目指せ!時事問題マスター

アメリカ vs. イラン(1) なぜ対立するの?

2019年06月12日
(聞き手:井山大我 勝島杏奈 田嶋あいか )

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資源が乏しい日本にとって、重要な中東地域。オイルショックや湾岸戦争をはじめ、中東情勢は日本の生活に大きな影響を及ぼしてきました。そして、今、中東の大国イランとアメリカの対立が深まっています。トランプ政権はなぜ、イランに強硬姿勢を取るのか?日本への影響や、今後の見通しは?学生リポーターが緊急取材しました。(取材日2019年6月6日)

2011年から2014年までイランのテヘラン支局に駐在した禰津デスク。「イランは、行く前後で最も印象が変わる国のひとつ」。テヘラン駐在のあと2014年から2017年はアメリカ・ワシントンに駐在、イランとアメリカの両国の視点から教えてもらいました。

学生
勝島

きょうはよろしくお願いします。イランって、正直、遠い国という印象くらいしかないのですが・・・

そもそもイランって、どこにあるかわかりますか?

国際部
禰津デスク

学生
田嶋

サウジアラビアの右上のほうでしたっけ?本当にそのレベルです。

今、アメリカとイランとの間では緊張が高まっていて、もしかしたら軍事衝突が起きてしまうかも…という状況です。

学生
井山

そんなに緊張しているんですか。

仮に、イランとアメリカや、イランと親米のサウジアラビアが戦争になったとしたら、あの辺一帯がものすごい大変になる。

日本は原油の8割から9割ぐらい、天然ガスなども多くを中東から輸入しているので、今の生活が一気にできなくなってしまって大パニックになってしまう可能性がある。

日本にとっても全然他人事ではないんです。

行ったこともない遠い国だけど、日本にとって重要な問題なんですね。

そうなんです。だから、少しでも多くの人に、この状況を知ってもらって関心をもってもらいたいんです。

さまざまな立場と見方があるので、一概には言えない部分もあるけど、テーマ別に状況を説明するね。

(1)トランプ大統領は、前任者が大嫌い!?

対立が深まっているキーパーソンはやはりトランプ大統領ですか?

そう、何かとお騒がせなイメージがあるかもしれないけど、トランプ大統領は、ひと言で言うと、オバマ大統領のやったことがとにかく気に食わない。

賛否が分かれる人ではあるんだけれども、基本的にオバマ大統領がやったことをひっくり返す事に、ものすごい生きがいを感じている人だと僕は見ている。

なるほど(笑)

例えばTPP(※)って聞いた事あるかもしれないけど、あれだけ苦労して積み上げたのに、彼が大統領になったその日に離脱したしね。

TPP・・・環太平洋パートナーシップ協定。日本やカナダ、オーストラリアなど11か国が参加して2018年12月に発効。農業品や工業品などの関税を廃止するだけでなく、サービスや投資の自由化を進め、知的財産や電子商取引、環境など幅広い分野で統一したルールを構築するもの。アメリカは当初は協定の締結に向けた交渉に入っていたが、トランプ大統領が就任後に離脱した。

地球温暖化を防ごうというパリ協定も、オバマ大統領が主導したものだけど、脱退したしね。

「オバマケア」と呼ばれる医療保険制度も、もともと当選以前は、制度そのものには理解を示すようなことも言っていたけど、結局、廃止しようとしている。

あれもこれも、ひっくり返そうとしているんですね。

そう。そして、ひっくり返したもののひとつに「イラン核合意」があります。2015年にイランと欧米などの国々が結んだもので、オバマ大統領が交渉に大きな役割を果たした。

僕もずっとこれを取材していたんだけど、10年近く本当に難しい交渉を重ねて、歴史的な合意と評価されていたんだよね。

歴史的な出来事だったんですね。でも、すみません、知りませんでした・・・

そうだよね。歴史をさかのぼって説明します。

(2)アメリカのイラン嫌いの原点とは・・・

イランは、今はアメリカと対立しているけど、実は、その昔は、親米の王朝だったんです。

そうだったんですか。

アメリカはイランの親米政権を利用して原油の利権を確保しようとしていたんだけど、イランの国民の間で不満が高まり、親米政権が倒された。これが、1979年の「イラン・イスラム革命」

中東の中で最もアメリカに近いとも言われていた国が、この革命によって全部ひっくり返ってしまった。ものすごく極端に例えると、日本が反米国家になるみたいな。

想像もつかない・・・

これがきっかけで、アメリカとイランは仲が悪くなったんですか?

