2019年07月19日
(聞き手:井山大我 西澤沙奈)
1からわかる参議院選挙(投票日は7月21日)。最終回は、政治を動かしたこれまでの参議院選挙と選挙の争点についての解説です。
参議院選挙は、衆議院選挙ほど影響力が少ないような気がしますがどうなんでしょう。
そう思う?政治をずっと取材してきた人間にとってみると、参議院選挙は政治の流れを大きく変えることがある。
平成の間に参議院選挙は10回あったけど、このうち少なくとも4回は、政治の流れに決定的な影響を及ぼしたと言えるね。
そうなんですか?知りませんでした。
消費税・リクルート・農政批判の3点セットの「逆風」で、自民党は改選議席をほぼ半減させる大敗。「追風」の社会党は大勝し、歴史的な与野党逆転に。社会党の土井委員長は「山が動いた」と表現した。宇野首相は退陣し、海部内閣へ。
少し振り返ると、最初は、平成元年の選挙。
この時、私はまだ駆け出しの記者だったんだけど、自民党は大敗して当時の宇野総理大臣が退陣するんですよね。
大躍進したのが当時の社会党で、委員長の土井たか子さんが「山が動いた」と表現したのは有名だね。
総理大臣が辞任するほどだったんですね。
この年の4月に初めて消費税が3%で導入された直後の選挙だったんだ。
それと、もう1つはリクルート事件っていう大きなスキャンダルがあったのもある。自民党は、改選議席で社会党を下回った。
その次は平成10年の参議院選挙。これは当初の見方とは違った流れになったんだ。
前年に金融機関が破綻するなど景気減速感の深まる中で選挙が行われた。恒久減税を巡る発言なども焦点となって単独過半数を目指した自民党は議席を大きく減らし、橋本首相は退陣。後の「自自公」、「自公保」連立政権につながっていった。
私は当時、「自民が強いな」と思っていたんですよ。
ところが経済政策や減税をめぐる発言とかで流れが変わっていって、「ちょっと変だな」と思ったら、自民党が敗北して橋本総理が退陣するに至ったんだよね。
このときも総理が退陣したんですか。選挙結果の影響は大きいときもあるんですね。
3つ目は、第1次安倍政権の時。12年前の参議院選挙も大きな影響を与えたんだ。
郵政造反組の復党問題や年金記録問題、閣僚の不祥事等が相次ぐなか行われた。自民党は37議席と歴史的な大敗を喫し、結党以来初めて参議院第1党の座を譲った。一方、民主党は過去最高の60議席を獲得し、参議院で第1党となった。
安倍さんがその後退陣したのは健康問題が理由だったけど、この時の参議院選挙で自民党は歴史的な大敗を喫して民主党が過去最高の議席を獲得して、安倍政権はかなり追い込まれたんだよね。
このあと、政権交代した民主党政権も参議院選挙の敗北が大きな転機になったよね。
民主党への政権交代後、初の全国規模の国政選挙。6月に菅首相が就任して1か月余りの選挙だったが、消費税率引き上げ発言などで自民党は51議席を獲得して改選第1党となった。民主党は44議席にとどまる敗北。過半数を大きく割り込んで「ねじれ国会」となった。
このとき、民主党が負けて、菅政権はやがて退陣にすることになった。「ねじれ国会」って聞いたことがあるかな?
聞いたことがあります。
衆議院は与党が多数派で、参議院は野党が多数派を占める場合、予算などは「衆議院の優越」で可決されるけれど、法律は成立しなくなっちゃう。
ねじれが続いたことで、政権運営は不安定になって総理大臣がほぼ1年ごとに変わるような現象が続いたんだ。
参議院選挙は、それほど影響はないと思っていましたが選挙をきっかけに政治が大きく動くことが過去に何回もあったんですね。
今回の参議院選挙の争点は何でしょうか。私も投票に行くための参考にしたいです。
そうだね、その前に“争点と焦点”って聞いたことあるかな?
争点と焦点…。すいません。違いがわかりません。
そうか。これは、わかっておくとより深く見えるようになるよ。争点は、選挙の中で対立している事、つまり意見が分かれて主張が違うことを指すんだ。
たとえば消費税とかですか?
そうだね。で、焦点はこの選挙の意味は何だろう、その結果がもたらす意味というかな。
なるほど、そういうことですね。
じゃあ、争点からいこうか。明確なものは2つあると思う。1つは、ことし10月に予定されている消費税率を上げるかどうかっていう事だよね。
与党側は予定どおり消費税率を10%に引き上げると。社会保障を充実させる財源が必要だと。
でも、消費税が上がると私たちの生活にも影響しますよね。
だから経済の影響、景気への影響が出ないようにさまざまな対策を打つと言っているね。
例えば何ですか?
