2019年08月09日
(聞き手:田嶋あいか)
日本にとって大事な貿易相手、米中の対立はどうなるの?壁となる「赤字」と「経済の仕組み」 2つの問題って何?日本への影響は?今後どうなるの?「米中貿易摩擦」の最低限抑えるべきポイントを学生リポーターが1から聞いてきました。
ここからは、貿易摩擦の影響についてお聞きします。当事者のアメリカの消費者にも影響が及んでいるのでしょうか?
アメリカはね、当初は一般の消費者が買わないもの、原材料とか部品とか工場で使うものとか、そういうものを中心に関税をかけていた。
だけど、だんだんエスカレートするにつれ、洗濯機など一部の家電製品とか家具とか、帽子とか旅行かばんとか、消費者に直接響くようなものにも関税をかけざるをえなくなっていったんだ。
さらには、残りの中国製品にも高い関税をかけると言いだしたんですよね。
そうそう、中国で作られている、iPhoneやナイキのシューズとかね。
でも、アップルもナイキもアメリカの企業ですよね。高い関税をかけたら、アメリカの消費者にも企業にもマイナスなんじゃないですか?
残りのものにも高い関税をかけるかどうかを決めるにあたって、アメリカの貿易担当の役所がいろいろな業界から意見を聞く公聴会を開いたんですけど、アップルにしても靴の業界団体にしても、ものすごく反対している。
でも、トランプ大統領は「それだったらアメリカで作ればいいじゃないか」、「中国から工場を移せばいいじゃないか」という理屈でね。
アメリカの企業も国民も困っていて、景気にも影響は出ているんですか?
これが、すごくややこしいところなんだよね。
そうじゃないんですか?どういうことですか?
アメリカの対中国の貿易量は明らかに減っている。でも、減税など景気刺激対策をしてきたこともあって、株価はどんどん高値を更新している。
だから米中貿易摩擦の影響はあるんだけど、それ以外の部分が好調なので、アメリカの景気はいいんです。
そうなんですね。中国はどうですか?
中国のGDP=国内総生産という成長を示す指標は、スローダウンしちゃっているね。
関税で輸出が落ち込んだ分、公共事業を増やしたりとか、中国国内で対策を取ろうとしている状況かな。
時々ね、米中貿易摩擦が表面化して1年以上たつけど全然痛みがでていないよね、たいした問題ではないのでは?と言われることがあるんだ。
でもね、数字を見てみるといろいろなところに影響が及んでいるのは間違いないと思うな。
影響はあると。
アメリカの日銀にあたるFRB=連邦準備制度理事会や国際機関などは、口をそろえて「世界経済にとって最大のリスクは米中貿易摩擦だ」と言っている。
でも、アメリカも中国もお互いに景気対策をして、なんとか持ちこたえさせている状況だと思うよ。
このサイトの取材をしている中で、いろいろな企業がマストなニュースとして「米中貿易摩擦」を挙げていました。
そうでしょう。
日本から世界への輸出をざっくりと見ると、アメリカ向けと中国向けがともに20%ぐらいで、まさに二大巨頭.
そうですね、ずばぬけていますね。
日本にとってみれば、アメリカと中国は大事なお客さん。米中がいがみ合って景気が悪くなると、その影響はもろに日本に来る。
みなさんが、どんな企業で働くかは分からないですが、会社員になるなら、アメリカや中国とつきあわなければならない企業はものすごく多いよ。
日本の消費者にも影響はありますか?
中国が世界の工場みたいな形で、中国で作った物がアメリカに流れるという構図がありますよね。その世界の工場である中国に、日本はすごくたくさんの物を輸出している。
それから、中国への輸出だけでなく、日本の企業が中国に行って作っている物もすごくたくさんある。
中国への輸出企業や現地で生産している企業は、困りますね。
そうだね、そして企業の売り上げが減ると業績が悪くなるよね。
業績が悪くなるとボーナスが減ったり、工場を閉めるということになったりする。すると私たちの暮らしや給料といったところにも響いてくるんです。
それは困ります!
特に打撃が大きい業界はありますか?
中国にとって重要な部品や材料って、どういうものだと思う?
中国にとって・・・?
中国とアメリカの関係を考えてみると?
ファーウェイの話があったように、中国は情報とか通信の技術がとても発展してきているイメージなので、半導体とかですかね?
そうそう。例えばiPhoneの多くは中国で作って世界中に出荷されている。
日本から中国に何を輸出しているかというと、半導体や電子部品、要するにスマホなどの中に入っている部品とかだね。
今後は日本とアメリカの問題にも?「1からわかる『日米貿易交渉』」はこちらからお読みください。
米中貿易摩擦、今後はどうなるのでしょうか?
結構難しいんだ。米中貿易摩擦には、「赤字」と「経済の仕組み」の2つの問題があります。この2つをどう解決するかがカギになるわけです。
2つの問題?もう少し、詳しくお願いします。
まずひとつめの「赤字」の解消の問題。これについては、関税を掛け合うというダメージを負うやり方はお互いにとってもいいことではないよね。
G20大阪サミットでトランプ大統領と習近平国家主席が一応握手して、話し合いを再開しようということになった。
でも、もうひとつの「経済の仕組み」のほうがすごく問題。
仕組みってどういうことですか?
