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1からわかる!「北朝鮮とミサイル」 改訂版(1)ミサイル発射の狙いは?

2022年04月11日
(聞き手:白賀エチエンヌ 田嶋瑞貴 堀祐理)

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ことしに入ってからも相次ぐ北朝鮮のミサイル発射。そもそもなぜ、北朝鮮はミサイルの発射を繰り返しているの?いざとなったら、日本はミサイルを撃ち落とすことができるの?アメリカは守ってくれるの?気になるギモンについて1から聞きました。(2022年4月改訂)

軍事力が劣る故に…

学生
白賀

なぜ、北朝鮮はミサイルの発射を続けるんでしょうか…。

北朝鮮が何のためにミサイルを開発するかを突き詰めて言うと、そこに核弾頭を載せて発射できるようにするためです。

池畑
解説委員

だから、ミサイルは核開発と2つで1つ、セットとして捉える必要があるんです。

ミサイルはあくまで核弾頭を運ぶ手段なんです。

池畑修平解説委員。ジュネーブ支局を経て、2008年から3年間、中国総局で北朝鮮を担当。ソウル支局長も経験した朝鮮半島情勢のスペシャリスト。

学生

北朝鮮にはいま、どのぐらいの軍事力があるんですか?

各国の軍事力を分析している企業があるんですが、そこが発表した2022年の軍事力ランキングはこのようなかたちになっています。

学生
田嶋

日本って意外と順位高いですね…。

そうですね。日本が5位、韓国は6位。

そしてアメリカが1位なのに対し北朝鮮は30位です。

ただ、兵士の数だけ見ると実は、北朝鮮のほうが韓国よりもはるかに多いんです。

でも、持っている武器にしろ、戦車にしろ、戦闘機にしろ、極めて古くて性能が低い。

さっきのランキングにもあったようにトータルの軍事力でみると、韓国や在韓米軍には到底及びません。

北朝鮮もそれをよく分かっていて、勝てないから、一発逆転の切り札として核兵器を飛ばすためのミサイル開発に突き進んだということなんです。

そういうことなんですね…。

アメリカ本土を射程に?

北朝鮮のミサイルって、いくつか名前を聞いたことがあるような気がしますが、どのくらい種類があるんですか?

僕は軍事の専門家ではないので、こちらの防衛省の資料をもとに作った図を見てもらえればと思います。

こんなにあるんですね。

これらが、いま北朝鮮が保有している主なミサイルです。簡単に言うと、まず遠くに飛ぶものほど大きくなっています。

この「北極星」「北極星2」「北極星3」の名前がついているミサイルは、SLBMと呼ばれているものです。

Submarine-Launched Ballistic Missileの略で、日本語に訳すと「潜水艦発射弾道ミサイル」つまり潜水艦から撃つミサイルなんで、探知されにくいとされています。

このようなミサイルを開発する技術ももっているんですね。

あと、去年からは、列車の車両が突然パカって開いてそこから撃つミサイルなんかも発射されています。

北朝鮮中部で鉄道車両から発射されるミサイル(2021年) 

ものすごく遠くに飛ばせるわけじゃないけど、どこから撃ってくるか分からないんで、相手からすると事前に察知しにくいわけなんです。

日本や韓国からすると、遠くまで届くミサイルだけでなく、そこまで距離は出なくても探知しにくいミサイルをどんどん開発していることは、心配ですね。

韓国にも日本にもアメリカ軍の基地がありますよね。

北朝鮮は、アメリカ軍の基地を叩くためにどういうミサイルを持つべきかというのを、まずは考えているはずです。

狙いは、アメリカ本土ではないんですね。

それは、両方ですね。

2017年に撃った「火星15型」、これはICBM=大陸間弾道ミサイルと呼ばれるミサイルなんですけど、射程が1万キロを超えるんじゃないかと見られています。

こうして、北朝鮮を中心に半径1万キロの円を描くと、アメリカのロサンゼルスあたりまで射程に入ることになります。

そんなに遠くまで…。

また、ことし3月にもICBM級のミサイルを発射し、核・ミサイル開発をさらに推し進める姿勢を強調しました。

北朝鮮が発射したとするICBM=大陸間弾道ミサイル(2022年3月)

「火星15型」の発射が成功したとき、核武力は完成したと宣言していたのに、まだミサイルの開発を続けているんですね。

アメリカまで核兵器が届くということですか?

もしかしたらミサイルは届くかもしれません。

ただ、軍事の専門家の中では、核弾頭が大気圏に再投入する際の熱で燃え尽きるのではないかと、懐疑的な見方をする人もいます。

アメリカは日本を守ってくれるの?

アメリカ本土ではなく、日本が標的となった場合、アメリカは日本を助けてくれるんでしょうか?

万が一、北朝鮮が日本にミサイルを撃ち込んできたら、当然アメリカ軍は動くと思います。

実際、北朝鮮がミサイルを撃つと、日本の自衛隊も、もちろんそれを捕捉してどこをどう飛んでいるか調べるし、韓国軍もそうですが、アメリカ軍も自分たちのレーダーで追跡するわけです。

そこはちゃんと情報交換しているし、日頃から北朝鮮のミサイルの脅威に協力して対応しています。

では日本に被害が出る可能性はない?

ただ、北朝鮮が、ミサイル実験を重ねて精度を高めているとはいえ、撃って、まかり間違って日本や韓国に着弾する可能性がゼロかと言われると、ゼロではありません。

何らかのコントロールミスだってあり得ますからね。

日本の自衛隊がそれを撃ち落とすことはできるんですか?

