノロジーを信用しきれないというか。例えば、僕がどういうお金の使い方をしたかは、リブラ側にばれてしまうということですよね。

そうです。それはいいポイントで、フェイスブックもそう思われることはたぶん想定している。

しかも今はターゲティング広告が問題になっているので、「本人の承諾なしに広告に使いません」ということは明言しているんですね。

ターゲティング広告

インターネット上のサービスの利用履歴やウェブサイトの検索履歴などのデータを蓄積し、個人にあわせて、購入しそうな商品の広告などを表示する。プライバシー侵害の問題も指摘されている。

お金の使いみちがばれるのが、一番嫌かもしれない。

それは分かります。

ただでさえ、誰とどこに行きましたとか、そういう位置情報が全部分かるうえに、金融の情報までフェイスブックに把握されるのは嫌だという人が多いのは事実ですよね。

リブラに反対する意見には、「そもそもフェイスブックは信用できないよね」という声もあります。

そうですよね。

8700万人分の個人データが漏えいした事件があったのに、「お金を預けるなんてとんでもない」という意見ですね。

2018年 米議会の公聴会に出席するザッカーバーグCEO

フェイスブック 8700万人の個人情報流出

2018年に発覚。イギリスの教授が2013年に開発したクイズ形式のアプリをフェイスブックの利用者30万人がダウンロード。自分や友達のデータが気付かないうちに収集され、不正にイギリスの分析会社に渡った。米大統領選でトランプ陣営が利用したとされる。

あとは、犯罪組織がマネーロンダリングなどに簡単に使っちゃうんじゃないかと反対してる人も多いです。

シリコンバレー嫌いで知られるトランプ大統領もツイートしています。

トランプ大統領のリブラに関するツイート

「銀行と同じような厳しい取締りをしろ」というのがトランプ大統領の主張です。たぶん各国、みんなそうだと思います。

犯罪組織に使われない、麻薬取引などのマネーロンダリングにも使われないようにしないと不安ですよね。

フェイスブックというか、リブラ協会という企業の集まりが運営するわけですが、実際に不正が起きた場合は協会が保証するんですか?

そうですね。リブラ協会はスイスに本拠地を置いて、スイスの金融監督当局が規制をするんですけども、たぶんリブラ協会として対応しなきゃいけなくなるんだと思います。

やっぱり、各国は警戒感が強いんですよね?

もちろん。特に、金融政策の点で警戒しています。

金融政策ですか?

金融政策って、各国の中央銀行、日本銀行とかアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が行うんだけど。

シンプルに言うと、景気が悪くなったら、お金をたくさん世の中に回して、“じゃぶじゃぶ”にして、お金を借りやすくする。

で、景気がめっちゃいいじゃんってなったら、過熱し過ぎないように、世の中からお金を回収する。

中央銀行がお金を出し入れして、景気を調節するんですね。

そんな大事な金融政策の機能を、リブラ協会でもやろうと思えばできちゃうその機能は渡しちゃだめだよねって思ってる人たちが反対してるんです

G20 財務相・中央銀行総裁会議に出席した麻生財務相と日銀の黒田総裁

G20 財務相・中央銀行総裁会議でリブラに懸念(10月18日 ワシントン)

リブラの技術面での利益を認めつつも、通貨システムや金融政策に深刻なリスク生じるという認識を示す。犯罪組織の資金洗浄や、利用者の個人情報流出を防ぐ対策や規制が整うまでは、発行すべきでないという認識で一致。新興国からも強い懸念が示された。

 

自分の国の経済をコントロールできなくなるかもってことですか。

ドルとか円がリブラに置き換えられることはないですけれども、発展途上国、中でも貧しい国でリブラが普及したら、その可能性はあります。

通貨がとって代わられちゃうだろうし、各国の中央銀行がどんなにお金を出し入れしても、リブラが普及してたら、実権を握ってるのはリブラ協会になってしまう。

そういった危機感を持っているんだろうなと思います。

日本も反対しているんですか?

反対というより、日本政府は、マネーロンダリングなどの犯罪に使われないような対策や、個人情報を保護するための対策をちゃんとして欲しいというのが基本線で、アメリカも同じです。

リブラ協会には当初、ビザ、マスターカード、ペイパルとか、お金の支払い・決済を担う企業が多く加盟する予定だったけど、設立直前に離脱しました。

各国からの警戒感が極めて強いことが影響したんじゃないかと思います。

2020年前半開始!と言っていたけれど・・・

リブラはいつごろ始まりそうなんですか?

当初、2020年の前半って言ってたんですけれども、フェイスブックの担当者がアメリカ議会に呼びつけられて、「大丈夫なのか」っていうやり取りがあった。

アメリカだけではなくて、G7の通貨当局者も「本当に大丈夫なのか」とみんな心配の声を上げている。ひとつひとつ答えないと、たぶん許可されない。

実は、これ、フェイスブックが証券取引委員会に提出した報告書の1枚なんですけど…。

フェイスブックが提出した報告書

ここに、「予定通りできるかどうかの保証はありません。さらに、そもそもできるかどうか保証がありません」って書いてある。

えっ!?そうなんですか。

本人たちも、もしかしたらできないかもと思っているのかもしれません。それだけ反対が多いからね。

さらにザッカーバーグさんは10月23日アメリカ議会で計画の事実上の先送りを表明したんです。この時も「リブラが本当に立ち上がって機能するかわからない」なんて言っていました。

リブラ計画 事実上先送りを表明

フェイスブックのザッカーバーグCEOが10月23日、アメリカ議会下院の公聴会で証言。「アメリカの規制当局から承認を得られるまで世界のいかなる場所においてもリブラの発行に関与しない」と述べた。一方で、「世界のほかの国々は待ってはくれない。中国は数か月以内に同じような構想を打ち出すだろう」と述べ、中国が研究しているとされる「デジタル人民元」へのけん制も。

就活生は、このニュースをどこまで知っておくべきですか。

IT系とか金融系を目指す人。例えばスタートアップ企業に行ってみたい人もそうだし、企業も関係してくるから…。

みんなに知っておいて欲しいと思います!

みんな、知っておくべき!?

そんなに詳しくなくてもいいけど、フェイスブックという会社を中心に、お金のようなものができていて、もしかしたら自分たちのお金の使い方を変えるかもしれないと。

もしも実現したら、何か買う時に使うか使わないか。信用できないなら使わなければいいし、新しもの好きで「ちょっとやってみようかな」っていうなら使ってみればいい。

そんなに難しい話じゃないんだよ!っていうことを知ってもらいたいですね。

そもそもリブラとは何か?は、1からわかる!リブラ【前編】をご覧ください。

編集:加藤陽平

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