アメリカはもともと自由主義経済、企業が自由に競争して世界で戦っていこうという考え方。
一方で、中国はどちらかというと国家主導で世界の経済競争に勝ち残っていこうという仕組みですよね。
ニュースを見ていたら、アメリカと中国の考え方の違いはなんとなく分かります。
アメリカにとっては、これが受け入れがたいことなんだ。
中国が国を挙げて情報や技術を集めて製造立国・情報立国として発展していくことを、すごく問題にしている。
だけど中国にしてみれば、国のあり方そのものに関わることじゃないですか。「アメリカに言われたから、国営企業を支援することをやめます」とは言えないよね。
国の在り方と在り方を争う形になっちゃっているから、双方が納得できる解決策を見いだすのは難しい感じがするね。
じゃあ、これといった解決策は見つからないということですか?
しかもアメリカは中国に追われる身で、中国が今のペースで成長を続けていったら2030年ぐらいにはGDPの規模で並ぶくらいになるんじゃないかな。
アメリカはナンバーワンであり続けるために、中国が国を挙げて経済的に伸びてくるやり方を改めさせたいっていうのがあるので、これは結構根深い問題。
アメリカにもプライドがありますよね。
そうだね。
でもね、ちょっとアメリカ寄りになっちゃうかもしれないけれど、アメリカ側の主張も、問題提起として間違っていないところもあると思うんだ。
中国の知的財産の扱いとか、国営企業がどんどん世界の企業を買収していくこととか。
ほかの国の民間企業よりも断然有利な状況で世界に中国のインフラを普及させていくこととか、そのやり方はちょっとどうなのって思うじゃないですか。
確かに・・・
そこは中国に「あなたたちも変わる必要がありますよね」とは、やっぱり言っていかなきゃいけない。
ただ、トランプ大統領のやり方に全面的に乗るわけにもいかないとも思うんだ。なぜかって言うと、世界は協調し合ってルールを作って、お互いによりよい貿易をしようとやってきた。
それを壊して、1対1でアメリカに都合がいい貿易のルールを結んでいくことには反対していかないとね。
とはいえ、日本を含め各国、難しい立ち位置だけど。
トランプ大統領が強い態度なのは、大統領選挙での再選がかかっているからというのもあるのですか?
そう、まさにそういうところだと思います。中国に対して厳しく対応することが、与野党問わず、それなりに支持されるんですよ。
トランプ大統領からすると、支持を集める切り札として中国への対応は大事なんです。
それとね、世界の経済の仕組みが、アメリカ陣営と中国陣営の大きく2つに分裂してしまうんじゃないかと懸念する人もいます。
どういうことですか?
例えば、アメリカで検索というと、グーグルでしょう。中国の場合はバイドゥという全然違うサイトがある。
ネット通販だったら、アメリカはアマゾンで中国はアリババ、スマホだったらアップルとファーウェイ。
アメリカIT圏と中国IT圏みたいなものができて、デジタル覇権争いがさらに激烈になっていくと、互いにかみ合うことなく別々に発展していくと。
そうなった先、世界は「アメリカ陣営」と「中国陣営」みたいな2つの全然違う仕組みになっていくんじゃないかという心配があると。
そうなったら、どんな影響がありますか?
アメリカ向けでも中国向けでも共通のものを作っていればよかったのが、これはアメリカ向けに、あれは中国向けに開発して、ってことになるかもしれないよね。
大変というか、非効率的というか。
そう、互換性のない世界に、どんどんなっていってしまうというおそれがあるよね。
アメリカと中国の両方と取引できればいいですけど、どっちの味方か?と言われたら困りますよね。
まあそれは、今すぐ迫っている危機というよりは、米中貿易摩擦が2020年になっても2030年になっても続いていたらどうなるか?という想像ですけどね。
でも、日本で部品を作って、中国で組み立てて、アメリカで売るという仕組みはもう成立しないんじゃないかな。
アメリカ向けはベトナムやタイで組み立ててアメリカに運ぶ。中国向けのものは日本から中国に工場を出して、そこで作って売るという動きは何となく出始めています。
しばらくは、この難しい状況が続くんでしょうか?
本来だったら、G20とかWTO=世界貿易機関が、世界の貿易問題を共通のルールで是正していこう、維持していこうと動くべきなんですけどね。
ただ、いまひとつ、協調の仕組みが機能していないのも事実だと思うんです。とにかく、難しい。
長い目で動きを見ていく必要があるんですね。
世界はいま、すごくつながっているから、米中と言っても実は日本の問題であり、東南アジアの問題であり、ヨーロッパの問題であり・・・となる。
「協調して自由な貿易を」という理想を追求しながら、混沌とした時代を生き抜いていかなきゃいけないという状況かな。
1からわかる!米中貿易摩擦(前編)「これまでの経緯」はこちらからご覧ください。
米中貿易摩擦について、より詳しくはこちらのサイトをご覧ください「米中新冷戦」