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1からわかる!中国「一帯一路」【上】それってなに?

2019年10月02日 (聞き手:伊藤七海 井山大我)

中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」。世界各地への中国の進出は地域の経済発展の可能性が高まる一方で、さまざまな懸念やトラブルも。そこで、今回の「1からわかる!」は、「一帯一路」を3回シリーズで取り上げます。NHKで長年、中国取材に携わってきた加藤青延 専門解説委員に学生リポーターが聞きました。

加藤専門解説委員は、1978年にNHKに入局。香港支局長、中国総局長などを歴任し、1989年、中国の民主化を求めるデモを政府が武力で鎮圧し、多数の犠牲者が出たとされる「天安門事件」の取材に当たるなど、中国の改革開放から今に至るまでを見つめてきました。

巨額インフラ投資で流通網整備

学生
伊藤

基本的な質問ですが、「一帯一路」構想って、どんなものですか?

中国のトップ、習近平国家主席が、2013年に初めて打ち出した構想です。アジアとヨーロッパを陸路と海上航路でつなぐ物流ルートをつくって、貿易を活発化させ、経済成長につなげようというものです。

加藤
専門解説員

古来、中国とヨーロッパをつないだ交易路「シルクロード」は有名ですよね。その現代版だと、中国側は大々的に宣伝して、各国に参加を呼びかけているんです。

中国の習近平 国家主席

【シルクロード】

英語で「絹の道」の意味。古代の中国とヨーロッパを結んだ交易路で、中国特産の絹(シルク)が運ばれたことから命名された。「一帯一路」構想は、この交易路をイメージに、「シルクロード経済ベルト(一帯)」「21世紀の海上シルクロード(一路)」で構成される。

学生
井山

実際には、どんなルートなんですか?

これは中国側がつくった、一帯一路のイメージ図です。一筆書きでつながっていますよね。

中国が公表した「一帯一路」構想

でもね、実際はどうかというと、陸路はこうなっているんです。

実は、ぜんぜん「一帯」ではなくて、6本もあるんですね。中国は、最近「回廊」ということばを使っています。メインのルートは、1で示した中国の各都市とヨーロッパを結ぶものです。

かなり長距離ですね。

そうなんです。メインルートでは、貨物列車が走っていて、ものすごい勢いで便数が増えているんです。中国の沿海部から内陸部を通って、ノンストップでヨーロッパまで行く弾丸列車です。

2011年には17本しか走っていなかったのが、2017年には3673本、去年は6300本と、右肩上がりに増えているんです。

この鉄道で、日本からヨーロッパに荷物を運ぶケースもあるんですよ。

そうなんですね。

このメインルートも、細かく分ければ3つあってね、一番使われてるのは、カザフスタンを通る西ルートで、最終目的地のスペインまで行くんです。こういう列車が「一帯一路」の「一帯」と呼ばれるものです。

【中国とヨーロッパを結ぶ貨物列車「中欧班列」】

2018年現在で、「中欧班列」は合わせて60あまりの運行路線があり、中国の50都市あまりと、ヨーロッパ、中央アジア15か国のおよそ50都市を結んでいる。利用が急増して、1日1本以上が運行していて、中国とヨーロッパの距離を縮めたと言われる。

具体的には何を運んでるんですか?

中国からは、電子機器や自動車部品、自動車とか衣類など。

逆にヨーロッパからは、ワインやチーズ、肉類が中国に運び込まれています。

メリットは何ですか?

たとえば、日本からヨーロッパに何か運ぶ際、船だと1か月くらいかかるのですが、この列車だと、2週間ぐらいで行っちゃうんです。一応、税関はあるけど、ほぼノーパスで通る。

鉄道だけでなく、道路も整備しています。地図では代表的な6回廊を示したけど、実際には、もっとたくさんの細い路線があるんです。

なるほど。図では表しきれないくらい細かいんですね。

さらに、原油や天然ガスを運ぶパイプラインも造っていて、これも一帯一路の重要な部分なんですよ。

ミャンマーで建設されているパイプライン

どうしてパイプラインが重要なんですか?

たとえば、中国とミャンマーを結ぶパイプラインがあれば、中東からマラッカ海峡を通るタンカーの航路が海上封鎖されても、ミャンマーを経由して中国に原油などを運べるようになるんです。

複数のルートを持っておくということですね。

そうです。中国は今までロシアから原油や天然ガスを買ってたけど、それ以外に、カザフスタンなどの中央アジアの国々からもエネルギーを仕入れるパイプラインを造っています。

道路や鉄道だけじゃなくて、いろんな経済の帯ができているんですね。

海のシルクロードはどうなっているんですか?

基本的には、公海上はフリーアクセスだから線を引くこと自体、あまり意味がないのですが、どこに港があるかは、すごく重要なんです。

軍艦で言えば、基地がどこにあるかということでもあります。

なるほど。

中国は、いろんなところで港の建設に融資して、使用権などを取得している。

例えば、オーストラリアのダーウィン港、スリランカのハンバントタ港はいずれも99年の運営権を取得。ギリシャでも、ピレウス港の運営権を持っている。

加藤専門解説委員が作成

いろんな港で使用権を持っているんですね。

そう。だから中国の船は、相手国に気兼ねなく、自分たちのいわば“出島”のように、いくらでも使えるわけ。

この海のシルクロードと、陸のシルクロードは実はつながってる、というのが私の見方です。

下の地図上の赤い印が、海と陸の連結点。たとえばマラッカ海峡などが封鎖されても、陸と海の物流ルートが相互に補完して、巧みに使い分けて中国にモノが運べるようになっている。

巨大な物流網を構築しようとしているんです。

【知っておきたい!】

一帯一路の沿線国は、当初、50か国あまりだったが、いまやアジア、アフリカ、ヨーロッパのおよそ100か国に拡大。沿線国だけで世界人口の6割、GDPは3割を占める、まさに巨大経済圏構想。

そもそも一帯一路は何のために始めた?