軽減税率の導入とか、ポイント還元、プレミアム商品券とかいろんな事をやって、影響をできるだけ与えないようにということなんだ。
「軽減税率」=「酒類」と「外食」を除いた「飲食料品」と「定期購読契約が結ばれた週2回以上発行される新聞」に限って税率を8%に据え置く。
今回の経済に与える影響、消費に与える影響は2兆円規模といわれてるけど、今回、対策として2兆3000億円使うというのが与党の主張なんだ。
野党側は何と言っているんですか?
野党側は、今の経済状況を考えたときに引き上げられる状況じゃないと言っている。
意見は対立してますね。もう少し教えて下さい。
GDP、国内総生産でいえば6割を占める個人消費が冷え込むことにならないか。経済が失速するじゃないかと主張している。そこで消費税の増税を中止または凍結と主張しているんだ。
各党の消費税に関する公約はこちらからご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/kouyaku/2019/seisaku/03.html
明確な争点、もう一つは、何ですか?
憲法改正をどう考えるかっていう事だと思います。
ニュースや新聞でも、よく取り上げられていますよね。
憲法改正に必要なのは、最終的には国民の国民投票で決めるんで憲法改正を決めるのは最後は、国民です。
じゃあその問いかけを誰がするかというと、衆議院と参議院でそれぞれ3分の2以上の議決多数をもって憲法改正を発議するってことになっている。
なるほど。
参議院選挙までは、いわゆる改憲勢力が、衆議院・参議院ともに3分2を上回っていた。これが維持できるのかどうかがポイントだね。
もう少し詳しく教えて下さい。
今回の参議院では、改憲勢力が3分の2を維持するには85議席必要なんだ。
85という数字は、どのように捉えたらいいんですか?
過去2回の結果と比べますと、かなり高いハードルとも言えるかな。改選124議席で85だからね。
選挙の結果次第では、憲法改正は進むのですか?
与党と憲法改正に前向きな勢力が参議院でも3分の2をとって、その状況で憲法論議を進めるのか、それとも3分2は届かないのか。
届かない場合は、難しくなる可能性がある。野党の協力をより幅広く求めなきゃならない状況になるよね。この改憲勢力がどうなるのかは、その先の動きと密接に関係してくるよね。
各党の憲法改正に関する公約はこちらからご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/kouyaku/2019/seisaku/05.html
年金の問題も大きく報道されていますよね?
NHKの世論調査でも今回の選挙で重視する政策として社会保障が29%と一番関心高かった。
スタートは、例の老後2000万円の話ですけど、有権者にとっては、身近だし関心が高いと思っている。
2人は、自分が将来どんな生活を送っているかイメージ湧く?
湧かないです…
ちょっと説教がましくなってきて上から目線で恐縮だけれど、社会保障って何歳から年金をもらうかとか、将来の年金水準とか。
何歳まで働くんだろうか、あるいは何歳まで働かないといけないのか。
つまり皆さんの将来の生活設計にすごいシビアに関係してると思わない?
そう言われると、そうです。
皆さんが現役世代、つまり働いている間にどのくらい税金などを負担して将来どのくらい給付されるのかって。これほらやっぱり物を言った方がよくない?
大事ですよね。自分がいくらもらえるのか。
そう。選挙って、まさに若い人たちが、将来を考える上でちょっと勝手に決めないでよという意思表示をすることかもしれないね。
多様な生き方が認められるのがいい社会だと私は思うんだけど、少なくとも多様な働き方とか生き方が守られるような形の社会になるのか。
選挙をきっかけに世の中の仕組みを考えるいいチャンスだと思いますね。
自分たちのこととして置き換えると選挙って身近に感じますね。
各党の年金・社会保障に関する公約はこちらからご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/kouyaku/2019/seisaku/02.html
そういう面から考えてみるとね。今回の選挙の焦点は、6年半続いてきた第2次安倍政権以降の一強多弱、あるいは安倍一強といわれた政治状況が維持されるかどうか。
野党側からすると、安倍一強を変える転換点になるような足がかりを築けるかどうかってことだよね。
どれくらい議席をとれば勝ちみたいなのはいくつも見方があるけど、今後の政治の流れを決める焦点というと、そこに尽きるよね。
なるほど。
各種の調査でも、今回の参議院選挙は予想以上に関心がいまひとつな感じがあるんだよね。
でもね、若い世代も含めてこれからの日本を議論していくことって大事で、若い人たちの投票率、これがどうなるのか、私は注目しています。
わかりました。ちゃんと投票します!