いわゆる迎撃システム、ミサイルを撃ち落とす体制を2段構えでとっています。

イージス艦という船からミサイルを発射して、大気圏の外で撃ち落とすのが第1段階。

第1段階で撃ち落とし損ねた場合に、地上から通称「PAC3」と呼ばれる地対空ミサイルを撃って迎撃するというのが第2段階です。

防衛省の敷地に設置されたPAC3(東京・新宿区)

聞いたことがあります。

これは、アメリカが開発したものなんですが、いろんな実験を重ねて、まあまあの高い確率で撃ち落とせるとされています。

ただ、100パーセントかっていうと、そこはなんとも言えない。

北朝鮮が、レーダーで捉えにくかったり迎撃されにくかったりするタイプのミサイルを増やしているのは、やっぱり日本からするとかなりの懸念材料であることは確かですね。

ミサイル発射が増えたワケ

ことしに入ってから、北朝鮮のミサイル発射が頻繁に繰り返されているのはどうしてなんですか?

1つは北朝鮮が去年発表した「国防5か年計画」にあります。

大陸間弾道ミサイルの開発推進をはじめとした軍事力の強化が打ち出されていて、一連のミサイル発射は、それをある意味、有言実行しているところがあります。

そうだったんですね。

もう1つの理由はアメリカとの交渉が止まって制裁の緩和にメドが立たないことにあります。

アメリカの政権がトランプ政権からバイデン政権に変わったので、北朝鮮は交渉をやり直す必要があるんです。

でも、いまアメリカはウクライナで手一杯ですからね。

アメリカとの対話がストップしているから、撃っていると。

たとえば「アメリカとの首脳会談が間近です」というタイミングでものすごいミサイルを撃ったりするのは会談をぶち壊しにしかねないじゃないですか。

だけど今はバイデン政権との間で壊したら困るような会談が設定されていることもない。

だから今のうちに試したいことをやってしまおう、という判断は間違いなくあるんだと思います。

目的は軍事力強化

そこまでミサイルの開発を重要視してるんですね。

北朝鮮がミサイルを発射する一番の目的は軍事力の強化です。

なぜなら、それが国を守る唯一の道だと信じているからです。

どういうことですか?

北朝鮮とアメリカって国交がないんです。

その原因が1950年から53年まで続いた朝鮮戦争。国際法的にはいまだ正式に、戦争が終わっていない状態なんですね。

朝鮮戦争…韓国と北朝鮮との間で生じた国際紛争。1950年6月に突如、北朝鮮が南北を分断する北緯38度線を越えて韓国に攻め入り勃発。アメリカを主体とする国連軍と、北朝鮮とそれを支援する中国軍が3年にわたり激しい攻防を繰り広げた。

だから、北朝鮮からすると、世界最大の軍事大国であるアメリカとの戦争が休戦状態のまま終わっていない。

そのアメリカの脅威に対抗するために、一生懸命、ミサイルや核をつくっているんだという理屈なんです。

つまり、自分たちの国を守るためだと…。

そのとおりです。自分たちがミサイルや核の力をつければつけるほど、朝鮮半島は平和になるというのが北朝鮮のロジックなんです。

そういうことだったんですね。

ただ国際社会はそうは認めてはいません。

2016年に開かれた国連の安全保障理事会では、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を停止するよう求める決議が採択されています。

北朝鮮の核ミサイル問題を討議する国連安保理の閣僚級会合

国連の北朝鮮への経済制裁…2006年の北朝鮮による初の核実験以降、国連安保理は北朝鮮への制裁を段階的に強化。武器の禁輸のほか、石炭や鉄鉱石などの輸出の禁止、個人・団体の資産の凍結など。

だから、北朝鮮は弾道ミサイルを発射するたびに、安保理の決議に違反してるんです。

資金はどこから?

北朝鮮のミサイル開発の資金ってどこから出ているんですか?

そこはみんな疑問に思いますよね。北朝鮮の貿易の大半、約90%は中国を相手にしたものです。

石炭や海産物を売ったり、簡単な工業製品を組み立てたりしているんですね。

あとは、ひと昔前だと麻薬の販売、最近だとサイバー攻撃で暗号資産を狙うなど、違法に資金を獲得している動きもあるようです。

合法・非合法を問わず、さまざまな手段で外貨を獲得し、収益を軍事開発に費やしているんですね。

どこかの国が支援しているということはないんですか?

イランは、北朝鮮との間で核とミサイルの開発をめぐって協力関係が深いと分析されていて、互いに技術を提供し合ったり、ミサイルなどを購入しあったりしているとみられているんです。

このほかでいうと、北朝鮮が中国の企業からいろいろな部品や製品を調達している実態があります。

例えば北朝鮮の軍事パレードでミサイルを運んでいる車両なんかは、中国企業が開発したものだと判明しています。

北朝鮮の軍事パレート(2020年10月)

そういうものが輸出されているのを中国当局がちゃんと取り締まっていないんですね。

なるほど。

北朝鮮は中国に限らず、いろいろな国の企業からいろんな物資を調達して組み立ててミサイルを作っています。

え、そうなんですか?

兵器のために輸出したわけじゃない部品や機械が、軍事目的で利用されるケースはいくらでもあります。

北朝鮮のドローンのカメラが日本製だったりとか、潜水艦を調べたら日本製品がたくさん出てきたりとか…。

日本から自由に輸出ができるんですか?

日本は北朝鮮との輸出入を全面的に禁止しているんだけど、北朝鮮はほかのチェックが緩い国を経由して日本製品を調達するなど、あの手この手を使ってかいくぐっているんです。

巡り巡って、日本の製品が北朝鮮に輸出されてしまっているんですね。

そうです。正直、なかなか防ぎようがないのが実態ですね。

発射が続く北朝鮮のミサイル。次回の改訂版では、韓国の今後の対応を中心について見ていきます。

編集:梶田昌孝 撮影:梶原龍

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