習近平さんが、「一帯一路」構想を打ち出した狙いは何ですか?

当時、言われていたのは、実は中国にね、とても多くの鉄やセメントなどが余ってしまって、その“はけ口”を探していたんです。

どうして、そんなに余ったんですか?

習近平さんが国家主席になるちょっと前の2008年に、北京オリンピックが開かれましたね。

おお!覚えています。

オリンピックに向けて、中国はインフラ整備に力を入れました。オリンピックは、無事に終わったのですが、その後、「リーマンショック」が起きたんです。

【リーマンショック】

2008年、アメリカの大手投資銀行「リーマン・ブラザーズ」の経営破綻に端を発した世界的な金融危機。日本、アメリカ、ヨーロッパなどの経済はマイナス成長に転じ、世界同時不況に陥った。日本でも、年間100万人規模で失業者が増えた。

世界経済がガタガタになる中、中国は、経済の失速を防ぐために、ものすごいお金をつぎ込んで、景気刺激策を打ったんですね。国内のインフラ整備を一気に進めたんです。

インフラ整備って、何をしたんですか?

例えば、日本でいう新幹線、「高速鉄道」を網の目のように張り巡らせた。今は中国のどこに行っても高速鉄道が走っていますよ。

中国の高速鉄道「復興号」

それに、高速道路もどんどん造った。ビル、公共施設、住宅も近代化させて、インターネットの通信設備も整備しました。

一気に街づくりを進めたんですね。

そう。本来なら10年かけて行うインフラ整備を、一気に数年で進めたわけです。

だから中国経済は、リーマンショックの後、すぐに成長率が回復した。逆に言うと、世界経済の落ち込みに中国が歯止めをかけたような形になったんです。

【知っておきたい!】

リーマンショック後、中国が打ち出した景気対策は4兆元、当時のレートで約57兆円にのぼった。しかし、反動で過剰生産や国有企業の腐敗・汚職がまん延したとされ、2012年に発足した習近平指導部は、反腐敗と国有企業改革を推進することになる。

中国の存在感も高まりますね。

そうです。それまで発言力があった先進国中心のG7・主要7か国よりも、中国を加えたG20・主要20か国がすごく大きな影響力を持つようになった。

それだけ中国が世界経済に貢献したからです。

急激な景気刺激策は、ひずみも生みそうですが。

そうですね。当然、過剰生産が生まれます。それ以上、高速鉄道を作る必要がなくなって、セメントや鉄などが余ってしまったのが、ちょうど2013年頃なんですね。

習近平さんが一帯一路構想を言い始めた時期に重なりますね。

はい。中国は一帯一路を掲げて、国内で余ったものを海外に投資し始めたんです。

一帯一路の構想をヨーロッパ側に拡大したのは、なぜですか?

1つは、アメリカを刺激したくないから。中国は昔、アメリカに「太平洋を2分割しないか」と持ちかけたことがあるんですよ。アメリカの議会で証言が残っていています。

そうなんですか?戦後のことですか?

そう。アメリカが、ものすごく反発した経緯があるんです。

だから、中国はアメリカを刺激したくないと。

そうです。国内で生産して余ったものを何とかしなくちゃいけないけど、東側に出るとアメリカとぶつかる。じゃあ西側に、ということで一帯一路構想が生まれたんだね。

開発途上国と利害が一致

一方で、一帯一路の沿線国は、中国と利害が一致したのでしょうか?

そうだね。一帯一路構想が比較的速く、周辺の国に受け入れられた理由は、中国とヨーロッパの間に位置する国々が経済的に非常に貧しいからなんですね。

中国からの投資やインフラ整備に期待する国がものすごくあったんです。

【アジアのインフラ需要】

日本などが主導するADB=アジア開発銀行の試算では、アジアのインフラ開発には、毎年1兆7000億ドル、日本円で200兆円近くの資金が必要とされている。一方、国際的な金融機関からの拠出は、そのうち2.5%にとどまり、需要を満たせていないと指摘されている。

グラフを見ると一目瞭然ですね。

特に、南アジアや中南米でインフラ需要が非常に大きい。一方で、中国はその倍以上のインフラを輸出できる余力を持ってる。

日本も一帯一路に参加してるんですか?

日本は、参加をはっきり表明していないけれども、第三国市場での協力という形で、個別の案件ごとに協力を検討していくというスタンスなんだ。

【日本と中国の第三国市場での協力】

2018年10月、日本と中国は、新興国など第三国の利益となるよう、双方の企業や政府機関が52のプロジェクトを協力して進める文書を交わした。

ここまで、「一帯一路」構想の背景や現状について、話を聞いてきましたが、続く【中】では、西側諸国が構想に向ける疑念、【下】では、構想の変容とも取れる動きと米中対立の根源に迫ります。

 

【中】一帯一路に向けられる疑念とは?はこちらからごらんください。

【下】一帯一路が変容!?米中対立の根源に迫る

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