決定的な原点だね。

そして同じく1979年に「アメリカ大使館占拠事件」があった。

もしかしたら、「アルゴ」って映画、見た事ありますか?

見ました!

簡単に説明すると、イランの首都テヘランには各国の大使館がある。大使館はその国の政府を代表する存在です。つまり政府の顔というか。

わかります。

イスラム革命が起きて反米国家になったイランで、新しい体制のトップになった最高指導者を熱狂的に慕う若者たちが、「我々の敵アメリカを倒せ」とアメリカ大使館に突入したんだよ。

大混乱ですね。

そして大使館員たちを人質にとって、アメリカ大使館を占拠した。何日間占拠したと思いますか?

5日間くらい?

1週間とか?

映画を見た井山君、覚えてる?

400日ぐらい、ですよね。

えっ!400日ってどういうことですか?1年以上?

そう、1年以上。444日間も。

アメリカ側は、何も動かなかったんですか?

救出作戦をしようとしたんだけれど、それは失敗して。

当時のアメリカのカーター大統領は、それがもとで次の大統領選挙に勝てなかったと言われている。すごく衝撃的な事件で、連日アメリカのテレビではその様子が流された。

毎日人質のニュースを見ていたら、それはイランが嫌いになりますね。

そうだよね。アメリカ国民には、これをきっかけに、イラン不信が根付いたと言える。イランは、とんでもないことをする国だっていうイメージがあるんだよね。

なぜ、若者たちは、そこまでしたんですか?

イランの若者たちがなぜアメリカ大使館を占拠したかというと、大使館は憎きアメリカの象徴だと。

これまで親米政権ではあったけれど、国民の間には、アメリカは自分たちのことばかり考えているというような不満があってね。

政権は親米だったけど、国民は違っていたと。

イランはその後、「アメリカというのは大悪魔だ」と言うようになるし、アメリカは「イランは世界のテロリストの親玉みたいな存在だ」というふうに呼ぶんです。

えっ・・・お互いに、そんなことを言っているんですか?

後にアメリカのブッシュ大統領は、イランとイラクと北朝鮮を名指しして、世界の悪の枢軸がその3か国だと。

アメリカ国民にもイラン国民にも、不信感があるんですね。

(3)「イラン核開発問題」とは

大使館の事件のあと約40年間、イランとアメリカは国交を断絶している。基本的にずっと対立してるんだよね。

さらに2002年には、イランが核兵器を開発しているんじゃないかという疑惑が浮上した。

実際に、核施設はあったんですか?

ありました。でもイランは、あくまで原子力発電所の核燃料をつくるための施設で、平和目的だと主張した。

核兵器のためじゃないと?

そう。だけどイランが仮に核兵器を持つと、イランと対立してる周辺の国が「オレたちも核を持つ」となるかもしれない。そうなると大混乱だよね。

だから何とかイランの核開発をやめさせようと、欧米などがイランに経済制裁をしながら交渉してきた。

どんな経済制裁だったんですか?

イランは原油などの豊富な天然資源を輸出して稼いでいるんだけど、その天然資源を輸出できないようにした。

もし仮に日本がイランから原油を買ったら、日本に不利益を課すというのがアメリカの制裁なんですよ。

それって、すごく厳しくないですか?

「アメリカを取るか、イランを取るか」と迫られたら、それは、日本も含めて各国は、アメリカを取らざるを得ないよね。

アメリカが強力な制裁をしたから、イランの経済は、ものすごく落ち込んだ。

その当時、禰津さんはイランにいらしたんですか?

僕は2011年から2014年までいたので、いちばん厳しい時期で、1年間で通貨価値が3分の1になりました。すごく単純に言うと、今まで100円だったものが300円になった。

物価が上がり、経済が一気に落ち込んで、国民の不満がたまって。

さらにそれだけじゃなく、いろいろな物資が入ってこなくなって、モノ不足に陥った。

(4)オバマ政権では歩み寄りも・・・

そういった対立の中、2009年、アメリカでオバマ政権が発足してね、中東は世界のエネルギー源で、ものすごい大事な地域だから、なんとか安定をもたらしたいと。

それで、オバマ大統領はイランと交渉を始めて、そして2015年「イラン核合意」に至った。

イランは核開発を大幅に制限する。その見返りに、これまでの経済制裁を解除しますよというものですね。

かなり踏み込んでいますね。

イラン人ってすごく交渉上手で、したたかなペルシャ商人というかね。

核合意に至るまでは本当に難しい交渉だったんだけど、お互いに妥協に妥協を重ねてようやく合意したんだよね。

大きな出来事だったんですね。

イランがこのままでは核兵器を持つかもしれない、もしかしたら中東で戦争が起こるかもしれない、と。戦争1歩手前だった状況を救ったとされる合意だった。

でも、その合意を、トランプ大統領はひっくり返したんですね。

イラン核合意は、オバマ大統領の政治的な大きな遺産と言われていたからね。核合意は、イランと欧米の国々、ロシア、中国という世界の主要な国が結んだ国際的な合意だった。

ただ、アメリカと関係が近いイスラエルやサウジアラビアは、“この合意はイランを利する”と反発していたんだ。アメリカ国内の保守派からも不評だった。

合意への反発もあったんですね。

そう。いろいろな立場や見方があるからね。

ただ、イランはその合意を守っていて、それはアメリカも認めていたんだけど、トランプ大統領は“合意は欠陥だらけだ”って、ほぼ一方的に離脱したわけ。

そうしたら当然、イランは反発しますよね。

反発するよね。

さらにアメリカは、核合意から離脱したからという事で、またイランに制裁を始めたわけ。

えー!

トランプ大統領は「史上最強の制裁」って名付けて、ものすごい勢いで制裁を科し始めたわけなんですよ。

(5)強硬派の台頭 激化する対立

イランに対して、なぜそこまでするんですか?

そうだよね。トランプ大統領は何の目的でイランを追い詰めているのか。一体どういう勝算があって、どういうゴールを描いてやってるのかは、ちぐはぐしていて、よくわからない部分があるんです。

わからないんですか。

いろいろと関係者を取材しているんだけど、トランプ大統領は本心では、そこまでイランを嫌いではないんじゃないかな・・・と、個人的な見方かもしれないけど思います。

本人はそれほどイランに関心がないけど、オバマ大統領の功績は認めたくないとか、そういうことですか。

そうだね。それともうひとつは、側近の存在が大きいと思っている。

ボルトン大統領補佐官とポンペイオ国務長官。ボルトン大統領補佐官が軍事・安全保障分野で、ポンペイオ国務長官が外交の分野で重要な役割を担っている。この2人は、ものすごくイランのことを危険な存在だと思っている。

今のトランプ政権は特にイラン超強硬派がそろっていてね。イランは信用できないという人たちばかりなので、経済的な制裁に加えて、軍事的な圧力も加えようと。

軍事的な圧力、ですか?

原子力空母とか爆撃機とかをイランの周辺に展開し始めて「手を出すならやってみろ」という感じで威嚇を始めたんです。

イランからしたら、「何だよそれ」ってなりますよね。

そうだよね。イランも「ちょっと待てよ」と。「イランは核合意を守ってたのに、勝手に合意から離脱したのはアメリカじゃないか」と。

イランの今の大統領は穏健派なんだけど、核合意がだめになったせいで、「アメリカは信用ならない」「アメリカに対して強く出るべきだ」という強硬派の意見も出始めていて、そうなるとイランもやっぱり強く出ざるをえなくなってきているわけなんですよ。

両国とも強硬派と強硬派の勢力が強まっていると・・・。何だか危険ですよね。

イランは軍事力や技術力に自信はあるんですか?

アメリカの方が圧倒的ではあるけれど、イランもやっぱり大国で、中東有数の軍事力も持っています。

そもそも核兵器の開発疑惑があったぐらい、テクノロジーがあるわけですよね。

それは、かなりまずい状況なんじゃないですか・・・

そうなんです。

お互い緊張状態にある中で、偶発的な事故から一気に戦争に拡大するかもしれない・・・。それが非常に危惧されているんです。

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